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映画『夜明けまでバス停で』あらすじ感想と解説評価。高橋伴明監督が怒りを原動力に創作の原点回帰

  • Writer :
  • からさわゆみこ

映画『夜明けまでバス停で』2022年10月8日(土)より、順次劇場公開

映画『夜明けまでバス停で』は実際の事件を基に、『WALKING MAN』(2018)の梶原阿貴が脚本を手掛け、『痛くない死に方』(2021)、『禅 ZEN』(2008)の高橋伴明監督が手がけました。

2020年「同一労働同一賃金ガイドライン」が制定され、非正規雇用つまりパートタイマーやアルバイトにも、均等、均衡待遇が約束される制度ができました。

そのタイミングでの新型コロナウイルスの感染拡大は、非正規雇用者の働き場を奪う皮肉な現状を生むことになります。

そんな最中、2020年11月に渋谷区のバス停で、ホームレス女性が襲撃され死亡した事件が発生。

キャリーバッグに手提げのバックを枕にバス停の椅子で、仮眠をしている女性を物陰から、見ている男性がいました。

苦々しい表情をした男性は、そばに落ちていたレンガ石をコンビニの袋に入れ、女性に近づき、その袋を頭の上に振り上げると……!

コロナ禍で浮き彫りとなった“社会的孤立”と心の闇を描いた作品、『夜明けまでバス停で』をご紹介します。

映画『夜明けまでバス停で』の作品情報

(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
高橋伴明

【脚本】
梶原阿貴

【キャスト】
板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、ルビー・モレノ、片岡礼子、土居志央梨、あめくみちこ、幕雄仁、鈴木秀人、長尾和宏、福地展成、小倉早貴、柄本佑、下元史朗、筒井真理子、根岸季衣、柄本明

【作品概要】
主人公のホームレス、北林三知子役を映画『欲望』(2005)で主演を務め、本作が17年ぶりの主演作となる板谷由夏が演じます。

三知子のアルバイト先の店長、寺島役を『嵐電』(2019)の大西礼芳が演じ、寺島をパワハラ、セクハラで悩ませる上司役は三浦貴大が演じます。

また、根岸季衣と柄本明の名優が、古株のホームレス役を演じ作品の脇を固め、ルビー・モレノ、柄本佑などが共演します。

映画『夜明けまでバス停で』のあらすじ

(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

北林三知子はプロのアクセサリー作家として、昼間はアトリエで製作販売をしながら、夜は居酒屋チェーン店でアルバイトとして長く働いています。

しかし、突然世界中をパンデミックに陥れた、新型コロナウイルスの影響で、売上が激減した居酒屋から、一方的に解雇され寮からも退去させられます。

新しい仕事はみつからず、ファミリーレストランやインターネットカフェは営業を中止され、彼女は寝食する場所すら奪われました。

行き場のない彼女は最終バスの去った、停留所のベンチで夜明けまですごす日々となります。

三知子にはアクセサリー作家として、個展を開く夢を目指す意志がありました。責任感、正義感が強い彼女は、職場の同僚にも慕われ、若い女性店長からも信頼がありました。

しかし、それゆえに誰にも弱みを見せられない……。そんな、弱点もありました。途方に暮れた三知子は、誰にも相談したり頼れず、ホームレスへと身を落としていきます。

ホームレスとなった彼女は行くあてもなく、ホームレスたちが集まる公園にさまよい着き、古株のホームレス、派手婆とバクダンと出会いました。

一方、居酒屋の店長寺島はコロナ禍に翻弄され、店の経営や従業員への対応、上司である店のマネージャー大河原のパワハラに悩まされていました。

映画『夜明けまでバス停で』の感想と評価

(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

映画『夜明けまでバス停で』は、ホームレスにならざるを得なかった女性が、行くあてもなくバス停で寝泊まりしなければならなくなった、“社会的孤立”した姿を描いたドラマです。

2019年12月、中国の武漢で新型コロナ感染症の最初の患者が確認され、年が明けた2月にはダイヤモンドプリンセス号にてクラスターが発生し、横浜港に停泊する事態になりました。

こうして徐々にコロナ禍の暗雲が広がる中、情報や噂が錯綜し混乱の渦に巻き込まれた世界の人々の中に、社会から孤立していく状況が増大します。

それが真面目で平凡に暮らす人達だったこと、多くが非正規雇用者などの弱者であることが大きな問題でした。

そんな2020年11月に渋谷区幡ヶ谷のバス停で、1人の女性ホームレスが就寝中に襲撃される事件がありました。

本作はその事件を基に事件につながったであろう、“孤立”や“孤独”と社会の在り方、人生の在り方を問い、「避けられた事件」というテーマを投げかけています

創作の原動力が「怒り」、高橋伴明監督の原点回帰

(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

高橋伴明監督はコメントで「子供の頃からずっと何かに対して怒りがあり、映画界に入ってもその“怒り”を原動力に作品を作ってきた」と語ります。

ところが監督は映画『光の雨』(2001)を最後に、以降は「怒りを封印する」と決めた映画作りにシフトします。

それから20年、監督は世の中から怒りが減るどころか、“醜い怒りの種”が増殖していると感じ、映画『夜明けまでバス停で』では再び原点回帰します。

半世紀前の日本では国家権力や政治に、“怒り”を起こす大きな革命運動がありました。その革命運動の後に豊かになったはずの“現代日本”に、誰も予想しえなかったパンデミックが襲いました。

誰も経験したことのない未知の事態、国民が抱く先の見えぬ不安は至らぬ政府への対応に、誰もが静かな怒りを持ちました。それでも庶民はまるで忍辱行(にんにくぎょう)のような生活をしていました。

監督は怒りを封印していた期間を“忍辱行”と例えていました。そして、この映画は「怒り」を吐露した作品だと話します。

国民が忍辱行に入ったならば、自らは“修羅”になろうと考えたのでしょうか?高橋監督の作品にはバイオレンスな作風が多く、本作はそんなイメージなのかと想像させました。

ところがその「怒り」には“悟り”があったと感じさせます。忍辱の意味に「自分自身の出来ない部分、見たくない部分も認める」とありました。

“自尊心”という“我”が、強ければ強い人ほど、現状に耐え忍ぶ力があり、それが尽きた時に人は孤立していくのだと感じたからです。

誰にでも起こりうる「社会的孤立」の危うい現状

何に対しても「怒り」があった・・・監督だけではなく、時代がそうだったとも言えます。それを封印したのは、人々が社会に対し怒りを持たなくなったと、感じたからなのではないでしょうか。

2001年に政権が変わって以降、国内では闘争する要素が無くなり、“怒り”は静かに“個”の中に転じていったからでは?と考えると、つじつまがあっていきます。

それはテクノロジー開発の発展と共に、人と人との繋がりが細く浅くなり、親しさが深まれば深まるほど遠ざかっていく、不思議な傾向に世の中が変わったからです。

新型コロナウイルスのパンデミックは、人間関係のみならず人の心や精神状態をも分断したといえるでしょう。

家に籠りパソコンやスマホから、さまざまな情報は入るけれども、そのどれも確証のない情報で、人を翻弄させ考え方自体を分散させました。

本来であれば一致団結し、一丸となって立ち向かうべき事態を政府が、まとめられなかった責任といえばそうですが、それだけが要因ではありません。

ここ20年間で広がった、“我”を通そうとする“個人主義”が助長したともいえるからです。

また、親しければ親しい人ほど、恥ずかしい部分を見せられない、過去に我を通した人には、弱みを見せられない・・・そんな、個人的な“自尊心”や“正義感”もあります。

そして、パンデミック以前から波及している、SNSで構築された細く浅い人間関係の影響もあるでしょう。

顔も見えない相手、匿名で心をえぐる言葉で傷ついた人達、雄弁に「排除の理論」を語る配信者・・・など、SNSで友達が何100人いても実際は“孤独”です。

新型コロナウイルスが浮き彫りにした、見えなかった“社会的孤立”と、IT時代の流れの中で生まれた、“孤独”はこのコロナ禍でさらに闇を深くさせたでしょう。

まとめ

(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

映画『夜明けまでバス停で』は、2020年11月の女性ホームレス襲撃事件が基になっていますが、実話ではありません。

被害女性がなぜホームレスになってしまったのか、その経緯など詳しいことはわかっていないからです。彼女は本当の意味で「孤立」していました。

本作はコロナ禍によって社会が生んだ孤立した人々と、嘘や噂などの情報過多によって分断された世の中、ネット社会が生んだ心の闇に迫り、それらをに盛り込んでいました。

そして「社会が招いた!」と怒るだけではなく、個人にも目を向けてどうするべきだったのか?行動や思考の転換点で、どのくらい勇気ある結論を出せるか?それを問われる作品です。

三知子は自分がなぜ、ホームレスにならなければならなかったのか? わけもわからぬうちに、社会に置いてけぼりにされた女性です。そんな忍辱行の果てで彼女を待ち受けていたのが……!

映画『夜明けまでバス停で』の劇場公開は、2022年10月8日(土)より【東京】K`s cinema、池袋シネマロサ、イオンシネマ多摩センター、MOVIX昭島をはじめ、全国順次公開です。



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