殺す。埋める。バレたら終わり。
平和な日常の中で繰り広げられる、極限のクライムサスペンス!
『予告犯』などで知られる漫画家・筒井哲也によるサスペンス漫画『ノイズ【noise】』を、藤原竜也と松山ケンイチのダブル主演で映画化!
映画公開に先駆け、本記事では原作にあたる漫画『ノイズ【noise】』をネタバレ有りあらすじを交えつつ解説していきます。
漫画『ノイズ』のあらすじとネタバレ
筒井哲也『ノイズ【noise】』(2018年、集英社ヤングジャンプコミックス)
愛知県のどこかにある猪狩町は限界集落とされていましたが、近年は珍しい「黒イチジク」の生産で脚光を集め、地域に活気が出始めていました。
その黒イチジクの生産者である圭太と、彼の幼なじみで猟師の傍らイチジク生産を手伝う純の元に一人の男が現れます。
「鈴木睦雄」と名乗る男は圭太が作成した求人広告を持ち、働かせてほしいと話しますが、圭太は男性に言いようない不信感を感じます。純もまた「睦雄」という名前に聞き覚えがあり、圭太にいったん引きとらせるよう進言し、圭太は従います。
純は睦雄がかつてストーカー殺人で逮捕され服役していた小御坂睦雄であることを突き止めます。どういうわけか「鈴木」に改姓していることにいぶかしむも、危険な人物であることを認識します。
その頃、町に赴任したての警察官・守屋真一郎は前任者の岡崎から引き継ぎを受けていました。そして閉鎖的な田舎でやっていくためには法に囚われ過ぎず、時に忖度することも必要だと教わります。
一方、愛知県警の刑事・畠山努は父親が失踪したという女性の相談に乗っていました。その女性の父親は、刑務所から出所した人々の社会復帰を手伝うため、住まいの提供や仕事の斡旋を行っている人物でした。
畠山は女性から父親が失踪前、ある人物と養子縁組していたという話を聞かされます。かつて大きな犯罪を犯し本名を報道されたその人物が、名字の珍しさゆえに社会復帰が難しくなると判断した父親が、自身の「鈴木」姓を名乗らせようとしたためでした。
畠山はその人物が小御坂睦雄、現在の鈴木睦雄であると断定します。
畠山はかつて、睦雄の被害者となった女性から生前相談を持ちかけられていながら、睦雄の犯行を止めることができなかったため、被害者の女性の死に責任を感じていました。今また、睦雄が犯罪を犯そうとしていると感じた畠山は、睦雄と男性の捜索に乗り出します。
再び、圭太の元に睦雄が姿を見せます。圭太は雇えない旨を睦雄に伝え、雇用がないことを理由に町から追い払おうとします。
大人しく従う睦雄ですが、圭太の家を訪れていた離婚調停中の妻・加奈と娘の恵里奈を目撃。加奈に劣情を抱いた彼は、母娘をつけ狙います。
圭太は守屋に睦雄の件を相談。思ってもない大きな出来事に動揺する守屋をよそに、二人は純から、睦雄が加奈と恵里奈をひっそりと追い回していることを知らされます。
三人は圭太の自宅へ。急いで加奈と恵里奈を町から発たせた圭太は、純・守屋と協力して睦雄の逮捕へ向かいます。
睦雄を問いつめる守屋の隙をつき、ナイフを取り出そうとします。それに気づいた圭太と純は睦雄を取り押さえようとしますが、誤って殺害してしまいます。
睦雄を取り押さえる際、猟銃で打撃を与えたことで免状の剥奪を恐れた純は、睦雄の遺体を隠蔽し、この出来事をなかったことにしようと提案します。
正当防衛ではありましたが、人を殺めてしまったことが黒イチジクの不評ひいては町の発展に、なにより娘・恵里奈の人生に影響を与えてしまうと考えた圭太もまた純に同意。守屋も自身へのプレッシャーも相まって、睦雄殺害の隠蔽を決意します。
漫画『ノイズ』の感想と評価
(C)筒井哲也/集英社 (C)2022映画「ノイズ」製作委員会
本作は人を誤って殺害したことから端を発するサスペンス作品ではありますが、狂っていく価値観や人間の本質を濃く描いたヒューマンドラマの要素も強いです。
誤って殺人を犯してしまった主人公・圭太たちが、いかにしてそのことを隠蔽しようとするかというストーリー自体は、いわゆる「クライムサスペンス」として同様の作風を持つ作品は珍しくありません。
しかし本作が斬新なのは、殺害される睦雄がこれまで犯した罪や平然と人を騙し、圭太の妻子を毒牙にかけようし、情状酌量の余地がないことから、読者は圭太が殺人を隠蔽しようとすることをすんなり受け入れてしまい、のちに混沌と化していく物語に引き込まれていく点です。
また圭太の過疎化する故郷を救おうとする姿、あるいは一人娘を想う父親への感情移入しやすいキャラクターがそうさせているようにも感じられます。
(C)筒井哲也/集英社 (C)2022映画「ノイズ」製作委員会
そんな本作では殺人の証拠隠蔽をめぐり、様々な人物が巻き込まれていくわけですが、それぞれの思惑が入り交り、物語は混迷を極めていきます。
中でも新人警官の守屋は、町の“平和”を守るために自身の正義と葛藤しながら、次第に自身を追い詰めていく様子が印象的でした。
このように一人の人物の死によって、それぞれの登場キャラクターの価値観や人生が捻じ曲げられる様、あるいは混沌の中で露わになる人間の本性は、行き先が読めない物語の顛末と相まって読者の心を鷲掴みにします。
本作は「死体をいかに隠すか」が物語の要点となっていますが、平凡な一般人である圭太と純が行う証拠隠滅は巧妙なトリックからは程遠いその場しのぎのものに過ぎず、その後の展開も含め、綱渡りのようなストーリー展開が続きます。
しかし、その“綱渡り”と前述したキャラクターへの感情移入から読者にスリリングな感覚を与え、息をつかせぬ展開と各人物の深い心理描写から、知らぬ間に物語に引き込まれていく不思議な魅力が感じられました。
また、物語の中で語られた些細な事柄が、後に重要になっていくいわゆる「伏線」の置き方が秀逸で単純に、難題を解決する妙案になるだけでなく、新たなトラブルを呼び込むきっかけになっていたり、作中でどのような事柄が、どのように関わっていくかが分からないという不確定要素が物語に深みを与えているように感じられます。
映画『ノイズ』の作品情報
(C)筒井哲也/集英社 (C)2022映画「ノイズ」製作委員会
【公開】
2022年1月28日
【原作】
筒井哲也
【監督】
廣木隆一
【キャスト】
藤原竜也、松山ケンイチ、神木隆之介、黒木華、伊藤歩、渡辺大知、酒向芳、迫田孝也、鶴田真由、波岡一喜、菜葉菜、寺島進、余貴美子、柄本明、永瀬正敏
【作品概要】
社会の矛盾や闇を鋭く切り取った作風で日本は元よりフランスでも高く評価される漫画家・筒井哲也によるサスペンス漫画『ノイズ【noise】』を実写映画化。
藤原竜也と松山ケンイチによるダブル主演をはじめ、神木隆之介、黒木華、島進、余貴美子、柄本明、永瀬正敏ら実力派俳優を惜しげもなくキャスティングし、空前絶後の極限状態でのクライムサスペンスが繰り広げられます。
監督を『ヴァイブレータ』で脚光を集め、Netflix映画『彼女』など多くの漫画原作の実写化を手がけてきた廣木隆一が務めます。
まとめ
(C)筒井哲也/集英社 (C)2022映画「ノイズ」製作委員会
漫画『ノイズ【noise】』のそのタイトルは、平穏な田舎町に生じたノイズ(雑音、あるいは不協和音)に様々な人物の人生、価値観が乱されていく本作の物語そのものといえます。
しかし、タイトルの表記のされ方が「辞書の項目の見出し」のようにも見えることからも、第二・第三と複数の意味があるのは明白でしょう。
本作の物語におけるノイズ【noise】とは、平和な街に現れた凶悪犯である睦雄のことか。あるいは、圭太の心に沸いた故郷や娘を想うが故の過ちのことか、変化を恐れる町の住人の黙認のことか。あるいは、時に人々の心を踏みにじることをも厭わない畠山ら警察の正義のことか。
その答えを漫画で、そして映画で探してみてはいかがでしょうか。