Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/10/01
Update

映画『セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙』あらすじと感想レビュー。少女アミーという存在|銀幕の月光遊戯 44

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第44回

映画『セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~』が現在ユーロスペース、全国イオンシネマ他にて絶賛公開中!

9年もの歳月を経て完成した「フィリピン水道建設プロジェクト」にまつわる感動の実話を映画化。

美声女ユニット「elfin’」のリーダーで、声優としても活躍する辻美優が主人公・明日香を溌剌と演じています。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~』の作品情報


(C)セカイイチオイシイ水製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【監督・脚本】
目黒啓太

【キャスト】
辻美優、赤井英和、前川泰之、新井裕介,花房里枝,ミエル・エスピノーザ,岡千絵、橋本マナミ、蝶野正洋、角田信朗、篠原信一、森次晃嗣、張天翔、亀田大毅

【作品概要】
フィリピンの離島パナイ島の小さな町パンダンでの水道建設工事に奔走する日本とフィリピンのボランティアたちの姿を、実話をもとに描いたドラマ。

美声女ユニット「elfin’」のリーダーで、声優としても活躍する辻美優が主人公・明日香を演じ、「elfin’」が主題歌を担当している。

映画『セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~』のあらすじ


(C)セカイイチオイシイ水製作委員会

女子大生の明日香は、友人からフィリピンのパンダン水道建設工事プロジェクトにボランティアとして参加しないかと誘われ、軽い気持ちで参加を決めました。

ところが、当日になって友人がインフルエンザにかかって行けなくなり、明日香は1人でフィリピンに向かうことになりました。

フィリピンに到着すると、日本人ボランティアの田中がボロボロのジープで出迎えてくれました。

案の定、ジープは途中でエンストを起こし、早くも明日香はとんでもないところに来てしまったと不安になり始めていました。

パンダンは、フィリピンの首都マニラから300キロ南にあるパナイ島にある小さな町です。

田中は明日香をホームステイ先まで乗せていってくれました。彼も近くにホームステイしているそうです。

ホストに歓迎されていると、近所の男が「また日本人にこびを売っているのか!」と大声を上げました。

言葉のわからない明日香は自分がなにかしたのだろうか、と戸惑います。戦争の禍根から日本人に反発する現地の人々は少なくないのです。

ホームステイ先にはアミーという小さな女の子がいました。彼女は水の入ったグラスを大切そうに運ぶと、明日香に飲むようにいいました。

「ベリーグッド! サンキュー!」と感謝の意を述べたものの、この水がどんなに大きな意味を持っているのか、その時の明日香にはまだ知るよしもありませんでした。

翌日、現場責任者の岩田(赤井英和)に連れられ工事現場に行くと、照り付ける日差しの中、泥まみれになって土を掘り続ける過酷な作業が待っていました。

海水混じりの井戸水しかないパンダンでは、多くの村人が腎臓病などに悩まされていました。ボランティア作業をしている人々が飲んでいる水も茶色く濁ったものでした。

岩田はその様子を見て驚いている明日香にマロンパティの湧き水を観に行ってくるように言います。

田中に連れられて何キロも先のマロンパティにやってきた明日香は、この町ではここしか飲水の基準を満たしているところはないと聞かされます。

明日香が参加した事業は、このマロンパティの水をパイプを通して町に運ぼうという大規模なものだったのです。

「本当にここしかきれいな水はないのですか?」と明日香は思わず尋ねていました。「そうだよ」と応える田中。昨日、アミーが飲ませてくれた水は普通の水でした。そう、あれはアミーが明日香のために遠く離れたこの水源までひとりでやって来て汲んだ貴重な水だったのです。

明日香はアミーと、絵本と折り紙を通して心を通わせていきます。小さい頃から塩分の多い水を飲んできたため、アミーも重い腎臓病に蝕まれていることを知った明日香は、この村の人々に、そして大切な友人アミーに「安全でおいしい水を1日でも早く届けたい」と心の底から思うようになっていきます。

スポンサーリンク

映画『セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~』の解説と感想


(C)セカイイチオイシイ水製作委員会

映画の世界をより身近に感じさせる物語の枠組み

映画『セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~』は、9年もの歳月をかけ1998年に完成したフィリピン・パンダンの水道建設工事にまつわる実話を基に作られています。

1990年、日本に留学していたフィリピン人男性がアジアでボランティア活動をしていたNGO「アジア協会アジア友の会』にパナイ島のパンダンに井戸を掘ってほしいと電話してきたことが事の発端です。

現地に飛んで調査を行ったところ、町の人々は海水混じりの水しか飲めない状態であることがわかります。井戸では間に合わず、唯一基準をクリアした水源からパイプラインを引く必要がありました。

これまで扱ってきたものとは桁の違う大事業に二の足を踏む人々を説得する男性を映画では赤井英和が演じています。

役員を説得し、資金援助のため、何度も企業に交渉し、現地にも飛ぶ彼の奮闘努力する姿をメインにして、その汗と努力の結晶を描くという手もあったでしょう。しかし、本作は、ボランティアで参加した女子大生の目を通して物語が進行していきます。

女子大生・明日香は友人に半ば強引に勧誘され、特に深い考えも持たずにボランティアに参加することになったため、現場の実情を何も知りません。

徐々に町の人々が置かれた深刻な現状を知り、そのために壮大な工事が行われていることを理解するようになります。

明日香が案内人となることで、観る者もこれまでよく知らなかった世界へ自然と導かれます。この構成は効果的で、映画の世界をより身近に感じさせてくれます。

国境を超え、過去を乗り越えること


(C)セカイイチオイシイ水製作委員会

パイプラインを引くという事業自体が資金面や、労働力の上で大変なのは明白なのですが、もう一つ、事業を困難にしている問題がありました。

第二次大戦のつらい記憶がフィリピンの現地の人に深い傷跡を残していて、日本人に対する不信感が根深く、現地の人々の賛同がなかなか得られないのです。

戦争責任という問題にどのように向かい合えばよいのかというのは、とてもむずかしい問題です。

このことは、私たちの日々の暮らしの中でも決して無縁の話ではありません。今、社会ではこうした問題に常に直面しているといえます。

この映画はそうした分断に対して、それを解決できるのは、人と人のつながりなのだ、ということを提起しています。

国家の単位で考えれば難しいことも、人と人の真心がぶつかりあえば、いつか分かり会えるという信念を赤井英和扮する岩田公彦は持ち、実践しています

そうした局面を描くことが映画の1つのクライマックスになっています。

アミーという少女の存在


(C)セカイイチオイシイ水製作委員会

明日香を迎えるホームステイ先の家族の暖かさがとても印象的です。とりわけまだ幼いアミーの存在はこの映画の宝物と表現してもいいのではないでしょうか。

演じているのはミエル・エスピノーザ。2011年生まれの彼女は、フィリピンでは誰もが知っている名子役なのだそうです。テレビドラマを始め、映画、企業CMにも出演している小さな大女優です。

コップ一杯の大切な水を運ぶその姿は愛らしく、いつも人懐こい姿を見せ、周囲を笑顔にするそんな少女を実に自然に演じています。誰もが愛さずにはいられないでしょう。

アミーという存在は原作にないフィクションだそうですが、実際にこのように安全でない水を幼い頃から飲むことで健康を害する子どもたちが多くいることをリアルに伝えるため登場させたとエグゼクティブ・プロデューサーの湯浅剛は語っています。

WHOの調査では、全世界で年間100万人以上の子どもたちが安全な水を供給されないため命を落としているそうです。

人間が生きる上で、水というものがいかに大切なものなのかということを改めて思い知るのです。

まとめ


(C)セカイイチオイシイ水製作委員会

ヒロインの明日香を演じたのは映画初主演の辻美優です。映画というプロジェクトに初めて臨む彼女の実際の試練と映画の中の試練が重なって、初々しい臨場感のある演技を見せています。

明日香が、次第にたくましく成長していく姿も映画のみどころのひとつでしょう。

辻美優は「全日本美声女コンテスト」で応募総数14,434通の中から見事にグランプリに輝き、美声女ユニット「elfin’」のリーダーとしてマルチな活躍を見せています。映画女優としても愉しみな逸材で、今後の活躍が期待されます。

また少しの出番ながら、個性のある俳優たちが大事な場面で顔を見せています。是非チェックしてみてください。

『セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~』は、現在、ユーロスペース、全国イオンシネマ他にて絶賛公開中です。今後、全国順次公開も予定されています。

次回の銀幕の月光遊戯は…

2.5次元芸能事務所「ツキノ芸能プロダクション」が初の実写映画に挑んだ劇場版SOARA『LET IT BE – 君が君らしくあるように -』をお届けする予定です。

お楽しみに!

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら


関連記事

連載コラム

ポランスキー初期短編映画の感想とレビュー評価【殺人 /微笑み /タンスと二人の男】ほかの内容紹介|偏愛洋画劇場20

連載コラム「偏愛洋画劇場」20 今回の連載でご紹介するのは、名匠ロマン・ポランスキー初期短編集に見る才能の片鱗。 2019年11月10日から23日まで、二週間にわたって開催されたポーランド映画祭での上 …

連載コラム

映画『黒人魚』あらすじネタバレと感想。ロシア伝説の怪奇が現代によみがえる|未体験ゾーンの映画たち2019見破録17

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第17回 1月初旬よりヒューマントラストシネマ渋谷で始まった“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」では、ジャンル・国籍を問わない貴重な5 …

連載コラム

松下恵映画『アラフォーの挑戦 アメリカへ』ネタバレ感想レビュー。語学留学先で見た多様な価値観と本当の行き先とは⁈|だからドキュメンタリー映画は面白い12

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第12回 「アラサー」、「アラフォー」って呼ぶのは“エイハラ”になるって知ってましたか? 『だからドキュメンタリー映画は面白い』第12回は、2019年4 …

連載コラム

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】⑩

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】(2020年7月下旬掲載) 【細野辰興の連載小説】『スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~』の一覧はこちら スポンサー …

連載コラム

韓国映画『風水師』あらすじと感想レビュー【王の運命を決めた男】は豪華俳優共演のユニークな時代劇|コリアンムービーおすすめ指南15

「風水」が天下を動かす! 最高の運気を宿す地相“明堂”にたどりつくのは誰だ!? 末裔に渡り一族が反映することを望んだ権力者たちが〈最強の土地〉をめぐり争う歴史エンターティンメント『風水師 王の運命を決 …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学