レクター博士を捕らえた元FBI捜査官が猟奇殺人犯を追うサスペンス!
マイケル・マンが脚本・監督を務めた、1986年製作のアメリカの心理サスペンス・アクション映画『刑事グラハム 凍りついた欲望』。
トマス・ハリスの「ハンニバル・レクター3部作」の1作目にあたる小説『レッド・ドラゴン』を、2002年のブレット・ラトナー監督による映画『レッド・ドラゴン』より先駆けて映画化した作品です。
元FBI捜査官のウィル・グラハムは、満月の夜に起きた連続一家惨殺事件の捜査を依頼され、その調査に乗り出します。やがて調査が行き詰まってゆく中、ウィルはかつて自身が逮捕した連続猟奇殺人犯にして、頭脳明晰な精神科医であるレクター博士のもとへと訪れます……。
ウィリアム・L・ピーターセン主演の映画『刑事グラハム 凍りついた欲望』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
映画『刑事グラハム 凍りついた欲望』の作品情報
(C)1986 Studiocanal
【公開】
1988年(アメリカ映画)
【原作】
トマス・ハリス『レッド・ドラゴン』
【監督・脚本】
マイケル・マン
【キャスト】
ウィリアム・L・ピーターセン、キム・グライスト、トム・ヌーナン、ジョーン・アレン、ブライアン・コックス、デニス・ファリナ、スティーヴン・ラング
【作品概要】
アメリカの大人気テレビドラマ「特捜刑事マイアミ・バイス」シリーズ(1984~1989)の製作を手がけたマイケル・マンが脚本・監督を務めた、アメリカの心理サスペンス・アクション作品。
原作はアメリカの小説家トマス・ハリスの小説『レッド・ドラゴン』。大ヒット映画『羊たちの沈黙』(1991)などに登場した頭脳明晰な“人食い”の殺人鬼を描いた「ハンニバル・レクター3部作」の1作目です。
『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1986)のウィリアム・L・ピーターセンが主演を務めています。
映画『刑事グラハム 凍りついた欲望』のあらすじとネタバレ
(C)1986 Studiocanal
1981年。アメリカ・フロリダ州キャプティパで家族と暮らす元FBI捜査官のウィル・グラハムのもとに、彼の元上司であるジャック・クロフォード捜査官が訪ねてきました。
ジャックはウィルに、8月1日の満月の夜、アラバマ州バーミングハムとジョージア州アトランタで起きた連続一家惨殺事件の捜査協力を依頼します。
ウィルはこれを承諾し、期間限定で現場に復帰することに。まずはアトランタの裕福な家庭であったリーズ家を、「犯罪者の心理を頭の中に明確なヴィジョンとして再現できる」という自らの能力を発揮して調査します。
ウィルはリーズ夫人の死因は射殺ではなく絞殺であること、夫婦の寝室の東側の壁に付着した夥しい量の動脈血は、喉を切られたリーズが子ども部屋に向かう犯人を止めようとした結果によるものだと推理します。
しかしウィルの頭の中で再現された事件現場には、いくつか不審な点がありました。
外は熱帯夜でも室内は涼しかったはずなのに、犯人の唾液が残っていた窓ガラス。寝室の西側の壁の血痕と、何かを引き摺ったような跡。死後につけられたものであろう、リーズの胸部に食い込んだ紐の跡。
そして、一家全員を殺害した犯人が鏡を割り、その破片でリーズ夫人の死体を飾りつけた点です。
その日の夜。ホテルの部屋でリーズ家のホームムービーを観たウィルは、リーズ夫人の足と目元に付着していたパウダーは浴室のものではなく、犯人が素手で触ろうと常時着用していた手袋を外した時に落ちたものだと気づきます。
ウィルはすぐさまジャックに電話をかけ、指紋台帳の管理をしているFBIのジミー・プライスに、リーズ夫人の爪と一家全員の角膜から犯人の指紋を検出してほしいと頼みました。
翌日。ウィルはジャックとともにアトランタ警察署を訪れ「靴跡30㎝と大柄な金髪男性で、血液型はAB型。常時手袋を着用している」以外の犯人の特徴を入手。 犯人が2件とも女性に嚙みついた「噛みつき魔」であり、側切歯に特徴があると知ります。
またリーズ家の飼い犬が腹を刺されて入院中であること、同じく一家が惨殺されたバーミングハムの裕福な家庭・ジャコビ家の飼い猫も行方不明であることが判明。
「飼い猫は庭に埋められているかもしれない」と推理したウィルは、ジャックとアトランタ警察に、メタンガス探知機を使ってジャコビ家の庭を調べるよう指示します。
その直後、ジミーから「犯人の親指の指紋らしいものと、リーズ夫人の爪から犯人の手のひらの一部を検出。犯人の指紋は長男の大出血した左目から採れた」と、犯人に関する新たな情報が届きました。
(C)1986 Studiocanal
そのまた翌日。ウィルはこの普通の捜査官の手には負えない殺人鬼の心理を探るべく、ボルティモア州立精神病院を訪ねます。そこには、かつてウィルが逮捕した頭脳明晰な連続猟奇殺人犯であるハンニバル・レクター博士が収容されていました。
レクターは狭い独房で、料理書からファッション誌まで多数の書籍を購読。囚人の身ながら臨床精神病理学会誌や精神医学誌に論文を発表するほど、優れた精神科医として世間に影響を与え続けていました。
捜査資料を熟読したレクターは「犯人はとても内気な性格で、自分を月の血縁だと思い込んでいる」と、ウィルに助言します。レクターは自分と同じ「噛みつき魔」と呼ばれている犯人に興味を持ち、新たな情報が手に入ったらいつでも自分に連絡してほしいとウィルに頼みました。
ウィルが後日また意見を求めにくると言って立ち去ろうとしたその時、レクターは彼に「私を逮捕できたのは、君と私がよく似ているからだ」と告げます。ウィルは逃げるようにボルティモア州立精神病院を離れ、飛行機でバーミングハムへ向かいました。
その時の姿を、顔見知りの三流タブロイド紙「タトラー新聞社」の記者フレディ・ラウンズにカメラで撮られ、「グラハム捜査官、レクターに助言を求める」という見出しの記事を書かれてしまうとは気づかずに……。
ウィルが去った後、レクターは出版社の人間を装い、彼の友人であるシカゴ大学精神病理学部の精神科医アラーナ・ブルーム博士に電話をかけ、何かを聞き出しました。
またバーミングハムまでの道中、ウィルはジャックから届いた手紙で、ジャコビ家の飼い猫の死骸が庭で発見されたことを知ります。
バーミングハムに到着後、ウィルは犯人の心理を探りながらジャコビ家を調査。その結果、ウィルは広い庭からジャコビ家のリビングが覗ける場所にある1本の木に括りつけられたロープ、覗くために切断された木の枝、木に刻まれた印を見つけました。
ウィルは、犯人が広い庭を必要としているのは、裕福な家庭を一日中眺めて妄想を膨らませ、部屋の明かりが消えたと同時に家に侵入するためであると推理するウィル。
その日の夕方。ウィルはワシントンD.C.にあるFBI本部にいるジャックに電話をかけ「木の枝を切断した道具は何か」「印は何を意味するものなのか」を調べてほしいと頼みました。
二人の通話中、FBI本部にボルティモア州立精神病院の医師フレデリック・チルトン博士から電話がかかってきます。そこでジャックとウィルは「レクターが本の間に、犯人からのメモを隠していた」とチルトン博士に知らされます。
映画『刑事グラハム 凍りついた欲望』の感想と評価
(C)1986 Studiocanal
ウィルが持つ、犯罪者の心理を頭の中に明確なヴィジョンとして再現できる能力は凄まじいものでした。
事件現場と捜査資料を見て調査しただけで、ウィルは裕福な家庭を残忍な手口で崩壊させた連続殺人犯が被害者家族に何をしたのか、どうして犯行に及んだのかその動機さえも見抜いたのです。
そして次の満月の日、ウィルのおかげで犯人がビデオ加工技師のダラハイドであることを突き止めた場面は、思わずガッツポーズしたくなるほど、ウィル視点で事件の捜査を追っていた視聴者は歓喜すること間違いなしです。
作中では、ダラハイド視点の話が原作小説より少ないため、彼がなぜ“赤き竜”に魅せられたのか、なぜ手袋やストッキングで手や顔を隠しているのかが明確に描かれていません。
原作小説によると、ダラハイドは障害を抱えており、自分の障害に対する劣等感と、厳格な祖母へのトラウマに悩まされていたとされています。
しかしある日、ダラハイドはウィリアム・ブレイクが『ヨハネの黙示録』の情景に基づいて描いた絵『赤き竜と日を浴びる女』に魅せられました。“赤き竜”と自分を同一視したダラハイドはいつか自分も“竜”になると信じて、敬愛するレクターのように凶悪な犯罪を重ねていきます。
原作小説でも本作でも、ウィルの推理通り、人々に賛美される存在になりたかったダラハイド。もしリーバと出会うのが早ければ、猟奇殺人犯にならなかったのではないかと考えさせられます。
ただそれが分からずとも、ダラハイドの狂気は滲み出ていて観ていてゾッとするほど怖いです。
まとめ
(C)1986 Studiocanal
かつて女子大生連続猟奇殺人犯のレクター博士を逮捕した元FBI捜査官が、連続一家惨殺事件の犯人を追い詰めていく、アメリカの心理サスペンス・アクション作品でした。
本作では脇役のレクター博士ですが、実は猟奇殺人犯のダラハイドと文通しており、ダラハイドを唆してウィルとその家族を殺させようと画策していました。
その「殺人鬼を操る殺人鬼」をはじめとするレクター博士の作中での存在感が続編につながったと、原作者のトマス・ハリスはコメントしたといいます。
なお本作のタイトルは当初、原作小説と同じ『レッド・ドラゴン』で公開する予定でした。しかし、元ニューヨーク市警警察委員ロバート・デイリー原作小説を映画化した『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(1985)が興行的に失敗してしまったため、本作の映画化権を取得した独立系のプロデューサーのディノデ・ラウレンティスは「ドラゴン」の文字を避けたと言われています。
また映画『羊たちの沈黙』(1991)はもちろん、その続編である『ハンニバル』(2001)も大ヒットしたことを受け、本作は2002年には『レッド・ドラゴン』として再映画化されています。
大ヒット映画『羊たちの沈黙』の前日譚といえる物語を映画化した心理サスペンス・アクション映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。