Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ホラー映画

『アンデッド/愛しき者の不在』あらすじ感想と評価レビュー。【ぼくのエリ 200歳の少女】原作者による”もの悲しさ”を称えたゾンビ物語

  • Writer :
  • 桂伸也

2025年1月17日(金)より、映画『アンデッド/愛しき者の不在』全国順次公開!

『ぼくのエリ 200歳の少女』を描いたヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストによる小説を原作とした北欧ホラー映画『アンデッド/愛しき者の不在』

謎の生還を遂げた人々と、彼らの死に絶望を抱いていた人々たちの喜びと悲しみを、陰鬱なドラマで描きます。

ノルウェーの映像作家テア・ビスタンダル監督が、リンドクヴィストとともに脚本を担当。ジャンル映画に偏りがちなゾンビ映画に斬新な空気を呼び込みました。

映画『アンデッド/愛しき者の不在』の作品情報


(C)MortenBrun

【日本公開】
2025年(ノルウェー・スウェーデン・ギリシャ合作映画)

【原題】
Handtering av udode

【監督・脚本】
テア・ビスタンダル

【原作・脚本】
ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト

【出演】
レナーテ・レインスベ、ビョルン・スンクェスト、ベンテ・ボシュン、オルガ・ダマーニ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、バハール・パルス、イネサ・ダウクスタ、キアン・ハンセンほか

【作品概要】
『ぼくのエリ 200歳の少女』『ボーダー 二つの世界』の原作小説を手がけたスウェーデンの作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説を原作とした北欧ホラー。

死に別れ悲しみに暮れるさまざまな人が遭遇する喜びと悲しみ、恐怖を描きます。

作品を手がけたのは、ミュージックビデオや短編映画などを手がけてきたノルウェーのテア・ビスタンダル監督。本作が長編初監督となりました。また原作者リンドクビストがビスタンダル監督と共同で脚本を手がけています。

主人公の女性を『わたしは最悪。』(2021)のレナーテ・レインスベが担当。さらに『ハロルドが笑う その日まで』(2014)のビョルン・スンクェスト、『パーソナル・ショッパー』(2016)のアンデルシュ・ダニエルセン・リー他個性的な面々が共演を果たしています。


映画『アンデッド/愛しき者の不在』のあらすじ


(C)MortenBrun

ノルウェーのオスロで、最愛の息子を亡くし悲しみに暮れる日々を送っていた女性アナと、その父マーラー。

ある日墓地で小さな音を聞いたマーラーは、胸騒ぎを感じ孫の墓を掘り起こし、孫の身体を家に連れて帰ります。

戻ってきた息子は全く言葉を発しないものの、瞬きや呼吸を見せ、まるで生き返った様子。

うつ状態だったアナは生気を取り戻し、マーラーとともに人目につかない山荘に隠れ住み、献身的に「生き返った」息子の面倒を見るようになります。

同じ頃、別の家族にもその不思議な現象で、悲劇と歓喜が入り混じる複雑な思いを感じていたのでした。

映画『アンデッド/愛しき者の不在』の感想と評価


(C)MortenBrun

非常に陰鬱な空気が流れる中、ある意味「ゾンビ映画」と呼ばれるホラーの形式を踏襲しながらも、もの悲しさのような不思議な雰囲気を醸すこの作品。

この独特の空気は、ある意味「ゾンビ映画」の原点を再考した物語という印象も見られます。

ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』によって作り上げられたともいわれる、いわゆる「ゾンビ・フォーマット」と呼ばれる形式。

現代のホラー映画でよく取り上げられる、死んだはずの人間が生き返り生きた人を襲うという物語の形式でありますが、この形式では、生き返った死人をほぼ一律で「モンスター」という扱いとしていることが、最も強い印象であるといえます。

これに対し『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』以前に作られたゾンビ映画は、アフリカのヴードゥー教にまつわるよみがえりなど、「生き返ること」「その対象になること」自体に恐怖のスポットが当てられており、ある意味「永遠の命」を軽々しく扱うという行為を「生命への冒瀆」として描く、というテーマで描かれることが多かった印象でもあります。

その意味で、本作に登場する人物が死別した人々との再会に最初は希望を見せる表情は、現代の「ゾンビ・フォーマット」を踏襲する一方で「望んではいけないものを望んだ罰」を示すような展開を最後に用意しており、生命という概念のさまざまなポイントを想起させるものとなっています。


(C)MortenBrun

ユニークなのは、ロメロの作品同様に「彼らがなぜ生き返ったのか」という理由を明確にしていないという点にあります。

物語ではそのきっかけとなる予兆のような現象を描いたシーンはあるものの、結果的に彼らがなぜ別れた人と再会できるようになったのかというところまでは分からないままとなっています。

一方で、劇中に登場する死者は「生き返ることを強く望まれた人たち」ばかり。そしてクライマックスではまさに「怖さ」を感じさせる展開で終焉を迎えます。ここはゾッとするような空気感をおぼえさせながら、まさに「罰」を感じさせるシーン。

製作の意図として狙っていたかどうかは別として、ある意味人が生き返るという非常識の怖さと、「永遠の命」を求めるというタブーという二つの論点をうまくつなげた、「ゾンビもの」の原点を改めて示した物語と見ることもできるでしょう。


まとめ


(C)MortenBrun

劇中に登場するゾンビの一体は、「泣く」というユニークな振る舞いをするものとして登場、物語に強い印象を与えてきます。

そのゾンビはなぜその振る舞いをおこなったのか? ゾンビ自体に意思はあったのかなど、不可解なイメージの中でさまざまなテーマを想起させてきます。

ホラー、ゾンビ映画はどうしてもジャンル映画的なイメージを持たれる印象が強いものですが、ある意味ホラー作品に新たな潮流を感じさせるものであるともいえるでしょう。

「恐ろしくも、もの悲しい物語」という意味では、映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)を彷彿するような空気感もおぼえてくるものであります。

映画『アンデッド/愛しき者の不在』は2025年1月17日(金)(金)より全国順次公開!




関連記事

ホラー映画

映画マラサーニャ32(MalasanaStreet32)ネタバレあらすじと感想評価。ラスト結末も【実話事件で構成されたガチ怖怨霊が住人に迫る!】

一度見れば忘れられない衝撃の実話から生まれた映画『32 Malasana Street』 映画『32 Malasana Street』は、実際の事件を基に構成されたホラーです。 1976年、スペインの …

ホラー映画

ホラー映画『生き人形マリア』あらすじネタバレと感想。結末まで怖い亡きデラマス監督の世界観

『生き人形マリア』はカリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2019にて上映。 殺人人形チャッキー、呪いの少女人形アナベル…。 映画界を震撼させてきた、人の情念宿った人形たちによって引き起こされ …

ホラー映画

映画『地獄少女』ネタバレ感想とレビュー評価。恐い実写化とアニメ版との比較考察

2019年11月に公開された映画『地獄少女』実写化とアニメ版との比較 契約する事で恨みを晴らしたい相手を地獄送りにしてくれる「地獄少女」の都市伝説を巡る、さまざまな人間のドラマを描いた、映画『地獄少女 …

ホラー映画

映画『フッテージ』ネタバレ感想と結末あらすじ。どんでん返しホラーに登場する犯罪小説家を通じて観客が同一化される怖さ

連続殺人の死にまつわる不可思議な秘密を解き明かす者は死ぬ、ホラー映画『フッテージ』。 『フッテージ』は、家族連続殺人事件の真相を探る為に、殺人現場の家に引っ越して来た犯罪小説家が、家に残された前代未聞 …

ホラー映画

映画『死霊の盆踊り』あらすじネタバレ感想。つまらない裸踊りと言われたサイテー映画を見よ

“サイテー映画”としてカルト的人気を集めるエロティックホラー『死霊の盆踊り』 「史上最低の映画監督」エド・ウッドが原作・脚本を務め、死霊役の女性たちが延々と踊るだけという内容で、映画史に残るサイテー映 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学