“本当は、なんで殺したと思ってるんですか?本当のことに興味はないのかな、あなたはー。”
円熟期に達した是枝裕和監督、ついにホームドラマの枠を脱ぎ捨て、人間の罪の“真実”に挑み描いた作品、それが『三度目の殺人』。
1.映画『三度目の殺人』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【原案・脚本・編集・監督】
是枝裕和
【キャスト】
福山雅治、役所広司、広瀬すず、斉藤由貴、吉田鋼太郎、満島真之介、松岡依都美、市川実日子、橋爪功
【作品概要】
『そして父になる』の是枝裕和監督と福山雅治が、ふたたびタッグを組んだ作品で、是枝監督自らオリジナル脚本で挑んだ法廷心理ドラマ。
第74回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に正式出品。
是枝組には初参加となる役所広司が殺人犯の三隅役で、福山雅治と初共演を果たしました。また、『海街diary』の広瀬すずが重要な鍵を握る被害者の娘役を演じています。
2.映画『三度目の殺人』のあらすじ
“闇の淵の河原で眼を光らせ、鈍器で男を殴りつける者…、その後、ガソリンを撒きマッチで遺体に火を放ちます…”
初めて拘置所に被疑者の面会に訪れた弁護士の重盛朋章、「間違いありません。殺しました」と、淡々と自分の罪を認めて話ししをする三隅高司。
解雇された山中食品加工を経営する山中社長の命を奪い、そのうえ、お金欲しさに財布を奪って火をつけた容疑で起訴されていました。
実は三隅は30年前に住んでいた北海道で起こした強盗殺人の前科があるため、彼の死刑はほぼ確実なものでした。
この事件を担当する弁護には、元々は重盛法律事務所で働く、同期の攝津大輔が当たっていたものの、会うたびに三隅の供述が変わることに手を焼いた攝津の尻を持ち、重盛が引き受ける羽目になっていました。
重盛はなんとか三隅を無期懲役に持っていこうと、新人弁護士の川島輝を助手に調査を開始。
遺体が焼かれた事件現場の河原にきた重盛と川島。そこで脚の悪い少女を見かけます。
そして遺体の焼かれた後は、まるで十字架のように焼けた痕跡が奇妙に残っていました。
やがて三隅たちは、タクシー会社のドライブレコーダーなどの映像をきっかけに、財布を盗んだのはガソリンをかけた後だと解り、重盛は弁護の戦術方針を強殺より罪の軽い、殺人と窃盗に定めること決めます。
ところが、三隅は弁護団に何も相談もなく、勝手に週刊誌の取材に応じて、「社長さんの奥さんに頼まれて保険金目当てで殺した」と独占告白のインタビューを受けていました。
3.『三度目の殺人』の広瀬すず(山中咲江 役)
何かを抱え孤独な少女咲江
広瀬すずは1998年6月19日生まれの静岡県静岡市出身の女優。事務所はフォスタープラス所属。
2012年に女性ファッション誌「Seventeen」の専属モデルオーディション「ミスセブンティーン2012」で読者投票によってデビュー。
姉アリスも同誌の専属モデルを務めており、同誌史上初となる姉妹モデルとして注目されました。
2013年にテレビドラマ『幽かな彼女』にて女優デビュー。同年に映画『謝罪の王様』にも出演。
2014年に映画『クローズ EXPLODE』やテレビドラマ『ビター・ブラッド』などに出演をします。
広瀬すずのみ台本なし?思うがままに演じた『海街diary』
2015年に吉田秋生の大人気コミックを原作に、是枝裕和監督が映画化した『海街diary』にて、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆とともに4姉妹を演じて大きな話題になりました。
広瀬すずの今回の役どころは、命を奪われた山中社長(父親)の娘の咲江を演じています。
これまでにはない演技を見せた咲江役、彼女はどのような気持ちでこの役柄を演じ切ったのでしょう。
そのことについてこのように語ってくれました。
是枝監督は穏やかな印象が強いのですが、台本を読ませて頂いて、こんな事を感じているんだ、考えているんだ、と自分の知らない監督の一面をみているような印象を受けました。そして、また是枝さんの作品の中で生れる時間が凄く幸せです。
どんなシーンでも咲江が見ているもの、感じている事を私と同じ感覚で感じてくださって、言葉をくれる監督はやっぱりとても心強く、凄く気持ちがいいです。が、今回はちゃんと自分で台詞を覚えて台本を手に持って現場に入るのが恥ずかしいです。。。笑
少女だからこそ見える世界を大切に、強く立っていたいです。監督、スタッフの皆さん、共演させて頂く先輩方に頼らせて頂いています。
広瀬すずは、是枝作品の前作『海街diary』では、台本は前もって渡されず、現場で口述でセリフを覚えて演技するという方法で撮影は行われました。
当時の広瀬すずに寄り添う演出を是枝監督ですが、今回の彼女は台本ありの演技。
どのような演技プランで役柄に挑んだのか、前作とはまったく違った姿に成長した彼女の演技に要注目ですよ。
また、このメッセージにある、“少女だからこそ見える世界を大切に、強く立っていたい”これは今作『三度目の殺人』の真髄ですよ。
広瀬すずの演技はいうまでもなく素晴らしいのひと言ですが、是枝監督が意識したであろうフィルム・ノワールとしてのファム・ファタール(運命の女)を成立させています。
また、“そっちの世界”と役所広司演じる三隅の言い表した、“大人の世界”もしくは、“大人の都合”を広瀬すずは、その視線の先に映して見せているかのような寂しげな憂いがあります。
4.広瀬すずは真犯人なのか?
映画『三度目の殺人』を観たあなたは、結末どのように思いましたか?
真犯人はわかりましたでしょうか?
役所広司が演じた三隅が食品加工会社の山中社長の命を奪った真犯人なのでしょうか?
上記にある写真は『三度目の殺人』のイメージビジュアルです。
これは原作本の表紙にもなっており、映画全体をビジュアル化したデザインでテーマを想起させたものです。
あなたが真犯人は誰?真相は何なの?と感じられたのでしたら、この写真こそが“真実”の答えだと思って良いでしょう。
メイン・キャストである3人である役所広司、広瀬すず、福山雅治の頬には殺人を犯したメタファー(暗喩)である返り血を浴びていますね。
『三度目の殺人』の物語の中では、タイトルが示すように3度の殺人がおこなわれます。
・1度目の殺人は、役所広司演じる三隅が北海道で犯した殺人事件。
・2度目の殺人は、広瀬すず演じる咲江が父親の命を奪った殺人事件。
・3度目の殺人は、“真実”に向き合う必要などないという無関心が招いた殺人公判。
これをイメージさせたのが映画ポスターやチラシに使われているデザインといえるでしょう。
このことは、作品冒頭シーンの三隅役である役所広司、事件の真相が見え始めた時の咲江役の広瀬すず、そして、結末で裁判の判決が下された後の重盛役の福山雅治と、3人がそれぞれ類似して頬を拭うショットからも見て取れます。
もちろん、福山雅治演じた重盛の頬には返り血はありませんでした。
しかし、あのショットは3度目の仕草で観客のあなたの心象として、返り血が見えるように象徴させてものです。
この事件の真相は三隅や重盛、また山中といった父親と娘の話であり、そのことを物語では重ね合わせながら事件の真相を見せていきます。
そこにあるのは山中という父親を除き、三隅と重盛は娘に対する父親感情として、上手く親子関係を作ってあげられなかったという、後ろめたさからきたものです。
そのことを起爆させた原因が、父親から性的虐待を受けていた咲江が引き起こした殺人です。
父親である三隅と重盛は、自分の娘に上手くできない、やってやれなかったという後悔、その“引け目”がそれぞれの気持ちとして咲江の様子に娘の姿を被せてしまうのです。
映画の中で1匹だけ殺さずに逃がしたと三隅が語るカナリアのメタファー(暗喩)は咲江です。
真犯人である咲江を真実として見ずに逃がしてあげた2人の父親である三隅と重盛。
彼らは真犯人を知りつつも犯人隠匿した共犯者の関係と結果的にはなってしまいます。
食品偽装、50万円の口座振り込み、スマホに残したメール、週刊誌の独占取材、重盛の父親に当てた手紙など、すべてが三隅の完全なる計画なのかもしれません。
しかし、何よりも真実に無関心であった弁護士の重盛は恐ろしい“真実”を見てしまう結末があります。
それはこの事件では無実であった三隅に罰となる死刑を与えたこと、そして真犯人の咲江には罪を与えなかったことです。
このことは、重盛の娘が万引きという窃盗行為を犯した際、本当の意味で父親らしい行動を見せなかったことからも、真実よりも大切にしたものが重盛にあったゆえの導きであることで分かりますね。
重盛の娘の涙は、きっと自分対して真摯に興味のない父親への寂しさだったのでしょう。
この事件に関わったことで重盛は、今後どのように生きていくのでしょう。
これから先、誰かの被疑者の弁護や真実の探求はできるのでしょうか。
映画のラスト・ショットで、福山雅治の演じた重盛が十字架を比喩した交差点に立つシーンは、罪を背負った人間のメタファーです。
また、芥川龍之介の小説『羅生門』の最後の一文にあるように、「下人の行方はだれも知らない」。
重盛は今後の仕事のみならず、人生において一体どこへ向かうのでしょうか。
まとめ
今作『三度目の殺人』は是枝裕和監督の円熟期に1本!9月9日より全国一斉ロードショーとなっています。
大人の映画ファンに楽しんでもらえる今作は是枝監督の演出だけでなく、スタッフとして参加する各パート撮影、照明、録音、音楽、美術とどれも世界レベルな完成度。
そして、キャストも広瀬すずのみならず、福山雅治、役所広司それぞれにとっても代表作といえる素晴らしい秀作です。
ぜひ、劇場でご覧ください!お見逃しなく!