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Entry 2020/09/01
Update

映画『嘘八百 京町ロワイヤル』ネタバレあらすじと感想考察。中井貴一×佐々木蔵之介が贈る“騙されることに安心感を覚える106分

  • Writer :
  • 北川未記

謎の美女を救うため、騙し騙される演技合戦が展開!

日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など数々の映画賞を総なめにした『百円の恋』の武正晴監督が手掛けたコメディシリーズ第2弾『嘘八百 京町ロワイヤル』。

中井貴一と佐々木蔵之介の確かな演技力に裏付けられた絶妙な掛け合いもさることながら、ヒロインを務める広末涼子はもちろん、脇を固める友近、山田裕貴、前野朋哉、木下ほうか、塚地武雅など、名バイプレイヤーたちが、まさに騙し騙されるための演技による”演技合戦”を繰り広げます。

映画『嘘八百 京町ロワイヤル』の作品情報


(C)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
武正晴

【キャスト】
中井貴一、佐々木蔵之介、広末涼子、友近、森川葵、山田裕貴、坂田利夫、前野朋哉、木下ほうか、宇野祥平、塚地武雅、桂雀々、田中孝史、貝辻信子、吹越満、坂田聡、ブレイク・クロフォード、冨手麻妙、山田雅人、浜村淳、国広富之、竜雷太、加藤雅也

【作品概要】
2018年に公開された『嘘八百』の続編として、2020年に公開された日本のコメディ作品。演出は前作に引き続き、『百円の恋』『銃2020』などの武正晴監督が務めています。

鑑定士としての深い知識と高い鑑定眼を詐欺に使う小池則夫を中井貴一が、高いスキルを贋作作りに使ってしまっていた陶芸家、野田佐輔を佐々木蔵之介が演じます。


映画『嘘八百 京町ロワイヤル』のあらすじとネタバレ


(C)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

古物商 小池則夫が営む「古美術 獺」の元に、テレビの取材が入ります。

アイドル陶芸家の陶芸王子がレポーターとなり、鑑定家である億野万蔵と、古美術店“嵐山堂”の二代目当主嵐山直矢が、お宝を鑑定して回る番組です。

小池は、お宝として陶芸家野田佐輔が作った茶碗を出しますが、鑑定結果は「5000円」。さらに、同じく野田佐輔が作った名作“緑らく名大海原”についても「樋渡開花堂が、1億で偽物をつかまされたやつですね、これも偽物でしょう」と言われてしまいました。

当の陶芸家である野田佐輔は、個展での商談の場でこのテレビを見てしまいます。商談相手は「偽物を掴まされては」と逃げてしまいました。

さらに個展のオーナーからは、テレビでケチがついたから、と個展の終了を言い渡されてしまいます。野田の妻、康子は「この人、口は立たないんですけど、腕は立つんです」とフォローするも、オーナーは去ってしまいました。

その後も、せっかくお客だと思った人からは贋作制作を依頼されてしまい、康子は追い出してしまいます。

野田は以前、その腕を買われ贋作を作っていたのですが、ある事件をきっかけにもう贋作は作らないと心に誓っていたのでした。

ある日、めっきりお客様がいなくなってしまった「古美術 獺」に、着物美人の志野がやってきます。

「母が美術商に騙されて、父の形見の茶碗が取られてしまい探しているが、名前もわからない」とのこと。差し出された写真を見て、古田織部の“はたかけ”ではないか、という小池。美人に弱い小池は、「良い方法を考えてみます」と安請け合いをしてしまいました。

野田のいきつけの居酒屋では、かつての贋作仲間がいまだ集っています。

野田に加え、警察の筆跡鑑定をもくぐり抜ける達筆のマスター、紙に詳しい表具屋のよっちゃん、どんな箱でも作ってみせる材木屋たちが、着物美人の依頼について話す小池の話に耳を寄せています。

小池は、野田に織部のはたかけの贋作を依頼しますが、やはり断られました。

しかし野田は小池のところに、ある茶碗を持ち込みます。

それは、野田が20年前、樋渡開花堂に依頼され作成した織部のはたかけの贋作の補欠だった茶碗だというのです。

ちょうどやってきた志野に、「お母様に、茶碗が戻ってきたといえるように」と贋作の茶碗を渡し、「お礼はその涙で」と恰好を付ける小池なのでした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『嘘八百 京町ロワイヤル』ネタバレ・結末の記載がございます。『嘘八百 京町ロワイヤル』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

小池の仲間、調査員ピエールは嵐山堂に本物の織部のはたかけがあることを突き止めます。

ピエールが撮影した写真を見ていると、小池の携帯に織部のはたかけがネットオークションに出品された、と通知が。これを見た野田は「この間渡した贋作だ」と言い切りました。

慌てて志野を探しに行くと、派手な格好の市野が高級クラブに入っていくのを見つけました。

店に入り、ネットオークションの件をきっかけに感じた違和感を問い詰めると、志野は態度を豹変させ、全部嘘であることを認めました。そして、話し始めました。

国立古美術修復センターは、古美術を修復して返すのは表の商売で、実は持ち込まれた本物を元に贋作を作っては本物として販売をしている。

そしてこれを動かしているのが、テレビで小池と野田をこけにした嵐山堂と鑑定家 億野だというのです。

また、嵐山堂が贋物ビジネスに手を染めるようになったのは、20年前に樋渡開花堂に作らせた織部の茶碗の贋作がうまく売れたため、つまり野田の作品の出来がよかったせいだとも言うのです。

志野は、クラブの常連である嵐山と億野に気に入られ、酒の席で情報を得ていました。「私と組めば、あいつらを引きずりおろせる」と、2人に話を持ち掛けました。

決断をしかねているうちに、野田の陶芸教室に、陶芸王子が訪ねてきました。

2人で土をこねていると、自分の手を見た王子が「もう汚れています」と悲し気につぶやきます。陶芸王子も贋作を作らされているみたいです。

ついに2人の心に火が付きます。志野と3人でどうやって奴らを引きずりおろすか相談していると、志野の息子がやってきます。

志野はシングルマザーだったのです。志野の息子にオムライスを食べさせた後に、小池が話しだした手段とは、「あいつらが見抜けないはたかけを作って鼻を明かす」というものでした。

渋る野田に、「贋作を作るんじゃない、あんたの腕が本物だって見せてやるんだ」とけしかける小池。ようやく野田は「俺の手から始まったことだ、俺の手でけりつけたる」と決意を固めました。

作戦は、こうです。マスコミ好きの嵐山堂にテレビの生放送番組の企画を持ち掛け、嵐山堂が開催する茶会で本物の織部のはたかけを披露させます。

裏で小池たちが本物と贋作をすり替え、億野に誤った鑑定をさせた上で嵐山堂が関わってきた悪事を生放送で暴露、さらに当主が恐れていた先代の怒りを匂わせて反省をさせる、というものです。

仲間たちが準備を進める中、野田は要の贋作作りに取り組みますが、思ったように進みません。

作った茶碗をつぶし、「20年前よりも歪んでしまった、根性も」と嘆く野田。それに対し小池は「今のあんたにしか出せない歪みがあるんじゃないかな」と言葉を紡ぐのでした。

ついに茶碗は出来上がり、いよいよ、織部茶会と銘打たれた茶会当日、生放送本番。

茶会の席では、鑑定士の億野、文化庁文化財部長、衆議院議員、陶芸王子などが並んでいます。志野が点てたお茶を、嵐山がふるまいます。

億野の前に、織部のはたかけに入れたお茶が置かれました。一服飲み、「古田織部の幻のはたかけではございませんか」と問いかける億野。

「先代の形見です」という嵐山。しかし、そんな彼らを後目に、次々とはたかけに点てられたお茶が運ばれてきたのです。

ざわつく茶席に、テレビはCMに入ります。そこに小池が入っていき、嵐山堂の悪事を暴露し始めました。

「堺で商いをしていた樋渡開花堂が、20年前、嵐山堂から織部の茶碗はたかけの贋作を頼まれたそうです。というのも、先代から「決して手放してはいけない」といわれた茶碗を売ってほしいというお客が現れたからです。そして、贋作の出来が良すぎて本物として通用したことに味をしめ、贋作作りに力を入れられているともっぱらの噂」

CM明け、国立古美術修復センターの紹介VTRが流されますが、VTRにも小池たちの細工がされており、贋作作りに衆議院議員や文化庁文化財部長も関連していることが暴露されました。

それでも「作り話だ」と主張する嵐山。そこで志野がついに正体を明かします。「本名は立花志野と申します。20年前、あなたたちに嵐山堂を追い出され、自殺した番頭の娘です」

最後に小池は言い放ちます。

「この世に完璧なものはありません。はたかけを、はしかけという説もあります。戦乱の世に巻き込まれた織部が弟子や次の世代にはしをかけようとした為といわれています。嵐山堂の先代党首も、歪んでいても傷がついていても、それゆえに愛おしい、そんな息子への思いを形見の茶碗に託したのではないでしょうか。あなたが手放してはいけなかったのは、そんな先代の親心だったのではないでしょうか」

放映を台無しにされたテレビクルーは大激怒。更には警察が乗り込み、嵐山を詐欺容疑で逮捕するというのです。大混乱の中で、小池たちは撤収。嵐山は警察に賄賂を渡し、こっそり逃げ出すのでした。

うまく逃げおおせた小池たちは、いつもの飲み屋で大集合。そこに、怒っていたはずのテレビクルーや、警察までもが入ってき、全てが小池の作戦の内だったことがわかりました。

茶会に本物として置いてあった“はたかけ”と嵐山堂からの賄賂を肴に、打ち上げは深夜まで続きました。

皆が酔いつぶれる深夜、こっそり出ていく人影が。そして、豪華客船に乗り込もうとする志野と息子でしたが、小池が声をかけます。

志野は「手を組まない?」と小池を誘いますが、背後にいる野田に気づき「これくらいもらったって罰はあたらないでしょう」と飲み屋から持ってきたはたかけの箱を持ち去るのでした。

しかし、これもまた贋作だったのです。そもそも茶会に本物は出していない、という小池。「どうせ歪むなら、美しく歪みたい。俺の口とあんたの手があれば、どこででもやっていけるさ」と、小池と野田は共に歩き出しました。

一方、船内で志野は贋作だと知ります。そこに息子が「ええやん、俺らかてにせもん親子やし」と話しかけます。2人とも詐欺師で疑似親子だったのです。

エンドロールでは、その後のメンバーの姿が描かれます。

個展を頑張る野田。陶芸教室で汗を流す陶芸王子。そして、本物の織部のはたかけを博物館に寄贈する嵐山。小池は贋作作りの証拠を武器に、本物のはたかけをあるべき場所に返したのです。

映画『嘘八百 京町ロワイヤル』の感想と評価

中井貴一と佐々木蔵之介の演じたキャラクター

(C)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

本作『嘘八百 京町ロワイヤル』では、大金をかけた派手で豪快な騙しあいはなく、悪い事をしている奴らを騙して反省させると、中心になるストーリーはシンプルです。

地味でつまらない話だろうかという不安に反して、登場人物1人1人が魅力にあふれていて、どんどん話を面白く変化させていきます。

中井貴一演じる小池は、すっきりさっぱりとしたかっこ良さがあります。

娘に奢ってもらうようなだらしない男なのに、知識や鑑定眼は文句なしで、いざ“騙しあい”が始まったときの自信溢れる立ち振る舞いと機転はカッコ良い。美女に弱いという設定すら、小池というキャラクターの魅力になっています。

佐々木蔵之介演じる野田は、口下手で、陶芸に真摯に向き合う姿を見せつつも、奥さんが志野に焼きもちを焼いて出ていってしまった場面で「いやや、いやや」と情けなく叫ぶ姿は、なんともいえない可愛らしさでした。

そんなチャーミングな2人の掛け合いは、方言のテンポも良く、楽しませてくれます。

共演者たちも魅力


(C)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

木下ほうかを始めとする詐欺仲間たちも、いつも集まる居酒屋ではまとまりがなさ過ぎるのに、いざ作戦を開始すると大変身。

作戦を始めた時のスペシャリスト感と作戦成功後のシーンでは、達成感に満ち溢れた顔つきになり「さすが仲間」という印象に変わってしまいます。

それぞれのキャラクターが、“演技をすること”を“演じる”ことができる、確かな演技力のある役者によって、定番ともいえるストーリーを彩り豊かにしているのです。

さらに、ストーリーの背景にあるのは、キャラクターたちが人生をかけて何を成し遂げていくのか、どうやって生きるのか、という思いと闘いです。

登場人物たちが成し遂げるもの


(C)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

小池や野田、陶芸王子たち男性陣は、自分のスキルやプライドによって葛藤を抱えています

また、野田の妻である康子や市野、小池の娘であるいまりたち女性陣は、他者との関わりの中で悩み考えている、という対比も面白いポイントです。

最後の船内でのシーンで行われる市野と市野の息子のやり取りが、何とも言えない後味を生み出しています。

それは、「偽物」でもお母さんと楽しく金儲けをしたい自分をさらけ出す息子と、息子との関わりを「本物」と演じた志野を映し出していて、男女の対比が浮き彫りになっているからと思われます。

まとめ

(C)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

『嘘八百 京町ロワイヤル』は、日本のエンターテインメント界が昔から提供してきた、愛すべき“予定調和”もまた映画の醍醐味なのかもしれない、と思わせてくれます。

もちろん、定番なように見えて、その周りにある独特のスパイスによって、最後まで目が離せない作品になっていることには変わりはありません

けれども、106分という上映時間が鑑賞にはちょうど良く、心を落ち着かせてくれます。観終わった後に、にっこりと日常に笑顔で戻っていける、そんな映画です。

シリーズ第1弾は2週間で撮影、本作の第2弾は3週間で撮影された、とのこと。非常にコスパの良い作品のため、長期シリーズも可能ではないでしょうか。

演技派俳優たちの魅力を引き出し続ける「嘘八百」が、広く長く愛されるシリーズとなってくれることを期待しています。





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