戦争の恐ろしさを「最前線」で描いたスリラー
『ミッドサマー』(2020)や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2023)など、独創性に長けた作品を数多く公開してきたアメリカの映画配給会社「A24」。
「A24」の手がけた尖った作品群は業界人のみならず、映画好きからも高い評価を受け、常に注目を集めています。
そんな「A24」が2024年に公開した映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024)は、その衝撃的な内容が話題となり「A24」史上最大の公開週末興行収入を記録しました。
今回は生きている間に起きるかもしれない「恐怖」を描いた戦争映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の作品情報
【日本公開】
2024年(アメリカ映画)
【原題】
Civil War
【監督】
アレックス・ガーランド
【脚本】
アレックス・ガーランド
【キャスト】
キルスティン・ダンスト、ヴァグネル・モウラ、スティーヴン・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー
【作品概要】
映画監督デビュー作となる『エクス・マキナ』(2016)でアカデミー脚本賞にノミネートしたアレックス・ガーランドが手掛けた、アメリカの分断を描いたスリラー映画。
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)での演技が高評価を受けたキルスティン・ダンストが主演を務め、ドラマ「ナルコス」で実在した麻薬王を演じたヴァグネル・モウラが共演として本作に参加しました。
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のあらすじとネタバレ
近未来、アメリカ合衆国ではテキサス州とカリフォルニア州が率いる「西部勢力(Western Forces)」通称「WF」が合衆国を離脱し独立を宣言し、大統領率いる連邦政府との内戦状態に陥っていました。
ニューヨークで市民の様子を撮影する戦場カメラマンのリーは、加熱する市民と警官隊の衝突からリーに憧れる新人カメラマンのジェシーを救出。
直後に発生した爆破テロによって多くの死者が出る中、リーは冷静に写真を撮っており、彼女に憧れるジェシーもリーの行動に倣います。
夜、同僚ジャーナリストのジョエルとベテランジャーナリストのサミーとホテルで合流したリー。
連邦政府の勝利が近いと言う大統領の日々の放送が嘘と見抜いている3人は、1週間以内にワシントンD.C.が陥落し大統領が殺害されると予想し、14ヶ月の間メディアのインタビューに答えていない大統領に直撃インタビューを行うことに決めます。
ジョエルは高齢なサミーが共に来ることに反対していましたが、翌日にはリーを追ってホテルに現れたジェシーを連れていくことをリーに相談せずに決めており、リーはジェシーを「WF」の前線基地が存在する「シャーロッツビル」までの同行に限定し連れていくことにしました。
ニューヨークを車で出発した4人は武装した男たちが守る郊外のガソリンスタンドに立ち寄ります。
男たちはカナダドルでの料金の支払いに納得し4人の車への給油を了承。
ジェシーがガソリンスタンドの裏手の洗車場に2人の男が吊るされていることに気づくと、武装した男は2人が略奪者でありどうやって殺そうか悩んでいるとジェシーに言います。
拷問を受けたであろう2人の惨状にジェシーは言葉に詰まり、その様子を見かねたリーが武装した男に写真を撮ると伝え、誇らしげに吊るされた男たちの横でポーズをつける武装した男の写真を撮ることでその場を切り抜けることが出来ました。
給油が終わった車に戻り移動を進める中、ジェシーはガソリンスタンドでの自分の体たらくを責めます。
翌日、「WF」の民兵が政府軍と銃撃戦を繰り広げる建物に遭遇した4人は、「WF」の民兵が死亡する様子や敵兵を処刑する現場を写真に収めました。
ウエストバージニアの難民キャンプで一夜を越した4人は、「WF」の民兵に監視されながらも内戦が起きていることを気にせずに平和に生きている町や、狙撃手同士の撃ち合いが行われるゴルフ場を抜けます。
道中で同じくワシントンD.C.を目指す外国人記者のトニーとボハイに遭遇し共に道を進むことになりますが、ボハイとジェシーが「WF」の民兵に捕らわれてしまいます。
民兵はおびただしい数の市民の死体を埋葬しており、2人を助けるために話し合いに行こうとするリーやジョエルをサミーは制止。
しかし、サミーを除く3人は制止を振り払い民兵の元に向かうと、民兵は躊躇いなくボハイを射殺しました。
続いて民兵は一人一人の出身地を聞き出し、中国人であるトニーを射殺。
民兵の行動に痺れを切らしたジョエルが撃たれそうになる中、サミーが車を運転し民兵たちを撥ねたことでリーとジョエルとジェシーは難を逃れることに成功します。
ですが、サミーは民兵に腹部を撃たれており「シャーロッツビル」に着く頃にはサミーは死亡していました。
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の感想と評価
分断が引き起こす「内戦」と言う恐怖
2024年、アメリカ合衆国の大統領を決める「アメリカ合衆国大統領選挙」は、民主党のカマラ・ハリスと共和党のドナルド・トランプの2人の候補がぶつかり、過去に類を見ないほどの激戦が繰り広げられました。
共和党の候補者であるドナルド・トランプは選挙期間中に複数回の暗殺未遂騒動が発生するなど、アメリカの抱える様々な問題が浮き彫りとなった2024年の選挙戦。
特に対立する政党への強い嫌悪感や憎悪感を招く「政治的分極化」は深刻で、アメリカでは対立する政党に対して非常に好ましくない意見を持つ人は2022年時点で過去最高を記録しています。
「政治的分極化」は「分断」を招く危険な兆候であり、今にも決定的な「分断」を生みかねない現代のアメリカで公開された映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、あまりにもセンシティブな内容であると賛否を生むことになりました。
何かをきっかけに明日にでも始まるかもしれない、「内戦」と言う名の同じ国の人間同士での殺し合い。
本作は必ずしもフィクションの世界の出来事とは言い切れない、リアリティのある「恐怖」が目の前に広がっているような作品となっていました。
「戦争」によって失われていくモラル
無政府状態となったアメリカを旅するジャーナリストの4人は、その場で戦争が生み出した秩序の崩壊を目にしていくことになります。
民兵たちは攻撃をしてきた相手だけでなく攻撃対象を「敵かもしれない人間」に移し始め、無抵抗の相手を殺害し何一つ恥じることなく写真の撮影に応じます。
平和な日常を過ごす自分たちにとって猟奇的に思える彼らの行動も「戦地」を生きる人間にとっては「英雄的」ですらあり、本作では価値観の異なる登場人物を絡ませることで「戦争」による価値観の変容を現していました。
まとめ
価値観の異なる国同士で発生してしまうものと言うイメージがついている「戦争」。
しかし、お互いの言葉の細かいニュアンスすら伝わる国内でも「戦争」は発生することはあり、今も世界のどこかでは「内戦」は実際に起きています。
いつ何がきっかけで発生してしまうかもしれない「内戦」の恐怖を描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。
「A24」らしい余りにも衝撃的なスリラー映画となっている大注目の作品でした。