Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/11/21
Update

映画『ファミリア』あらすじ感想と評価解説。役所広司がサガエルカスやワケドファジレと共に問いかける‟家族の絆”|映画という星空を知るひとよ129

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第129回

今回ご紹介する作品は、成島出監督が手がけ、役所広司と吉沢亮が映画初共演を果たした映画『ファミリア』です。

国籍や育った環境、また話す言葉などの違い、さらには血の繋がりを超えて、強い絆で“家族”を作ろうとする人々を描き、国際色豊かなオリジナル作品となっています。

キーマンは在日ブラジル人とも言える本作では、オーディションで出演が決まった演技経験のない在日ブラジル人の若い俳優たちが、フレッシュな演技を披露しています。

映画『ファミリア』は、2023年1月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

映画公開に先駆けて、『ファミリア』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『ファミリア』の作品情報


(C)2022「ファミリア」製作委員会

【日本公開】
2023年(日本映画)

【脚本】
いながききよたか

【監督】
成島出

【出演】
役所広司、吉沢亮、サガエルカス、ワケドファジレ、中原丈雄、室井滋、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、松重豊、MIYAVI、佐藤浩市

【概要】
『ファミリア』は、『八日目の蝉』(2011)『ソロモンの偽証』2部作(2015)、『いのちの停車場』(2021)『グッドバイ』(2020)など、人間ドラマの名手として知られる成島監督が手がけました。

主演は約10年ぶりに成島作品に参加した、『すばらしき世界』(2021)、『峠 最後のサムライ』(2022)の役所広司。役所の息子・学役は、『東京リベンジャーズ』(2020)や『キングダム2』(2022)の吉沢亮。役所広司と吉沢亮は初共演です。

在日ブラジル人青年・マルコスと彼の恋人・エリカには、サガエルカスとワケドファジレ。松重豊や室井滋、佐藤浩市といったベテラン勢も脇を固めます。

映画『ファミリア』のあらすじ


(C)2022「ファミリア」製作委員会

山里に一人暮らす陶器職人の神谷誠治。

妻に先立たれ仕事一筋の誠治のもとに、アルジェリアに仕事で赴任している一人息子の学が婚約者ナディアを連れて一時帰国します。

結婚を機に会社を辞め、焼き物を継ぐと宣言した学に、誠治は生活するのが大変と反対します。

一方、誠治が住む隣町の団地には、在日ブラジル人たちが大勢住んでいました。

ある日、在日ブラジル人青年のマルコスは、半グレに追われ、偶然近くにあった誠治の家へ逃げ込みました。

頑なな態度のマルコスを、誠治と帰省中の学とナディアは傷の手当をし、助けました。

マルコスは、そんな誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物の仕事に興味を持つようになります。

そんな中、アルジェリアに戻った学とナディアをある悲劇が襲いました。

映画『ファミリア』の感想と評価


(C)2022「ファミリア」製作委員会

‟家族”のあるべき姿

『ファミリア』の主人公は、山里でひっそりと暮らしている陶器職人・誠治です。

誠治は施設で育ち親の愛を知りません。若い頃は暴れ者だった誠治を救ったのは、優しい妻と‟焼き物”でした。

早くに妻を亡くした誠治ですが、一人息子の学は大学を出て就職し海外で活躍しています。そんな彼が妻として選んだのは、赴任先のアルジェリアで戦争孤児となったナディアでした。

家族との縁が薄く、国籍もまったく違う2人ですが、お互いを思いやる気持ちだけで‟家族”を作ろうとし、ほのぼのとしたその愛に感動すら覚えます。

また、血を分けた親子でも本心をなかなか言えないものですが、作中では焼き物を手伝う学にそれとなくアドバイスする誠治の姿に、父と息子ならではの愛情が現れています。

同じ血筋で一つの屋根で生活し、寝食を共にする人たちだけが‟家族”ではありません。

そのことを家族の愛を知らないで育った誠治は、痛いほどわかり、喜んで彼らを受け入れようとするのですが……。

血を分けた家族を引き裂く出来事に心を痛める誠治の葛藤。役所広司が絶大な存在感で魅せています。

本作が掲げる在日ブラジル人問題


(C)2022「ファミリア」製作委員会

愛知県淑戸市の窯棄の家に生まれた、脚本家いながききよたかのオリジナルストーリーを映画化した映画『ファミリア』。

いながききよたかは、隣の豊岡市に在日ブラジル人が多く住む保見団地があるという環境で育ち、自身にとって身近な題材や実際に起きた事件を取り入れて、本作を構想しました。

作中誠治たちが知り合う在日ブラジル人のマルコスとエリカの日本に来てからの体験が、実際に存在する在日ブラジル人の現状とも言えます。

ブラジル人たちが暮らす巨大団地のシーンは、モデルとなった豊田市の保見団地で撮影されたそうです。

そのせいか、在日ブラジル人の持つ陽気さや健気さ、そして日本人から受ける偏見の数々もにじみ出るリアリティあふれる作品となりました。

「日本人にもなれない、ブラジル人でもない」と誠治に詰め寄り、胸の内を吐露するマルコス。

辛い現実の日本での生活に苦しむ在日ブラジル人の心境を表す言葉が、胸に鋭く突き刺さります

ルーキーの俳優たちの演技は、純粋に在日という立場を表現するものであり、その素直な演技から在日ブラジル人問題の深刻さが伝わってきます。

まとめ


(C)2022「ファミリア」製作委員会

血の繋がりも異なる育った環境も気にせずに、強い絆で新しい家族を作ろうとした神谷誠治と学の親子の物語『ファミリア』は、国際色豊かなオリジナル作品。

神谷親子の家族の在り方に、誠治が知り合った在日ブラジル人たちが抱える問題も絡ませて、生き辛い社会の問題点をついています。

また、主役の誠治は陶芸家です。たびたび登場する彼の薪窯は、ニュージー ランド出身で沖縄在住の陶芸家ポール・ロリマーが本作のために造った穴窯だといいます。

陶芸ファンならずとも、この本格的な穴窯にも興味をそそられます。

映画『ファミリア』は、2023年1月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開。。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。








関連記事

連載コラム

『写真の女』あらすじ感想と評価レビュー。日本の前衛映画的な作風で描いた串田壮史監督の独自性|OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録10

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『写真の女』 2020年3月15日(日)、第15回大阪アジアン映画祭が10日間の会期を終え、閉幕しました。グランプリに輝いたタイの『ハッピー・オールド・イヤー』をはじ …

連載コラム

映画『素晴らしき、きのこの世界』感想と考察解説。自然科学ドキュメンタリーが迫るキノコワールドの神秘|だからドキュメンタリー映画は面白い62

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第62回 今回取り上げるのは、2021年9月24日(金)より、新宿シネマカリテ・ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開の『素晴らしき、きのこの …

連載コラム

Netflix映画『荒れ野』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の評価解説。ホラーのシチュエーションとしての見えない化け物との戦いを戦争ドラマとして確立させえる!| Netflix映画おすすめ82

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第82回 2022年1月6日(木)にNetflixで配信されたホラー映画『荒れ野』。 19世紀を舞台に、人里離れた土地に住む一家と彼らを襲う …

連載コラム

『密輸 1970』あらすじ感想と評価考察。実話を基にキム・ヘス演じる海女たちが敵との海中バトルを熱演|映画という星空を知るひとよ212

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第212回 『モガディシュ 脱出までの14日間』(2022)のリュ・スンワン監督が手がけた『密輸 1970』。この作品は、衝撃の実話から着想を得て作り上げた予測 …

連載コラム

韓国映画『オオカミ狩り』あらすじ感想と評価解説。キャストのソ・イングク演じる凶悪犯と謎の怪物、刑事との生死をかけた戦いを描く|映画という星空を知るひとよ143

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第143回 韓国映画としては、ポン・ジュノ監督の『グエムルー漢江の怪物ー』(2006)以来となる、第47回トロント国際映画祭ミッドナイトマッドネス部門に正式出品 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学