連載コラム「インディーズ映画発見伝」第30回
インディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」第30回。
本コラムでは、中村祐太郎監督の映画『若さと馬鹿さ』をご紹介いたします。
『全員死刑』や『岬の兄弟』で俳優としても活躍する中村祐太郎監督が過去にタッグを組んだ木村暉を脚本にむかえ、どうしようもない恋人たちの日常を映し出します。
映画『若さと馬鹿さ』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督・撮影】
中村祐太郎
【脚本】
木村暉
【キャスト】
柴田貴哉、松竹史桜、工藤奈々子、久田紫萌子、平野鈴、西洋亮、アベラヒデノブ
【作品概要】
中村祐太郎監督と脚本を務めた木村暉は多摩美術大学在学中に『ぽんぽん』(2013)、『雲の屑』(2015)を製作し、それぞれ東京学生映画祭でグランプリに輝きました。
中村祐太郎監督は 『女流闘牌伝 aki -アキ-』(2017)で商業監督デビューするほか、俳優として『全員死刑』(2017)や『岬の兄弟』(2019)にも出演しています。監督最新作は『新しい風』(2021)。
木村暉は『純平、考え直せ』(2018)、『渋谷シャドウ』(2020)などの脚本も務めています。
キャストは『ボディ・リメンバー』(2021)、『きみの鳥はうたえる』(2018)の柴田貴哉、『アボカドの固さ』(2020)の松竹史桜、『親密さ』(2013)の平野鈴など。
映画『若さと馬鹿さ』のあらすじ
付き合って5年になる貴哉と桜のふたりは、家賃を折半しながら同棲しています。
最近隣に引っ越してきた住人は貴哉と桜が性行為をしていると必ず壁を叩いてきます。
こんな狭い部屋、早く引っ越したいが、貴哉はバイトに精を出せず、自分が稼がなければと思う桜。
しかし、貴哉は堕落しバイトをサボったり、別れた彼女や風俗嬢を呼んで女遊びをする日々。
ある日、とあることがきっかけで貴哉の女遊びが桜にバレてしまい……
映画『若さと馬鹿さ』の感想と評価
20代後半のダラダラした男女関係を描いた映画『若さと馬鹿さ』。
除毛の場面から始まるというインパクトのある本作。
貴哉はご飯を食べて寝て、誰かと体を重ねてはまたご飯を食べ……生々しく描かれる性描写はあまりにも日常的で虚無に包まれています。
何事にもやる気を出せず堕落した日々。
特に20大後半は社会人としてももう新人ではなく上の立場になり始める時期であったり、結婚したりと将来を見据えて安定したがる人が増えてくる時期なのではないでしょうか。
その流れの中で不安定なまま、無気力なまま止まっている貴哉。
一方で桜は引っ越しをしたいと考え、貴哉にもっと仕事を頑張ってほしいと思っており、次に進もうとしているかのような印象を受けます。
友人のレイに愚痴りつつも気付けば貴哉の話ばかりしてしまう桜はダメなところはあるけれど貴哉を愛しています。
ダラダラした男女関係が浮気の発覚で一変してしまった2人。そこで桜は初めて5年間付き合っていたのに貴哉のことを何も知らなかったことに気づきます。
不安定でだらしない日々を送る桜と貴哉にいつかの若かった自分を重ねる人もいるかもしれません。
若者のリアルさを描きながら観客を惹きつける演出が随所に散りばめられ、心を鷲掴みにしていきます。
先にも述べたインパクトのある除毛の冒頭ですが、映画で除毛の場面を描くということはかなり稀なのではないでしょうか。
逆に言えば非常にパーソナルな行為ともいえ、5年付き合った桜と貴哉のお互い何も気にせず晒せる距離感の近さも感じさせます。
そんな2人であっても、実はお互い知らないこともあり、退廃と倦怠の中でだらだらと続いている関係性が際立っています。
まとめ
監督・中村祐太郎×脚本・木村暉のタッグでどうしようもない男女の日常を描く映画『若さと馬鹿さ』(2019)。
不安定で自身の将来のことも2人の関係性もよく分からず……堕落していく恋人たちの様子をリアルに描いています。
生々しい性描写も交えながら人々のどうしようもなさ、日常と喪失を描いてきた中村祐太郎監督と木村暉だからこそ描ける若者たちのリアルさがあらわれています。
次回もお楽しみに!