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Entry 2025/02/04
Update

『消滅世界』映画原作ネタバレあらすじ感想と評価解説。村田沙耶香の近未来小説で‟性”が消えゆく世界を問う

  • Writer :
  • 星野しげみ

村田沙耶香のSF近未来小説『消滅世界』が映画化決定!

「性」が消えゆく世界で「恋愛」「結婚」「家族」のあり方はどうなるのか。新たな常識が定着する世界で、これまでの感情と新世界のルールに翻弄される若者たちを描いた村田沙耶香の小説『消滅世界』

超少子化の先に待っていたのは、現代の常識からは離脱しているように思える近未来の姿でした。

現代の感覚では正常と思われる愛の営みで産まれた主人公・雨音が、子育てや出産をコントロールされた世界で悩みながら生きる姿を描いています。

映画『消滅世界』は、2025年秋に全国ロードショー。映画公開に先駆けて、小説『消滅世界』をネタバレありでご紹介します。

小説『消滅世界』の主な登場人物

【雨音】
主人公。夫と一緒にモデルシティに移住する

【朔】
雨音の夫。モデルシティに移住後、人工授精によって妊夫となる

【樹里】
雨音の友人

小説『消滅世界』のあらすじとネタバレ

近未来の日本でのこと。

そこでは、子どもは欲しいと思ったカップルが、欲しいと思った時に精子バンクを使って人工授精で妊娠するようになっていました。夫婦はセックスレスとなり、家族とは気の合う人たちが集まる場となっています。

雨音は小さいときからそんな社会の中で育ちましたが、母子家庭だったため、いつも母から父とは相思相愛の大恋愛で結ばれたと聞かされていました。

そして、雨音が小学校高学年の時、とうとう、母は父とセックスをして雨音を産んだと告げます。ですが、この世界では、夫婦間でセックスをすることは「近親相姦」と言われていたから、雨音はそれが信じられませんでした。

雨音は、周囲の友だちが自分とは異なる生まれ方をしているのを知りますが、母親からセックスで生まれるのが正常だと言われてきたため、何が正しいのかわからなくなりました。

雨音はこうして、暗中模索の青春時代を送ります。

雨音は父と母のように、愛し合う人と結ばれる行為のセックスを試みますが、相手は何故それをするのか理解できません。自然と雨音のもとを離れていくことになるので、大きくなって付き合った彼氏ともいつも上手くいきませんでした。

しかしそんな雨音もやがて一人の男性と巡り合い、結婚しました。優しい彼・朔は雨音の悩みも理解してくれ、雨音との行為にも付き合ってくれます。雨音としては、理想的な結婚に落ち着いたのでした。

その頃、千葉で大掛かりな社会実験が行われることになりました。そこでは全市民がひとつの家族として共同生活を行い、人工受精で生まれる子どもはみんなの共有財産となります。

すべての大人が子どもの親となり、かわりばんこに子どもを作っていくという実験でした。雨音は当然、「そんなの絶対うまくいかない」と冷ややかな見方をしていました。

雨音と夫はあいかわらず、パートナー以外のヒトやキャラクターと恋愛を重ねています。

しかしそんな愛し方が正常かどうかで、2人、特に夫はいつも悩んでいました。そして友人がモデルシティに移住したと聞き、雨音夫婦も移住を考えます。

夫は家族であり、雨音の守るべきたった一つの存在です。家族のために、2人はモデルシティへの移住を決意しました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『消滅世界』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『消滅世界』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

千葉にあるそのモデルシティが生まれたのは、10年ほど前のこと。人工授精で生まれた子供たちは、センター内で町の大人たちによって育てられます。

みなおかっぱ頭で白い服を着て、顔の表情も笑い方もハンで押したように同じな子どもたち。その町にはそんな子どもたちが集団で闊歩し、面倒を看る職員たちが彼らを引き連れていました。

女性はみんなお母さんと呼ばれ、子どもから慕われているなかで、男性の人工授精研究も進められています。

実際にそこへ移住。それぞれの生活スタイルを考慮してマンションの2部屋を借りて別々の寝室としました。

いざ移住してみれば、夫は町中で出会うセンターで集団生活をしている子どもたちのことを可愛がり、なんとなくこの町でやっていけそうな感じでした。

やがて2人は子供を出産する決意をします。雨音と夫、2人同時に人工授精をして、2人で妊婦・妊夫生活を始めました。

好調なスタートに見えたのですが、やがて雨音は流産をします。夫の方は順調に育ち、彼の腹部につけた人工子宮はどんどん大きくなっていきました。

雨音は男性の腹部につけられたその大きな子宮が不気味に思えて仕方ありません。しかし夫は「2人の子だから、大事に出産するよ」と、妊夫生活にさらに拍車をかけます。

夫とは次第に距離が遠のき、たまに連絡を取るだけの間柄になりました。

「お母さん」しかいない世界。この世界を何か変だと思う方がおかしいのだろうか、とひとり悩む雨音。

かろうじて「家族」というものにつなぎとめているのは、「自分の遺伝子を受け継ぐ子供と会いたい」という気持ちだけでした。

やがて夫は無事に子どもを出産しました。自宅に連れて帰って育てて見たかった雨音が、夫の病室を訪ね「あの子は?」と尋ねます。「ああ、センターに預けたよ」という答えに、雨音は息を飲みます。

センターに預けたら自分たちの子だとわからなくなるのでは?と言う雨音に対して、夫は自分たちの子どもなら、この町にたくさんいるじゃないかと言いました。

「嬉しいなあ。僕たちはついに楽園に帰って来たんだ。子どもを産み落とし、すべての子どものお母さんになるんだ。僕は僕の子宮で世界に命を繋げたんだ。素晴らしいことだと思わないかい?」

もうだめだと思った雨音は、最後の切り札をだします。「私たちは約束したわ、2人で子どもを育てようって」と。

夫はあっさりと、「僕たちが間違っていたんだ。命は人類のものだからちゃんと返さないと」と言いました。

この世界のルールに染まってしまった夫に対して、雨音はもう返す言葉もありません。家に帰ろうと病室を出た雨音はふと思いついて、新生児室をのぞきました。

そこにいるたくさんの子どもたちを見ていると、彼らが次第に可愛くなってきて、そばにいる新生児を抱きしめたのです。

ある日、雨音の家に母がやって来ました。夫と子どもはどうしたのかと尋ねます。雨音は、ありのままを話しました。
「男性出産の第一人者として講演などで大忙しの夫は家を出ていき、子どもはセンターに預けた」と。

その後、雨音はモデルシティのルールに不快感を持つ母に睡眠薬を飲ませ、隣の夫の部屋に軟禁状態にしました。

それからの雨音は、成長していく町中の子どもと旧式のセックスをして戯れる日々を過ごしています。

小説『消滅世界』の感想と評価

『消滅世界』は、第155回芥川賞(2016)受賞作『コンビニ人間』の作者・村田沙耶香が、受賞直前の2015年12月に刊行した長編小説。

『コンビニ人間』でもその世界観は注目されましたが、『消滅世界』はさらにその上をいき、今までにないクレイジーと言える世界観に打ちのめされました

小説の舞台となるのは、人工授精で子どもを作ることが普通であり、恋愛や家族という概念が変容した近未来の世界です。

特に主人公の雨音が移住したモデルシティは、現代の感覚では異常と言えるほどのものでした。

子どもは町の宝だから、男女を問わずに人工授精で妊婦や妊夫となって出産し、誰もが産まれてきた全ての子どもたちの「お母さん」となって、子どもを育てるという実験中の町だったのです。

その世界では、人間は子どもを養うため、またはお互いを支え合うために好きでもない人と結婚をします。夫婦でありながら、愛の営みは「近親相姦」とされ、外に愛人を持つことは当たり前でした。

こんな家庭の在り方が普通と思えない主人公・雨音は、自分がおかしいのかと常に不安な感情を持ちます。が、次第にその世界に順応していくのです。

ここで気になるのは本作のタイトルです。いったい何が「消滅」させられたのかと考えてしまいます

また、小説の中のその世界に適応していく雨音を、正しくなっていくと捉えるのか、狂っていくと捉えるのか

これらは読者が決めることですが、現実にこれまで当然と思っていた常識や世界観が、近い将来本当に根底から覆るかもしれません

この小説は、そんな危機感を読者に抱かせ、近未来に警報を鳴らす作品と言えます。

映画『消滅世界』の見どころ

『消滅世界』の映画化に当たり、監督を務めるのは、本作が長編映画の監督デビューとなる川村誠です。

【川村監督のコメント】
想像を超える規格外の世界観、耳を疑うようなセリフの数々、思考を刺激する美しい言葉で綴られた原作と出会い、足元が揺らぐような衝撃を受けました。この物語から受け取ったイメージを私の感性で映画として表現する自由をくださった
村田沙耶香さんに心より感謝しています。これは、自分たちが「正しい」と信じているものの奥底にある本当のことを探る不思議な思考実験であり、恋愛・結婚・家族―全ての価値観が激動するこの世界で性に悩み、愛に迷う方々に捧げる映画です。この狂おしく切ないストーリーを美しく繊細に映像化することを目指しました。
最高のキャスト・スタッフと共に作り上げた本作を、是非劇場で味わっていただき、今を生きる皆さんの心に少しでも突き刺さる何かが残れば幸せです。

キャストは2025年2月現在は未発表ですが、予想として、主人公の雨音は、高い演技力で数多の作品の主役を演じて来た杉咲花が良いかなと思います

ですが、予想に反してどんなキャスト陣になっても、川村監督が描こうとする‟規格外の世界観のなかで性に悩み、愛に迷う人々に捧げる映画”を、見事に仕上げてくれると期待します

村田沙耶香の今までの常識を覆される世界が、どのように実写化されるのか、とても楽しみです

映画『消滅世界』の作品情報

【日本公開】
2025年(日本映画)

【原作】
『消滅世界』(著者・村田沙耶香/河出文庫)

【脚本・監督】
川村誠

【キャスト】
未発表

まとめ

人工授精によって子どもを誕生させる未来を描く、村田沙耶香の『消滅世界』をご紹介しました。

主人公の雨音が体験したモデルシティでの生活は、驚くものでした。

統一された容姿の‟町の子どもたち”と団体生活をおくる彼らを育てる町の人々。一見、町の宝物として子どもたちを大切に育てているように見えますが、果たしてこれがいい方法だと言えるのでしょうか。

人間製造工場から出荷されるように、統一化された個性のない子どもたち。同じ表情を浮かべた同じ顔を見るにつけ、困惑する雨音の胸中は察することができます。

こんな未来が本当にあってよいものか。いや、これが正常と人々が信じて、そんな社会を築いているということがとても恐ろしく思えます

人の愛し方さえ今まで信じていた常識を覆される作品で、タイトルが意図する「消滅とは何か」と考えさせられることでしょう。

映画『消滅世界』は、2025年秋に全国ロードショー。乞うご期待!

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