映画『浜の朝日の嘘つきどもと』は2021年9月10日(金)より全国ロードショー!
閉館の危機に瀕した映画館の存続をめぐって、さまざまな人の思いが交錯する姿を描いた『浜の朝日の嘘つきどもと』。
福島県に実在する映画館が舞台の本作は、福島中央テレビ開局50周年記念作品として制作がスタート。2020年10月30日(金)には映画のストーリーの後日譚となる物語が、同タイトルのテレビドラマとして放送されました。
監督を務めたのはテレビドラマと同じくタナダユキ。キャストにはドラマで主演を務めた高畑充希をはじめ、柳家喬太郎、竹原ピストル、大久保佳代子、甲本雅裕、佐野弘樹、神尾佑ら個性派キャストが名を連ね物語を盛り上げています。
映画『浜の朝日の嘘つきどもと』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
タナダユキ
【キャスト】
高畑充希、柳家喬太郎、大久保佳代子、甲本雅裕、佐野弘樹、神尾佑、竹原ピストル、光石研、吉行和子
【作品概要】
福島県南相馬市に実在する映画館「朝日座」を舞台に、さまざまな災禍を経て長い歴史を持つ映画館が閉館の危機に直面、閉館を阻止すべく立ち上がった一人の女性の姿を描きます。
『百万円と苦虫女』(2008)『ロマンスドール』(2020)などのタナダユキが監督・脚本を担当。
キャストには『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)などの高畑充希が主演を務めるほか、落語家の柳家喬太郎、『ラブ×ドック』(2018)などの大久保佳代子らが出演しています。
映画『浜の朝日の嘘つきどもと』のあらすじ
福島県の映画館「朝日座」は100年近くの歴史を経て、地元住民に親しまれてきました。
しかし長い年月の中で客足は大きく減り経営も苦しくなってきたために、支配人の森田保造(柳家喬太郎)は閉館を決意します。
ある日、森田が映画館の前で35ミリフィルムに火をつけ処分しようとしていると、そこに突然現れた若い女性(高畑充希)に止められます。
彼女は茂木莉子と名乗り、経営難の朝日座を再建するためにやってきたと語ります。
こうして名画座を守ろうとする莉子の挑戦は始まり、彼女の行動に森田の思いは徐々にゆらいでいきます。
映画『浜の朝日の嘘つきどもと』の感想と評価
コミカルなセリフ回しや間の取り方など、コメディータッチな展開によって、映画を観る者はどんどんと引き込まれていきます。その一方で物語には深いテーマが刻みこまれており、映画ファンをはじめ大小問わず「創作」に関わる人々、「創作」を愛する人々に一つの「答え」を見せているとも感じ取れます。
また本作は2011年の東日本大震災やその後の復興についても触れており、さらにはコロナ禍、主人公が抱える複雑な生い立ちなど、近年の社会で注目を浴びているさまざまな課題や問題を物語の背景としています。
そんな中、閉館を余儀なくされている一つの映画館「朝日座」をいかに存続させていくかというポイントが、物語の焦点となります。
ここで考えるべきは、「朝日座」という映画館を一つの象徴的な存在として描いているところにあり、これが映画やその他の「創作」によって生まれるものと重なっていきます。
例えば東日本大震災の際、その復興が大きく叫ばれる中で多くのアーティストたちは、自分の領分に対する無力感と創作活動へのうしろめたさを感じたといわれています。その後盛んにおこなわれたアートによる復興支援や募金活動は、ある意味その無力感への抵抗であったともいえるでしょう。
こういった事情を踏まえると、アーティストやクリエイターたちは社会的に大きな問題が発生するたびに自身の存在意義を問われ、その答えを求めて苦しみ続けていることがわかります。
そして「SDGs」なる行動指針が叫ばれている状況など、一つの行動をとっても明確な理由や具体的な指針が必要とされる現代においては、その問いはさらに重いものとしてのしかかってきていることでしょう。
本作はその構図を、ある映画館とその映画館を廃館に追い込もうとする人たちや事情との関係を通じて描写しています。
注目すべきは、後者にあたる映画館の廃館を考える人々やその事情の存在が、ごく当然のこととして、万人に理解される理由としてそこに在る点です。その一方で映画館を守ろうとする人たちには、自分たちがなぜ「映画館を残すべき」と思うその理由を明確に見出せず悩み続けるのです。
それでも映画を最後まで観ると「やはり映画館は、そこにあるべきだ」と感じられ、その意味において芸術や「創作」の存在意義を、明確な言葉では表現できないながらも強く感じることになるでしょう。逆に「言葉で表現できない」からこそ、余計にその存在意義が大きいものであると感じられるわけです。
本作の物語は、そんな思想を人々のつながりや個々の思いの強さといった要素による展開で描いており、その結果として多くの人たちが「やはり映画館は必要だ」と唱えることで、映画館や映画の必要性を伝えようとしているのです。
まとめ
本作の主演を務めた高畑充希は、これまで『過保護のカホコ』『とと姉ちゃん』などのドラマ主演作ではなぜか周囲の人たちを惹きつけ、巻き込んでしまう個性的な役柄を演じてきました。
そうした女優・高畑充希自身が持つ魅力は本作でも発揮されており、明確な理由が示されないながらも多くの人を巻き込み映画館の存在にまい進するという主人公像を描いています。映画を観た者の多くは、「高畑充希だったからこそこのテーマが描けた」という必然性を感じられるはずです。
一方、主人公たちと対立する人物・市川和雄役を神尾佑が演じたことも、大きな意義が感じられます。ドラマなどではどちらかというとヒール役を担当することも多い市川ですが、本作では映画館を取り壊すことに一つの意味を唱える、真摯な役柄を演じています。
そして神尾自身が実際に福島出身であることを考えると、彼が物語の中でこのポジションに立つことは非常に意味のあるキャスティングといえるでしょう。こうしたキャスティングの妙も、作品の説得力を増す大きな要因となっています。
映画『浜の朝日の嘘つきどもと』は2021年9月10日(金)より全国ロードショー!