“バズり”が思わぬ事態を引き起こす闇を描いたスリラー
映画『＃スージー・サーチ』は、ドラマ「メンタリスト」シリーズに出演し、女優として活躍するソフィー・カーグマンが手がけた初の長編映画。
主人公スージーを演じたのは、『さよなら、僕のマンハッタン』（2017）のカーシー・クレモンズ。ジェシーを『ヘレディタリー／継承』（2018）のアレックス・ウルフが演じました。
ポッドキャストで未解決事件を追っているスージー。しかし、フォロワーは伸び悩んでいます。
そんな時、大学の同級生でインフルエンサーのジェシーが失踪する事件が。スージーは独自に捜査をし、なんと発見することに成功します。
一夜にして有名人になったスージーを取り巻く環境は変わっていきます。注目を浴びる快感を感じつつも、次第にスージーは焦り始めます。それには訳がありました……。
映画『＃スージー・サーチ』の作品情報
(C)2022 Susie Production Inc All Rights Reserved.
【日本公開】
2024年（アメリカ映画）
【原題】
Susie Searches
【監督】
ソフィー・カーグマン
【脚本】
ウィリアム・デイ・フランク
【製作】
アダム・ミレルズ、ロビー・ミレルズ
【キャスト】
カーシー・クレモンズ、アレックス・ウルフ、ケン・マリーノ、ジム・ガフィガン
【作品概要】
SNSの普及により、“バズり”を求める人々の深層心理を鋭く描いたスリラー映画『＃スージー・サーチ』。
監督を務めたのは、ドラマ「メンタリスト」シリーズに出演し、女優としても活躍するソフィー・カーグマン。本作の前身となる短編『Susie Searches』（2020）で監督デビューを果たしています。
初の長編作となった『＃スージー・サーチ』は、第47回トロント国際映画祭・ディスカバリー部門をはじめ、パームスプリングス国際映画祭、サンタバーバラ国際映画祭で上映され注目を集めました。
映画『＃スージー・サーチ』のあらすじとネタバレ
(C)2022 Susie Production Inc All Rights Reserved.
母が読み聞かせしてくれる推理小説の犯人を、すぐに当ててしまうスージー・ウォリス。そんなスージーに母は「あなたの才能を世に広めなくっちゃ」と言います。
大学生になったスージーは、多発性硬化症（MS）になった母の介護をしながら、ポッドキャスト番組「スージー・サーチ」を立ち上げます。未解決事件の考察を配信しますが、反応はなく、フォロワーも伸びません。
ある日、スージーはインターンとして手伝いをしている保安官事務所で、同じ大学に通うインフルエンサーのジェシー・ウィルコックスが失踪したことを知ります。
不動産王を父に持ち、瞑想の動画をあげてバズっているジェシーの失踪は、アルバイト先のバーガーショップ、大学構内など様々なところで噂が飛び交います。
その状況を見たスージーは、独自に調査を始めます。スージーが犯人だと目星をつけたのは、ジェシーの叔父です。
叔父は逮捕歴があり、それを理由に兄であるジェシーの父から会社をクビにされています。それを逆恨みしてジェシーを誘拐したのでは、というのがスージーの推理でした。
さらにジェシーの持っている不動産を調べ、その一つを調査しに行きます。家には誰もいませんでしたが、怪しげな地下室があることに気づきます。
地下室には足跡があります。そのまま進んでいくと手を縛られた男性が飛びかかってきました。スージーは男性の目隠しを外します。するとその男性はジェシーでした。
「あなたを助けにきたの」というスージーに、ジェシーは抱きついて泣きだします。
保安官は「まだ犯人が捕まっていないため、発見者の名前は報道しない」としますが、すでにスージーのポッドキャストは注目を浴び、ジェシーを助け出したのはスージーだと知れ渡っていました。
一躍「時の人」となったスージーは、大学でも街中でも英雄として持ち上げられるようになります。フォロワーも増え、孤独なスージーの承認欲求が満たされていきます。
(C)2022 Susie Production Inc All Rights Reserved.
全て順調かのように見えたスージーですが、そこには大きな秘密がありました。スージーは車を走らせ、どこかに向かいます。
森の前で降りると歩きだし、枯葉の中に埋められた自転車に乗り、ある倉庫の前にやってきます。その倉庫の中にあったのは、ジェシーの動向を観察した無数の写真やメモ、そして変装に使ったかのような衣類、ジェシーが身につけていたものでした。
ジェシーを誘拐した犯人は、スージー本人だったのです。スージーは以前からジェシーの動向を探り、誘拐する計画を立てたのでした。
証拠品を燃やし処分したスージーは、誘拐したという罪悪感などからジェシーを避けていましたが、強引な校長によってジェシーとテレビ番組に出演させられることに。
うまく話せないスージーを、ジェシーは「英雄だ」と褒め称え、感謝の気持ちを伝えます。そして、ごく自然にハグをするジェシーにスージーはときめきを感じ始めます。
ある日、ジェシーはスージーを食事に誘います。どきどきしながら待ち合わせのお店に向かうと、ジェシーは友人らと待っていました。
スージーのファンだというレイは、スージーに質問を投げかけます。スージーが答えようとすると「なぜ一言一句、同じことを言うんだ？」と言われてしまいます。
動揺したスージーは、することがあるからと帰ります。突然帰ってしまったスージーをジェシーは追いかけ、2人は打ち解けて話し始めます。
ジェシーはスージーをすっかり信用していますが、レイは信用できず、スージーを尾行します。尾行に気づいたスージーが「なぜ私をつけるの？」というと、レイは「ジェシーを利用しないで、いい人だけれど繊細なんだ」と答えます。
やがて、スージーとジェシーは学校の宣伝のため、全国区のニュース番組に出るために泊まりで向かうことになりました。
番組出演を終えホテルで話している2人でしたが、ジェシーは電話で自分を誘拐した犯人は叔父ではなかったことを告げられます。
ジェシーの叔父は、この半年間ペルーにいたというのです。アリバイが立証され、ジェシーは叔父に申し訳ないことをしたと、すぐに帰ることにします。
1人で泊まっても面白くないと、スージーもともに帰ることに。家に着いたスージーは物音に気付き、警戒しながら侵入者と対峙します。そこにいたのは、レイでした。
泊まりで出かけることを知っていたレイは、スージーが何か隠していることがあるのでは、とスージーの家に侵入していたのです。そこでレイが見つけたのは、誘拐されたその日にジェシーが被っていた帽子でした。
スージーは自分が犯人であることがバレてはいけないと、証拠品を取り返そうとします。ところが揉み合いの果てに、レイはなんと窓から落ちて亡くなってしまいます。
動揺しながらも、調べた知識でレイの遺体を運び、自殺にみせかけるスージー。警察も自殺だと判断していましたが、ただ1人、レイは自殺ではなく他殺だと信じる人がいました。それはジェシーです。
ジェシーはスージーに「自分とレイは恋人同士だった」と、誰にも言っていない秘密を打ち明けます。レイはこの週末1周年記念で旅行に行こうと話し、ホテルの手配などは全てレイがやっていたと言います。
「そんなレイが自殺をするわけがない」「2人で協力して犯人を見つけよう」というジェシーに、スージーは曖昧な返事で、被害者と距離が近すぎるから公平な調査ができないと断ります。
さらにジェシーが誘拐されていた地下室から毛髪が発見され、スージーは追い詰められていきます。真犯人を仕立て上げるため、スージーはフォロワーに呼びかけ、皆の考察や情報を集めます。
スージーが犯人に仕立て上げる人物として選んだのは、バイト先の店長でした。学生の頃から動物に虐待をし、逮捕や精神病院に入院したという過去があることや、父親が資産家であることを突き詰めていきます。
バイト中にこっそり店長の毛髪を採取すると、次は保安官事務所に向かいます。当番をしている保安官に下剤入りのプロテインを差し入れし、わざと「一気に飲むと消化不良になるかも」と煽り、保安官は「そんなの平気だ」と一気に飲んでしまいます。
しばらくしてお腹を下した保安官がトイレに向かうのを確認したスージーは、鍵を借りて事件の証拠品の中に、入手した店長の毛髪を入れます。
そして、ポッドキャストに録音を残し、1人で店長の家に侵入していきます。地下室に向かったスージーが目撃したのは、様々な動物の剥製でした。
店長の異常性に驚いているスージーの背後に店長が現れ、逃げ出そうとするスージーに襲いかかってきます。スージーはやっとの思いで逃げ、鍵を閉めて閉じこもります。
その際に電話をして、「襲われているから助けてほしい」とSOSを出します。その間にも店長は斧を振り回し、ドアを開けてしまいます。逃げ場のないスージー。
今にも殺されそうになった瞬間、背後から保安官が発砲し、撃たれた店長はスージーの方に倒れてきます。事件は「解決」したことになり、スージーは身の危険を顧みず真犯人を捕まえようとした英雄となります。
真犯人を作り上げた上に、その真犯人は撃たれて亡くなり、スージーは自分の犯罪がバレることはないと安心しきり、ジェシーとともに出演したニュース番組で「深呼吸をして……」と、母から教わったことを話し始めます。
スージーが話したことは、捕らえられていたジェシーが聞いた内容と全く同じでした。そこでやっとジェシは、がスージーのしたことに気づくのでした……。
映画『＃スージー・サーチ』の感想と評価
(C)2022 Susie Production Inc All Rights Reserved.
“バズる”ことの闇を描いた映画『＃スージー・サーチ』。
友達がいないスージーは、ネットの世界においても誰にも相手にされていません。注目されたい、認められたいという承認欲求が肥大化した結果、自分で誘拐事件を起こし、誘拐されたジェシーを発見することで見事注目を浴びることになります。
ポップな世界観で描かれていますが、スージーは承認欲求が肥大化した結果、越えてはいけない一線を越えてしまいます。
ある意味モンスター化したとも言えますが、スージーを怪しむ人物はいても、そのモンスター性が世間の知られるまでには至っていないところで映画は終わります。
『メインストリーム』（2021）においても、過激な人物の言動をバズるために利用していたが、次第にそのモンスター性に気付き、取り返しのつかない結果になっていく様を描いていました。
そのような人物がモンスター化してしまう背景には、過激さを求める大衆がいることも忘れてはいけません。
SNSが身近なものとなった現代社会。誰もが発信でき、拡散することも可能となり、再生数、いいねの数、拡散数……と数字にとらわれてしまう人が増えてきた傾向にあります。
動画配信者も誰かと違うことをして注目されようと過激化してしまい、越えてはいけない一線を越えてしまった人もいるのではないでしょうか。
スージーの行動は、フィクションの世界と切り離して見ることはできないのです。殺人など法律を犯すまでの人はいないとは思いますが、私警察などで配信で誰かを断罪するような人も実際に現れています。
そしてそのような動画の再生数が伸び、面白がる大衆もいるのが現状です。無邪気な大衆は面白がり持ち上げるも、飽きたら見なくなります。
注目され続けるために過激化していく配信者たち。本作ではそこまで描かれてはいませんでしたが、スージーは一度持ち上げられても、次第に忘れ去られていったことでしょう。
メディアも注目の人物を無邪気に取り上げますが、その事件の背景や、どのような人物なのかきちんと精査して取り扱っているわけではありません。メディアや大衆によるバズコンテンツの消費は、消費される側のことを全く考えていないのです。
そんな中で、数字に翻弄され、SNS疲れする人々も増えてきました。そのような流れで起きたムーブメントの一つが「ラブマイセルフ」でしょう。
芸能人を中心に自分を大切にすること、ピースフルでポジティブなマインドでいることが提唱され始めました。劇中で話題となっているジェシーの動画もそのようなムーブメントの一つと言えます。
ジェシーは心を落ち着かせるために瞑想を取り入れ、人々に勧めています。しかし、そんなジェシーも「瞑想は初心者なんだ、それにいつも再生回数やフォロワー数を気にしている」とスージーに本音を話します。
ピースフルな発信ですら、再生回数を稼ぐ手段ともいえる矛盾。現代人はSNSで過激なものや面白いものを求める一方で、過激さやヘイトに疲れています。
そのような現代人の闇と、消費されるコンテンツの中で何とか注目を浴びようとする人々、SNSを巡る様々な闇に切り込みつつ、そこからスリラーとして昇華したのが本作です。
まとめ
(C)2022 Susie Production Inc All Rights Reserved.
SNSの闇を描いた映画『＃スージー・サーチ』ですが、それだけではない様々な要素が複合されています。
劇中に登場せず、母親の介護もスージーが担っていることからスージーには父親がいないことが推測されます。スージーは母親の介護をしながらアルバイトもし、大学に通う、ヤングケアラーと言えます。
しかし、スージーがヤングケアラーであることは、さほど物語の要素としていきているわけではありません。そんなスージーがジェシーに目をつけたのは、ジェシーが不動産王の息子で、SNSでも注目されているインフルエンサーだったからでしょう。
スージーとジェシーは持たざる者と持っている者と大きな違いがあります。最初スージーは憧れのような気持ちとどこか羨む気持ちがあったのではないでしょうか。
だからこそ、誘拐の計画を思いついたのでしょう。スージーは、ジェシーを救出した後、誘拐した時の罪悪感などを感じ、うまく話せなくなる様子が描かれていました。
そんなスージーがジェシーと何でも話せるようになったのは、ジェシーの人の良さやスージーを頼りにしている素直さが関係しています。
孤独なスージーは、母以外に必要とされたり、尊敬されることがなかったのでしょう。変人扱いもせず、英雄だとスージーに感謝するジェシーの素直さに罪悪感がほぐていったのでしょう。
そしてスージーのジェシーへの想いは恋心に変わっていきます。そんな恋心もジェシーが同性愛者であることを知って、砕け散ります。
恋心が砕け散るとともに、スージーの計画にも綻びが出始めていきます。予想できない展開の中、スージーにとって有利にことが運んだところで終わるのではなく、安心し切ったスージーが自ら墓穴を掘ってしまうところで終わる意地悪さが、この映画の良さなのです。
