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『ブルーボーイ事件』あらすじ感想評価。実話を基に描く性別適合手術が“違法か合法か”争った裁判の行方は|TIFF東京国際映画祭2025-10

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

映画『ブルーボーイ事件』は第38回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門 公式出品!2025年11月14日(金)より全国順次公開!

2025年10月27日(月)~11月5日(水)まで開催された第38回東京国際映画祭。

映画祭のガラ・セレクション部門に公式出品された映画『ブルーボーイ事件』は、高度経済成長期の日本で実際に起きた「性別適合手術」が違法か合法かを争った裁判事件を基に、トランスジェンダー男性である飯塚花笑監督がオリジナル脚本で映画化。

主人公・サチ役は、トランスジェンダー女性のオーディションを行いました。主演に抜擢されたのは、ドキュメンタリー映画『女になる』(2017)に出演経験はあるが、演技は本作が初挑戦だという中川未悠。

元同僚役には、ドラァグクイーンのイズミ・セクシーとシンガーソングライターで俳優の中村中が演じ、弁護士の狩野は錦戸亮が演じました。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2025』記事一覧はこちら

映画『ブルーボーイ事件』の作品情報


(C)2025「ブルーボーイ事件」製作委員会

【日本上映】
2025年(日本映画)

【監督】
飯塚花笑

【脚本】
三浦毎生、加藤結子、飯塚花笑

【キャスト】
中川未悠、前原滉、中村中、イズミ・セクシー、真田怜臣、六川裕史、泰平、渋川清彦、井上肇、安藤聖、岩谷健司、梅沢昌代、山中崇、安井順平、錦戸亮

【作品概要】
監督の飯塚花笑は、トランスジェンダー男性である自身のアイデンティティから着想・制作した『僕らの未来』(2011)が第33回ぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞。『フタリノセカイ』(2022)『世界は僕らに気づかない』(2023)は国内外で賞を受賞した期待の若手監督です。

主人公・サチを演じたのは、オーディションを経て抜擢されたトランスジェンダー女性の中川未悠。サチの元同僚役には、ドラァグクイーンのイズミ・セクシーとシンガーソングライターで俳優の中村中。

そのほかのキャストには、錦戸亮、前原滉、山中崇など。

映画『ブルーボーイ事件』のあらすじ


(C)2025「ブルーボーイ事件」製作委員会

1965年、オリンピック景気に沸く日本。上の指示で景観を取り締まるため、警官は街に立つセックスワーカーたちを厳しく取り締まっていました。

しかし「ブルーボーイ」と呼ばれる性別適合手術(当時の呼称は「性転換手術」)を受け、身体の特徴を男性から女性へと変えた者たちを取り締まることができず、頭を悩ませていました。

そこで警察は、性別適合手術を行なった医師の赤城(山中崇)の逮捕。赤城は麻薬譲渡の余罪があったために格好の的であり、性別適合手術は「正当な理由なく生殖を不能にする手術」として優生保護法(現在は「母体保護法」に改正)に反すると理由をこじつけます。

荒木の裁判の弁護を担当することになった弁護士の狩野(錦戸亮)は、赤城のもとで手術を受け、裁判の証人となってくれる人間を探します。そして狩野が証人として依頼したのは、喫茶店で働きながら恋人の若村(前原滉)と慎ましく生活するサチ(中川未悠)でした。

今の生活を壊したくないと証言を拒むサチでしたが「この裁判で性別適合手術が違法となってしまったら、今後手術を受けられなくなる」という狩野の言葉に揺れ動きます。

赤城の逮捕で残りの手術をしてくれる医者もいなくなり途方に暮れるサチは、ゲイバーで働いていた頃の同僚アー子(イズミ・セクシー)に再会。「闇医者なんて絶対ダメよ」とアー子はサチに忠告し、自分が証言台に立って先生を助けるから大丈夫だとサチに言います。

しかし、アー子やサチのことをよく知らない狩野は、手術の正当性を示し合憲であると証明したいがために、証人のアー子を「性転換症という精神疾患」と扱って答えを誘導しようとします。

アー子は怒り「アタシは病気じゃない、女になりたいから手術を受けただけ」と声を荒げます。裁判を茶番だと言い放っていた元同僚メイ(中村中)も「言わんこっちゃない」と毒づきます。

そんな様子を不安そうに見つめていたサチ。サチは勇気を振り絞り、証言台に立つことを決意しますが……。

映画『ブルーボーイ事件』の感想と評価


(C)2025「ブルーボーイ事件」製作委員会

トランスジェンダー男性である飯塚花笑監督が、「性別適合手術」が合法か違法かをめぐる実際の裁判を基に制作した映画『ブルーボーイ事件』。

本作は、実際の裁判記録に基づいて丁寧にドラマが作られていると同時に、今を生きる私たちに他人事ではない、埋もれていた数々の“私たちの物語”があることを感じさせます。

高度経済成長期、オリンピック景気に沸く日本で起きた「ブルーボーイ事件」について、どれほどの人が知っているでしょうか。埋もれていた、語られることのなかった物語を掬い上げること、それこそが映画の持つ一つの力と言えるかもしれません。

飯塚監督は当事者のキャスティングにこだわり、トランスジェンダー女性を集めてオーディションを行いました。主演に抜擢されたのはドキュメンタリー映画『女になる』(2017)に出演経験のある中川未悠です。日本では、トランスジェンダーの俳優が活躍する機会はまだまだ限られています。その意味では本作は一つの風穴になっています。

現在よりも性による役割が明確化され、女性の社会進出も現在ほど進んでいない1960年代、トランスジェンダーをはじめ、性的マイノリティに対しては偏見と差別が蔓延っていました。

裁判に出て証言台に立つことはすなわち、社会の晒し者になるということを意味していました。

男性の身体から性別適合手術で女性の身体へと変え、恋人と慎ましい生活を送っていたサチは、今の生活を変えたくないと証言台に立つことを拒みます。

それでも証言台に立つことを決意したのは、私が私であること、私という存在がいることを否定されたくないという思いがあったからではないでしょうか。

「ブルーボーイ事件」が伝えてくれるのは、そこに私たち=トランスジェンダーがいたこと、闘い続けていたことです。

まとめ


(C)2025「ブルーボーイ事件」製作委員会

実際の裁判をもとに映画化された『ブルーボーイ事件』。自身の体験とも重ねてサチを演じた中川未悠の、葛藤しながらも芯を感じさせる演技に胸を打たれます。

また、弁護士の狩野を演じた錦戸亮の存在も印象的です。

狩野は、弁護士として将来を有望される存在で、妻と子供がいるヘテロセクシャルの男性。トランスジェンダーに対して理解があるわけではなく、関わることなど一生ないと思っていたような人間でしょう。

そんな狩野は当初裁判に勝利するために、アー子やメイを証言に立たせて利用しました。「憲法を用いて実証できる論理であればいい」という考えで証人自身のことを理解しよう、尊重しようという気持ちはありませんでした。

しかし、裁判を通してその心境に変化が現れ始めます。そんな狩野の姿は、当事者ではない観客とも重なる部分であり、当事者との架け橋となる存在であることを感じさせます。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2025』記事一覧はこちら

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