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Entry 2024/02/06
Update

【西山真来インタビュー】映画『二人静か』での“分かったフリ”をしない演技×人間になるための“自分自身からの出発”とは

  • Writer :
  • 河合のび

映画『二人静か』は2023年11月に封切り後、2024年2月9日(金)〜京都・出町座、2月10日(土)〜広島・横川シネマ、2月17日(土)〜石川・シネモンドで全国順次公開

『乃梨子の場合』『夢の女 ユメノヒト』の坂本礼監督が、『夏の娘たち ひめごと』『カウンセラー』の西山真来と『ぼっちゃん』『愛しのノラ』の水澤紳吾を主演に迎えて制作した長編映画『二人静か』。

失踪した娘を探し続ける夫婦と若き身重の女性の邂逅を中心に、不条理な現実に直面した人々の愛とトラウマ、再生と喪失の物語を描いた作品です。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

このたびの劇場公開を記念し、映画『二人静か』で失踪した娘を探し続ける母・涼子役を演じられた西山真来さんにインタビューを行いました。

先輩たちからの厳しさと優しさ、涼子を演じられるにあたっての「分かったフリ」をしない役作り、「“自分自身”から出発するしかない」という演技の在り方など、貴重なお話を伺えました。

座組という「厳しく・優しく」の現場


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──本作へのご出演の経緯を改めてお聞かせください。

西山真来(以下、西山):坂本監督とは2015年の『乃梨子の場合』で初めてお会いし、翌年の『夢の女 ユメノヒト』から約8年ぶりにお仕事をご一緒できたのが今回の『二人静か』でした。

ただ本作で、坂本監督や製作陣の方々が涼子役に起用してくださったのは、前の2作での私の演技が良かったからというよりは、毎回芝居に対して厳しく叱咤激励してくれる中で、それでも懲りずに私のことを現場へ呼んでくれる優しさだと自分では感じています。

実は『夢の女 ユメノヒト』の制作当時、ある場面の撮影で私は役をどう演じればいいのか、どう動けばいいのか完全に分からなくなってしまった時があったんです。撮影がストップし、当初予定していた「人気のない、静かな早朝」の画は撮れませんでした。

ですが、その場面の撮影が終わった際に坂本監督は「お前のことを良く撮ってやれなかったよ、ごめんな」と仰ってくださったんです。また俳優として先輩である川瀬陽太さんや佐野和宏さん、伊藤清美さんたちもその後、演技や俳優としての在り方をアドバイスをしてくださいました。

国映さんの映画には、まだ「座組」と呼べるものが残っています。そこでの仕事を通して先輩の皆さんから厳しく、優しく接してもらえることは、今の業界では非常に貴重な、本当にありがたい現場だと思っています。

自分がやらなきゃいけない仕事


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──これまでの「先輩」である方々からの言葉の中でも、特に忘れられない言葉は何でしょうか。

西山:いろんな方からいろんな言葉をいただいてきて、その時にすぐハッとさせられることもあれば、何年か経った後にふと思い出して言葉の本当の意味に気づくこともありました。

中でも『夢の女 ユメノヒト』の試写会が行われた日の夜、試写会に来られて私が身動きのとれなくなってしまった例の場面も観てくださった堀禎一監督と、ゴールデン街のお店で深夜2時・3時ごろまで演技についてお話をしたことは今でも覚えています。

堀監督は私のことを「昔の映画女優さんみたいだ」と仰って、その上で演技について熱心に話してくれました。そして「あなたは“自分の仕事”をしていますか」「お金の問題だけでなく、“自分がやらなきゃいけないこと”としての仕事をいつも考えながら生きていますか」と尋ねてくれました。

堀監督とは『夏の娘たち ひめごと』(2017)でお仕事をご一緒したものの、映画公開中に監督は亡くなってしまったので、なおさら忘れられないのかもしれません。

役に対し「分かったフリ」はできなかった


(C)坂本礼

──『二人静か』での涼子役は、どのように演じられていったのでしょうか。

西山:今回演じた涼子も分からないことが多かったんですが、それでも安易に分かったつもりで演じてはいけない、分かったフリで演じたら絶対にダメな役だとは感じていました。

「涼子はこういう人」と自分自身の外側で役をイメージし、他者という対象として扱うのではなく、自分自身から始めないといけない気がしたんです。

自分が何かしらの役と出会って、どんな人間がそこに現れるのかが、大切なんじゃないかと思うんです。たとえば私という水が元から入っている容器があるとしたら、そこに「ある役」という水が注がれるとどうなるか。

実験の結果「赤色の水と白色の水が混ざったから、容器の中の水はピンク色になる」という予想とはおおきく異なることもあります。

結局はどれだけ脚本を読み込んでも、芝居の相手に対してセリフを口にするまでは何も分からないんです。ですが涼子についても分からないことが多くあった中で、その「分からない」を受け入れたからこそ、分からないままでも演じ続けられましたし、役について考える時間も絶やさずにいられたところもあるんです。

役の記憶を拾い集め、自分自身に溜める


(C)坂本礼

──本作での演技のアプローチについて、より詳しくお聞かせください。

西山:変な言い方なんですが、最近「“演技”ってできないな」と思っていた部分もあるんです。

本作の舞台の東京の東側や自分の中で作品とリンクする場所へクランクイン前に行ってみたりして、自分自身の体に「涼子の心と体が生きている世界」を体験させようと思いました。そのフィードバックを続けることで自分の体を涼子へ馴染ませ、心も後から追いついてくれることを願って。

私は「心を扱う」なんてことを、人間は本当にできるのかなと思っているところがあります。それでも涼子を演じるには、自分自身の心身の反応や感覚を少しでも信じられるようにしなければならなかったので、その方法をずっと考えていました。

『二人静か』で涼子を演じるにあたって行き着いた、役を演じるための素となる記憶を拾い集め、それを自分の内側に溜めていくという方法は、自分の性に合っているかもしれません。

もちろん、以前の『カウンセラー』(2021)のようにちゃんと演「技」として見せた方がいい時もありますし、『二人静か』での方法がいつ・どこでも通用するわけでもありません。それでも本作で涼子を演じる中で得られた充実した体験は、本当に大切に感じています。大切過ぎて、自分が大切にし過ぎてしまうんじゃないかと怖いくらいです。

「人間」になるには、自身から出発するしかない


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──2024年現在の西山さんにとって、「演技」とは一体何ものなのでしょうか。

西山:本当にいつも変わり続けてはいるんですが、『二人静か』を経て「やっぱり“自分自身”から出発するしかない」とは感じるようになりました。

今年の1月、演劇ユニット「コンプソンズ」さんの『岸辺のベストアルバム‼︎』という舞台に出演させていただいたんですが、演出家の金子鈴幸さんは作品に登場する役の設定に、演じる役者自身の過去の経歴や個人的な記憶の一部も投影させているように感じました。

私が舞台で演じたのもどこか涼子に似た部分がある役で、以前だったら「もし似たような役をもらった時は、ちゃんと“違う人間”を演じなきゃ」と考えていたんですが、今は「あるものを、あるままに演じる」のが大切だと捉えています。

脚本をもらってから一緒に育ってきた涼子と、彼女と一緒に過ごした時間を経てからも生活をしている私もひっくるめて今の私なので、無理に役作りをするよりは、今まで通ってきた道の延長線上で演じるしかない。「それしかできない」という、諦めに近いのかもしれません。

元々私は、他人の気持ちも自分の気持ちもあまり分からない人間だったんです。その人の気持ちを想像せずに、思慮のない言葉を向けてしまって……若い時はそのせいで、他人も自分も傷つけていました。

そうした人間としての生き方を想像するのが苦手で、「自分はどうして」と自己嫌悪をしてばかりだったから、役を演じる中で人間について考えられる俳優というお仕事に興味を持って、こんなにも続けてきたんだと思います。

俳優のお仕事のおかげで、徐々に大人と呼べるような人間に近づいてこれたといいますか、もし今のお仕事を見つけられていなかったらと思うと、本当に怖いです。このお仕事をさせてもらえて、本当にありがたいです。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

西山真来プロフィール

1984年生まれ、京都府出身。

神戸大学在学中に演劇ユニット「象、鯨。」を主宰し、作・演出・俳優として演劇作品を発表。多数の映像作品に出演し、その忘れがたい存在感を発揮している。

主な映画出演作に『へばの』(2008/木村文洋監督)『乃梨子の場合』(2015/坂本礼監督)『夢の女 ユメノヒト』(2016/坂本礼監督)『夏の娘たち ひめごと』(2017/堀禎一監督)『寝ても覚めても』(2018/濱口竜介監督)『スパイの妻』(2020/黒沢清監督)『れいこいるか』(2020/いまおかしんじ監督)『カウンセラー』(2021/酒井善三監督)『激怒』(2022/高橋ヨシキ監督)『やまぶき』(2022/山崎樹一郎監督)『にわのすなば』(2022/黒川幸則監督)『ミンナのウタ』(2023/清水崇監督)など。

映画『二人静か』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【監督】
坂本礼

【脚本】
中野太

【企画】
朝倉庄助 

【エグゼクティブプロデューサー】
田尻裕司、田尻正子

【プロデューサー】
坂本礼、寺脇研、森田一人

【キャスト】
西山真来、水澤紳吾、ぎぃ子、裕菜、伊藤清美、佐野和宏、川瀬陽太、小林リュージュ

【作品概要】
失踪した娘を探し続ける夫婦と若き身重の女性の邂逅を中心に、不条理な現実に直面した人々の愛とトラウマ、再生と喪失の物語を描く。監督を『乃梨子の場合』『夢の女 ユメノヒト』の坂本礼が、脚本を『終末の探偵』『TOCKA タスカー』『天国か、ここ?』『花腐し』の中野太が手がけた。

次第に壊れゆく妻・涼子役は『夏の娘たち ひめごと』『カウンセラー』の西山真来、その夫・雅之役は『ぼっちゃん』『愛しのノラ』の水澤紳吾。

夫婦の前に現れた身重の女性・莉奈役をドラマ『まんぷく』『ケイジとハンジ 所轄と地検の24時』のぎぃ子が務めた他、裕菜、伊藤清美、佐野和宏、川瀬陽太、小林リュージュら個性派俳優が脇を固める。

映画『二人静か』のあらすじ


(C)坂本礼

出版社に務める雅之とその妻の涼子。どこにでもいる平凡な夫婦の生活は5年前を境に一変した。

5歳になる娘の明菜はある日突然姿を消し、今日まで行方知れずのまま。あの日娘を預けた涼子の父・丈志を涼子は恨んだが、認知症の進んだ父は涼子の母・初恵に介護されている。

そして娘の行方不明を機に、雅之と涼子の仲は修復不可能なまでに冷えきっていた。わずかな手がかりを求めて街頭に立ち、道ゆく人に情報提供を呼びかける夫婦はチラシ配布を手伝ってくれる莉奈と出会う。

涼子は子どものいなくなった心の空虚を埋めるかのように、出産を控えた彼女との交流にのめり込むが……。

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche




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