『プレデター ザ・プレイ』はDisney+で独占配信
アーノルド・シュワルツェネッガー主演作『プレデター』(1987)に登場して以来、人気のキャラクターに成長した誇り高き戦闘異星人、“プレデター”。
その最新作『プレデター ザ・プレイ』が配信されると、全世界で大きな反響を呼んでいます。
アメリカではHulu配信で公開された本作は、米Hulu史上最高の初回視聴数を記録する快挙(2022年8月現在)を成し遂げました。
配信公開映画として予想以上の人気を獲得した、SF・アクション映画ファン待望の人気シリーズを紹介します。
CONTENTS
映画『プレデター ザ・プレイ』の作品情報
【配信】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Prey
【監督】
ダン・トラクテンバーグ
【キャスト】
アンバー・ミッドサンダー、デイン・ディリエグロ、ダコタ・ビーバーズ、ステファニー・マティアス、ストーミー・キップ、ミシェル・スラッシュ、ジュリアン・ブラック・アンテロープ、ベネット・テイラー
【作品概要】
300年前のアメリカを舞台に、ネイティブアメリカン最強部族の女戦士と、高度な科学技術を持つ狩猟エイリアン種族の戦士”プレデター”の死闘を描くアクション映画。
監督は『10クローバーフィールド・レーン』(2016)、そしてAmazonプライムで配信されたドラマ『ザ・ボーイズ』(2019~)の第1話を演出したダン・トラクテンバーグ。
主人公のコマンチ族の女戦士を映画『アイス・ロード』(2021)、『X-MEN』シリーズのスピンオフドラマ『レギオン』(2017~)のアンバー・ミッドサンダーが演じます。
闘う相手を求め飛来した”プレデター”は、Netflix配信ドラマ『Sweet Home 俺と世界の絶望』(2020~)で”マッスルモンスター”、Disney+配信ドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリーズ』(2021~)で”悪魔バエル”に扮したデイン・ディリエグロが演じました。
映画『プレデター ザ・プレイ』のあらすじとネタバレ
ネイティブアメリカンの女性が語ります。「はるか昔、この地に怪物がやって来た…」
1719年9月、コマンチ族は北米の大自然の中で平和に暮らしていました。一人前の戦士を目指す若い女・ナル(アンバー・ミッドサンダー)は、愛犬のサリイと共に鹿を仕留めようとしますが、突然の音に鹿は逃げ出します。
獲物を見失い、白人入植者が仕掛けた罠にかかったサリイを助け出したナルが轟音が響く空を見上げると、奇妙な物体が雲の中から姿を現しました…。
優れた戦士の兄・タアベ(ダコタ・ビーバーズ)にサンダーバード(雷神鳥)を見たと告げるナル。彼女は一人前の戦士と認められる”試練の狩り”に挑みたいと話します。”試練の狩り”で狙う獲物(Prey)は猛獣で、”試練の狩り”に挑む者を獲物と認め襲う危険な挑戦です。
ナルとタアベの母、アルカ(ミシェル・スラッシュ)は戦士を目指す娘を心配していました。それでも皆に認められたいのだ、と決意を母に語るナル。
同じ頃、この平和な大地に宇宙船から”プレデター”(デイン・ディリエグロ)が降り立ちます。
ナルが薬草となる花を摘み集落に戻ると、仲間のプヒがライオン(ピューマ)に襲われたと聞かされます。彼女はライオンを狩りに向かった戦士の後を追いますが、男の戦士たちはナルを足手まといだと見下していました。
妹が持つ獲物を追う技術と、ヒーラー(治療者)としての知識は役に立つと、仲間にとりなしたタアベはナルを狩りに同行させます。。
コマンチ族がライオンを追う森には何かがいました。戦士たちを先導するナルは、傷つけられ倒れたプヒを発見します。ナルが傷を手当している間に木を切り担架を組み立てる戦士たち。
夜になるとタアベは妹に帰れと言いました。プヒが生きていたのは彼を襲ったライオンを追い払った、何かが近くにいるからだ、と兄に危険を訴えるナル。
戦士たちは闇の中をプヒを運び集落に引き返し、タアベは狩りを続けます。ナルは不安を感じつつ兄と別れます。
愛犬のサリイと共に何者かの痕跡を発見するナル。戦士たちはかなり大きな熊だと判断しますが、ナルは兄に警告しに戻ることにしました。
兄と合流したナルは、近くに巨大な何かが潜んでいると告げます。熊は怖くないと話す兄に、あの足跡は熊のものでは無いと訴えるナル。しかしライオンを狩るのが先だと決断したタアベ。
タアベはライオンの潜む場所に近づくと、ナルを獲物を仕留める役に命じます。これがお前の”試練の狩り”だ、とタアベは妹に告げました。
兄が囮を用意している間に、木に登ってライオンを持ち構えるナル。しかし彼女の目の前で仲間の戦士が襲われます。ナルは1人木の上でライオンと向き合います。
その時何かの音が響き渡りました。驚いたナルにライオンが飛び掛かり、木から落ち頭を打って気絶するナル。
目覚めた彼女は母の前にいました。タアベがお前を運び、今もライオンを狩っていると告げるアルカ。ナルは兄を追わねばと訴えますが、焦る娘に”試練の狩り”は腕前を示すものではない、生き残る術だと諭す母。
タアベはライオンを仕留め集落に帰って来ました。タアベは部族長のケヘツ(ジュリアン・ブラック・アンテロープ)に称えられ、戦士長に任じられます。
獲物を倒したと告げる兄に、もっと大きく危険な何かがいると訴えるナル。彼女は兄の反対を押し切っても、それを倒す意思を固めていました。その妹にお前はライオンを狩れなかったではないか、指摘するタアベ。
次の日の朝、あの巨大な獲物を1人で倒そうと決めたナルは、愛犬のサリイと共に集落を後にします。
ナルは緑色に光る血痕と巨大な足跡を見つけます。その頃、彼女が追う”プレデター”は狼を仕留めていました。
ウサギを狩れずにいたナルは、手斧に縄を結ぶ工夫をして多くの獲物を仕留めました。野営を終えたナルは獲物を求めて狩りを続けます。
何者の仕業でしょうか、彼女は無数の皮を剥がれたバッファローの遺骸を見つけます。そこには煙草らしきものが落ちていました。殺されたバッファローの魂のために祈るナル。
湿地に沈みながらも。何とか脱出できたナルは河原で巨大な熊を見つけます。熊に矢を放とうとしますが弓の弦が切れ、気づいた熊は襲い掛かってきました。
弓を直したナルは矢を放ちますが、怒り狂った熊に追い詰められます。しかし熊は突如彼女から離れ、姿が見えぬ何者かと格闘を始めます。
苦戦しながらも最後は熊を倒し、その巨体を持ち上げる姿の見えぬ何か。驚いたナルは川に入り流されながら逃れました。
流れ着いた彼女が岸に上がると、コマンチ族の戦士たちが現れます。彼らはタアベの指示でナルを探しに来たのです。迎えを拒み怪物を見たと訴えるナルを、無理やり連れ帰ろうとする戦士のワサベ(ストーミー・キップ)。
ナルは抵抗しワサベと格闘になります。負かされ手を縛られ連れられたナルは、近くにいる何者かの気配を感じます。
ワサベたちもそれを察し弓矢を向けました。しかし現れたのは小動物。ワサベはナルが怯えているのだと笑いました。
そのワサベの体に紅い、3つの光点が照射されます。そして放たれた金属製の矢が、彼の体を貫きました…。
映画『プレデター ザ・プレイ』の感想と評価
大自然の中での”プレデター”VS人間の死力を尽くして闘う、第1作に原点回帰し世界のファンを満足させた本作は、いかがだったでしょうか?
当初本作製作発表時、ネイティブアメリカンと”プレデター”が闘う設定だと知らされた時には、「シリーズ迷走の果てに、何やら意識の高い物語になったの?」と想像をしたものです。
そして2022年夏の公開が決まった本作は、『トップガン マーヴェリック』(2022)や『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』(2022)といった作品との競合を避け、配信公開となったと聞いて、「その程度の作品か…」と不安を感じました。
しかし配信直前の2022年7月、マニアを対象にしたサンディエゴ・コミコンでの先行上映でファンから絶賛を得た、とのニュースが入り印象を改めます。
そして配信後に人気は沸騰、今や米業界関係者は「本作の配信公開は、製作した20世紀スタジオ(旧・20世紀フォックス)を買収した、ディズニーの誤った判断だった」と評する事態になっています。
人気シリーズとはいえ、直前まで製作陣が成功を予想できなかった『プレデター ザ・プレイ』。では何がファンを狂喜させたのか紹介しましょう。
“プレデター”はこうして人気のキャラに成長した
第1作『プレデター』でシュワルツェネッガーと死闘を繰り広げた”プレデター”。密林で特殊部隊が謎の最凶異星人と闘う、馬鹿馬鹿しくも単純明快なストーリーが、アクション映画ファンを狂喜させました。
今や誇り高き戦士とされる”プレデター”ですが、未知の科学技術を駆使した装備で優位な攻撃を仕掛ける姿は…「単なる卑怯者では?」といった疑問が浮かんできます。
しかし『プレデター』でシュワルツェネッガーが率いる特殊部隊は、携帯型ミニガン(バルカン砲)…現実には1人で持って撃つのは不可能…まで使用する重装部隊、”プレデター”側にもそれなりの装備が必要とされた結果でしょう。
ともかく『プレデター』に登場したエイリアンには誇り高い描写などなく、「悪趣味で卑怯な、おまけに往生際が悪い狩猟マニアの異星人」に見えなくもありません。
第1作の大ヒットをうけ第2作『プレデター2』(1990)が製作されます。舞台はジャングルから製作当時よりも麻薬戦争が激化した、もはや戦場と化した近未来(1997年)のロサンゼルスに変わりました。
主役もシュワルツェネッガーからダニー・グローヴァーに変更、何だかB級映画感が増した印象を与えます(実際は製作費は前作から倍以上に増えました)。その結果か現在シリーズ最低の興行成績を記録中です。
残念な作品のイメージがある『プレデター2』ですが、後から振り返るとこの作品こそ、シリーズの人気と発展を決定した映画になったのです。
この作品の劇中でシュワルツェネッガーと死闘を繰り広げた地だけでなく、第2次大戦下の硫黄島、ベトナム戦争時のカンボジア、そして紛争の絶えぬベイルートにも出現したと紹介される”プレデター”。
戦いの存在する場所なら時を越え出現する、戦闘狂の性格が”プレデター”に与えられました。日本人としては硫黄島の戦場に出現する”プレデター”は、見たいような見たくないような気分になるでしょう。
そして”プレデター”の宇宙船内には、狩りの獲物の頭蓋骨が飾られていました。その中には『エイリアン』(1979)に登場する、”エイリアン”の頭蓋骨があったのです。
このSF映画ファンを喜ばせたシーンが、後の『エイリアンVSプレデター』(2004)シリーズを生むきっかけとなりました。
そしてラストで”プレデター”を倒したダニー・グローヴァーの前に、新たな”プレデター”たちが現れます。そしてグローヴァーに、見事に勝利したと称える態度で“ラファエル・アドリーニ 1715年”と刻まれた、旧式のフリントロック式の短銃を渡す”プレデター”。
公開時には「何ですか、このスポーツマンシップは?」と観客を唖然とさせたシーンでした。しかし彼らは好敵手を称える誇り高き種族だと明確にされ、この性格付けが”プレデター”というキャラクターを発展させていくのです。
他にも子供や妊婦は襲わないなど、戦う相手の選択に独自のルールを持つなど、戦闘種族の性格が明確にされた”プレデター”。B級映画感の強かった『プレデター2』こそ、シリーズ中の最重要作品かもしれません。
映画とコミックが相互に影響し人気シリーズに成長
『プレデター2』の興行的失敗から、映画はスピンオフ作品の『エイリアンVSプレデター』の製作は2004年、そして正統な続編『プレデターズ』(2010)の誕生までブランクが生じます。
しかし『プレデター2』公開以前から、第1作『プレデター』の続編となるストーリーを持つ、アメリカン・コミックと小説が出版されていました。
“プレデター”が現代の麻薬戦争下のアメリカの都市に現れる「プレデター: コンクリート・ジャングル」シリーズ(1989~1990)は『プレデター2』の下敷きになりました。
コミック版「エイリアンVSプレデター」(1989~)は『プレデター2』の頭蓋骨登場、そして無論映画『エイリアンVSプレデター』に影響を与えています。
映画はコミックを参考したオルジナルストーリーで製作され、コミックや小説は完全な原作ではありません。しかしこれらのコミック・小説が、間違いなく映画シリーズの”プレデター”のキャラクターに大きな影響を与えました。
『プレデター ザ・プレイ』の舞台は1719年ですが、これにも理由があります。”プレデター”のコミックシリーズには、「プレデター: 1718」(1996~)という作品があります。
これは1718年を舞台にした、ラファエル・アドリーニという海賊と”プレデター”の物語です。”プレデター”と共闘する事になったこの海賊が持っていたのが、”ラファエル・アドリーニ 1715年”と刻まれた短銃でした。
そう、この銃は映画『プレデター2』のラストに登場した銃です。こちらは映画に登場したアイテムが発展した結果、新たなコミックを誕生させたのです。
そして今回はコミックの「プレデター: 1718」が、紹介した映画『プレデター ザ・プレイ』のストーリーに影響を与えました。
もっとも今回の映画に登場した通訳・ラファエルと、コミックの海賊・ラファエルは異なる設定の人物です。コミックは映画の原作ではなく、あくまで参考・引用した上でオリジナルストーリーを創造したのです。
このように過去の映画やコミックシリーズを、設定に巧みに取り入れた『プレデター ザ・プレイ』の物語が、熱心な”プレデター”ファンを熱狂させました。
ちなみにダニー・グローヴァーは1997年に”プレデター”からこの短銃を受け取りますが、本作のラストでこの銃はコマンチ族の手にあります。
この後短銃が”プレデター”の手に渡る、何かが起こるはずです。映画のエンドロールには、それを予告するものが登場します。
『プレデター ザ・プレイ』の後に起こる物語は、果たして映画化されるのでしょうか…。
まとめ
『プレデター ザ・プレイ』が”プレデター”ファンを狂喜させた理由を紹介してきました。過去の映画やコミックなどの作品の歴史を踏まえ、続編を待望させる世界を構築したのです。
しかしマニアを満足させただけでは、予想を越えたヒットは生み出せません。その理由は誇り高き戦闘種族”プレデター”の対戦相手に、誇り高きネイティブアメリカン・コマンチ族を選んだことでした。
そして主人公には女戦士・ナルが選ばれます。女戦士といっても、セクシーな要素を強調した日本のアニメやマンガに登場するキャラクターではありません。
ナルは強い意志を持つ1人の戦士として描かれます。お色気要素が無いと聞き残念に思う方もいるかもしれません。しかし彼女は第1作のシュワルツェネッガーのように、“プレデター”に対し「狩る者vs狩る者」の駆け引きを駆使した闘いを展開します。
この見応えある攻防がアクション映画ファンを満足させます。そして主人公が持つマイノリティ要素も、物語の必然の要素として観客たちに自然に、共感を持って受け入れました。
マイノリティに配慮した映画と聞くと、硬いイメージを抱く人も多いでしょう。しかし本作はエンターテイメントの枠の中で宿敵に挑む、”プレデター”シリーズの主人公に相応しい姿のナルで登場し、彼女の活躍は理屈を越え観客たちを納得させます。
また本作は第1作のような特殊メイク系の、生々しいグロ描写こそ控え目ですが(皆無ではありません!)、CGを駆使した人体破壊シーンが続々と登場します。このサービス精神もアクション・ホラー映画ファンは満足させました。
「LGBTQIA+コミュニティへの理解と支援」に努める、との方針を掲げるディズニー。一方で「LGBTQIA+問題すら、商業利用しているだけでは」とも批判されています。
どうやらディズニーは映画の公開方法も、製作する映画の内容も『プレデター ザ・プレイ』の予想外の成功から、大いに学ぶ必要があるのかもしれません。
【連載コラム】『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』記事一覧はこちら
増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)