Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/12/17
Update

2020年映画ランキングベスト5|大人の恋愛・夫婦映画たちに三賞を贈る!《シネマダイバー:森田悠介選》

  • Writer :
  • 森田悠介

2020年の映画おすすめランキングベスト5
選者:シネマダイバー森田悠介

年半ばに劇場が再開してからしばらく経ちましたが、感染症対策で外出する機会は減り、世評を知るための興行収入も『鬼滅の刃』の独走状態で参考にはならないため、ここでは連載コラム「映画道シカミミ見聞録」で取り上げた作品の中から、2020年のベスト5を選びました。

まさに映画は時代を写し取るもので、各作品の考察を振り返ってみると、背景で共有しているテーマや課題が浮かび上がってきました。

その関連性を明らかにするため、5位から順にお読みいただくことで、全体像が見えてくる構成にしています。ぜひ通してご一読いただけますと幸いです。

【連載コラム】『2020年映画ランキングベスト5』一覧はこちら

第5位『音楽』

【おすすめポイント】
『鬼滅の刃』に真っ向から勝負できるアニメーション作品。

アニメ特有の「物語」ではなく「形式」に徹底してこだわり、線と反復の無駄のない文体で男子高校生たちの青春を描きました。

国外のマーケットに目を向けるならば、この省略のリズムにこそ、ジャパニメーションの自律的な価値が見いだせるのかもしれません。

第4位『どうにかなる日々』

【おすすめポイント】
その“余白”を原作となる漫画の段階から活かしているのが、志村貴子です。

漫画のコマはそのまま映画のフレームに置き換えられ、その「カット割り」は「コマ割り」から派生しています。

むしろアニメ化したことで原作の魅力が際立ち、主題の“それなりに特別な日常”が鮮やかに彩られていました。

第3位『mellow』

【おすすめポイント】
そんな日常の「告白の瞬間」に注目した群像劇です。

特筆すべきは、その場に必ず第三者がいて、ふたりの関係性が恋愛によって閉じられない点にあります。

だれかを想い、自分以外の傷にも痛みを感じられるようになることが、成熟(メロウ)につながっていくのです。

第2位『喜劇 愛妻物語』

【おすすめポイント】
そして本作には、そのような“想い”の極北が、罵詈雑言の衣装をまとって示されています。

売れない脚本家と、それを支える妻の姿は、泣くに泣けぬ、笑うにも笑えぬ愛情が存在することを教えてくれます。

喜劇か悲劇のどちらに転ぶかわからないからこそ、夫婦を最期まで演じられるのかもしれません。

第1位『あなたにふさわしい』

【おすすめポイント】
そんな人生劇場の虚構性に思い至った妻が、“ほんとうの夫婦”を求めさまよう物語です。

夫婦が夫婦でいられる確かな理由を、戸籍以外に求めようとするならば、何が残るのか?

この理知的な問いを、感覚的な答えに落とし込んでいく映像の力と、夫婦の真髄を軽やかに描写した洞察力に、感銘を受けました。

2020年注目の監督とキャスト


(C)2020「喜劇 愛妻物語」製作委員会

監督賞:足立紳
女優賞:水川あさみ
男優賞:濱田岳

【コメント】
ここまで述べてきた夫婦像(恋愛観)を具現化した功績を称え、『喜劇 愛妻物語』の“夫婦”に女優賞・男優賞をそれぞれ贈ります。

またこれが実体験に基づいているという点で、監督賞をもって現実の足立夫妻に敬意を表します。決して『嘘八百』ではないという希望を世界中の夫婦に与えてくれました。

まとめ


(C)Shunya Takara

「テレワーク」や「おうち時間」といった言葉が人口に膾炙した2020年。今後、映画の主要な舞台も“家”に移っていくことは間違いありません。

もとより、日本映画は“ホームドラマ”が多く制作されてきましたが、疑似家族をはじめ人々が寄り添う姿を描いてきたこれまでの流れとは、また変わってくるはずです。

女性の自殺率増加に代表されるように、ステイホーム時代に“ホーム”がない人々はどうすればよいのか。これを思うと、安易に“家”の価値を称揚することも憚られていくでしょう。

【連載コラム】『2020年映画ランキングベスト5』一覧はこちら





関連記事

連載コラム

映画『南極日誌』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。恐怖スリラーおすすめに韓国俳優ソン・ガンホとユ・ジテ共演で描いた“南極探検隊の恐怖”|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー72

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第72回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

映画『ベトナムを懐う』あらすじと感想レビュー。父親が胸に秘めた異国から故郷への想い|銀幕の月光遊戯25

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第25回 異国でおもう故郷は何故こんなにも遠い…。 初演以来、上映回数1000回を超える舞台作品を、『超人X.』(2014)、『輝ける日々に』(20018)のグエン・クワン …

連載コラム

映画『別れる前にしておくべき10のこと』ネタバレあらすじと感想評価。クリスティーナ・リッチの大人ラブストーリー|未体験ゾーンの映画たち2020見破録52

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第52回 「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第52回で紹介するのは、シングルマザーの恋模様を描いた『別れる前にしておくべき10のこと』。 都会 …

連載コラム

映画プレジデント|あらすじ感想と評価考察。ジンバブエ大統領選挙を通じて“真の民主主義国家を願う戦い”を映す|映画という星空を知るひとよ159

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第159回 映画『プレジデント』は、ジンバブエ共和国での大統領選を描いたドキュメンタリー。現職のムナンガグワに挑戦する野党MDC連合の党首ネルソン・チャミサの姿 …

連載コラム

HYODO八潮秘宝館ラブドール戦記 |あらすじ感想と評価解説。世界で1番の”ヘンタイ”博物館を描く必見のドキュメンタリー映画|増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!9

連載コラム『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』第9回 この世には見るべき映画が無数にある。あなたが見なければ、誰がこの映画を見るのか。そんな映画が存在するという信念に従い、独断と偏見で様々な映画を紹 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学