連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第82回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第82回は、『インファーナル・マシーン』(2022)のご紹介です。
『インファーナル・マシーン』は『L.A.コンフィデンシャル』(1997)のガイ・ピアース主演のスリラー。主人公の小説家が謎の人物から追い詰められていく恐怖が描かれます。
主人公のブルースは「インファーナル・マシーン」という小説をヒットさせますが、それはとある凄惨な事件と密接な関わりを持つものでした。事件から25年を経て、熱狂的ファンから数十通もの手紙が届くようになったブルースは恐怖に陥れられます。
果たして彼が知った真実とはいったい何だったのでしょうか。緻密な構成で描かれる極上スリラーの魅力をご紹介します。
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CONTENTS
映画『インファーナル・マシーン』の作品情報
【公開】
2022年(アメリカ・イギリス・ポルトガル映画)
【監督・脚本】
アンドリュー・ハント
【出演】
ガイ・ピアース、アリス・イヴ、アレックス・ペティファー、ジェレミー・デイヴィス
【作品概要】
『L.A.コンフィデンシャル』(1997)のガイ・ピアース主演のスリラー。監督・脚本をアンドリュー・ハントが務めます。
見知らぬ名の熱狂的ファンから数十通もの手紙が届くようになったことから、小説家の主人公が恐怖に追い詰められていくさまを描きます。
『メン・イン・ブラック3』(2012)のアリス・イヴが共演。
映画『インファーナル・マシーン』のあらすじとネタバレ
ノックスビルのバプテスト大学で銃乱射事件が起こり、大勢の死傷者が出ました。その後、17歳の少年の目撃情報が寄せられます。
それから25年後。小説「インファーナル・マシーン」の作者、ブルース・コグバーンのもとにウィリアム・デュケントというファンから手紙が届きます。ブルースは公衆電話からデュケントに電話をかけ、なぜ自分についていろいろ知っているのかと問いかけ、インタビューは受けないことを話します。
手紙は何通も配達され続け、ブルースはまた電話ボックスからデュケントに厳しく話します。その後、今度は小包が届くようになります。
疑心暗鬼になったブルースは番犬のサウルを飼い始めました。翌朝、サウルの吠え声に目覚めたブルースは、猟銃を手にやって来た手紙の配達員に封書をそのままドラム缶に捨てるように言います。日に日にドラム缶の封書は増え続けます。
出版社のジェリーに電話し、誰かに自分の住所を話したかを聞くブルース。彼女は約束どおり誰にも話していないと答え、特別記念版の前書きを少しだけ書いてほしいとい伝えます。
90通の手紙を見て手に取って読んだブルースは、デュケントの留守電に必死でやめてくれるように話します。その後もずっと留守電に向かってとりとめないことを話し続けました。
酔いつぶれて電話ボックスで寝てしまっていたブルースのもとに若い婦人警官が現れ、車で家まで送ってくれました。彼が誰なのか気づいた警官は、ノックスビルの事件で彼の著書「インファーナル・マシーン」を知ったことを明るく話します。
帰宅したブルースは、タイプを出してきて前書きを書き始めました。
ブルースはまた公衆電話の受話器をとり、デュケントに殺すと脅して悪かったと謝り、彼の本への推薦文を贈りました。それから、金曜の朝11時に近くのカフェで待ち合わせしようと言って切ります。
映画『インファーナル・マシーン』の感想と評価
緻密な構成に唸らされる極上スリラー
『L.A.コンフィデンシャル』(1997)や『英国王のスピーチ』(2011)など数々の名作で活躍を続けてきた名優ガイ・ピアースが主演を務めるスリラー『インファーナル・マシーン』。
仙人のようなくたびれた初老の男姿に驚かされますが、過去のシーンでは精悍で清潔感ある大学教授姿でも登場しますので、ピアースの二面性の魅力を楽しむことができる作品です。
この作品の一番の魅力は、なんといっても見えない相手を前に主人公の抱く不安、恐怖、それらを抱えているが故に続く張りつめた緊張感でしょう。
ピアースが演じるのは、小説「インファーナル・マシーン」の作者・ブルースです。隠遁生活を送っていた彼のもとに、ある時から熱狂的ファンからの手紙が何十通も届くようになり、得体の知れない恐怖に襲われるようになります。
恐怖を抱く理由は、「インファーナル・マシーン」にふたつの恐ろしい事実が絡んでいたことにありました。それらが少しずつ露わになっていき、まるでパズルのピースを埋まっていくかのように全貌が見え始めるさまは素晴らしくスリリングです。
ひとつは、25年前にこの作品に洗脳された若者がノックスビルで起こした多数の死傷者を出す銃乱射事件でした。これにより、ブルースは世間から身を隠すこととなります。
この事件に関して恨みを持つ人間の仕業ではないかと思われる中、手紙の送り主の名前ウィリアム・ディケントが、被害者の頭文字を組み合わせた架空の名前とわかりました。
ブルースと同じく、観ている私たちも、事件被害者の関係者による犯行ではないかと疑うようになりますが、事態は思いも寄らない方向へと向かい始めます。すべてはミスリードを誘う仕掛けでした。
ブルースへの恨みは、乱射事件の元凶となったことが原因ではありませんでした。彼に作品を盗まれた本当の作者イライジャが黒幕だったのです。ブルースが向き合うべき真の敵は、罪を犯した過去の自分だったことがわかります。
子ども向け番組に出てくるピタゴラ装置というものをご存知でしょうか?部屋にはそれとよく似たイライジャの作った精巧な装置が置かれていました。ひとつミスがあれば止まってしまう繊細な仕掛けとよく似た、一見遠回りのようでいて確実にブルースを仕留める仕掛けを彼は綿密に張り巡らしていたのです。
彼が抱いた怨念の深さを感じさせるとともに、敬愛する教授だったブルースへの歪んだ愛情まで映し出しているかのようです。
ブルースもまた、イライジャに大きな罪悪感を抱くと共に、その類まれな才能をこの上なく尊敬していました。二人の歪んだ愛憎が最後までもつれ合う様は圧巻です。
物語に深みを与えた「恨み」の感情
本作『インファーナル・マシーン』を深みある作品へと昇華した重要な要素は「恨み」です。恐ろしいまでに根深い恨みが幾重にも重なり合い、主人公のブルースを捕らえます。
イライジャは「いくつかの障害物を置き、ブルースの反応を待っていた」と告白しますが、彼の置いた障害物とはブルースへの恨みの数々でした。
ひとりは、ノックスビル乱射事件の犯人であるドワイトです。ドワイトが恨むべきは正しくはイライジャになるのかもしれませんが、とにかく彼が犯行を引き起こした元凶は「インファーナル・マシーン」という作品にありました。
すべての人々に報復する物語に洗脳されたドワイトは、自分を檻に閉じ込める原因となった作品と作家を恨むと共に、本に込められた本当の思いを知りたいという熱烈な願望に苦しめられます。
もうひとり、イライジャの駒となったのは美しい詐欺師の女性です。ローラという偽名でニセ警官として現れた彼女は、「運よく歴史に名を残すことになった」という理由でブルースを憎み、彼を陥れる仕事を引き受けます。有名人だからという理由で犯罪に巻き込まれることは決して少なくない現実を思い知らされる展開です。
誰よりもブルースを憎むイライジャの狙い通り、彼らふたりは絶妙な働きをしてブルースをイライジャのもとへと導きます。
小説を書いたのはイライジャでしたが、それを盗んで勝手に世に出したブルースは、あまりにも重い罰を受けることとなったのでした。
まとめ
名優ガイ・ピアースが体当たりで臨んだサスペンス・スリラー『インファーナル・マシーン』。
過去の罪によって大きすぎる代償を払うこととなる主人公・ブルースの姿が、緊迫感あふれる描写で綴られます。
張り巡らされた緻密な伏線の中、思いがけない展開に息を飲む一作です。
複雑に絡まり合ったストーリーなので、観終えた後、もう一度観返したくなるかもしれません。どうぞじっくりとご覧になってスリルあふれる本作を楽しんでください。