さまざまな理由から日本公開が見送られていた映画を紹介する、恒例となった上映企画”未体験ゾーンの映画たち”。2020年1月3日(金)より開催される、『未体験ゾーンの映画たち 2020』の全54本の上映作品も発表されました
そこで『未体験ゾーンの映画たち2019』全上映作品を完全制覇した私、映画屋のジョン改め増田健が全上映の58作品を振り返り、独断と偏見だけを頼りに作品ベスト10を発表いたします。
あらゆるジャンルの名品・珍品映画を紹介する”未体験ゾーンの映画たち”。2020年はいかなる作品が登場するのか!?
【未体験ゾーンの映画たち2020】が2020年1月3日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷にて開催
CONTENTS
『未体験ゾーンの映画たち 2019』より、第10位から第6位まで紹介
第10位『108時間』
【日本公開】
2019年(アルゼンチン・スペイン・ウルグアイ合作映画)
【原題】
No dormirás / You Shall Not Sleep
【監督】
グスタボ・エルナンデス
【キャスト】
ベレン・ルエダ、エヴァ・デ・ドミニシ、ナタリア・デ・モリーナ、ヘルマン・パラシオス、フアン・マヌエル・ギレラ、マリア・アルフォンソ・ロッソ
【作品概要】
不眠をテーマにした実験的演劇に参加した、女優を襲う様々な恐怖を描くスリラー映画。夢と現実、台本に描かれた物語と過去の出来事が複雑に絡み合う異色作です。
徐々に明らかにされる事実と演劇の舞台、無睡眠を強いられ忘我状態に陥った主人公が体験する幻覚が交差して、今までにない幻想的な恐怖が体験できます。
スパニッシュ・ホラーの流れをくむ南米ホラー映画が到達した、恐怖と格調の高さが見事に融合した作品ですが、ともかく主人公、モデル出身のエヴァ・デ・ドミニシが美しい!『海を飛ぶ夢』や『永遠のこどもたち』に主演したベレン・ルエダと、互角に渡り合う演技が見ものです。
【独断と偏見による評価ポイント】
ゴシックホラーや館モノホラーなど、雰囲気重視のホラー・サスペンス映画好きな方なら見逃すべからず。複雑なストーリーは、映画を見た後熟考するタイプの方を虜にするでしょう。
第9位『スネーク・アウタ・コンプトン』
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Snake Outta Compton
【監督】
ハンク・ブラクスタン
【キャスト】
リッキー・フラワーズ・Jr.、モータウン・モーリス、ドンテ・エシエン、タルカン・ドスピル、アウレリア・マイケル、エリック・エリクソン
【作品概要】
カリフォルニアの犯罪多発地帯、コンプトン。あの大ヒットラップ映画の舞台のなった街で、街を抜け出すことを夢見てラップに生きる若者たちを描いた作品。
…というのはあくまで表向きの設定で、「フライング・ハイ」「ホット・ショット」、そして「最終絶叫計画」シリーズの流れをくむ、映画をパロディにした作品です。大物ラッパーも出演する、ビートとラップでモンスターと闘うパニック・コメディです。
「♪下ネタ上等、パロディ連投、知性は最低、それが笑える俺様最高!」と、ビートを刻める(?)コメディファンは見逃せない作品。登場したパロディネタに幾つ気付けるかな?
【独断と偏見による評価ポイント】
映画のパロディがラップとミックス、更にアサイラム映画の様な、デタラメCGモンスターまで登場する悪ノリコメディ。知性も品もない笑いを愛する方のは爆笑必至。でも物語のメインストーリーは、デンゼル・ワシントンのアカデミー賞受賞作『トレーニング デイ』です。
第8位『トンビルオ!密林覇王伝説』
【日本公開】
2019年(マレーシア映画)
【原題】
Tombiruo
【監督】
セス・ラー二ー
【キャスト】
ゾル・アリフィン、ファリド・カミル、ナビラ・フダ、ファイザル・フセイン、M・ナサイア
【作品概要】
自然を汚す悪党に立ち向かう、大自然に生きるヒーロー“トンビルオ”の姿を描く、マレーシア発のヒーローアクション。
大自然の木々や大地を自由に操る超自然的な力を持つ“トンビルオ”は、同時に数奇な運命を背負った悲劇的人物。現地に根付いた伝説の存在が、アメコミ的ヒーローとして映画化されました。
仮面を身に付けた主人公を演じたゾル・アリフィンは、モデル、アクション俳優として人気を誇る人物。アジアのイケメンスターを先物買いするなら、見逃せませんよ!
【独断と偏見による評価ポイント】
運命を背負い、自然と共に生きる不殺のヒーローの姿は、日本人には馴染みある物語。そして体を張った格闘シーンの数々はもっと高く評価されるべき。躍進著しい、東南アジアのアクション映画に注目している方には見逃せない作品です。
第7位『テリファイド』
【公開】
2019年(アルゼンチン映画)
【原題】
Aterrorizados
【監督】
デミアン・ラグナ
【キャスト】
マキシ・ギオーネ、ノルベルト・アマデオ・ゴンサロ、エルヴィラ・オネット、ジョージ・ルイス、 アグスティン・リッタノ
【作品概要】
ブエノスアイレスのと住宅街で次々と発生する怪奇現象。その謎の解明に研究チームが挑む!
というホラーですがこの映画、本来闇に隠れていきなり飛び出して観客を驚かすべきショックシーンの数々が、何と大っぴらに堂々登場するのがミソの、ニューウェーブ・ホラーです。
緊張と緩和を繰り返し、観客を驚かすホラー映画の定石演出を逆手にとった恐怖演出は、恐ろしいやら可笑しいやら。この新たなスタイルが、世界のファンの間で話題となりました。
【独断と偏見による評価ポイント】
並みのショック演出には引っかからないぞ、と自認するホラー映画ファンの、想像の斜め上を行く斬新な表現に要注目。恐怖と笑いは紙一重、と理解している方には外せない怪作です。
第6位『バトルドローン』
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Battle Drone
【監督】
ミッチ・グールド
【キャスト】
ルイス・マンディロア、ドミニク・スウェイン、マイケル・パレ、ナターシャ・マルテ、ダン・サウスワース
【作品概要】
報酬次第で危険な任務を果たす最強傭兵部隊。彼らは悪徳武器商人の陰謀で、殺人ドローンロボット兵士とガチンコ対決を余儀なくされる!
という中2病的な設定の下、さっそうと登場する「僕の考えた最強傭兵部隊」。全員特技とキャラに秀でた、まるで“少年ジャンプ”のマンガに登場するような連中。そんな一クセある奴らがひたすらカッコ良く、殺人兵器を粉砕する姿は見ていて嬉しいやら恥ずかしいやら…。
そんな訳ないだろ!とツッコミ所満載の展開が、B級映画ファンのハートを鷲掴みにする、実に珍作にして痛快作。シャレの判る方には極上のエンタメアクションです。
【独断と偏見による評価ポイント】
小馬鹿にしたような紹介ですが、劇画的表現に徹した映像と、アクションの本気度が、実に心地良い作品。悪役を演じたマイケル・パレから、楽しんで演じてる感が伝わってきます。ラストは爽快、楽しければ細かい事は気にしない、そんな映画ファン必見の娯楽作です。
第5位『ザ・マミー』
少女に訪れた残酷な運命を、恐ろしくも美しく描くメキシコ発のホラー映画
【公開】
2019年(メキシコ映画)
【原題】
Vuelven / Tigers Are Not Afraid
【監督】
イッサ・ロペス
【キャスト】
パオラ・ララ、ロドリゴ・コルテス、テノック・ウエルタ、イアニス・ゲレロ
【作品概要】
ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭観客賞・銀賞ほか、国際映画祭で51冠、多くの観客賞を受賞したこの作品は、映画批評サイトの大本命“ロッテントマト”で97%の支持を集めています。
この映画に惚れ込み、2017年のベスト映画に選出したギレルモ・デル・トロは、本作監督のイッサ・ロペスの次回作をプロデュースすると発表しましたが、その企画は現在『Untitled Werewolf Western』として進行中の模様です。
ギレルモ・デル・トロだけでなく、スティーブン・キングも絶賛したこの作品。メキシコのスラム街を舞台にした、ある意味では現代版『パンス・ラビリンス』とも呼べる作品です。
【独断と偏見による評価ポイント】
泣けるホラー映画を愛する方は必見!子供たちが主人公というだけでポイントが高いですが、彼らを取り巻く環境の描写は過酷、心して見て下さい。しかし彼らを取り巻く荒廃した残酷な世界が、愛の満ちた哀しくも美しい世界に。ああ、思い出しだだけで涙腺が…。
第4位『BUYBUST バイバスト』
フィリピン発の、これぞ本物のノンストップ・バイオレンスアクション映画
【公開】
2019年(フィリピン映画)
【原題】
BuyBust
【監督】
エリック・マッティ
【キャスト】
アン・カーティス、ブランドン・ヴェラ、ヴィクター・ネリ
【作品概要】
麻薬組織壊滅を目的に、スラム街に乗り込んだフィリピン警察特殊部隊。しかし彼らは孤立したJOY体で、あらゆる敵と戦う壮絶な一夜を過ごすことになる…。
時代劇なら″何人斬り”、空手なら“何人組手”と評するアクションの見せ場、多数の敵との連続対決シーンを、本作は様々な武器を持つ無数で多様な敵を相手に、過酷な場所で連続格闘シーンを披露。そのクオリティはアクション映画ファンを唸らせること必至です。
美しい姿と激しいアクションを披露した主演女優アン・カーティスは、本作出演以降もフィリピンの映画・TVでますます幅広く活躍中。監督のエリック・マッティは日本で公開された映画、『牢獄処刑人』の続編を現在準備中です。
【独断と偏見による評価ポイント】
銃撃戦に格闘戦、あらゆるアクションをノンストップで繰り広げる渾身の作品。計算されつくした連続アクションシーンに耐えた俳優陣に頭が下がります。しかし荒唐無稽な活劇ではなく、社会風刺や体制・組織批判も盛り込んだ、見応えある犯罪映画でもあります。
第3位『シークレット・ヴォイス』
カルロス・ベルムト監督が放つ、虚実あざなう極上ミステリー
【公開】
2019年(スペイン・フランス合作映画)
【原題】
Quien te cantara
【監督】
カルロス・ベルムト
【キャスト】
ナイワ・ニムリ、エバ・リョラッチ、カルメ・エリアス、ナタリア・デ・モリーナ
【作品概要】
監督デビュー作『マジカル・ガール』で、一躍世界的注目を集めたスペイン出身のカルロス・ベルムト監督が、自ら書き上げた脚本を映画化した作品です。
本作はスペインで最も権威ある映画賞、ゴヤ賞に7部門でノミネートされ、エバ・リョラッチが新人女優賞を獲得しました。
秘密を持つ国民的人気歌手と、その熱烈なファンで彼女の歌を完全にコピーして歌う平凡な女。ある目的のために2人が接した時、運命が大きく動き出す…。
様々な謎と人間模様が解き明かされてゆく、ミステリー映画ファンには見落とせない作品です。
【独断と偏見による評価ポイント】
謎解きだけでなく、2人の女の人生が交差して互いに影響し合い、様々な事件を引き起こすストーリーが展開します。それは印象深い映像と音楽を駆使し、重層的な意味を持って描かれます。複雑な構成を持つ映画を、読み解くことが好きな方を満足させる逸品です。
第2位『Z Bull ゼット・ブル』
ブラック企業をブッとばす、バチあたり痛快コメディ映画
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Office Uprising
【監督】
リン・オーディング
【キャスト】
ブレントン・スウェイツ、ジェーン・レビィ、カラン・ソーニ、ザッカリー・リーバイ、カート・フラー、バリー・シャバカ・ヘンリー、イアン・ハーディング、アラン・リッチソン、グレッグ・ヘンリー
【作品概要】
殺人兵器を生産・販売する巨大軍事企業のオフィスビルで、試作品の兵士用強化ドリンクを飲んだ社員たちが狂暴化。勃発した血みどろの社内抗争劇を描く、サバイバル・ブラックコメディ映画。
ドタバタしながら凶暴化した社員を、情け無用かつ愉快に始末する主人公たちに、宿敵として挑むの鬼畜な上司は“東京コミコン2019”のゲストとして来日を果たした、『シャザム! 』のザッカリー・リーヴァイ。これら登場人物のコメディ演技合戦が見物です。
軍事企業という会社組織が舞台なだけに、危ないエナジードリンクで翼を授けられた社員たちの闘争劇は、実に過激な修羅場を展開、バチ当たりな笑いを好む人には必見です。
【独断と偏見による評価ポイント】
バットテイストな流血シーンも痛快ですが、主人公が実に“無責任男”でブラック企業をおちょくる笑いも多数。セリフの中に小ネタ、下ネタも散りばめられて、全編爆笑これ必至。『ジョーカー』を見て路上で暴れる前に、この映画を見て憎っくき会社で暴れよう!
第1位『ゲヘナ』
片桐裕司監督が手塩にかけて育てたホラー映画が、“未体験ゾーン”で花開く!
【公開】
2016年(アメリカ・日本合作映画)
【原題】
Gehenna: Where Death Lives
【監督】
片桐裕司
【キャスト】
ダグ・ジョーンズ、ランス・ヘンリクセン、エバ・スワン、ジャスティン・ゴードン、サイモン・フィリップス
【作品概要】
サイパン島のホテル建設予定現場に訪れた男女が、日本軍の地下壕の中で恐怖に遭遇する。その謎を秘めた怪異は、彼らを想像を越えた世界に引き込んでゆく…。
造形作家としてもハリウッドで活躍する、監督が手掛けたモンスターが登場して始まった物語は、恐るべき物語の幕開けに過ぎない、あっと驚く超次元ホラー映画です。
片桐監督が苦心の末、長い年月をかけ製作した『ゲヘナ』は、2016年には完成していましたが、まず各国の映画祭で上映されます。日本でのお披露目は、ランス・ヘンリクセンをゲストに招いた“東京コミコン2016での特別上映試写会でした。
中々日本公開の機会に恵まれなかった作品ですが、そのクオリティの高さから決して見捨てられる事はなく、2018年に渋谷のユーロライブで上映会が実施されます。
そして、さまざまな理由から日本公開が見送られていた映画を紹介する『未体験ゾーンの映画たち 2019』で上映されるや、ついに多くのホラー映画ファンを虜にします。
劇中でのランス・ヘンリクセンの扱いなど、B級映画の雰囲気を漂わせながらも、モンスターのクオリティと丁寧な恐怖描写、そして誰もが唸るストーリー展開が光る、B級ホラー映画ファンには見逃せない作品です。
【独断と偏見による評価ポイント】
妖気漂う謎の老人を演じるのは、ギレルモ・デル・トロ作品のモンスターを演じ続けているダグ・ジョーンズ。B級ホラー映画と紹介しましたが、モンスターの造形や演者など、随所にハリウッドで活躍する第一人者の仕事が光る作品です。
恐るべき地下壕で最初に聞かされた言葉が後に、という展開もお見事。南洋の孤島の雰囲気を漂わせ、奇怪な怪人を登場させながらも、全編に漂う悲しさと因果応報のストーリーは、間違いなくJホラーの血脈を継ぐ作品です。
まとめ
独断と偏見だけを頼りにセレクトした、【未体験ゾーンの映画たち 2019】ベスト10はいかがでしたか。
紹介した10本を並べただけでも、ジャンルも質も異なるユニークな作品が並んでいる事が理解出来るでしょう。
ここで紹介出来なかった作品にも、様々なセールスポイントがあります。それらも連載コラム形式で紹介してますので、鑑賞の手引きとして頂ければ幸いです。
さて、2020年1月3日(金)より開催の『未体験ゾーンの映画たち 2020』ではいかなる映画に出会えるでしょうか?
今回も全作品を制覇し、紹介したいと考えていますが、果たして体力と気力が果たして持つのやら…。
もうちょっと作品数が減ると助かります、というのが本音ですが、様々な映画が日本に紹介される貴重な機会、可能な限り応援させて頂きます!
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2019見破録』記事一覧はこちら