連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第84回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」。第84回はアメリカの都市伝説を題材としたサイケデリックな映画『アドレノクロム』(2022)。
アメリカで広がり続ける都市伝説を題材とした本作は、内容に沿うかのような独特な映像表現によって強烈なインパクトが残る作品になっていました。
今回は狂気と幻覚が入り乱れる映画『アドレノクロム』をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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映画『アドレノクロム』の作品情報
【原題】
Adrenochrome
【日本配信】
2022年7月29日(アメリカ映画)
【監督】
トレバー・シムズ
【キャスト】
トレバー・シムズ、トム・サイズモア、ラリー・ビショップ、アダム・ハス、ジャッキー・ホランド
【作品概要】
主人公のウォーカーを演じたトレバー・シムズが監督を務め、カルト的話題となったドラッグムービー。
『プライベート・ライアン』(1998)や『ブラックホーク・ダウン』(2002)に出演し高い評価を得たトム・サイズモアが共演として本作に出演しました。
映画『アドレノクロム』のあらすじとネタバレ
カリフォルニア州ベニス。
帰還兵のウォーカーは少女ペニーに誘われるがままに着いて行ったカフェで「メスカリン」を飲まされ意識混濁に陥ります。
旅と称して海の中に飛び込んだ男に導かれ海に飛び込んだウエストは、人魚の様なヒレを持つ女性を襲う集団を蹴散らし、彼女を救出。
数時間後、ビーチで性行為に励むカップルが覆面をした男たちに襲われます。
覆面の男たちはカップルの男を刺殺すると副腎を取り出し容器に入れました。
その様子を目撃したウォーカーは覆面の男たちを攻撃し警察に通報しますが、「メスカリン」を飲まされていたウォーカーの証言は信用されず、逆に勾留されてしまいます。
翌日、ペニーに仕事を頼まれたウォーカーはベニスの麻薬組織のリーダーであるチャーリーから請け負った運び屋の仕事をします。
帰り道、少女ボニーがジャンキーに襲われている様子を目撃したウォーカーはボニーを救出。
一方、海岸では覆面の男たちがサーフィン中の男を刺殺していました。
夜、ウォーカーはボニーと再び「メスカリン」を服用します。
翌日、チャーリーのアジトを訪れたウォーカーはペニーたちを連れての運び仕事を依頼され、車で出掛けている間に警察に呼び止められます。
運んでいる品物を見られたことで警察に連行されるウォーカーは、刑事マーロウにトイレに連れ込まれ銃を突きつけられます。
マーロウはウォーカーに麻薬をベニスに流すチャーリーたちを殺すように命じるとウォーカーを解放。
一方で妙な幻覚を見始めたチャーリーはボニーを呼び出します。
街ではアドレナリンを分泌する人間の臓器「副腎」を使ったドラッグが流行り始めており、覆面の集団の殺戮も数を増していました。
映画『アドレノクロム』の感想と評価
幻覚と活劇が入り乱れる作品
カリフォルニアのベニスビーチを訪れた帰還兵のウォーカーが「メスカリン」を飲まされる物語から始まる本作。
日本では麻薬にも指定されている「メスカリン」には、人の認知する色彩に対して強い幻覚作用があり、服用した人間は視覚的幻覚を伴う「トリップ」と呼ばれる状態に陥ります。
本作はそんな「トリップ」状態を映像で表現したような作品であり、カラフル過ぎる映像と支離滅裂な物語が繰り広げられています。
突然人魚が現れたにも拘らず物語は何事もなかったかのように進み、主人公の大活劇もあっさりとひっくり返される本作は、何がウォーカーの見ている「幻覚」で、何がこの物語の「真実」なのかも全く分からない、まさにサイケデリックな作品になっていました。
日本にも影響し始める陰謀論
作中には「メスカリン」を遥かに越える作用を持つ物質として人の副腎で生成される「アドレノクロム」が登場します。
「アドレノクロム」そのものは現実に存在する物質ではありますが、「Qアノン」と呼ばれる陰謀論の支持層によって若返りや他のドラッグを遥かに越える向精神薬としての効果が謳われ始めました。
効果を高めるために生きた人間を誘拐し、副腎を抜き取る組織の存在も主張され始め、アメリカではメジャーな陰謀論のひとつとなった「アドレノクロム」。
この陰謀論は海を渡り日本にも影響を与え始めており、東京ディズニーランドや富士フィルムが「アドレノクロム」工場を所持しているとする陰謀論もSNS上で拡散されています。
SNSの普及によってウイルス以上の驚異的な速度で出回る陰謀論は、現代社会を生きる上での避けることができないものですが、同時に文化のひとつであるとも言えます。
まとめ
トレバー・シムズ監督が日本での公開に向けて「気が狂った観客が突然席を立って人を殺し始めないことを心の底から願う」とコメントした本作。
最初から最後まで、とことんサイケデリックでジャンキーな映像作りに拘った『アドレノクロム』は、怪作であり奇作に仕上がっています。
万人受けする映画とは決して言えませんが、見たことのないような作品を観てみたい人は一度は鑑賞して欲しいと思える不思議な魅力を持った作品です。
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