連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第108回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第108回は、エリオット・レスター監督が演出を務めた、映画『ある殺人者の告白』です。
ある日、退役軍人のピーター・スノーデンは口論の末、同居していた母親を殺してしまいました。ですがピーターは逃げることも警察に通報することもなく、まるで何事もなかったかのように日々を過ごし続けます。
その日々の中で、ピーターは密かに遺体を別の場所に移したり、実母を殺害した自身の心情を告白する動画を撮影したりするという物語とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
デヴィッド・オイェロウォ主演で贈る、2015年製作のアメリカのサイコスリラードラマ映画『ある殺人者の告白』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
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映画『ある殺人者の告白』の作品情報
【公開】
2015年(アメリカ映画)
【脚本】
フレデリック・メンシュ
【監督】
エリオット・レスター
【キャスト】
デヴィッド・オイェロウォ、ヘザー・ストーム、バーロウ・ジェイコブス
【作品概要】
『ブリッツ』(2011)や『アフターマス』(2017)などを手掛けたエリオット・レスターが監督を務めた、2014年製作のアメリカのサイコスリラードラマ作品です。
『グローリー 明日への行進』(2014)でマーティン・ルーサー・キング・Jr.牧師役を演じ、ゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネートされたデヴィッド・オイェロウォが主演を務めています。
映画『ある殺人者の告白』のあらすじとネタバレ
退役軍人のピーター・スノーデンは、ある日口論の末に同居する母親リリアンを殺しました。
リリアンは敬虔なクリスチャンで、断固とした態度でピーターのやることなすことに口煩く言っていました。
その反面、リリアンはピーターがスーパーマーケットのレジのバイトで稼いできたお金で買って貰った服を着て買い物に出かけたり、金遣いが荒かったりなど好き放題やっていました。
ピーターはそれを不満に思いつつ、ずっと我慢していました。でも唯一の望みである、アメリカ陸軍時代の友人エドワードを夕食に招くことを反対されて、ついにピーターの堪忍袋の緒が切れてしまったのです。
ピーターは母親を殺したことを恥じてもいませんし、悔やんですらいませんでした。いやむしろ、自分の人生はこの瞬間を迎えるためにあったと感じたのです。
翌日から、ピーターは今まで母親に制約されてできなかったことをやりました。自分で作った極上のディナーを赤ワインを飲みながら楽しんだり、休日には下着姿で昼間から飲んだくれたり、家の中で煙草を吸ったり。
ですがどこか、ピーターは虚しさを感じていました。そしてピーターは、エドワードを夕食に招くために彼に勇気を出して電話をします。
しかし何度かけても、エドワードの妻グロリアが電話に出るか、留守電になるかのどちらかで、エドワードは一向に電話に応じてくれません。
ピーターは、母親を殺した日から始めている自撮り動画でそのことを愚痴としてこぼしました。
「昔から俺の邪魔ばかりする。俺からの留守電は消すし手紙は破く」、「18年前、結婚する前にエドワードはよく彼女の悪口を言っていた」とか。
「俺は当時“大げさだ”と言ったが、今ならその気持ちが分かる」、「男同士の友情を大切にしてはいけないなんて法律はないのに」とか………。
それと同時に、ピーターは期待に胸を膨らませていました。自分が直接誘えば、エドワードは必ず来てくれる、夕食のメニューは何にしようかなと。
しかしどんなに留守電にメッセージを残しても、エドワードからの折り返しの電話はきませんでした。
ピーターに電話をかけてくるのは、妹のヴィッキーだけです。しかし彼女から病気のせいで働けなくなった過去を蒸し返され、キレたピーターは数分足らずで電話を切りました。
次第に孤独感に耐えきれなくなったピーターは、母親が通販で買った卓上三面鏡に写る自分に話しかけます。
月曜日の夜。ピーターは卓上三面鏡の前で、母親宛てに送られてきた手紙を読み上げます。差出人は、アラバマ州モービルに住むリリアンの長年の親友シャーリーン・カロザース夫人です。
カロザース夫人の手紙には、彼女に孫ができたことと、リリアンが手紙を通じて相談していたであろうピーターのことについて書かれていました。
「あなたも大変ね、ピーターの望みは敬虔なクリスチャンには受け入れられない。若さゆえに自分を見失っているのよ」
「あなたは情に流されず、断固とした態度をとらなくてはダメ」、「マタイの福音書にある主の言葉を思い出して、“私より息子や娘を愛する者は、私にふさわしくない”」と………。
カロザース夫人の言葉に腹を立てたピーターは、リリアンに成りすまして返信の手紙を書きました。
ですがリリアンのように手書きだとバレてしまうため、ピーターは「飲んでる薬を変えたせいで手が震えて字が書けない」と嘘の設定を作り、タイプで文字を打ちました。
その手紙には、ピーターがどんなに良い息子であるか、リリアンによくしてくれるか、エドワードを家に招いてと3人で素晴らしい夕食の時間を過ごしたことなどが記されていました。
その後、ピーターは新しく買ったスマホとBluetoothヘッドセットを使って、エドワードに電話をかけました。するとついに、エドワードが電話に出てくれたのです。
ようやくエドワードを夕食に招くことができると歓喜したピーターは、電話をかける前に祈った神に感謝を告げます。
この日に撮影した自撮り動画で、ピーターはエドワードが金曜に来ることになったことを報告。それと彼に食べさせる夕食の準備と、まるで霊廟のような家を何とかしなければならないと語っていました。
そしてピーターは、腐敗臭が漂うようになった母親の死体をキルト生地の布でくるみ、車のトランクに乗せてどこかへ埋めに行きました。
火曜日。ピーターはどこか晴れやかな気持ちで朝を迎え、ヴィッキーにスマホから電話をかけて、家中を模様替えすると話します。
しかし30年前にピーターの父親が家を出て行って以来、手つかずだった家の模様替えは彼が思っていた以上に難航しました。
この日の自撮り動画で、ピーターはカーペットを替えるのは断念し、せめて母親の部屋とキッチンの壁を塗り直すこと、どんなに遅くとも木曜までにすべて終わらせると語っていました。
ですがエドワードに振舞う夕食のメインディッシュは決まったものの、未だそれ以外何を作るか決まっていません。
ピーターは少しでもエドワードに喜んでもらおうと、彼が子供の頃から飼いたいと憧れていた熱帯魚を2匹飼いました。
水曜日。ピーターはエスプレッソマシンを探して家中を駆け回ります。そのエスプレッソマシンを使って、ピーターは食後にエドワードにエスプレッソコーヒーを振舞うつもりでした。
しかし家中どこを探しても見つからず、ピーターは自撮り動画で「立派なマシンがあったはずなのに、母さんが腹いせに隠しやがったんだ」と母への怒りの気持ちをぶつけます。
そこでピーターは、家にあったクレジットカードを使って、エスプレッソマシンを通販で購入。しかし、ピーターが家の模様替えのために色々買ったせいか、カードの限度額を超えてしまって使えませんでした。
その日の夜。ピーターは屋根裏部屋に隠されたエスプレッソマシンを発見。それで機嫌が良くなったピーターは、自撮り動画でエドワードとの出会いを語っていきます。
今から18年前、ピーターは新兵の訓練前、軍への勧誘官の車に相乗りしたことがきっかけでエドワードと知り合い、意気投合しました。
ピーターにとって軍隊生活は、あらゆる嫌がらせをされてとてもつらいものであり、ある時我慢の限界を迎えて除隊しました。
同じく除隊していたであろうエドワードは再入隊し、2人は離ればなれに。ですが2年前のバレンタインデーの日、ピーターは母親が借りた本を返しに行った図書館で、子供を連れていたエドワードと偶然再会したのです。
積もる話も多く、ピーターたちは時々エドワードの職場近くでつるむようになりました。
ですがピーターは母親のせいで家に招くことができず、エドワードの家にも行けなかったため、外でこっそり会うしかありませんでした。
しかしピーターとエドワードは、些細な誤解がもとで疎遠となってしまいました。
ピーターは唯一無二の親友である彼ともう一度会い、仲良かったあの頃に戻りたいと思っていました。そのためならば、ピーターは何だってする覚悟があります。
木曜日。ピーターは家の壁を水色からグレーに塗り替えつつ、ヴィッキーと電話していました。
その際、母親と連絡が取れず、もしかして自分の伝言を聞いて気分を害したのではないかと不安がるヴィッキーに、ピーターは母親にモービル行きの航空券をサプライズでプレゼントするのはどうだと提案します。
もちろんそれは建前で、本音は家の模様替えのための費用に充てる金が欲しいからです。
それともう1つ、ピーターはヴィッキーやカロザース夫人、母親の教会仲間のビーズリー夫人に、母親は体調を崩して寝込んでいるとか、外出してるとか嘘をついて母親の所在を誤魔化していました。
映画『ある殺人者の告白』の感想と評価
口論の末に実母を殺害した退役軍人のピーターですが、その日以降から撮影される彼の自撮り動画を見ると、殺意を持つほどの怒りを抱いたのも無理ないなと感じます。
何故なら殺されたピーターの母親リリアンは、毒親(毒と比喩されるほど子どもの人生を支配し、子供に害悪を及ぼす親)だったからです。
ピーターは軍を除隊後、スーパーマーケットのレジ係として働いた給料を生活費に入れていましたし、母親に服を買ってあげるなどきちんと親孝行していました。
ですがリリアンは、そんなピーターにいつも小言を言い、金をケチっているわりには浪費家でした。
何より、「エドワードを家に招いて夕食を振舞いたい」というピーターの一番の望みを、リリアンは断固反対したのです。
ピーターにとって、エドワードは唯一無二の親友。しかも数年疎遠だったものですから、彼のエドワードに会いたい気持ちはとても強かったはずです。
これは、ピーターの堪忍袋の緒が切れても仕方ありません。物語の序盤で、ピーターはリリアンを殺したことに後悔はないと言っています。
ですが自由の人生を謳歌できると喜ぶ一方で、ピーターは次第に虚無感に襲われていきました。
カロザース夫人の手紙を読む場面で、母親が友人のアドバイスにしたがって断固とした態度をとっていたことを知った時のピーターの複雑そうな表情。彼に感情移入してみると本当、胸が苦しくなります。
まさに「親の心、子知らず」という言葉がピッタリなほど、悲しきピーター親子のすれ違いです。
また、ピーターはエドワードに対して異常な執着心と愛情を抱いています。
ピーターとエドワードが疎遠になったきっかけである「些細な誤解」とは何なのか、作中で彼は明言していません。
ですがエドワードがピーターと話すことも、会うことも、手紙を受け取ることすら拒否するほどの「些細な誤解」だったのだと考察できます。
自分がとった行動で、大事な友と母親を失ってしまったピーター。日を増すごとに彼の精神が壊れていく様はとても辛く悲しいです。
まとめ
実母を殺害してしまい、唯一無二の親友にも拒絶されてしまった退役軍人が少しずつ精神を崩壊させていく様を描いたアメリカのサイコスリラードラマ作品でした。
作中ではピーターの母親や妹、母親の友人にその息子、そしてエドワードら登場人物と彼が会話をする姿が描かれていますが、エドワードたちが登場することは一切ありません。
ニュースキャスター役のヘザー・ストームと、ロバート役のバーロウ・ジェイコブスは、声だけの出演でした。
つまり物語のほとんどが、ピーター役のデヴィッド・オイェロウォのひとり芝居によるものなのです。
母親を殺してから数週間にわたって揺れ動くピーターの心情と、エドワードへの友情を超えた愛情を抱くあまりの危うい一面を見事に表現した、デヴィッド・オイェロウォの素晴らしい演技力に感嘆させられます。
エンドロール前、幼いピーターが公園で母親やヴィッキーと戯れる姿を撮影した動画が流れました。
そして本作は、2003年にアメリカで実際に起きた母親殺しの事件を題材にしたドラマとなっています。
デヴィッド・オイェロウォのほぼひとり芝居で贈る、母親を殺したことを隠し続けた退役軍人の精神が壊れていく様を描いた、切なすぎるサイコスリラードラマ映画が観たい人にとてもオススメな作品です。