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『正体』映画原作小説ネタバレあらすじ感想と評価解説。主演は誰/キャストは?藤井道人監督が脱獄死刑囚の“謎多き人物像”を描く

  • Writer :
  • 星野しげみ

単行本刊行と同時に注目をあびた染井為人の小説『正体』が映画化!

染井為人の小説『正体』は、殺人の罪を犯した少年死刑囚・鏑木慶一が脱獄し、潜伏生活を送りながら捜査の手を逃れ、必死に逃亡を続ける物語。

逃亡の日々で次第に明らかになってくるのは、とても殺人を犯すとは思えない鏑木慶一の人物像……逃亡犯をめぐる謎は、物語が進むにつれ深まっていきます。

この小説からは、冤罪の怖さ、信じることの大切さが学べます。スリリングな展開と謎めいた主人公のストーリーに惹きつけられることでしょう。

2022年にWOWWOWでドラマ化もされた本作が、このたび映画化が決定。監督は『新聞記者』(2019)『余命10年』(2022)『最後まで行く』(2023)などの藤井道人です。

映画『正体』は2024年11月29日(金)に全国公開。映画公開に先駆けて、小説『正体』をネタバレありでご紹介します。

小説『正体』の主な登場人物

【鏑木慶一】
18歳当時、一家惨殺事件の犯人として現行犯逮捕された少年。死刑を言い渡されるも、19歳で拘置所から脱獄する。

【安藤沙耶香】
慶一と知り合い、同居をする女性。

【四方田保】
住宅型有料老人グループホーム「アオバ」の職員。

【野々村和也】
建設会社のアルバイト作業員。

【渡辺淳二】
かつて冤罪被害を受けた元弁護士。

【井尾由子】
息子一家を惨殺された女性。若年性アルツハイマー病を患う。

【又貫征吾】
脱獄犯・鏑木を追う刑事。

小説『正体』のあらすじとネタバレ


染井為人『正体』(光文社文庫)

2017年10月。埼玉県で夫婦と2歳の子どもが、家に押し入った男によって惨殺されました。そばには夫の母親・井尾由子が泣きながら座っています。

騒ぎを聞いた近所からの通報を受け駆けつけた警官たちは、現場にいた学生服を着た長身の少年を犯人として、逮捕しました。

少年の名は鏑木慶一、18歳。生まれてすぐに交通事故で両親を失い、事件の現場から徒歩2時間ほどの場所にある養護施設で暮らしている少年でした。

現場の状況から殺人犯として現行犯逮捕された慶一ですが、養護施設の職員たちは模範生の慶一が犯人であるはずないと、口を揃えて言いました。

慶一も自身の容疑を否認しますが、事件の目撃者である井尾由子の証言によって犯人とされます。ですが、井尾由子は若年性アルツハイマー病を患っていたのです。

「記憶に自信が持てない井尾由子が、どこまで事件のことを覚えているのか」と疑問が残るまま、慶一は死刑判決を受けます。

2019年3月。慶一は収監されていた兵庫県・神戸拘置所から脱獄しました。ニュースでは脱獄犯として、くっきりとした二重瞼と鼻筋の通った坊主頭の慶一の写真が公開されました。

脱獄から33日

東京都江東区では「有明テニスの森公園」の施設改修工事がされていました。ここを、2020東京オリンピック・パラリンピックのテニス競技会場とするためです。

土木工事を急ぐため、住所不定者や出稼ぎの男たちが日雇い労働をしています。

ある日、ニット帽をかぶって度のきつそうな眼鏡をかけた若い男が新入りとして入って来ました。彼は皆と一緒に銭湯にもいかず、仲間とあまり接しようとはしません。

その、いつも法律などを勉強をしている変わり者の男に、仕事仲間の野々村和也たちは「ベンゾー」とあだ名をつけます。

しばらくして、仕事仲間の平田が仕事中に怪我をしましたが、会社は補償金など何も用意をしてくれません。和也がベンゾーに「平田さんの当面の生活費を貸してほしい」と相談すると、ベンゾーはいろいろ調べて、会社に見舞い金を出させました。

それから和也とベンゾーの仲は深まります。ですが和也はひょんなことから、ベンゾーが「300万円の懸賞金がかけられた指名手配犯・鏑木慶一」なのではないかと気付きます。

懸賞金に目の眩んだ和也は110番通報しますが、途中で「なんでもありません」と言って途中で電話を切りました。しかし、その一部始終をベンゾーが見てしまいました。

和也は「何も言ってない」と伝えますが、ベンゾーは悲しそうな表情をしてすぐに姿をくらましました。

その後、和也からの通報を受けて不審に思った警察が、作業員の寮に訪れます。刑事・又貫は鏑木と親しかった和也に尋問します。

和也は目を潤ませながら「あいつは無口だから俺は何も知らない」「本当に人を殺したんですか?……あいつはいい奴です」と答えました。

脱獄から117日

東京都渋谷の会社で雑誌の編集をする安藤沙耶香は、給与を渡すために新たに雇った在宅ライターと面会。そのライターは金髪・カラコンで「那須隆士」と名乗っていましたが、実は変装をした鏑木慶一でした。

キャリーケースで面会に来た慶一を見て、沙耶香は家がないのかと思い、その日に食事に誘いました。驚いた様子の慶一ですが、素直について来ました。

意気投合した慶一と沙耶香。沙耶香の申し出もあり、慶一は沙耶香のマンションに住まわせてもらうことになりました。

そんなある日、沙耶香の部屋に元交際相手がやって来ました。彼は強引に家に入り、沙耶香を襲おうとしますが、慶一が止めます。

通報されることを恐れて退散した元彼は、沙耶香に「悪かった。もう会わない」「でも、あの男は脱獄犯の鏑木に似ていないか?」と言いました。

沙耶香は「冗談言わないで」と突っぱねましたが、鏑木の写真を検索すると、非常に似ていたため愕然としました。

沙耶香は「那須隆士」として生活を続ける慶一に不信感を持ちながらも何も言わずに過ごしていたのですが、突然家に又貫刑事と部下がやって来ました。「安藤沙耶香が、鏑木に似ている男と同居している」という通報が入ったと言うのです。

沙耶香は慶一に「刑事が来てるから隠れて!」と言って隠そうとします。慶一は「知っていたんですね。信じて。僕はやっていない」と言って、沙耶香を抱きしめました。

沙耶香は頷き、刑事たちを帰そうとします。しかし一度は帰った素振りをした又貫は、すぐに引き返して強引に家に入り、慶一が隠れたクローゼットを開けました。

クローゼットから飛び出した慶一を捕まえようとする又貫。それを沙耶香が必死に止めて「逃げて!」と叫びました。慶一は窓から逃走しました。

脱獄から283日

長野県・菅平高原の旅館「山喜荘」。そこで住み込みのアルバイトをしている53歳の渡辺淳二は、毎日慣れない仕事をしていました。

淳二は今年の3月まで、都内の中規模法律事務所に所属する弁護士でした。細々ながらも妻子を養い平和に暮らしていたのですが、ある時、女子高校生から痴漢の冤罪をかけられました。

後に痴漢被害に遭った女子高生が「違った」と言ってくれたのですが、現場の動画が拡散されてしまったことで収拾が付かなくなりました。

弁護士の仕事も辞め、外に出るのもおっくうになった淳二。妻の勧めでメンタルクリニックに行ったものの、淳二の言うことを信じてもらえず落胆させられました。

それでも生きていかねばなりません。生活費を稼ぐためにこの住み込みバイトをすることにしたのです。バイト仲間には、スキー目当ての23歳の亜美や、長身の袴田勲という青年がいました。

淳二はある日、勲と一緒に亜美からスノーボードに誘われます。勲はスノーボード初心者でしたが飲みこみが早く、亜美を驚かせました。

淳二の毎日は穏やかに過ぎていたのですが、ある時を境に皆を自分を見る目が冷たくなったのを感じました。

途方にくれた淳二は、勲に理由を聞きます。勲は、淳二がひた隠しにしていた事件の動画を他の仕事仲間が見つけて皆に教えたことを話しました。

淳二は大ショックです。その夜自殺しようと宿を出ようとした淳二。勲が彼を見つけて「やめましょう」と言い、2人は向き合います。沈黙が流れる中で淳二は口を開きます。

「あれは……私はやっていないと言ったら君は信じるか?」「冤罪ですか?それなら僕は信じます」予期せぬ返事に、淳二は涙を流しますが「同情はよしてくれ。君に私の気持ちがわかるのか」と胸の内を吐露しました。

勲は淳二を抱きしめ「僕にはわかります」と力強く言いました。

2019年の大晦日。山荘での最後の仕事をする淳二のもとへ、淳二に渡すはずの給金がなくなったと大旦那が申し訳なさそうに言いに来ました。

盗難ということで警察に連絡がいきました。警察が来るまでの間、勲はトイレに行くと部屋を出て、それっきり戻って来ませんでした。その後すぐに駆け付けた警察は、犯人は勲だと決めつけましたが、真犯人は宿の大旦那でした。

盗難事件のあとすぐに、何台ものパトカーがやって来ました。窃盗の容疑者として勲の顔のわかるものを提出するようにいわれ、仲間の一人が撮った動画から、袴田勲が鏑木慶一だとわかったのです。

皆は驚きましたが、淳二は彼が本当に人殺しだとは思えません。「私は彼を信じる」と、淳二は力強く言いました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『正体』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『正体』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

脱獄から365日

山形県にある宗教団体「救心会」。説法を聞きに来る人々の中に、救心会にのめり込んでいる大久保信代、夫の父親の介護をしている近野節枝、井尾由子の妹・笹原浩子の3人の女性がいました。

ある時、その会場で「久間道慧」と名乗る青年と出会います。それは、一重瞼に整形をした慶一でした。

慶一は「久間道慧」として信代に接触し、信代の紹介で節枝・浩子のパート先であるパン工場「ミノリ製菓」に勤めることに。自己紹介で慶一が「母がアルツハイマー病だ」と言った時、浩子はハッと反応します。

浩子は自分の姉が例の殺人事件の目撃者であることを誰にも言いませんでしたが、いろいろ思い悩むことがあり、近野節枝に一部始終を話します。今姉がどこにいるのかも。そして「確証はないが、久間があの鏑木慶一に似ていると思う」と告げました。

やがて信代の勧めもあり、節枝と浩子は救心会に入会。救心会では、悩みを打ち明ける形で、みな個人情報や家族の情報までをも細かく教祖に話していました。

そのころ世間では「いっこうに捕まらない鏑木慶一は、自分の顔の特徴を変える変装のプロだ」とメディアで噂されていました。また「鏑木を真似た」という模倣犯・足利清人がある夫婦を殺め、逮捕されたことも話題となっていました。

ゴールデンウイークを過ぎたある日、救心会の説教会に、信代の運転する車で慶一・節枝・浩子は行きました。その帰りに、信代は中学生を車ではねてしまいます。

動揺する女たちをしり目に、慶一は被害者の状態を見て、てきぱきと指示を出しますが、警察が来る前にどこかへ行ってしまいました。

それからしばらくして、節枝が詐欺被害に遭いました。犯人は節枝の息子になりすまし「会社の金を使い込んだのがバレた」と電話をしてきて大金を要求され、まんまと騙し取られてしまったのです。

何日もふさぎこむ節枝をドライブに誘った浩子。車中であまりはずまないおしゃべりを続ける中で車が止まった時、後ろから来た原付バイクの男性が窓をノックしました。

男は、姿を消した慶一でした。慶一は「救心会は個人情報を裏ルートに売って儲けている」という情報と、その証拠がまとめられた書類を節枝に渡します。

節枝と一緒にいた浩子は「あなた、これを探るために入会したの?」と驚きます。慶一は「なりゆきです。お世話になりました」と言い残し、バイクでどこかへと走って行きました。

その後、信代が慶一の正体に気付いて、警察に通報。久間が鏑木だったと知った節枝と浩子は驚きを隠せませんでした。

脱獄から455日

千葉県・我孫子市の住宅型有料老人グループホーム「アオバ」。ここは、高齢の入居者18名が共同生活を送っている2階建てのグループホームです。

人手不足に悩むこの施設に、21歳の桜井翔司が求人応募を見て面接に来ました。社長の佐竹と職員の四方田保は、即パート職員として採用。

桜井はすぐに仕事に慣れ、以前からいるように入居者たちと接しています。優秀なパートが来てくれたと保は喜んでいました。

このグループホームには認知症を患っている入居者も多く、そんな彼らに対して何時も優しく接することができる桜井は、とても重宝でした。また誠実な人柄によって、彼はすでに老人たちの人気者となっていました。

1階担当の桜井ですが、なぜか2階の住人たちを気にしていました。このホームの2階には、鏑木慶一が犯人とされた一家惨殺事件の生き残りともいえる、井尾由子が入居していたのです。

井尾由子はいまだ事件のことが記憶の隅にあるとみえ、時々夜中に夢を見て泣き叫びます。

たった一人の身内となった実の妹・笹原浩子から「事件の関係者であることは内密にしてくれ」と言われ、そのことを知っているのは佐竹と四方田だけでしたので、他のスタッフは「由子さん、病気なのね」と心配していました。

実は、桜井は慶一でした。慶一は1階担当なので、2階にいる井尾由子とはほとんど顔を合わせることはありません。たまに顔を見ても、アルツハイマー病の由子は慶一が誰なのか気が付きませんでした。

慶一がアオバにやって来て1ヶ月が経った頃、慶一は四方田に2階担当にしてくれないかと頼みました。

脱獄から488日

新しいパートとして、専門学校を出たばかりの酒井舞がアオバにやってきました。舞は何かと親切に仕事を教えてくれる「桜井先輩」……慶一のことが次第に好きになっていきます。

ですが、なぜか2階勤務になった慶一は、夜勤の時に井尾由子の部屋に行っているようでした。

夜勤が同じになった時、2階へ用事があり行った舞は、慶一が「あの日のことを思い出してください」と井尾由子に話しかけ、由子がパニックを起こす場面を見てしまいます。

何を話しているのかと舞が不思議に思い始めた頃、由子の妹・浩子が面会に来ることになりました。それを知った慶一は「急に体調が悪くなったから」と早退してしまいました。

浩子と会わずに済んだ慶一は、次の日には普通に出勤して勤務をしています。

一方の舞は、由子に何かを言わせようとしている慶一のことが気になり、上司の四方田に由子の過去を聞き出します。そして慶一のことも調べ、彼が偽名を使っている指名手配犯・鏑木だと確信しました。

そのことを四方田に伝える舞。四方田は信じられない様子でしたが、通報はためらっていました。しかし、やはり通報したようで、またしても刑事・又貫たちがやってきました。

舞は慌てて慶一の元へ行き、警察が来ていることを告げます。そこへ又貫が突入して来たので、慶一は舞を人質にとって施設に立てこもりました。

あっという間に夜が来ました。立てこもった部屋で慶一は、あの事件のことを舞に打ち明けます。

学校帰りに悲鳴を聞き、家に入って被害者を介抱していたという慶一。彼は被害者宅の近くですれ違った、黒い服を着た若い男を目撃していました。

由子は何度も警察に事実を話したのですが、アルツハイマー病であることを理由に検察から脅され、その果てに慶一が犯人だと証言してしまったのです。

しかし由子との会話を、慶一はボイスレコーダーに録音していました。それを世の中に公開し、自らの冤罪を証明することが目的だと明かす慶一。

舞は想いを寄せていた彼を信じることにしますが、突然部屋のブレーカーが落とされて真っ暗になり、警察が突入してくるのが分かりました。

舞は誰かに抱えられて「人質確保」の声を聞き、部屋の外へ運び出されました。その後、部屋からはパンッという乾いた音がしました。

正体

舞はアオバでの仕事を辞めました。すると四方田から連絡があり「鏑木慶一さんを救う会」に呼ばれました。

アオバでの立てこもり事件から3日後、とある弁護士から連絡を受けた四方田。彼が指定された場所に赴くと、そこには渡辺淳二をはじめ、野々村和也、安藤沙耶香、近野節枝が集まっていました。

渡辺淳二が皆を集めて慶一の無実を訴え、それぞれに署名や講演会など、地道に活動していると言いました。けれども「慶一が死んでしまっているのに、今更こんな活動して意味があるのだろうか」と舞は悩みます。

思い切って、舞は山形県の浩子の家で暮らす井尾由子を訪ねます。そして「記憶に自信がない」と言いながらも、由子の口からあの事件のことを聞くことができました。

彼女の証言は、慶一が語った通りでした。しかも由子は、自分の近くにいた桜井翔司の正体が鏑木慶一だと、なんとなくわかっていたと言うのです。

ですが、由子は彼に何も言えなかったし、何もしてあげられなかった……泣きながら語る由子の隣で、舞も泣いていました。

慶一はこれまで、どんな思いで逃亡生活を続けてきたのでしょう。どんな思いで生きて、どんな思いで死んでいったのでしょう。舞も張り裂けそうな胸の痛みを覚えていました。

結局、あの一家惨殺事件の真犯人は、慶一の模倣犯を装っていた足利清人だったようです。しかし警察は事実を公にすることなく、時間は流れていきました。

その後、舞は皆と協力して裁判を起こし、勝訴。警察から濡れ衣を着せられ殺された慶一の名誉挽回と無罪を、裁判で見事に勝ち取りました。

小説『正体』の感想と評価

ある殺人事件の犯人が脱獄しました。世間は恐怖におののき、早く逮捕されることを願います。警察も躍起になって犯人の行方を追いますが、犯人は脱獄から1年4ヶ月ほどの間、捕まることなく逃げ切ります。

所持金もなく、身寄りもない脱獄囚がなぜそこまで逃亡を続けたのでしょう。その理由は、自分の無実を証明してくれるただ一人の証人を探していたからです。

脱獄囚・鏑木慶一は、東京オリンピック施設の工事現場、在宅ライター、旅館の住み込みバイト、新興宗教の説教会、人手不足に喘ぐグループホームと、さまざまな場所で働き、目的を果たそうとしました。

むろん偽名を使い、容姿も変えて、自分の過去がわからないようにしています。殺人者で脱獄囚というレッテルを貼られた以上、それがバレたら本当の彼がどんなに優しく優秀であっても、周囲の人は恐れ離れていくからです。

慶一はそんな潜伏生活を送りながらも、自分の正義を貫くために精一杯生き続けました。そんな彼を信じたのが、「鏑木慶一さんを救う会」のメンバーたちでした。

目撃者である井尾由子が、若年性アルツハイマー病であったため、その証言は真実味にかけるとされ、警察から殺人犯にされてしまった慶一。

真犯人が他にいるとわかれば警察の威信に関わるため、最後には慶一の命まで奪った警察。両者を見ると、罪を人に被せる冤罪の怖さがひしひしと伝わってきます。

それでも「僕を信じて」と必死に訴える慶一の叫びは、周囲の知人たちに届き、彼の無実を証明できたことに深い感動を覚えました

映画『正体』の見どころ


(C)2024 映画「正体」製作委員会

映画『正体』の見どころの一つは、鏑木慶一の逃走劇でしょう。

慶一は逃走するために、金髪にしたり、髭を生やしたりと、彼が行う変装は見応えあります。後半では闇医者の整形手術も受けて顔の印象を変えてもいます。

常に頭を働かせ、探し求める人の情報や追ってから逃げ切る情報を敏感に取り入れる鏑木慶一。彼と出会う人々は、悩みや心のどこかに傷を持つ人々でした。

彼は出会った人を誰一人として傷つけることなく、かえって窮地を救ったりしています。警察が来たとなると、さっと逃げる危機察知の速さも大したものです。

今回の映画化にあたり、藤井道人監督は実力派の人気俳優をキャスティング。沙耶香役に吉岡里帆、和也役に森本慎太郎、舞役に山田杏奈、そして刑事・又貫役には山田孝之といった面々が揃いました。

ですが主人公・鏑木慶一のキャストだけは明かされず、シークレットになっています。果たして、この優しく頭の良い不運な青年役は誰が演じるのでしょうか。

小説では鏑木慶一は、21歳の180㎝近い長身の若者となっています。年齢的には少しお兄さんですが、過去に藤井道人監督作『ヴィレッジ』(2023)でも主演を務め、目の表現力と役に没頭できる演技力のある横浜流星がピッタリではないでしょうか

あくまで予想ですので、どなたが主役になっても、リアルな鏑木慶一を表現するでしょう。小説同様に周囲の登場人物が「脱獄犯・鏑木慶一の物語」を盛り上げてくれるのは間違いありません

映画『正体』の作品情報

【日本公開】
2024年(日本映画)

【原作】
染井為人『正体』(光文社文庫)

【監督】
藤井道人

【脚本】
小寺和久、藤井道人

【キャスト】
吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、山田孝之

まとめ

小説『正体』をネタバレありでご紹介しました。

同小説は2022年3月12日よりWOWOWドラマとして、中田秀夫監督が亀梨和也を主役に製作し、放送・配信開始されました。そして今回は新たに、藤井直人監督が実力ある俳優陣を招いて映画化が決定されました。

小説では不運な死を迎える鏑木慶一。彼には生きて冤罪が晴れた後の輝かしい人生を歩んでほしかったと思う反面、彼の死を無駄にせずに冤罪の汚名を晴らした仲間たちの努力が実った結末も素晴らしいです。

2022年のWOWOWドラマは、小説とは違う結末でした。果たして映画では、鏑木慶一はどのような結末に至るのでしょうか。公開が待たれます。

映画『正体』は2024年11月29日(金)に全国公開! 




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