連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第290回
幕末の京都を舞台に、命を見つめる人間ドラマを爽快に描く医療時代劇『幕末ヒポクラテスたち』。
主人公の蘭方医・太吉はライバルである漢方医の玄斎と日々争いながらも、村人たちの病気治療に励んでいました。ある日、太吉は喧嘩で重症を負った若者の命を蘭学の手術を使って助けます。若者は医学に目覚め、蘭方医をめざすようになりました。
そして15年がたち、彼を取り巻く医者たちや人間たちの人生が、大きく動き出します。
映画『幕末ヒポクラテスたち』は、2026年5月8日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショーされます。
本作は、京都の医大生の青春群像劇『ヒポクラテスたち』(1980)の大森一樹監督が企画途中で他界し、その後その意志を継いだ緒方明監督が京都府立医科大学の協力のもと、完成させた作品です。
キャストやナレーション、スタッフ陣に、大森一樹監督ゆかりのメンバーが多数参加しているのも注目です。
映画『幕末ヒポクラテスたち』の作品情報

(C)「幕末ヒポクラテスたち」製作委員会
【日本公開】
2026年(日本映画)
【原案】
映画『ふんどし医者』
【監督】
緒方明
【脚本】
西岡琢也
【ナレーション】
室井滋
【キャスト】
佐々木蔵之介、藤原季節、藤野涼子、真木よう子 柄本明、内藤剛志、他
【作品概要】
動乱の幕末を舞台に、村医者である蘭方医・大倉太吉の奮闘を描いた時代劇。
本作は京都の医大生の青春群像劇『ヒポクラテスたち』(1980)の監督・大森一樹の最後の企画作。企画途中で他界した大森監督の意志を受け継いだ、『独立少年合唱団』(2000)『いつか読書する日』(2005)の緒方明が監督を務めました。
主役の蘭方医太吉役を佐々木蔵之介、内藤剛志が太吉のライバルである漢方医の玄斎役を務め、柄本明が謎の侍・弾蔵役で出演しています。『佐々木、イン、マイマイン』(2020)など注目作への出演が続く藤原季節や『ソロモンの偽証(前・後)』(2015)の藤野涼子も共演。
また、ナレーションを大森監督作「風の歌を聴け」で映画デビューを果たした室井滋、脚本を70年代から大森監督をよく知る西岡琢也が担当するなど、大森一樹監督ゆかりのキャスト、スタッフ陣が多数参加しています。
映画『幕末ヒポクラテスたち』のあらすじ

(C)「幕末ヒポクラテスたち」製作委員会
幕末の京都、長崎で西欧医学を学んだ蘭方医・太吉と、どんな病も“葛根湯”で治せるという信念を持つ旧来の漢方医・玄斎が同じ村にいました。
対立する2人は、異なる方法で村の人たちを診察しつつ会えばディスり合い、「また漢方医の尻ぬぐいか」「生意気抜かすな」と一触即発の様子。
そんなある日、太吉は気性の荒い青年・新左を蘭方の手術で救い、新左は医学を学びたいと太吉の元へやってきました。太吉は新左を長崎へ蘭学の修業に行かせます。
それから15年が経過。そのころ、村は腸に菌が入る流行病に襲われていました。時を同じくして、長崎で最新の西洋医学を学んできた新左こと新三郎が、太吉を訪ねて来ました。
その時、病気の子どもが太吉の元に運び込まれました。その症状を見て、新三郎は太吉に「すぐに隔離せんと」と助言。恐ろしい流行病ではと疑ったのです。
新三郎の疑った通り、それは流行病でした。次から次へと同じ症状の患者が村に出てきました。
未曾有の感染症を前に「いったいこれはどうしたことや。次から次へと命が消えていく」と戸惑いを隠せない太吉でしたが、妻フミら家族も総出で患者を看病し、必死に診察を続けます。
しかしそんな緊迫した事態をよそに、幕末の動乱の波が彼らにも迫ります……。
映画『幕末ヒポクラテスたち』の感想と評価

(C)「幕末ヒポクラテスたち」製作委員会
医師として生きる
本作の舞台は江戸時代末期の京都です。文明開化の波が訪れる明治維新を目前に、日本の医療も新時代を迎えようとしていました。
漢方を学びながらも途中から西洋の技術で医療に当たる蘭方医を目指した太吉と、「藪(ヤブ)」にもなれない「筍(タケノコ)」と称されながらも、従来からのやり方で漢方医でありつづける玄斎。
ことごとく対立する2人ですが、「病人を治したい」という思いは強く、その根底にある医師としての矜持は同じものと思われます。
2人を演じる佐々木蔵之介と内藤剛志の息のあったユーモアたっぷりの演技は見もので、そんな2人に関わる周囲の人々もまた、おおらかで優しく描かれています。
特に真木よう子演じる太吉の妻フミは、どんなときも全てお見通しといった感じで、でんと構えています。この存在感は、太吉一家の要と言っても言い過ぎではありません。
このような周囲の人々の協力もあり、明治維新の動乱の中でも、小さな村で医療に専念する医師たちは、常に怪我や病気と闘っていました。
武力でなく、医療で人命を救う……。医療にかける医師たちの熱い気持ちにあふれた作品です。

(C)「幕末ヒポクラテスたち」製作委員会
ヒポクラテスたちの願い

(C)「幕末ヒポクラテスたち」製作委員会
本作のタイトルにもなっているヒポクラテスとは、古代ギリシャ時代の医師のことです。
病気を呪術や迷信ではなく「自然現象」として捉え、科学的・観察的な医学の基礎を築いた「医学の父」として知られている人物です。
本作『幕末ヒポクラテスたち』を最初に企画していた大森一樹監督は、京都府立医大のOBで、自らの体験をもとにして、医術を身につけていく若者たちの青春群像を描いた映画『ヒポクラテスたち』を、1980年に作り上げました。
その後、大森一樹監督は本作の企画途中で他界。彼の助監督を務めていた緒方明が本作を完成させました。
大学病院での経験を通してこれからの医師を目指す若者を描いた『ヒポクラテスたち』と比べると、本作では、医師として活躍しながら、その未来に思いを馳せる老医師たちの姿が映し出されています。
幕末の医師たちが、医療の未来に何を願うのか……。映画は観客に問いかけています。
まとめ

(C)「幕末ヒポクラテスたち」製作委員会
映画『幕末ヒポクラテス』は、日本医学の夜明け前に、人々を争いではなく、医術で救おうとする医師たちの激闘を描いた作品です。
時は幕末。時代は江戸から明治へ変わろうとし、日本医学でも昔からの漢方療法に外国の医療である蘭方医が広まり、新しい時代の幕開けの時を迎えていました。
時代の流れの中、敵味方が分かれて争う場面でも、恐ろしい疫病が蔓延しても、常に怪我や病気で苦しむ人の命を救うことだけを考えて行動する医師たち。
彼らの使命を全うしようとする純粋な気持ちが、矢に射抜かれるように胸に響いてくることでしょう。
映画『幕末ヒポクラテスたち』は、2026年5月8日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショーされます。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。




































