アカデミー賞作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞など10部門ノミネート!
マーティン・スコセッシが製作・脚本・監督を務めた、2023年製作のアメリカの西部劇サスペンス映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』。
アメリカ・オクラホマ州オーセージ郡。先住民のオーセージ族は、石油の発掘によって一夜にして莫大な富を得ました。
その財産に目をつけた白人たちは彼らを巧みに操り、脅し、ついには殺人にまで手を染めてしまう……部族の一員であるモリーは生き残るため、そしてこの事件を明るみにするために戦います。
映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の作品情報
【日本公開】
2023年(アメリカ映画)
【原作】
デヴィッド・グラン
【監督】
マーティン・スコセッシ
【脚本】
エリック・ロス、マーティン・スコセッシ
【製作】
ダン・フリードキン、マーティン・スコセッシ、ブラッドリー・トーマス、ダニエル・ルピ
【製作総指揮】
レオナルド・ディカプリオ、リック・ヨーン、アダム・ソムナー、マリアン・バウアー、リサ・フレチェット、ジョン・アトウッド、シェイ・カマー、ニールス・ジュール
【キャスト】
レオナルド・ディカプリオ、リリー・グラッドストーン、ジェシー・プレモンス、ロバート・デ・ニーロ、ブレンダン・フレイザー 他
【作品概要】
『タクシードライバー』(1976)『ディパーテッド』(2006)などのマーティン・スコセッシが製作・監督を務めた、アメリカの西部劇サスペンス作品。
ジャーナリストのデヴィッド・グランが、アメリカ先住民連続殺人事件について描いたベストセラーノンフィクション『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』を原作に、『フォレスト・ガンプ 一期一会』(2022)などの脚本家エリック・ロスと、マーティン・スコセッシ監督が共同脚本を手がけた作品です。
本作は2024年、第96回アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞・作品賞など10部門でノミネート。第81回ゴールデングローブ賞では最優秀主演女優賞(ドラマ)を受賞し、最優秀作品賞(ドラマ)・最優秀主演男優賞(ドラマ)・最優秀助演男優賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀作曲賞など6部門ノミネートされました。
『タイタニック』(1997)のレオナルド・ディカプリオと、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016)のリリー・グラッドストーンが主演を務め、『レイジング・ブル』(1980)『マイ・インターン』(2015)のロバート・デ・ニーロら豪華キャスト陣が出演しています。
映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のあらすじとネタバレ
アメリカ・オクラホマ州オーセージ郡。先住民のオーセージ族の居留地で、ある儀式の最中に大地から原油が噴出しました。オーセージ族は一夜にして莫大な富を得ましたが、財産目当てに純血のオーセージ族の女性と結婚する白人の男たちが続出しました。
第一次世界大戦の復員兵アーネスト・バークハートは、弟バイロンと、叔父で保安官補のウィリアム・ヘイル(愛称はキング)と一緒に住むことに。
叔父の勧めで、学がなく腹に銃痕があって重労働もできないアーネストは、タクシードライバーとして働き始めます。また弟バイロンと仲間の男たちと一緒に、密かに金持ちのオーセージ族の人相手に強盗を働いていました。
同じ頃、純血のオーセージ族の女性モリー・カイルは、母親のリジー・Qのここ最近の金の浪費を心配し、一緒に住むことに。そしてアーネストにとって初めての乗客となった彼女は、彼のお得意様として親睦を深めていきます。
モリーは最初、アーネストが母親の財産目当てに近づいてきたのかと警戒していました。事実、アーネストは叔父に言われ、リジーの財産目当てでモリーに近づきました。
ですがアーネストは、モリーのことを本気で愛してしまいました。モリーもまたアーネストに心惹かれ、2人はモリーの家で一緒に過ごした嵐の日に結ばれました。
しかし、2人が結婚し子どもを授かった後、モリーの妹ミリーが病死。キングはミニーの夫ビル・スミスが受益権と土地を手に入れるため、病身のミニーをわざと放置して死なせたのではと推測します。
受益権とは、オーセージ族の部族内の人々が保留地の鉱物資源から得る利益の「均等受益権」のことであり、これは相続可能です。
50歳を超えたオーセージ族の女性は少ないほど、オーセージ族の女性は病弱で短命。そのためリジーも長くありません。そのためキングは、アーネストに多くの受益権が手に入るようにしなければと考え、モリーの家族を密かに殺させます。
モリーの姉アナ・ブラウンとオーセージ族の男性チャーリー・ホワイトホーンが殺害された事件を受け、オーセージ族は評議会を開きます。そして、同胞の不審死が相次いで起きたことの捜査を求め、首都ワシントンD.C.に代表者バーニー・マクブライドを派遣。
インディアン局と面談し、すべての死亡事件を調べるために私立探偵と、追加の捜査員を要請しようとするも、マクブライドは殺されてしまいました。
モリーに雇われた私立探偵ウィリアム・J・バーンズによる調査の結果、モリーの妹リタと、彼女と結婚したビルがアナの死を独自に調査していることや、アナが生前妊娠していたことが判明。しかもビルは「すでに犯人が誰か察しがついている」と言います。
アーネストはキングの指示で、自分たちに捜査の目が向かないように、オーセージ族の墓を荒らしている犯罪者ブラッキー・トンプソンに2人の殺害を依頼。さらにアーネストは保険金目当てで自分の車、赤のロードスターを盗ませようとします。
しかしブラッキーは、リタたちの殺害前にロードスターを強盗したことで逮捕されてしまいました。このことを知ったキングは激怒。アーネストを叱責し、厳しい仕置きをしました。
バーンズはアーネストとバイロンに暴行され、居留地から逃げ出します。キングはアーネストを伴い、オーセージ最大の密造酒ディーラーのヘンリー・グラバーに会いに行き、リタたちを同時に確実に殺してくれる犯罪者エイシーを紹介してもらいます。
その一方で、キングは医者のショーン兄弟を雇い、糖尿病のモリーと、うつ病の隣人で親友のオーセージ族ヘンリー・ローンの治療を頼みました。
モリーはキングとショーン兄弟を疑い、糖尿病治療に使うインスリン(糖の代謝を調節し、血糖値を一定に保つ働きを持つホルモン)を拒みました。アーネストは頑固なモリーに怒るも、自分が注射を打つことでなんとか納得してもらいました。
キングは、ヘンリーの後見人が金を出してくれないという理由で、彼にお金を貸していました。そのためキングは、貸した金の担保として、ヘンリーに2万5千ドルの生命保険金をかけていました。しかしヘンリーは妻の浮気を疑い、何度か自殺未遂をしていました。
キングはアーネストにそのことを話した上で、彼がモリーの最初の夫であると明かしました。ヘンリーに嫉妬心を抱いたアーネストは、キングの指示に従い、グラバーの仲間ジョン・ラムジーに、彼を自殺に見せかけて殺害するよう依頼します。
しかしラムジーは「正面から額を撃ち、銃を現場に置いてくる」という2人の指示に背き、車に乗り酒をあおるヘンリーを背後から射殺。凶器の銃をアーネストに渡しました。
そのためアーネストたちは、ヘンリーに妻の浮気相手だと疑われ揉めていたロイという男に罪を着せ、居留地から追い出そうとするも失敗。そんな中、アーネストはモリーとの間にもう1人子どもを授かりました。
農場主であるキングは家畜品評会に出かけている間に、エイシーにリタたちの殺害を実行するように伝えろと、アーネストに命じました。アーネストはエイシーを知らないため、ラムジーにエイシーへの伝言を強引に頼みます。
その日の夜、ラムジーから伝言を受け取ったエイシーは、リタとビルの家の下に爆薬を仕掛け爆破。ですがこの事件も他の殺人事件同様、キングの差し金により捜査が行われませんでした。
映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の感想と評価
石油の発掘により莫大な富を得たことで、白人に目をつけられ、次々と謎の死を遂げていくオーセージ族。
オーセージ族の1人であるモリーが病身にもかかわらず、ワシントンD.Cに赴き直接大統領にオーセージ族殺人事件の捜査を直訴したことで、キングの差し金により進まなかった事件の捜査がされ、物語が大きく動いていく展開はとても面白かったです。
だってそのモリーでさえも、キング・アーネスト・ショーン兄弟によって毒殺されるところだったのですから。本当にあと一歩遅ければ、司法省捜査局はもちろん、誰もこの事件を捜査することをしなかったでしょう。
アーネストと結婚して子どもを授かり、幸せな人生を歩んでいくと期待に胸を膨らませていたモリーが、次々と大切な家族が殺され、ついには娘まで失うことになって絶望の淵に何度も叩き落されていく姿はとても悲しく胸が痛みます。
一方、アーネストは叔父キングに利用されているとは知らずに、衣食住と仕事とモリーとの出会いをくれた彼に恩義を感じて、時々不安に駆られることがありながらも、彼の指示に従って彼の計画を遂行していきました。
キングの計画に加担したアーネストたちは、アナたちを殺害したことに何の罪悪感も抱いていません。ですがアーネストは、モリーを本気で愛していたため、彼女を徐々に毒で弱らせて殺害することになってやっと、キングの言いなりとなって人を殺すことに躊躇うようになりました。
そしてアーネストは娘を失ったことで、キングとの決別を決意。彼の罪を暴く証言をするも、モリーに毒を盛った真実は明かせず、それを医師の診察で知ったであろう彼女と別れることになってしまいました。
キングとバイロンが早期釈放・無罪となったというのはオーセージ族はもちろん、視聴者も納得がいかない結果でしょう。ですがキングたち3人は、刑罰よりも「家族との明るい未来を失う」という精神的苦痛の方がよっぽど堪えたのではないかと考察します。
まとめ
石油の発掘により一夜にして莫大な富を得たオーセージ族が、次々と謎の死を遂げた事件の真相を描いたアメリカの西部劇サスペンス作品でした。
芯が強く家族思いなオーセージ族であり、自分の家族や部族の者が殺された事件の解決に貢献したモリー役を熱演したリリー・グラッドストーン。第81回ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞(ドラマ)を受賞したのも納得の素晴らしい演技を魅せてくれます。
また本作では、金と女に目がなく、狡猾だけど詰めが甘い凡庸な悪党アーネストという、レオナルド・ディカプリオ史上最強クラスのどうしようもないダメ男役。
叔父キングのオーセージ族殺害計画に加担している過程で出てくる、レオナルド・ディカプリオの「魂の顔芸」24変化。
さらに表情やシワの陰影のみで、オーセージ族の親切な後援者と彼らの財産を狙う悪人というキングの二面性を表現したロバート・デ・ニーロの演技力。これらが全てで見られるところも、本作の見どころの1つです。
レオナルド・ディカプリオやロバート・デ・ニーロら豪華かつ実力派俳優陣の魂の芝居。そしてマーティン・スコセッシ監督の代名詞であるスタイリッシュかつダイナミックな映像世界、技術スタッフの傑出した技能などが、3時間26分という上映時間に詰まった本作はまさに名作です。ぜひ一度ご鑑賞ください。