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Entry 2021/02/19
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映画『あの頃。』ネタバレあらすじ感想と評価解説。原作から松坂桃李と山崎夢羽は“ハロオタ”の絆を表現|映画という星空を知るひとよ54

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第54回

ハロプロのアイドルを推し続ける。それに青春を捧げた仲間たちとの愛おしい日々を描いた映画『あの頃。』。

バンドや音楽ユニットにかかかわってきた劔樹人の自伝的コミックエッセイを、『愛がなんだ』の今泉力哉監督が映画化しました。

松浦亜弥の笑顔で毎日が楽しいものになった主人公の青年劔を松坂桃李が演じ、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人らが脇を固めます。

ハロプロのオタク仲間の青春ということで、アイドルの名曲がスクリーンに度々流れ、ハロプロ全盛期の頃を思い出せること間違いない作品です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『あの頃。』の作品情報

(C)2020「あの頃。」製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【原作】
劔樹人

【監督】
今泉力哉

【脚本】
冨永昌敬

【キャスト】
松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウ、大下ヒロト、木口健太、中田青渚、片山友希、山崎夢羽、西田尚美

【作品概要】
映画『あの頃。』は、マネージャーやプロデューサー、ベーシストとしてバンドや音楽ユニットにかかかわってきた劔樹人の自伝的コミックエッセイ『あの頃。男子かしまし物語』を、松坂桃李主演で実写映画化したものです。

監督は『愛がなんだ』(2019)の今泉力哉。『南瓜とマヨネーズ』(2017)の冨永昌敬が脚本を手がけました。劔がアイドルにハマるきっかけとなる松浦亜弥役を、「ハロー!プロジェクト」のアイドルグループ「BEYOOOOONDS」の山崎夢羽が演じています。

映画『あの頃。』のあらすじとネタバレ

(C)2020「あの頃。」製作委員会

2004年、大阪。

大学生の劔樹人(松坂桃李)は、バイトに明け暮れる毎日をおくり、好きで始めたはずのバンド活動もうまくいかずに、つまらない日々を送っていました。

ある日、そんな劔を心配した友人・佐伯(木口健太)から「これ見て元気出しや」とDVDを渡されました。

何気なく再生すると、そこに映し出されたのは『♡桃色片想い♡』を歌って踊るアイドル・松浦亜弥。

桃色の衣装でとびっきりの笑顔の松浦亜弥。劔は思わず画面に釘付けになり、テレビのボリュームを上げます。弾けるような笑顔、くるくると変わる表情や可愛らしいダンス。圧倒的なアイドルとしての輝きに、自然と涙が溢れてきました。

劔はすぐさま家を飛び出しCDショップへ向かいました。ハロー!プロジェクトに彩られたコーナーを劔が物色していると、店員のナカウチ(芹澤興人)が声を掛けてきました。ナカウチに手渡されたイベント告知のチラシは、劔の興味を引きました。

ライブホール「白鯨」で行われているイベントに参加した劔。そこでは、メンバーの男性たちが、ハロプロの魅力やそれぞれの推しメンを語っていました。

プライドが高くてひねくれ者のコズミン(仲野太賀)、石川梨華推しでリーダー格の(山中崇)、痛車や自分でヲタグッズを制作する西野(若葉竜也)、ハロプロ全般を推しているイトウ(コカドケンタロウ)、そして、CDショップ店員で劔に声を掛けてくれたナカウチといった、個性豊かな「ハロプロあべの支部」のメンバーたちです。

劔がイベントチラシのお礼をナカウチに伝えていると、「お兄さん、あやや推しちゃう?」とロビが声を掛けてきます。

その場の流れでイベントの打ち上げに参加することになった劔は、ハロプロを愛してやまない彼らとの親睦を深め、仲間に加わることになりました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『あの頃。』ネタバレ・結末の記載がございます。『あの頃。』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2020「あの頃。」製作委員会

夜な夜なイトウの部屋に集まっては、ライブDVDを鑑賞したり、自分たちの推しについて語り合ったりする日々が始まりました。

劔にとっては、とても楽しい毎日です。そのうちに、大学の後輩から勧められ、ハロプロの啓蒙活動という名目で大学の学園祭に参加もしました。

まさに、ハロプロの応援活動一式に全てを捧げていたのです。

西野の知り合いで、藤本美貴推しのアール(大下ヒロト)もメンバーに加わり、劔たちはノリで“恋愛研究会。”というバンドを組みます。

「白鯨」でのトークイベントで、全員お揃いのキャップとT シャツ姿で『モーニング娘。』の「恋ING」を大熱唱。彼らは遅れてきた青春の日々を謳歌していたのです。

ハロプロ愛に溢れたメンバーとのくだらなくも愛おしい時間がずっと続くと思っていた劔。

ですが、ハロプロメンバーの卒業もあり、それぞれの人生の中で少しずつ皆がハロプロとおなじくらい大切なものを見つけていきます。

2008年、東京。

劔は、東京のライブハウスをまかされることになったナカウチの元にいました。仲間たちはほとんど大阪にいます。

別々の人生を歩みはじめ、次第に離ればなれになったのですが、突然、コズミンが癌に冒されているという投稿がSNSに上がります。

コズミンが自分からあげた投稿でしたが、“恋愛研究会。”のメンバーたちは戸惑います。しかし、当の本人は癌を理由に風俗嬢にサービスしろと、今までと変わらない様子でした。

コズミンを励まそうと仲間たちは久しぶりに集まり、「コズミン生前葬」という名のイベントを開催します。

杖をついてやってきたコズミン。抗がん剤はめっちゃ高いと、笑いを誘いました。

衣装の白装束に身をつつみんだコズミンを囲んで、“恋愛研究会。”は大合唱。定番の『恋ING』です。

「あの頃はおもしろかったなあ」こらえきれずに涙を流す劔に、コズミンは「何ないてんねん」と笑顔を見せました。

それからしばらくして、コズミンの危篤の知らせが何回か届き、ついに本当の危篤が訪れます。

仲間たちが息を引き取ったコズミンの棺に入れたのは、コズミンが愛していたフィギュアたちでした。

大好きなフィギュアに囲まれ、愛すべき仲間たちの笑顔に見守られ、コズミンの死に顔はとても安らかでした。

「あの頃。」を思い出す中で、劔は一人、記憶の中の故郷・大阪に佇みます。

そこへ、同じく「あの頃。」の元気だったコズミンがやって来ました。「イベントに行くんだ」と言う劔に、「俺も連れて行け、むろんそっちのおごりでな」と返すコズミン。

劔はただ微笑み、「いいよ」と答えました。

映画『あの頃。』の感想と評価

(C)2020「あの頃。」製作委員会

センセーショナルな内容で注目を集めた『娼年』(2018)、衝撃のバイオレンスサスペンス作品の『孤狼の血』(2018)、権力とメディアの裏側に切り込んだ『新聞記者』(2019)と、話題作に果敢に取り組んできた松坂桃李。

そんな彼が今回演じるのは、「ハロー!プロジェクト」に青春を捧げるアイドルオタクです。

映画『あの頃。』は、金なし、職なし、女なし、のつまらない日々を過ごす主人公劔が、同じ趣味を持つ仲間と出会い、遅れて来た青春を謳歌するという物語です。

その仲間とは、とても個性的なメンバーでした。無職に近い髭面のオジサン、借金だらけの若者、ハロプロ命のオタク中のオタク。そしてプライドが高くてひねくれている変わり者が一人。

ぱっと見、むさくるしい男の集団ですが、彼らは大好きなハロプロのこととなると、生き生きとし饒舌になって騒ぎ出します。

女性が好きなスターの追っかけをするというなら、男性は推しメンの応援をする、ということでしょうか。

誰に迷惑をかけるでもなし、自分たちの好きなメンバーを応援する姿からは、本当に好きなことに熱中する青春期の喜びが満ち溢れていました。

伏し目がちで沈んでいた劔が目を輝かせて大笑いをし、ハロプロのダンスを踊る様子に、趣味が同じだとこんなにも意気投合して楽しいひと時が過ごせるのかと驚くことでしょう。

キャッチコピーの「‟推し”に出会って、‟仲間”ができた」は、劔のの青春を一言で表せる言葉と言えます。

「いろいろあったけど、人生のなかで今が一番楽しいです。でもときどき思い出します。みんなと過ごしたあの頃を……」

ラストで物思いにふける劔。演じる松坂桃李のあまりの自然体の演技に、自分のことのように思えてきます。また一方では、松坂桃李の役者としての新しい一面をのぞかせてくれたキャスティングとも捉えられます。

コズミンの病死という悲しい事実も、劔と仲間たちは温かく見送りました。

楽しいときを一緒に過ごした仲間は、永遠に記憶の中で生き続け、忘れられない思い出を与え続けてくれるのでしょう。

ハロプロにすべてをかけた青春の日々。元気をくれるアイドルたちを称賛し、それを応援する喜びに満ちた男性たちから、ほのぼのとした温かな「優しさ」が感じられる作品でした。

まとめ

(C)2020「あの頃。」製作委員会

ハロプロに熱中していた、どうしようもないほどくだらなくて、何よりも愛おしい青春の日々を描いた、映画『あの頃。』。

ハロプロのアイドルたちがJ-POP界を牽引していた2000年代初めの話です。松浦亜弥や藤本美貴など、懐かしいアイドルたちの名前も飛び交い、コンサート風景も当時の雰囲気そのままの熱中ぶりを見せます。

原作者の劔樹人は映画化にあたり、「私の人生で忘れることの出来ない大事なひと時と、自慢の友人たちを記録した大切な作品。映画の力で多くの方に伝わり、さらに愛するハロー!プロジェクトが、一層盛り上がるきっかけになれば、私のハロオタ人生に思い残すことはありません」と語ったとのこと。

そして、映画のキャッチコピーの通りに「‟推し”がいるだけで、世界は広がり、人生が楽しくなる」とも。

幾つになっても、何かに夢中になれる人生は最高です。そして、その何かを持っているということはとても幸せなことなのだと気がつくことでしょう。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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