Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2023/05/17
Update

【感想】MOON and GOLDFISH|あらすじと評価。峰平朔良と平井亜門が横浜を舞台に演じる音楽青春群像劇|映画という星空を知るひとよ154

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第154回

横浜・横須賀を舞台に、スタンダードサイズかつモノクロを基調に創られた音楽青春群像劇『MOON and GOLDFISH』。

鉄工所で働くシンイチ、路上で歌うヒカリ、債権回収屋のヒロシ、工場に勤めるベトナム出身のグエンとミシマたち。ノスタルジックな雰囲気を醸し出す町で、その日その日を生きる若者たちの交差する人生を鮮明に描き出します。

シンイチに平井亜門、ヒカリに峰平朔良、ベトナムの青年グエンは生沼勇と、若手俳優がメインキャストを演じ、本作が初監督となる飯塚冬酒が取りまとめました。

映画『MOON and GOLDFISH』は、2023年6月24日(土)より新宿K’s cinema、7月8日(土)より横浜シネマ・ジャック&ベティほか劇場にて公開されます。

公開に先駆けて『MOON and GOLDFISH』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『MOON and GOLDFISH』の作品情報

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督】
飯塚冬酒

【プロデューサー】
甲斐玲子

【脚本】
四海兄弟

【撮影】
岩川雪依

【出演】
平井亜門、峰平朔良、生沼勇、神林斗聖、藤井太一、日下部一郎ほか

【作品概要】
映画『MOON and GOLDFISH』は、横浜・横須賀を舞台に、モノクロ映像で描いた音楽青春群像劇です。

監督は飯塚冬酒。『誰かの花』(2021)をはじめ、ベトナム人青年と日本人青年の結婚式を描いた『ぼくと、彼と、』(2019)などの作品を製作・プロデュースした実績を持ち、本作が初監督作品となります。

アルプススタンドのはしの方』(2020)『銀平町シネマブルース』(2023)『神田川のふたり』(2022)などに出演した平井亜門、『アカリとマキコ』(2022)で「TOKYO青春映画祭」最優秀助演賞を受賞した峰平朔良をはじめ、生沼勇、神林斗聖、日下部一郎、福本翔、本多正憲ら若手俳優も集結しました。

映画『MOON and GOLDFISH』のあらすじ

中卒で鉄工所に勤めるシンイチ(平井亜門)。仕事の合間をぬって大学受験をめざし、高等学校卒業程度認定試験を受けるつもりで勉強しています。

路上ライブをしているヒカリ(峰平朔良)。病気の父と二人暮らしですが、父の背負った借金返済のために高校を中退し、働き始めます。

債権回収屋のヒロシ(神林斗聖)。ヒカリの父親の借金を取り立てに、毎月ヒカリの家にやって来ます。

ある日、鉄工所にベトナムから技能実習生としてグエン(生沼勇)がやって来ました。鉄工所の先輩ミシマ(日下部一郎)は何かとグエンに絡みます。

どこにも行き場のない小さな町で暮らす若者たちの人生が交差しはじめて……。

映画『MOON and GOLDFISH』の感想と評価

横浜を主な舞台として撮影された音楽群像劇『MOON and GOLDFISH』。

商店街で歌が好きなヒカリが、路上ライブをしている様子が映し出されます。何の変哲もない毎日を過ごすシンイチは、そんなヒカリの歌を聴くのを日課のようにしていました。

実はヒカリは借金を抱え、病気の父親と二人暮らしでした。月に一度、借金の取り立てに訪れるヒロシに脅威を覚えながら暮らしています。

シンイチの務める鉄工所には、どん詰まりのような生活に飽き飽きしながら働いているミシマたちがいました。ミシマは「生まれ育ったこの場所にしがみついて生きている」と、ベトナムからやって来たグエンに吐露します。

この言葉が本作の1つのテーマともとれます。自分の意志とは関係なく、ただ生まれ育った町だから、惰性のようにここで生きている彼ら

そんな彼らを見るたびに、シンイチは自分も含め、選択肢のない人生に静かな怒りを感じていました。そして、違うところへ行けるかもしれないという気持ちから大学受験にチャレンジし、ヒカリも自分の夢に向かい始めます。

与えられた環境だけで生きるのではなく、自ら新境地を開こうとするシンイチは、ほかの従業員と違っていたと言えます。何か人生の目標を持つようになれば、希望も見えてくるし、選択肢も広がるというものでしょう。

こんなシンイチを演じているのは、『アルプススタンドのはしの方』(2020)『銀平町シネマブルース』(2023)『神田川のふたり』(2022)などの話題作への出演をはじめ、TVなどでも幅広く活躍する平井亜門。寡黙ながらも自分の意志をしっかりと持った青年を好演しています。

また、ヒカリを演じる峰平朔良の特技は‟声楽”。路上ライブやバイト先の店でも、ヒカリが歌うシーンがあり、得意の歌声を聞かせてくれます。苦しいときでも歌っていれば幸せという、喜びに満ちた笑顔がスクリーンいっぱいに広がりますので、お見逃しのないように。

若手でもあり実力派でもある彼らによって、本作の主人公たちのせせこましい世界から脱出を試みる様子がリアルに浮かび上がってきます。

未来は先が見えないけれど、とにかく一歩踏み出そうとする、シンイチとヒカリの勇気と諦めない心に感服です

まとめ

映画の原点を感じさせるようなスタンダードサイズでモノクロ基調の『MOON and GOLDFISH』。

小さな町でそれぞれの人生を見つめて葛藤する主人公たちを通して、与えられた人生に抗うことも必要と感じられる作品でした。

人生においていくつかの選択肢があることや、さまざまな試練に向かうチャンスを自ら模索できるのは幸せなことなのでしょう。

本作の登場人物の生き方を、自分ならどう評価するか。ぜひご覧になって考えてみてください。

映画『MOON and GOLDFISH』は、2023年6月24日(土)より新宿K’s cinema、7月8日(土)より横浜シネマ・ジャック&ベティほか劇場にて公開されます! 

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。





関連記事

連載コラム

未体験ゾーンの映画たち2020延長戦おすすめ5選。ラインナップ23本から厳選セレクション|【延長戦】見破録24(最終回)

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第24回(最終回) さまざまな理由から日本公開が見送られていた映画を紹介する、恒例となった上映企画”未体験ゾーンの映画たち”。今年は「未体験 …

連載コラム

映画『ぼくたちの哲学教室』あらすじ感想と評価解説。分断の地ベルファストで哲学を教える校長と生徒たちのドキュメンタリー|山田あゆみのあしたも映画日和10

連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第10回 映画『ベルファスト』(2022)でも知られる北アイルランドの分断の街ベルファストでは、現在もプロテスタント地区とカトリック地区を隔てる壁が存在し、時 …

連載コラム

講義【映画と哲学】第6講「重喜劇とは何か:ベルクソンから今村昌平の重喜劇を見る」

講義「映画と哲学」第6講 日本映画大学教授である田辺秋守氏によるインターネット講義「映画と哲学」。 今村昌平『映画は狂気の旅である 私の履歴書』(日本経済新聞社、2004年) 第6講では、アンリ・ベル …

連載コラム

『サントメール ある被告』あらすじ感想と評価解説。実話事件の裁判を映画化!リアルな法廷劇が繰り広げられる|映画という星空を知るひとよ161

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第161回 今回ご紹介する映画『サントメール ある被告』は、実話の裁判を基にした法廷劇です。2022年・第79回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)と新人 …

連載コラム

映画『キング・ジャック』レビュー評価と解説。監督フェリックス・トンプソンが初長編映画で込めたメッセージとは|ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館7

2019年8月23日(金)に装いも新たに復活をとげた映画館「京都みなみ会館」。 京都みなみ会館のリニューアルを記念して、9月6日(金)からグッチーズ・フリースクール×京都みなみ会館共催の『ルーキー映画 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学