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Entry 2023/02/04
Update

【ネタバレ】FALLフォール|映画ラスト感想解説と結末あらすじ評価。電波塔/鉄塔は“超巨大地縛霊”?おすすめサバイバル洋画が“心霊ホラー”な理由

  • Writer :
  • 岩野陽花

ようこそ、地上600メートルの絶望へ

水と食料はなく、スマホの電波も通じず、鉄塔の周りには人影もない……“地上600メートルの絶望”に立たされた時、人間は生き残れることができるのか。

映画『FALL/フォール』は、“地上600メートル”の高さを誇る老朽化した超高層鉄塔……の頂上へととり残されてしまった二人の女性の末路を描いた“高所”サバイバル・スリラーです。

夫を落下事故で亡くした主人公を『シャザム!』などで知られるグレイス・フルトン、その親友を『ハロウィン』のヴァージニア・ガードナーが演じた本作。

本記事では映画『FALL/フォール』のネタバレ有りあらすじの紹介とともに、本作の“衝撃”の展開が“必然”の展開である理由、映画の肝にあたる超高層鉄塔が“超高層地縛霊”でもある理由などを考察・解説していきます。

映画『FALL/フォール』の作品情報


(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2023年(イギリス・アメリカ合作)

【原題】
FALL

【監督】
スコット・マン

【脚本】
ジョナサン・フランク、スコット・マン

【キャスト】
グレイス・フルトン、ヴァージニア・ガードナー、ジェフリー・ディーン・モーガン、メイソン・グッディング

【作品概要】
超高層鉄塔にとり残されてしまった二人の女性の末路を描いたサバイバル・スリラー。『ファイナル・スコア』『タイム・トゥ・ラン』などのアクション映画で知られるスコット・マンが監督を務めている。

夫を落下事故で亡くした主人公ベッキーを『シャザム!』(2019)などの話題作に出演するグレイス・フルトン、その親友ハンターを『ハロウィン』(2018)のヴァージニア・ガードナーが演じるほか、「ウォーキング・デッド」シリーズなどで知られるジェフリー・ディーン・モーガンが出演。

映画『FALL/フォール』のあらすじとネタバレ


(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

山でのフリークライミング中に起こった落下事故により、夫ダンを亡くしたベッキー。事故から一年近くと経とうとしている現在も、悲しみから抜け出せずにいました。

ダンの遺灰を葬ることもできないまま酒に溺れ、生前の彼がスマホの留守番電話に登録していた応答メッセージを聴くたびに、涙を抑えられない……。

そんなベッキーのことを、彼女の父は日頃から心配し励まそうとしていました。しかしながら、亡くなったダンに対して「そこまで立派な男でなかった」と口にした父の言葉に、ベッキーが耳を傾けることはありませんでした。

自殺さえ考えてしまう日々の中、ベッキーの元に親友のハンターが久しぶりに訪ねてきました。

世界各地の危険な場所を冒険しながら、「デンジャーD」という名前でYouTuberとしても活動しているハンター。ダンの落下事故の現場にも居合わせていた彼女は、悲しみに打ちひしがれ続けているベッキーを立ち直らせるべく“ある計画”を持ちかけます。

それは、現在は使用されていない“地上600m”もの高さを誇る超高層鉄塔「B67テレビ塔」の頂上部まで登り、記念の動画撮影を行うというもの。

ダンの落下事故以来クライミングを止めていたベッキーは一度は断ろうとしますが、ハンターとの会話の中で生前のダンが口にしていた「生きることを恐れるな」という言葉を思い出し、ハンターとともに鉄塔を登ることを決意します。

鉄塔クライミングの決行当日。前日に泊まったモーテルで「血に塗れたダンとベッドでともに眠る」という悪夢を見てしまったものの、ベッキーはハンターとともに車で鉄塔へと向かいます。

鉄塔に続く出入口は封鎖されていたものの、車を止めたのちに出入口を乗り越えた二人は、ついに鉄塔へと到着。その高さを目の当たりにしたベッキーは、登るのを止めようとします。

しかし、ダンの死に同じくショックを受けたものの、自力でその恐怖から乗り越えたと語るハンターの「私はずっとそばにいる」という言葉に動かされたベッキーは、ハンターと互いの体に命綱のロープをつなげ、鉄塔の登頂へと挑み始めました。

錆びたハシゴは登るたびに軋み、鉄塔各所のボルトも酷く傷んでいることに気づきながらも、登り進める二人。中腹部の時点でエッフェル塔や東京タワーの高さをも超えてしまい、恐怖と戦い続けた果てに、ついに二人は鉄塔頂上部の足場へと到着しました。

持参していた自撮り棒やドローンで、命知らずな記念撮影をするハンターと、それに付き合わされるベッキー。

またベッキーは鉄塔の頂上部から、長い間葬ることができずにいたダンの遺灰を撒きました。それが、彼女が鉄塔の登頂を決意したもう一つの目的でした。

ダンが亡くなったことを改めて実感できたベッキーと、彼女とともに涙するハンター。全ての目的を無事達成し終えた二人は、鉄塔から降りることにします。

ところが、鉄塔内部と頂上部の足場をつなぐハシゴをベッキーが降り始めた途端、ボルトが外れてしまったことでハシゴが崩落。ベッキーは危うく落下しそうになりますが、命綱のロープをつないでいたハンターの機転により、頂上部の足場へと戻ることができました。

鉄塔内部と頂上部の足場をつなぐハシゴは完全に崩落し、鉄塔内部へと降りられる“足がかり”になるようなものもない。また頂上部の足場は、近くに取り付けられているテレビ用アンテナの影響か電波が圏外であり、救助を呼ぶ電話・メールを発信することもできない。

頂上部の足場に備品として設置されていたのは、双眼鏡とフレアガン(信号弾用拳銃)のみ。ハンターが双眼鏡で辺りを見渡してみたものの、周囲には民家も店もない。

またベッキーが落下しかけた際に、水などが入っていたバッグは、とても手が届きそうにない場所に設置されたテレビ用アンテナの上に落ちてしまった……。

一瞬にして絶対絶命の状況に陥ってしまった二人。足にケガも負ったベッキーはパニックになりかけますが、「誰かがハシゴの落下音を聞いたはずだから、いつかは通報され救助もやってくる」というハンターの判断のもと、二人は頂上部の足場で助けを待つことにしました。

早速心が荒み始めてしまうものの、本音を言い合ったことで絆を取り戻した二人。やがて双眼鏡によって、放置車である可能性が高いものの、鉄塔の出入口の少し先にキャンピングカーが止まっていることにも気づきました。

ハシゴ崩落から5時間が経過したものの、一向に助けは来ません。やがてハンターは「鉄塔に登り始める直前」……つまり「鉄塔の真下」では電波が通じていたことを思い出し、スマホをロープにつないで電波が通じる場所まで降ろす作戦を提案します。

ハンターのYouTuber活動用のSNSアカウントで救助メッセージを作成し、電波が通じた瞬間に送信できるように準備した上でスマホを限界まで降ろしますが、電波はつながりません。

ベッキーはスマホだけを地面に落下させ、落下する間あるいは地面に落ちた瞬間に電波が通じる可能性に託す作戦をさらに提案。ハンターはクッションの代わりとなる自身の片方のスニーカーと靴下、ブラジャーでスマホを包み込むと、地面へと落としました。

やがて、鉄塔の出入口のそばに男が立っていることに気づいた二人は必死に叫びます。しかし男は電話をしていたため、スマホの落下音も、二人の助けを呼ぶ声も届きませんでした。

慌ててフレアガンを撃とうとするベッキーを「男はこちらを見ていない」とハンターは制止します。そして、例のキャンピングカーにも男の仲間らしき人影があったことに言及した上で、より信号弾の光が目立つ日没後に撃つことを提案しました。

日没後、トラブルがありつつも二人は無事フレアガンを撃つことに成功し、キャンピングカーの男たちにも存在を気づいてもらえました。しかし男たちは鉄塔の出入口に止めてあったハンターたちの車を盗むだけ盗むと、その場を後にしました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『FALL/フォール』ネタバレ・結末の記載がございます。『FALL/フォール』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

真夜中を迎え、「眠ったら、頂上部の足場から落下する」という睡魔の恐怖と戦う二人。ハンターは「どちらかが落ちる時は、スマホを持って通報しよう」と冗談めいた約束をします。

ベッキーは、スマホ落下作戦の際にハンターが左足のスニーカー・靴下を脱いだ際に気づいた、彼女の左足に彫られている「143」という数字のタトゥーについて尋ねます。

ベッキーは「143」という数字に心当たりがありました。その数字は、ダンが生前「I LOVE YOU」の代わり(各単語の文字数を表している)に口にしていた、二人の間でだけで使われていたはずの特別なスラングだったのです。

実はベッキーとの結婚を控えていた頃、ダンはハンターと浮気をしていました。

関係を誘ってきたのはダンであったこと。花嫁の付添人を頼まれた時に胸が張り裂けそうだったこと。親友であるベッキーが大事だったからダンとも別れたこと。それでもベッキーへの罪悪感とダンへの複雑な思いは拭い切れず、結果ダンを失ったベッキーを支えることもできなかったこと……。

全てを明かし「憎んで当然」「取り残されてるのも私のせい」と謝罪するハンター。ベッキーは彼女を責めることなく、ただ静かに涙を流しました。

ハンターのスマホを落としてから、24時間が経過しました。ベッキーのスマホのバッテリーはまだ残ってはいるものの、もし再びスマホ落下作戦を決行したとしても、失敗した場合にはいよいよ救出の望みが絶たれることになります。

ハンターはテレビ用アンテナに落ちたバッグの中に、ドローンも入っていることを思い出します。そしてドローンを操作して人がいる市街地へとメッセージを運ぶためにも、命綱用のロープを使ってギリギリまで降下し、アンテナに飛び移ってバッグを回収する作戦を提案します。

ハンターのあまりにも危険な作戦を止めようとするベッキー。しかし「やるしかない」「私が落ちたら清々するでしょ」と答えたハンターは、頂上部の足場にある支柱に命綱用のロープをくくりつけると、「ごめんね」「愛してる」という言葉とともに降下を始めました。

ハーネスのカラビナからロープを外してしまい、腕の筋力だけでぶら下がることでアンテナとの距離を縮めたハンターは、アンテナに飛び移ることに無事成功しました。

ハンターはドローンの入ったバッグを回収。そして自撮り棒を使ってバッグをロープに引っかけた後、再び決死の覚悟でロープへと飛び移ります。

ハンターが掴むことのできたロープを、ベッキーは引き上げます。ところが彼女の筋力が足りず、後少しで引き上げ切れるというところでロープごとハンターを落下させてしまいます。

ベッキーが怯えながらも下を覗き込むと、そこにはかろうじてロープに手離さずに済んだハンターの姿がありました。ベッキーは必死の思いでロープを引き上げ直し、ハンターは頂上部の足場へと戻ることができました。

同じくバッグの中にあったレシートとアイライナーで書き記したメッセージをドローンに託し、クライミング前日に泊まったモーテルに続く道へと飛ばす二人。

ところがドローンのバッテリーが残りわずかであり、とてもモーテルまでたどり着けそうにないことに気づいた二人は、ドローンを元の鉄塔頂上部の足場まで引き返させます。

「ハンターがいない鉄塔頂上部の足場で、ハゲタカたちに襲われ、生きたまま食われる」という悪夢とともに一夜を明かしたベッキー。

やがて彼女は、ハンターがクライミング前日に寄ったレストランで教えてくれた“充電の裏技”を思い出すと、鉄塔の先端に設置されている電灯を取り外し、ソケット金具に直接ドローンのバッテリープラグを押し当てて充電を行うことを考えつきます。

ハンターに励まされながらも、一切の足がかりがない支柱を登り切って鉄塔の先端に到着できたベッキーは、作戦通り電灯を取り外し、ドローンのバッテリープラグをソケット金具に押し当てようとします。ところが、プラグが思いの外短かったせいで、ソケット金具に届きませんでした。

「ソケット金具とプラグをつなぐために、通電できる金属が必要」というハンターの言葉を聞いたベッキーは、結婚指輪をソケット金具にはめ込んだことで、ドローンの充電に成功します。

充電自体は成功したものの、ベッキーはバッテリーが十分に充電できるまで、ドローンを抱えたまま支柱にしがみつき続けなくてはなりません。

照りつける太陽のみならず、ベッキーの足の傷から漂う血の匂いを嗅ぎつけたハゲタカたちも彼女に襲いかかりましたが、ベッキーは最後まで耐え続け、ドローンのバッテリーのフル充電を完了させました。

正しい助言をしてくれていた父への謝罪と感謝を口にしながらも、モーテル付近の屋外に人が多くいるであろう時間……モーテルのチェックアウト時間・10時になるのを待ったベッキーは、ハンターに見守られながらドローンを飛ばします。

ドローンは順調に飛び続け、ついに目の前にはモーテルが見えてきました。モーテル前の交差点を横切ろうとした瞬間、ドローンはカメラの死角から走ってきたトラックと衝突。トラックの運転手も、地面に落ちたドローンの残骸を確かめることなく立ち去ってしまいました。

唯一の希望と思っていたドローンによる作戦も失敗。彼方で起きている嵐を目にしたベッキーは「もう夜は乗り越えられない」と絶望を口にします。それでもハンターは、ハゲタカに襲われないためにも「何か食べて」と彼女に助言します。

例のスマホ落下作戦を再び行おうと考えたベッキーは、自身のスマホを保護するべく、もう片方のスニーカーを渡すようハンターに求めます。

ところが「貸せない」と答えたハンターは、ベッキーの方へと振り向きます。悲しげな彼女の顔は、致命傷といえる大ケガを負っていました。

ベッキーが怯えながら下を覗き込むと、そこにはアンテナの上に倒れ、ハゲタカに屍肉を食まれ続けるハンターの姿がありました。

実はハンターはバッグの回収時、ベッキーが引き上げ損なった際にロープへ掴まることができず、そのままアンテナに落下したために絶命していました。そしてベッキーは、親友を死なせてしまったことへのショックから現実を受け入れられず、ずっとハンターの幻影と過ごしていたのです。

現実に気づいてしまい、一人泣き叫ぶベッキー。やがて嵐が近づき鉄塔が大きく揺れだす中で、彼女は自身の父に宛てたメッセージ動画をスマホで残しました。

嵐が過ぎた翌朝。ひとり鉄塔頂上部の足場で、身動き一つしないまま座り続けるベッキーの元に、彼女の死を待ち続けていたハゲタカが寄ってきます。

ハゲタカが例の足の傷から肉を食み始めたその瞬間、“死んだフリ”を続けていたベッキーはハゲタカの首を掴むと、ねじ切れるほどの勢いで絞め殺しました。そして「何か食べて」というハンターの助言通り、ハゲタカの肉を必死に食らいました。

生きるための糧を得られたベッキーは、再び行うスマホ落下作戦を絶対に成功させるべく、ハンターがバッグを回収しようとした時と同じ方法でアンテナに飛び移ります。

ハンターの遺体の手を握り「大好きよ」と告げるベッキー。父へのメッセージ送信を準備し終えた彼女は、スマホをハンターのもう片方のスニーカーの中へと入れます。

そして、スマホをより確実に保護するために、スマホ入りのスニーカーをハンターの遺体の腹部へと詰め込むと、遺体を地面へと落としました……。

娘からのメッセージが届いた父は、車で鉄塔へと駆けつけます。現場にはすでに、救助隊や警察も到着していました。

落下したハンターの遺体を回収した袋を見て「間に合わなかった」とベッキーの父は一瞬勘違いしてしまいますが、彼女は救助隊により無事助けられていました。

責めることはせず、無事生還したことを何よりも喜び続ける父に、ベッキーは「心配しないで」「もう大丈夫。私は平気よ」と答えました……。

映画『FALL/フォール』の感想と評価


(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

“衝撃”ではなく“必然”の展開な理由

「バッグを回収し終えた際のアクシデントの時点で、ハンターはすでに命を落としていた」という現実を受け入れることができなかったが故に、その後長きに渡ってハンターの幻影を見続けていたベッキー。

「現実から目を逸らし続ける」というベッキーの心理がもたらしたその衝撃の展開は、映画冒頭の時点から描かれ続けてきた彼女の姿を振り返ってみると、ある意味では“衝撃”ではなく“必然”のものだったといえます。

夫ダンを失った悲しみから立ち直れずにいたベッキーは、亡くなったダンを「そこまで立派な男でなかった」と評した自身の父と不仲にありました。また映画作中で描かれた、ベッキーとダンの結婚式の記録動画に映り込んだベッキーの父の表情からも、彼はダンとの結婚自体に反対していたことが察せます

しかし映画後半部にてベッキーは、ダンがハンターと浮気をしていたこと、少なくともハンターの側は「143」のタトゥーを彫るほどにダンを愛してしまっていたこと、ダンは結婚を控えていた自身を裏切るだけでなく、大切な親友の心も深く傷つけていたことを思い知らされます。


(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

それは、“ダンの本性”という現実が露わになった瞬間であると同時に、ベッキーがその現実から目を逸らし続けてきた自身に気づき始めた瞬間でもありました。

親友のハンターが知らないところでずっと苦しみ続けていたのは、ダンのせいだけでなく、現実から目を逸らし続けていた自分にも一因があるのではないか」……そう感じたからこそ、ベッキーは告白を聞き届けた後もハンターを責めず、ただ涙を流したのではないでしょうか。

そして、ベッキーがのちの場面にて父への謝罪と感謝を口にしたのも、“ダンの本性”という現実を突きつけられたことで、かつてはWWEの試合を一緒に楽しむほどに仲良しだった父娘を仲違いさせてしまっていたのは、現実から目を逸らし続けてきた自分自身に原因があったと気づいたからこそでもあります。

一見すれば“衝撃”の展開と受け取れる、ハンターの死とベッキーが見続けていた幻影。しかしその展開は、ベッキーが“現実から目を逸らし続けてきた自分”に気づき、現実に少しずつ向き合おうとする過程の果てに描かれた“必然”の展開だったのです。

超高層鉄塔という名の“超巨大地縛霊”


(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

本作の主な舞台であると同時に舞台装置であり、“地上600メートル”という高さによってベッキーたちに“絶望”を与える存在でもある超高層鉄塔。作中では「現在は使用されておらず、すでに解体も決定されているテレビ電波塔」という設定で描かれています。

存在意義を失ったにも関わらず、そこに立ち続けているもの」……もし“存在意義”という言葉を“生きている理由”と解釈できるのだとしたら、それは「鉄塔」というよりも、むしろ「地縛霊」を説明する表現と言われた方が納得できるかもしれません。

生きている理由を失い、「すでに死んでいる」といっても過言ではないはずなのに、ただそこに立ち続けている鉄塔

もはや「鉄塔」ではなく「地縛霊」と化している鉄塔に、死にゆく者の肉を食むことで“完全なる死”をもたらそうとするハゲタカが集うのは、決して「その場から身動きがとれず、衰弱してゆく一方のベッキーとハンターがいたから」という理由だけではないはずです。


(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

「超高層鉄塔」ならぬ「超巨大地縛霊」とも解釈できる『FALL/フォール』の鉄塔。それに近づき、あまつさえ頂上部にまで登ってしまったベッキーたちの命知らずの行動は、地縛霊が出現する場所に足を踏み入れるどころか、地縛霊の口の中へ自ら飛び込んだのと同義といえます。

またベッキーたちが陥った「鉄塔頂上部から身動きがとれなくなる」という状況も、地縛霊を描いたフィクション作品で度々見られる「地縛霊はその地に足を踏み入れた者も、自身と同じように土地へ縛りつけてしまう」という設定を連想させられます。

もし『FALL/フォール』が「超高層鉄塔が舞台のサバイバル・スリラー映画」であると同時に、「超巨大地縛霊が出現するホラー映画」だとしたら……。

映画作中、「現実を受け入れられなかったベッキーの心理が生み出したもの」として描かれているハンターの幻影にも、「鉄塔という地縛霊に飲み込まれ、同じく地縛霊と化してしまったハンター」という新たな解釈が見出せるのかもしれません。

まとめ/鉄塔のような“脆い自立”


(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

存在意義を失ったにも関わらず、そこに立ち続けているもの」……映画作中で描かれる鉄塔の設定からは、「地縛霊モノのホラー映画」としての『FALL/フォール』の一面だけでなく、「世間の語る“自立”とは、本当に存在するのか」というシンプルな問いかけも見えてきます。

“地上600m”という高さでそこに立ちながらも、それまで与えられた「テレビ電波塔」という役目も奪われ、ただ解体されるその日を老朽化した体で待ち続ける鉄塔

「乗り越えた」と語っていたダンの死を実際には全く乗り越えておらず、ダンへの複雑な思いと親友ベッキーへの罪悪感に苦しみ続け、世界各地への冒険も結局は現実逃避の一環に過ぎなかったハンター

そして、ダンとの恋愛・結婚によって得られた幸せも、彼を失ったことで生じた悲しみも、結局は現実から目を逸らし続けた結果として生み出された幻影に過ぎず、「自らの意志と力で世界と立ち向かう」という意味での“自立”からは一番遠い生き方を送っていたであろうベッキー

『FALL/フォール』は、自立しているようで実際はどこまでも脆いモノたちを描くことで、“自立”という言葉の存在意義も揺さぶろうとします

そしてその一方で、目を逸らしていたはずの現実と徐々に向き合い、亡くなった者のためにも懸命に生きようとするベッキーの成長を通じて、「故人を含む他者の意志を知ることで、自らの意志と力を育み、世界と立ち向かう」という意味での“自立”の姿も描こうとしたのです。




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