映画『わたし達はおとな』は2022年6月10日(金)より新宿武蔵館ほか全国公開
『菊とギロチン』(2018)、『鈴木家の嘘』(2018)の木竜麻生と、『his』(2020)、『佐々木、イン、マイマイン』(2020)の藤原季節が初共演した恋愛ドラマ『わたし達はおとな』が2022年6月10日より新宿武蔵館ほか全国公開されます。
テレビドラマ『俺のスカート、どこ行った?』(2019)の脚本や、自身が主宰する「劇団た組」で注目を集める演出家・劇作家の加藤拓也がオリジナル脚本による映画監督デビューを果たしました。
20代の若者たちの等身大の恋愛の危うさと歯がゆさをリアルに描きます。
主人公の女子大生の優実が、妊娠を通して少女から女性になる過程や現状を受け入れるまで葛藤する思いが映し出される激しい恋愛ドラマです。
映画『わたし達はおとな』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本】
加藤拓也
【編集】
田巻源太
【出演】
木竜麻生、藤原季節、菅野莉央、清水くるみ、森田想、桜田通、山崎紘菜、片岡礼子、石田ひかり、佐戸井けん太
【作品概要】
脆く崩れやすい日常、“少女”から“女性”になる過程、恋のほろ苦さや歯がゆさ、自分の中に押し込めるしかない葛藤を描いく等身大の恋愛映画。
監督は、『平成物語』(2018)でドラマの脚本を初めて手掛け、その後ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』(2019)、『死にたい夜にかぎって』(2020)、『きれいのくに』(2021)など話題のテレビドラマの脚本を担当した加藤拓也。今作が初の長編映画となります。
制作は、『寝ても覚めても』(2018)、『愛がなんだ』(2019)などを手掛けてきたメ〜テレと、制作会社ダブ。新進女優と次世代監督がタッグを組み、「不器用に、でも一生懸命“今”を生きるヒロインたち」をそれぞれの視点で映画化するプロジェクト、“(NOT) HEROINE MOVIES”=ノット・ヒロイン・ムービーズの第1弾公開作品として制作されました。
主演は、『菊とギロチン』(2018)で映画初主演を果たし、同年の『鈴木家の嘘』(2018)でもヒロインに抜擢され、第40回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞や第92回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など数々の映画賞を受賞した木竜麻生。
映画『his』(2020)や『佐々木、イン、マイマイン』(2020)、『くれなずめ』(2021)などに出演し、圧倒的存在感と技力を持つ藤原季節が恋人役を演じます。
菅野莉央、清水くるみ、山崎紘菜、石田ひかりらが共演。
映画『わたし達はおとな』のあらすじ
大学でデザインを学ぶ優実は、演劇サークルのチラシを作ったことをきっかけにつき合い始めた直哉と暮らしています。
体調の悪い優実を直哉は心配しますが、自分は食べないけどと言いながら、優実は彼のために料理を始めます。
その後、大学に登校した優実でしたが、ずっと心ここにあらずでした。彼女は妊娠キットを持ってトイレへ向かいます。
友だちの臼井からも心配され、朝から吐いたことを話します。
帰宅後、優実は直哉に「怒らないで聞いてほしいんだけど」と言って陽性の妊娠キットを見せました。
驚きながらも、直哉は言います。「もちろん怒らないよ。そうなんだ。」
「でね。その……」笑いながらいいよどむ優実。
実は直哉と別れていた間に関係した別の相手との子どもかもしれないことを正直に話します。
女友だちと4人で旅行して恋やエッチの話題で盛り上がったり、元カレからずっとモーションをかけられたり、楽しい大学生活を送ってきた優実。
チラシ作りを通して初めて直哉と出会った頃。一緒に芝居を観に行った後、飲みながら盛り上がったふたり。自身の劇団を立ち上げるのが夢だと話していた直哉。
そんなごく普通の女子大生だった優実は、ひとりで産科を訪れ、医師に心当たりのある相手がふたりいることを話します。
優実は直哉と話をしようしますが、直哉は考える時間が少しほしいと答えます。もうひとりの男に会えるのかと聞かれ、無理かもと答える優実。
そんな中、母親が急逝したことから優実は実家に帰ります。互いの体を思い合う父と娘。優実は父に彼氏はいないと話します。
父のために料理を作り置きしているところに直哉から電話が入りました。何も事情を知らない彼から話し合おうと言われた優実は、「時間がほしいと言ったのはそっちでしょう」と思わず言ってしまいます。
父を放っておけず残ろうとする優実でしたが、父は娘を大学に帰します。
帰宅後、夜に掃除機をかける彼女に、やんわり嫌みを言う直哉。彼は後輩の書いた脚本を一緒に読んでほしいと言いながら、話を始めます。
「あのさあ。産むか」「なんで?」「俺の子かもしんないし。」「違うかもしんないじゃん」
「でも。俺の子かもしんないし。可能性高いっしょ。俺も職探して、だから、どうかな」
俺は気持ちの準備ができた、という直哉に、優実も「うん。私も。」と答えます。
脚本をひとりで読んでいた優実でしたが、直哉が少し席を外した途端に涙があふれだします。
そこに戻った直哉は、「泣くの早くない?」とからかってから、親にあいさつに行かなくちゃと言いました。
眠りから目覚めて「どっか連れてって」と言った優実に、直哉が言います。
「あいさつに行く前にDNAの検査を聞こう」
優実はそれを拒みます。
映画『わたし達はおとな』の感想と評価
グリーンピースに象徴されるものとは
演出家・劇作家の加藤拓也がオリジナル脚本で挑んだ映画監督デビュー作『わたし達はおとな』。
出演した藤原季節がこれまで参加してきた加藤作品と比にならないほどボロボロになったとコメントしていますが、そう言わずにいられなかったことがよくわかるハードな恋愛ドラマです。
優実と直哉が出会った頃。恋の経験を重ねてはいても、優実はまだあどけなさを残す女子大生でした。
グリーンピースが食べられないという直哉は、別れたはずの元カノといまだ一緒に暮らしていました。
そんなだらしない彼でも好きだった優実は、元カノの家から直哉の荷物を自分の家に運び込むのを手伝います。
これはまるで結婚だと言って笑い合うふたり。彼らはあまりにも幼いままでした。
しかし、優実の妊娠がわかり、しかも相手が直哉かどうかもわからないと知ったことで、全てはがらりと一変します。
互いの言葉から真意を読み取ろうと疑心暗鬼になり、相手を思えば思うほどにふたりの心はすれ違っていきました。
グリーンピースが食べられない彼のために、色々な調理法で食べさせようとする優実。食べさせてあげることを愛情だと思う女と、無理に食べさせようとせず好きにさせてくれるのが愛情だと思う男。
試しに食べてみようともしない男を不実だと言って、優実は責めます。直哉は、食べられないと言っているのになぜ食べさせるのかと言って反発。
たいしたことではないはずなのに、延々と終わらない不毛で悲しい諍い。ここでの「グリーンピース」は、ふたりの関係の全てを象徴するものとなっています。
「DNA鑑定をしなくていい」ともしも直哉が言えていれば、優実は彼が自分をまるごと受け入れてくれると信じられたかもしれません。
そしてもし、優実が手をかけて工夫して調理したグリーンピースをひと口でも直哉が食べていたなら。
それすらできなかった直哉がすべてを受け入れてくれるはずがないことを、本当は初めから優実にはわかっていたのでしょう。
そんな彼だからこそ彼女は愛さずにいられなかったというパラドックスも含めて、恋の残酷さが浮き彫りとなります。
現状を全て受け入れて、本物の母の顔となった優実。ラストシーンに映し出される彼女の表情は圧巻です。
まとめ
身ごもった女と男の激しいセリフ劇『わたし達はおとな』。主人公・優実を演じる木竜麻生と、彼氏の直哉役の藤原季節の長尺の諍いシーンは鳥肌が立つほど素晴らしく、その緊張感に圧倒されます。
恋が人を愚かにするのか、それとも愚かだから恋をするのか。本作に出てくる若い男女は、危ない橋を渡るかのような恋愛の真っ最中にあります。その一人である優実は、その危険な橋からまっさかさまに落ちてしまいました。
精神的に成熟していなかった甘さが招いた結果とはいえ、彼女が負ったのはあまりにも酷い運命でした。望まぬ妊娠で女性が引き受けねばならない責の重さを思うと胸がきしむように痛みます。
しかし、やはり母は強し。苦しみの中にいたはずの優実は、子を守る本能から一気に少女から女性へと鮮やかに脱皮します。
おとなへと駆け上がる女性と、夢追う子どものままでいたい男。その対比が見事な一作です。
映画『わたし達はおとな』は2022年6月10日(金)より新宿武蔵館ほか全国公開予定です。