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Entry 2019/04/15
Update

映画『ザ・バニシング消失』ネタバレ感想。リメイク版までありながら日本未公開であったサスペンス秀作

  • Writer :
  • 白石丸

映画『ザ・バニシング -消失-』は2019年4月12日(金)ロードショー

旅行先で突然消えた恋人。彼女はなぜ消えたのか、どうなってしまったのか。その真相を男が追っていくうちに、物語はどんどん恐ろしい局面に向かいます。

巨匠スタンリー・キューブリックも認めた心底恐ろしいサイコスリラーが遂に日本初公開です。

かなりハードルが高い宣伝文句がついた本作ですが、それに全く見劣りしない映画でした。

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映画『ザ・バニシング-消失-』の作品情報


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

【日本公開】
2019年(オランダ・フランス合作映画)

【原題】
Spoorloos

【脚本・監督】
ジョルジュ・シュルイツァー

【キャスト】
ベルナール・ピエール・ドナデュー、ジーン・ベルヴォーツ、ヨハンナ・テア・ステーゲ、グウェン・エックハウス

【作品概要】
1988年の公開当時、スタンリー・キューブリックが3回鑑賞して「今まで見た中で一番恐ろしい映画だ」と語ったという伝説のサイコサスペンス。

製作から30年を経て、遂に2019年に日本で公開されました。

監督はジョルジュ・シュルイツァー。後にハリウッドで同作のセルフリメイク『失踪』(1993)を撮りますが、オリジナルにあたる本作の恐ろしさは際立っています。

映画『ザ・バニシング-消失-』のあらすじとネタバレ


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

オランダ人のレックス・ホフマンとサスキア・ワグダーの夫婦は、7月のツール・ド・フランスが開催される頃、フランスの田舎へ自転車を積んだ車に乗って旅行にやってきます。

二人はフランスの別荘地を借りて、楽しく過ごす予定でした。

とあるトンネルを通っている最中、サスキアは最近見た奇妙な夢の話をします。

「金の卵に閉じ込められるの。そして永遠に宇宙をさまよい続ける。でも私がいる卵以外にもう一つ金の卵が現れてぶつかったら全てが終わったわ」

そんな話をしているうちに、真っ暗闇のトンネルの真ん中で車がガス欠し立ち往生してしまいました。

レックスは追突される恐れがあるから車を降りろと言いますが、サスキアは懐中電灯があったから探すと降りようとしません。

元々頑固なレックスは怒ってしまい、怯える彼女を車内に置き去りにして、ガソリンを取りに行ってしまいます。

レックスがガソリンを持って帰ってくると、車内にサスキアの姿はありませんでした。彼が車をトンネルの外まで走らせると、彼女は一人立っていました。


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

レックスは置き去りにしたことをサスキアに謝り、二人は和解します。やがて車はドライブインに着きますが、そこには怪我もしていないのにギプスを腕にはめているレイモンの姿がありました。

給油を終え広場の芝生でいちゃつくレックスたちは、旅の記念にとそこにあった木の根元にコインを埋めます。

サスキアはレックスにじゃれつきながら「2度と私から離れないこと」と誓わせると、「飲み物を買う」と言って売店のある方へと走ってゆきました。

その後、いつまで経っても帰ってこないサスキアをレックスは心配し始め、人々に写真を見せながら彼女を探し回ります。

その中である店員から「男と2人で歩いて行った」という証言を得られたものの、それ以上の手がかりは見つかりませんでした。

レックスの元から、サスキアは忽然と姿を消してしまったのです。


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

やがて視点が変わり、物語の時間は過去へと遡ります。妻子持ちの大学教授であるレイモン・ルモンは、長い間女性を誘拐する計画を立てていました。

ある時、彼は山荘を購入し、そこにある屋外テーブルで家族と食事をとります。すると長女が蜘蛛を見つけ、悲鳴を上げてしまいました。

レイモンは凄い悲鳴だなと笑い、ふざけて次女と妻にも悲鳴を上げさせます。

翌日、レイモンは山の麓で暮らす老人の家を通り、昨晩悲鳴が聞こえたか訪ねます。老人は何も聞かなかったと答えました。

またある時は、クロロホルムを使って短時間で素早く女性を誘拐するため、レイモンは自身を実験台にして、クロロホルムを吸って睡眠状態になるまでの時間を調べます。

そして、「女性をうまい口実によって助手席に乗せ、クロロホルムの染み込んだ布の用意し、女性の口に押し当て気絶させる」という一連の行動を繰り返しシミュレーションしました。

準備を終えると、彼は街中で「道案内する」という口実で実際に女性を車に乗せようと試みますが、いつも断られてしまい上手くいきません。

ある日、レイモンは娘が通っている習い事の教師に声をかけてしまい、ナンパなら人の多いサービスエリアがいいと彼女に勧められます。

彼はその言葉に従い、レックスとサスキアがのちに訪れるサービスエリアへと通うようになりました。


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

やがて、サスキアが失踪してから3年後にまで、物語の時間は進みます。レイモンは街中で「この女性は3年前に失踪しました」という文言とサスキアの写真が貼られたポスターを見かけます。

サスキアの失踪後、レックスはずっと彼女の捜索を続けていました。彼にはすでにリーネケという新しい恋人がいましたが、サスキアの身に何が起きてどうなってしまったのかを知りたがっていました。

レックスはフランスのTV番組に出演し、「犯人に言いたい。もう彼女が無事だとは思っていない。君を断罪するのももういい。ただあの時何があったのか知りたい。」とコメントをします。その番組を、レイモンは家族と一緒に観ていました。


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

番組への出演後、レックスの家にはイタズラの手紙がたくさん届きましたが、彼はその中から、犯人しか知らない情報が書かれた手紙を見つけます。

レックスは手紙に書かれていたレストランに向かいますが、店内に待機していたレイモンは話しかけることなく、彼の様子をこっそりと窺っていました。

その後も、レックスは取り憑かれたようにサスキアの捜索を続けます。しかし、彼が捜索活動のために借金までしていることを知ったリーネケは愛想を尽かし、彼の元を離れていきました。

そんなある日、突然レックスの前にレイモンが現れ「私が犯人だ」と名乗ります。

レックスは瞬時に激昂しレイモンを何度も殴りつけますが、彼が落ち着くと、レイモンは平然と「真相を教えよう」と告げます。

そして真相を教える条件として、レックスに自分と一緒に車でフランスに来ることを要求しました。

レックスは真相を知りたい一心で車に乗り込み、2人はフランスに向かいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『ザ・バニシング -消失-』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『ザ・バニシング -消失-』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

フランスの国境を越えた辺りで、レイモンは真相を語りだしました。

レイモンは、自身が反社会性パーソナリティー障害だと自覚していました。16歳の時、ふと興味を持って自宅のバルコニーから飛び降り腕を骨折した記憶を回顧しながら、「普通なら思いとどまるところをやってしまうのが自分なんだ」と彼は語ります。

それでも、彼は「自分は正しい人間だ」と証明したいという願望を抱き続けていました。

それから十数年が経ち、家族ができた頃、レイモンは川で溺れていた幼女を助けます。娘からはその行為を賞賛され英雄視されますが、彼は満足できませんでした。

やがて、自分の「正しさ」を示すために、彼は「殺人以上に残酷な行為」を考え出します。そのために、彼はずっと女性を誘拐するシミュレーションをしていたのです。

シミュレーションと実践を繰り返す中で、彼は様々な口実を考案しますが、それでも女性を助手席に乗せることはできませんでした。

そんな時に、レイモンは誕生日に、自身の半生がまとめられたアルバムを長女からプレゼントされます。

彼はそこで、骨折しギプスをはめている16歳の自分が映った写真を見つけ、「怪我人のふりをして女性に介助してもらう」というアイデアを思いついたのです。


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

そして、ついにあの日がやってきます。最初に誘拐しようとした女性は運悪く逃がしてしまったものの、偶然売店に来たサスキアと出くわします。

次女が誕生日にプレゼントしてくれたイニシャルである「R」のキーホルダーに、同じくイニシャルが「R」のレックスの妻だったサスキアが食いついたことで二人は意気投合し、レイモンは簡単に彼女を車に乗せること、そしてクロロホルムで気絶させることに成功しました。

レックスは、その後彼女が何をされたのかを彼女に尋ねましたが、そこにパトカーがやって来たことで話は中断されてしまいました。

警官はシートベルトを着けていないレイモンを咎めようとしましたが、彼は自身が閉所恐怖症を明かしたことでその場は落ち着きました。

真夜中、レイモンはかつてサスキアを誘拐したあのドライブインに車を停め、水筒に入れていたコーヒーをレックスに差し出します。

そしてレックスに、コーヒーには睡眠薬が入っており、自分がサスキアに何をしたのか教えるためにはこれを飲む必要があると伝えます。

一度は断ったレックスでしたが、サスキアとともに木の根元に埋めたコインを見つけたことで、意を決してコーヒーを飲み干しました。

しばらくして、目を覚ましたレックスは全ての真相を悟りました。彼は棺桶のような箱に入れられ、地中深くに埋められていたのです。

サスキアのことを想いながらも、レックスは叫び声をあげます。しかしどうすることもできず、唯一の灯りだったライターの火も、次第に消えてゆきました。

ある日の休日、レイモンの家族は地中に人が埋められているとも知らず、無邪気に山荘で遊んでいます。レイモンはその光景をじっと見つめていました。


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

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映画『ザ・バニシング -消失-』の感想と評価


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

本作はとても恐ろしい内容であり、奇妙な映画でもあります。

「女性が失踪し、彼女を愛していた男が行方と真相を探る」という基本プロットは、ノワール映画としてはオーソドックスです。最近なら『アンダー・ザ・シルバーレイク』や『バーニング 劇場版』も女性が消える話でした。

しかし本作の独自性は、観客の興味をある一点だけに集約させてから恐ろしいオチをつけることに成功している点です。

映画冒頭、サスキアがいなくなった暗闇のトンネルを走っていくと、出口から光が差して、そこに彼女がいるという場面があります。

この場面で観客は無意識にでも「暗闇の中でもとりあえず進んでいけば彼女に会える」という思いを画的に刷り込まれるのですが、実際の物語はその逆へと展開していきます。この映画的なミスリードも巧みです。

その後、サスキアが失踪してしまう場面もスリリングなのですが、本作はその直後に犯人のレイモン側の視点に移ります。

つまり本作は、犯人が誰かを追う映画ではないということです。

時制が戻り、彼の周到な準備が描かれます。特に山荘で家族にわざと叫び声をあげさせて、周りにどれくらい声が聞こえるのかを確認するという描写はゾワッとします。

しかし彼が何回も失敗する場面や女性との会話のシミュレーションをしている様は中々滑稽であり、家族とも平和に暮らしているので、いつの間にかそんなに悪い人に見えなくなってきます。

そして、3年が経ってもまだサスキアを探しているレックス側に視点が戻ります。

消えた恋人を追っている一方で新しい恋人を作っていたり、「もう生きているとは思わないが真相だけ知りたい」と借金までして捜索をしているので、今度は彼の方が、何だか理解できない人物にも見えてくるのが奇妙です。

そして、元々サイコパスで余裕綽々の男と、事件のせいでサイコパスに片足を突っ込んでいる男が邂逅してから、物語は真相に向けてドライブしていきます。

レイモンが犯行に至った動機や、なぜサスキアが選ばれてしまったのかも語られ、どんどん謎は剥ぎ取られゆき、最後には「その後サスキアはどうなってしまったのか?」という一点に観客の興味が集まります。

その頃には観客もレックスと心情が重なっているので、「睡眠薬入りコーヒーを飲め」などという、普通なら絶対にあり得ない危険な要求に対しても、「真相を知りたいから飲め!」と思ってしまうところが恐ろしい点です。

そして遂に求めた真相を知った時にはもう後の祭り。「さあこれが真相だ。で?どうする?」と言われているような恐ろしいオチで、観客の気分は奈落の底に落とされます。

ここまで人の好奇心を手玉にとった映画は中々ないでしょう。

恐ろしい運命のいたずら


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

レイモンは自分が閉所恐怖症でありながら、人を地中に埋めてしまうという恐ろしい計画を立てていました。

サスキアも冒頭のトンネルのシーンで取り残されてパニックになるところを見ると、閉所恐怖症の気があったと思われます。彼女は、どれほど恐ろしい思いをしたのでしょうか。

そしてレックスも、真相にとりつかれた結果、彼女と同じ運命を辿ります。

レイモンは特定の人をターゲットにしていたわけではないため、この結果はたまたまだったとも言えます。

しかし、この結末に至るまでの様々な偶然の積み重ねや示唆的なシーンが丁寧に描かれているので、もはやこうなるのが運命だったのではとも思えてきます。

あのドライブインに行かなければ、サスキアが一人で買い物に行かなければ、レイモンが最初に狙った女性を乗せるところまでいった時にくしゃみをしていなければ、レイモンが「R」のキーホルダーをプレゼントされなければ、そもそもサスキアが”レックス(Rex)”と付き合っていなければ…。

また、レックスたちが地中に埋めるコインやサスキアの語る金の卵に閉じ込められる夢なども、後の展開を示唆しています。

ファーストカットで画面に映される蜘蛛の巣にかかった虫や、インサートされる蜘蛛や獲物に忍び寄るカマキリも、虎視眈々と誰かが罠にかかるのを狙っているレイモンの姿と重なります。

恐ろしい脚本と巧みな映画的語り口が光る、伝説の映画と言われるのも納得の一作でした。

まとめ

本作は結果だけ見ればバッドエンドですが、恋人同士が最終的に同じ運命を辿れた、或いは一人の男が歪んだ悲願を遂に達成したという意味ではハッピーエンドにも見えてきます。

レックスの立場に立った時、あのまま真相を知らずに生きるのか、それともコーヒーを飲んで恐ろしい体験をするか、自分だったらどうするか考えてしまいます。

劇場では様々な新作が公開されていますが、人間心理を巧みに突いた本作は30年の時を経ても全く古びていません

公開館は少ないですが、ぜひ逃げ場のない劇場で見て欲しい一作です。


(C)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

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