以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
青柳碧人『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』 (2020、双葉社)
第1章 ガラスの靴の共犯者
バスケットを抱えて旅に出た赤ずきん。森の中で出会った魔女・バーバラが魔法を失敗したせいで、赤ずきんの靴は泥だらけ。仕方なく川で靴を洗うとしたのですが、誤って靴を流してしまいます。
その靴を川下で拾ったのが、川で布を洗濯していた、裸足のシンデレラでした。彼女は、継母と2人の姉はお城の舞踏会に出かけて行き、自分は昨夜死んだ鳩のお墓を作っていたのだと言います。
そこへ現れたバーバラがシンデレラに魔法をかけると彼女は美しいドレスを着た美女へと変身。赤ずきんは自分も舞踏会に行きたいからと自分にも魔法をかけてもらいました。
バーバラの姪だというテクラという魔女も現れ、赤ずきんの靴をガラスの靴へと変えました。ガラスの靴の魔法は7日7晩続き、最初に履いた人の足以外はまらないのだと言います。
裸足のシンデレラはバーバラから借りた靴をガラスの靴に変えてもらい、赤ずきんと一緒にかぼちゃの馬車に乗って舞踏会へと向かいました。
突然馬車が大きく揺れて停車しました。外に出て見ると、そこには一人の男性が倒れていて、すでに死んでいるようでした。
馬車の馬に蹴られて死んだと思われ、殺人で捕まりたくないし、お城には行きたいしで、シンデレラと赤ずきんは悩みますが、死体を森の中に運んで隠すことにしました。
舞踏会では夢のような時間を過ごした2人。しかし会場にいる多くの女性がガラスの靴を履いていることに気付きます。そして、舞踏会の途中「炭焼きハンスの死体が発見された」という情報が王様にもたらされました。
あの死体がハンス? 早々とパトロール中の兵隊に見つかったようです。馬に蹴られた痕があるというので、舞踏会に訪れている馬車を全部調べることになりました。
丁度時刻は午前0時近くになり、魔法も解ける頃です。シンデレラと赤ずきんは、午前0時を告げる鐘が鳴り始めると、慌ててお城を後にしました。
その夜、シンデレラの部屋に泊めてもらうことにした赤ずきん。昼間のことが気になり眠れずに外を歩いていると、森の中から誰かが駆け出してきました。
それは、シンデレラの義理の姉・マルゴーでした。ハンスを殺したのは自分かもしれないと言っています。追いかけてきた兵にマルゴーを引き渡したものの、腑に落ちない赤ずきん。お城の侍従長と共に謎を解くことになり、森の奥へ出かけました。
翌日、王子様がガラスの靴を持ってシンデレラの前に現れました。足にぴったりと靴がはまったシンデレラ。しかし、彼女は王子の妻ではなく、そのままハンス殺人犯として逮捕されてしまいました。
事件の発端は、舞踏会に行けない腹いせに、シンデレラが継母のエメラルドのネックレスを盗んで森に隠そうとしたことでした。隠している現場をハンスに見られてしまい、とっさにシンデレラは彼を殺し、それをマルゴーのせいにするため、ハンスの家へとマルゴーをおびき出しました。
マルゴーがハンスの家の扉を開けた瞬間、シンデレラはマルゴーを後ろから殴って殺すはずが失敗。マルゴーに顔を見られそうになったシンデレラはとっさに履いていたガラスの靴でマルゴーを殴りました。衝撃でヒールが欠けて吹っ飛びました。
気絶から目覚めたマルゴーは、目の前にあるハンスの死体を見てびっくり。もしかしたら自分がやったのかもしれないと怖くなり、走ってくる馬車の前にハンスの死体を押し出したのです。
マルゴーを殴ったときに欠けたガラスのヒールは、マルゴーの襟巻にひっかかりました。それを見つけられないシンデレラは、ヒールの欠けたガラスの靴を、昨日死んだ鳩と一緒にお墓に埋めて証拠隠滅を図りました。
それが赤ずきんと出会う少し前のことで、シンデレラが裸足だった理由がわかりました。王子様がシンデレラに履かせたガラスの靴は、鳩のお墓から掘り出したガラスの靴でした。
第2章 甘い密室の崩壊
ヘンゼルとグレーテルの兄妹は継母のソフィアを連れて森にやってきました。そこにはお菓子でできた家がありました。
ソフィアがお菓子の家の中の食器棚の引き出しの金貨に夢中になっている間に、兄が食器棚を支えていた枝を引き抜き、食器棚は見事にソフィアの体を押しつぶしました。
一方、旅の途中で歩き疲れお腹もペコペコの赤ずきんは、どこかに泊めてもらおうとある家のドアをたたきます。
そこはヘンゼルとグレーテルの家でした。父親のゴフが応対し、妻ソフィアが出かけたきり、帰ってこないと心配していましたが、赤ずきんを迎え入れてくれました。
夕食の後、なかなか帰って来ない母親を心配し、ゴフ父さんとヘンゼル、グレーテル、赤ずきんは森へと探しに行くことにした。
途中、出会った森の管理者・ゲオルグと名乗るオオカミも同行することになりました。
しばらく行くと、目の前にお菓子の家が現れました。鍵がかかっているようですが、ゲオルグが血の匂いがすると言い、窓を割ってグレーテルが中に入って鍵を開けることになりました。
そこには食器棚の下敷きになり血まみれになったソフィアの死体がありました。奥のかまどからは魔女の焼け焦げた死体も見つかります。
ゴフ父さんだけがゲオルグと残ることになり、ヘンゼルとグレーテルと赤ずきんは家に帰ることになりました。
帰る途中でヘンゼルとグレーテルは、継母のソフィアとは折り合いが悪かったことや、ソフィアの計画で森に置き去りにされて2週間たって家にたどり着いたことなどを赤ずきんに話します。
ゴフが帰ってきたときに目を覚ました赤ずきんは、腑に落ちない点がいくつもあると言って、再びゲオルグとお菓子の家に行くことにしました。
お菓子の家は魔女が生きている間には次々と新しい材料に入れ替えることができますが、魔女が死んでしまえば、朽ち果てていくしかありません。
赤ずきんとゲオルグがお菓子の家を調べていると、湿気で柔らかくなったウエハースの壁が折れ曲がり、家が倒れてしまいました。そのとき赤ずきんは、屋根のビスケットだけが他と違って比較的新しく、それほど湿気を帯びていないことに気付きました。
これによって魔女を殺す直前に、屋根を取り除き新しいビスケットを用意させていたのだということがわかりました。
森に置き去りにされたヘンゼルとグレーテルは、2週間の間魔女の家に監禁され、脱出をするため魔女を焼き殺し、その後ソフィアを呼び出して殺害。屋根のない家の内側から鍵をかけて椅子を足場にして天井部分から脱出し、外から魔女に用意させた新しいビスケットで屋根を作ったのです。
そして赤ずきんだけが、ヘンゼルのグレーテルに対する歪んだ愛に気付きました。
第3章 眠れる森の秘密たち
森の中で大きな銀ピカの椅子に乗った老人と出会った赤ずきん。椅子の両側に付いた大きな車輪が木の根っこにひっかかっていました。赤ずきんは老人を助けてあげて、一晩泊めてもらうことにしましたた。老人はキッセンという名で、この国の宰相を60年も務めているということです。
食事をしながら赤ずきんはこの国の魔女の魔法により100年の眠りについたオーロラ姫の話を聞きました。今年は姫が眠り始めてから40年目なのだと言います。
突然、召使のトロイの息子・メライが人殺しの罪で捕まったという知らせが届きました。メライは自分ではないと訴えたが逮捕されてしまいます。
被害者のジーンが殺されたのは午前3時。そのころちょうど近くで火事があって井戸が使えなかったために、メライは廃墟にあるポンプを思い出し、そこで水を飲みました。
逢引きをしている若いカップルがいたと主張したが、今のところそのような2人は見つかっていません。
火事に遭ったのは鍛冶屋のスムスの家。裏に住むスムスの弟で彫刻家のブルクシは初めは火事のことは知らないと言い張っていましたが、スムスが国宝である「王家の鎧」をお城から盗み出して家に置いていたことを白状しました。
キッセンは今回だけは大目に見ると言い、「王家の鎧」を返すために城へ向かいました。鎧を返した後、オーロラ姫の様子を見に行くために東の塔のてっぺんの部屋に向かった赤ずきんたち。しかし、そこにはオーロラ姫の姿はありませんでした。
観察眼の鋭い赤ずきんは、オーロラ姫失踪事件の関係者を集めて、事件の真相を解き明かしました。
まず、大工のナップ。彼はキッセンの召使のグリジェに恋をし、美しいオーロラ姫のベッドで過ごすことを思いつきます。塔の外壁には足場となる溝があるので、ナップにとってオーロラ姫の部屋に忍び込むのは簡単なことでした。
ナップはオーロラ姫の部屋にあった黄金の糸車の手回し車を、窓の外の鉄の棒に引っかけて滑車として利用することにします。滑車の両側に椅子を括りつけると、下にいるグリジェを引き上げるために、もう片方の椅子にオーロラ姫を乗せて下に下ろしました。
オーロラ姫の体は偶然にも「王家の鎧」を持ち帰るスムスが停めた荷車の上に落ちてしまいます。荷車は火事で焼けてしまったのですが、火の災難から逃れる魔法をかけられたオーロラ姫は無事でした。
皆がスムスの告白で、探しに行くと姫はきれいにススを洗われ、ブルクシの部屋のベッド代わりの棺桶の中に寝かされていました。
廃墟のポンプのそばにいたカップルは、オーロラ姫と姫を洗っているブルクシだったのです。そして、メライを殺人犯に仕立て上げようとしたのは、隣国からキッセンの養子として送り込まれたゲーネンでした。
赤ずきんはまた、トロイがオーロラ姫とキッセンの息子であり、トロイの息子であるメライは正当な王位継承者であることにも気付きました。
最終章 少女よ、野望のマッチを灯せ
赤ずきんの旅の最終目的地はシュペンハーゲンで、赤ずきんは旅の途中で難事件を解決しながら、目的地を目指します。
その頃、シュペンハーゲンの町には、ガルへンという男が経営するマッチ工場がありました。ガルへンのマッチは粗悪品でしたが安価だったため、町の人々はみなガルへンのマッチを買い求め、ガルへンは贅沢な暮らしができるほど儲かっていました。
マッチ工場の隅にはガルへンの遠い親戚で身寄りのないエレンという9歳の女の子が寝泊まりしていました。
エレンはガルへンからマッチを売ってくるように言われたが、全く売れません。すると天使が現れて、エレンに不思議な力を授けてくれた。エレンが触れたマッチを擦って願いごとをすると、好きな夢を見られるのです。
でもマッチの灯りが消えると夢はすぐに覚めてしまいます。夢でない本当の幸せを掴まねばならない。よし、金持ちになってやると心に誓ったエレンは、ガルへンの家を焼き払い、ガルへンの工場と遺産を全て相続しました。
「マッチを擦りながら願いごとをすると、夢の時間が訪れる」という宣伝を大々的に行い、エレンのマッチは飛ぶように売れます。13歳にして莫大な財産を築き上げたエレンですが、彼女はそんなことでは満足できず、さらに大きな夢を掴もうとしていました。
旅する赤ずきんが、バスケットを抱えてシュペンハーゲンの町にやってきました。赤ずきんの本当の目的は、エレンへの復讐でした。バスケットの中にあるのは毒入りのクッキーと火薬入りのワインボトル。
赤ずきんの大好きだったおばあさんは〈エレンのマッチ〉の中毒になり、飲まず食わずでマッチを擦り続け、還らぬ人となってしまったのです。
シュペンハーゲンの町でもマッチ廃人の家族たちによる抗議行動が行われるようになっていました。エレンは建築家のアルビンに命じて牢獄を作り、自分に逆らう者を次々にぶち込んでいきます。
シュペンハーゲンの町に着いた赤ずきんは、反エレン組織による集会があると聞き、その集会に参加。ところが赤ずきんたちは一網打尽に捕らえられ、牢獄へと放り込まれてしまいました。
けれども、しばらくたつと、赤ずきんと一緒に捕らえられた囚人たちが牢獄から突然姿を消し、時を同じくしてエレンのマッチの直営店が次々と襲撃されたという報告がエレンに伝えられた。
しかもほぼ同時に襲撃された直営店では、赤いずきんを被った人物が目撃されています。エレンは私設の兵隊を総動員しますが、赤ずきんを捕らえることはできません。
その夜、20人以上の赤ずきんとデンマーク国王の兵隊にエレンの工場は包囲されました。実は、お菓子の家の事件を共に捜査したオオカミのゲオルグの忠実なしもべ・テントウムシのエイミーが、反エレン組織の集会にはエレンの放ったスパイがいると赤ずきんに知らせに来たのです。
さらにエイミーからの情報で大工のナップと再会した赤ずきんは、エレンの牢獄には重大な秘密があることを聞き、わざと捕まることにしました。
エレンの牢獄はマッチの箱のように、中の部屋だけがスライドする仕組みになっており、赤ずきんと仲間たちは窓のない空間にスライドしていたために、牢獄はもぬけの殻となっているように見えていたのでした。
町中に現れた‟赤いずきん”の集団は魔女のバーバラの魔法によって現れたものでした。
デンマーク国王とは私設の兵隊を動かさないと約束していたのに、兵隊を総動員してしまったこと、周りの国々からエレンのマッチの中毒性について批判を受けていたことなどから、エレンは捕らえられることになりました。
お母さんにお土産でも買って帰ろうと町を歩き始めた赤ずきんは、国王の兵隊から逃げ延びたエレンが、細い路地の雪の上で何本もマッチを擦っている姿を見つけます。
「この世は全て私のものよ」。エレンは呆けたような表情でマッチを何本も何本も擦っていました。
お婆さんに渡すはずの赤ずきんのバスケットの中は実は驚くべき復讐の小道具が入っているのですが、それは最終章で明かされることで、それまではあくまで‟お使いの旅に出た少女”という設定です。
『シンデレラ』に始まり、『ヘンゼルとグレーテル』『眠りの森の美女』『マッチ売りの少女』と有名な童話の中の殺人事件をすらすらと解決していく様は、手際のよい刑事ドラマを観ているようで、心地良い読後感を残します。
映画では4編のうちシンデレラの話が中心となるでしょう。抱腹絶倒のコメディを数多く手がけてきた福田雄一監督ですから、より人間っぽい赤ずきんやシンデレラが登場するに違いありません。