突如出現した未知なる飛行体―。“彼ら”は人類に〈何〉を伝えようとしているのか?
ドゥニ・ヴィルヌーヴが贈るすべての人の胸を打つ感動のSFドラマ『メッセージ』をご紹介します。
CONTENTS
1.映画『メッセージ』の作品情報
【公開】
2016年(アメリカ)
【原題】
Arrival
【監督】
ドゥニ・ヴィルヌーヴ
【キャスト】
エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、マイケル・スタールバーグ、ツィ・マー、マーク・オブライエン
【作品概要】
『プリズナーズ』、『複製された男』などでおなじみのカナダ人監督ドゥニ・ビルヌーブが、アメリカ人SF作家テッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』を実写映画化したSFドラマ作品。
主演にエイミー・アダムス、共演にジェレミー・レナーやフォレスト・ウィテカーら実力派俳優が集結。
第89回アカデミー賞(2017年)音響編集賞受賞作品。以下ノミネート、作品賞、監督賞(ドゥニ・ヴィルヌーヴ)、脚色賞(エリック・ハイセラー)、撮影賞(ブラッドフォード・ヤング)、編集賞(ジョー・ウォーカー)、美術賞、録音賞。
第74回ゴールデングローブ賞(2017年)ドラマ部門最優秀主演女優賞(エイミー・アダムス)、最優秀作曲賞(ヨハン・ヨハンソン)ノミネート作品。
2.映画『メッセージ』のキャスト一覧
ルイーズ・バンクス / エイミー・アダムス
1999年にキルスティン・ダンスト主演映画『わたしが美しくなった100の秘密』のオーディションに合格してデビューを果たしたエイミー・アダムス。
しばらくはテレビドラマへの出演が続いた後、2002年にスティーブン・スピルバーグ監督に抜擢され、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』に出演するもそこまでのブレイクには至りませんでした。
アカデミー賞助演女優賞ノミネート『『Junebug』(2005)
彼女の大きな転機となったのは2005年の『Junebug』。この作品で、インディペンデント・スピリット賞や全米映画批評家協会賞を受賞した他、アカデミー助演女優賞にもノミネートされ、一躍脚光を浴びることに。
その後、ディズニー映画『魔法にかけられて』(2007)でサターン賞助演女優賞を受賞、翌年の『ダウト〜あるカトリック学校で〜』ではメリル・ストリープやフィリップ・シーモア・ホフマンら並みいる名優たちに負けず劣らぬ演技を披露。
同作で再びアカデミー助演女優賞にノミネートされた他、英国アカデミー賞、ゴールデングローブ賞にもノミネートされるなど、高い評価を獲得します。
2010年以降はさらなる快進撃を見せ、デヴィッド・O・ラッセル監督の『ザ・ファイター』(2010)、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』、そして再びデヴィッド・O・ラッセル監督の『アメリカン・ハッスル』と話題作に立て続けに出演。
その全てで世界中の様々な賞レースを席巻(常にアカデミー賞にノミネートされるも受賞には至らず)し、清純な女性からコメディタッチのもの、またはクセの強い役でもなんでもこなす実力派女優として世界中にその名を知らしめていますね。
そんなエイミー・アダムスが本作『メッセージ』で演じているのは、愛する娘を亡くしてしまった言語学者のルイーズ・バンクス。
突然軍に雇われ、謎の宇宙船の調査に駆り出されたルイーズが辿り着いた驚愕の真実も気になる所ですが、作品ごとに様変わりするエイミー・アダムスの変幻自在の表情にも注目です!
イアン・ドネリー / ジェレミー・レナー
1995年に『ナショナル・ランプーン/ホワイトハウスを乗っ取れ!』という作品で映画デビューを果たしたジェレミー・レナー。
彼が最初に注目されるようになったのは、2002年の『ジェフリー・ダーマー』で実在の殺人鬼ジェフリー・ダーマーを演じたことだと思われます。
日本未公開作『ジェフリー・ダーマー』(2002)
この作品のでの演技が高い評価を受け、インディペンデント・スピリット賞主演男優賞ノミネートされることに。
その後、『S.W.A.T.』(2003)、『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007)、『28週後…』(2007)などの話題作に出演し続けます。
ジェレミー・レナーの最も大きな転機となったのは、2008年。キャスリン・ビグロー監督の『ハート・ロッカー』でしょう。
ウィリアム軍曹役で数々の映画祭にて評価はうなぎのぼり‼︎
作品自体もアカデミー作品賞を受賞するなど最高の評価を得た上、主演を務めたジェレミー・レナーも全米映画批評家協会賞主演男優賞やナショナル・ボード・オブ・レビューブレイクスルー男優賞を受賞するなど、その名を世に知らしめることに。
2010年にはベン・アフレック監督の『ザ・タウン』でオスカーノミネート、翌年の『マイティ・ソー』(2011)ではホークアイを演じ、以降の『アベンジャーズ』シリーズでもおなじみとなりましたね。
他にもジェームズ・グレイ監督の『エヴァの告白』(2013)やエイミー・アダムスと共演した『アメリカン・ハッスル』(2013)など、常に話題作に顔出す売れっ子俳優となっています。
本作『メッセージ』でジェレミー・レナーが演じているのは、物理学者のイアン・ドネリー。
ルイーズとチームを組むことになるのがイアンですが、『アメリカン・ハッスル』でも共演した2人がどうのような掛け合いを見せてくれるのかに注目です!
ウェバー大佐 / フォレスト・ウィテカー
キャメロン・クロウが一躍脚光を浴びた(原作及び脚本を手掛けた)映画『初体験/リッジモント・ハイ』(1982)でデビューを果たしたフォレスト・ウィテカー。
1986年にはオリバー・ストーン監督の『プラトーン』、翌年にはバリー・レヴィンソン監督の『グッドモーニング,ベトナム』(1987)に出演するなど、着実にキャリアを積み上げていきます。
1988にはクリント・イーストウッド監督の『バード』で伝説的サックス奏者のチャーリー・パーカーを演じ、カンヌ国際映画祭男優賞を受賞するなど、高評価を獲得しました。
伝説のバード役を演じて人気や評価を不動のものに!『バード』(1988)
その後も、『クライング・ゲーム』(1992)、『スモーク』(1995)、『フォーン・ブース』(2001)など、様々な作品で存在感を発揮。
2007年の『ラストキング・オブ・スコットランド』で、実在したウガンダの独裁者イディ・アミンを演じ、アカデミー賞はもちろんゴールデングローブ賞など、あらゆる賞を総なめにします。
アメリカ公開では当初4館から520館に拡大ヒット飛ばした!
『ラストキング・オブ・スコットランド』
他にも『レポゼッション・メン』(2010)、『大統領の執事の涙』(2013)、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)など、主役から脇役までどんな役回りでもこなす名バイプレイヤーとして名を馳せていますね。
そんなフォレスト・ウィテカーが本作で演じているのは、謎の宇宙船を発見し、ルイーズに調査を依頼することになる軍人のウェバー大佐。
フォレスト・ウィテカーの演技ほど安心して見ていられるものはないので、本作でもそんな安定感に期待しましょう!
ハルペーン捜査官 / マイケル・スタールバーグ
1998年に『しあわせ色のルビー』で映画俳優デビューを果たしたマイケル・スタールバーグ。
2008年にはリドリー・スコット監督の『ワールド・オブ・ライズ』にチョイ役で出演した翌年、コーエン兄弟の『シリアスマン』が彼にとっての大きな転機となった作品でしょう。
大学で物理学を教える平凡なラリー役を好演!『シリアスマン』(2008)
この作品で、サテライト賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞した他、ゴールデングローブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)などにもノミネートされるなど、高い評価を獲得したのです。
その後もマーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』(2011)、ウディ・アレン監督の『ブルー・ジャスミン』(2013)、『完全なるチェックメイト』(2014)、『ドクター・ストレンジ』(2016)など、次々と話題作に出演し続けていますね。
そんなマイケル・スタールバーグが『メッセージ』で演じているのは、ハルパーン捜査官。
このキャラクターについての詳細はまだ明らかになっていませんので、一体どのような役回りでの登場になるのか要注目です!
3.映画『メッセージ』の監督紹介
映画『メッセージ』の監督を務めるのはドゥニ・ヴィルヌーヴです。
名前からしてフランス人っぽい雰囲気がありますが、実はカナダ・ケベック州出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ。
1994年に監督・脚本を務めた短編映画『REW-FFWD』を発表し、デビューを飾ります。
1998年に初の長編作品『Un 32 août sur terre』を発表。次作『渦』(2000)はジニー賞に輝くなど、地元カナダで着実にステップアップを重ねていきました。
ちなみに「ジニー賞」というのは、1949年から行われていたカナディアン・フィルム・アワードで、アメリカでいう「アカデミー賞」にあたるもの。
このジニー賞には『渦』の他にも、2009年の『静かなる叫び』(日本では2016年にようやく公開された)、2010年の『灼熱の魂』(第83回アカデミー外国語映画賞にもノミネート)と計3度も受賞しており、いかにカナダで高い評価を得ていたかがお分かりいただけると思います。
そして2013年からがドゥニ・ヴィルヌーヴにとって大きな転機となったのは間違いないでしょう。
ドゥニ・ビルヌーブ監督のハリウッドデビュー作『プリズナーズ』(2013)
初めてアメリカ資本で制作にあたり、ヒュー・ジャックマンやジェイク・ギレンホールら豪華キャストが名を連ねた『プリズナーズ』(2013)を発表し、興行的に素晴らしい結果を残しました。
ノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの原作『複製された男』(2014)
続く『複製された男』でもジェイク・ギレンホールを起用。ジョゼ・サラマーゴの原作小説を見事に映像化し(難解だという声はあったが)、カナダ・スクリーン・アワードで最優秀作品賞・監督賞を受賞。
2015年の『ボーダーライン』ではエミリー・ブラントやベニチオ・デル・トロの好演も加わり、第68回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された他、様々な賞レースに顔を出し、ドゥニ・ヴィルヌーヴの名を世界中に知らしめました。
彼の評価の高さは、リドリー・スコット監督作の『ブレードランナー』の正式な続編である『ブレードランナー 2049』(2017年10月公開予定)の監督に抜擢されたことにも良く表れていますね。
本作『メッセージ』は、優れたSF作品に贈られるネビュラ賞を受賞したことでも知られるアメリカ人作家テッド・チャンによる短編『あなたの人生の物語』を原作に映画化されたもの。
『複製された男』で原作の世界観を自分なりの解釈で映像化して見せたドゥニ・ヴィルヌーヴのことですから、きっと本作でも原作ファンの想いに応えつつも、良い意味で裏切ってくれるような展開を描き出してくれることが期待出来そうですね!
4.映画『メッセージ』のあらすじ
言語学者のルイーズは、仕事に励みながらもシングルマザーとして反抗的な一人娘を必死で育てていました。
しかし、2人の別れは足早に訪れます。
娘がガンであることが判明したのです。転移も早く、手の施しようがなくなってしまい、ほどなくして娘は息を引き取りました。
悲しみに暮れるルイーズ。
それでも何とか仕事をこなそうと、いつものように教室へ向かうと、何やら大変なことが世界中で起こっていることが分かりました。
世界各地に巨大な宇宙船が飛来し、宇宙人が到来したというのです。
すると、ルイーズの下へ軍のウェバー大佐がやって来ます。
宇宙人が何を話し、何の目的で地球へやってきたのかを解読して欲しいというのがウェバー大佐の要請でした。
その要請を受諾したルイーズは、宇宙船近くのベースキャンプへと移動。ルイーズ同様に要請を受けてやってきた物理学者のイアンと共に、早速調査を開始します。
宇宙船に乗っていたヘプタポッドと呼ばれる知的生命体は、地球人のものとは全く異なる絵画のような象形文字でメッセージを発しており、ルイーズたちはその解読に没頭しました。
そして、徐々にルイーズは彼らのメッセージが分かるようになり…。
果たして全ての真相を解き明かしたルイーズを待っている、美しくも残酷な人類へのラストメッセージとは一体…?!
5.映画『メッセージ』感想と評価
言語学者ルイーズが分析したヘプタポッド文字の考察!
この作品は、ファースト・コンタクトした宇宙人とコミュニケーションを図ろうした言語学者ルイーズが、宇宙人の使用するヘプタポッド文字を解明しようとすることが大きなポイントになっています。
ルイーズはヘプタポッド文字を表音文字であるアルファベットではなく、漢字のように表意文字であることに気がつきます。
鑑賞者が英語圏のような文字の思考を持つ物なら、当初のルイーズのようにそれを解読する際のように悩むこともあるかもしれない。
しかし、少なくとも日本人であれば、もしくは同じように漢字を使用する中国人あれば、絵から始まる漢字のような意味を構成されいることはすぐにわかるのではないでしょうか。
映画の冒頭にあったルイーズの大学での講義のシーンでも“言葉はアート”だと述べていました。
その前振りのヒントから、ヘプタポッド文字は漢字、あるいは多数の漢字(意味)が立体的に辺や作り、また冠などの部首で構成されたことはすぐに見抜けた人も多いのではないか。
白隠慧鶴 一幅 紙本墨画/江戸時代(18世紀)所蔵:永青文庫
また、宇宙人が空中に書いた文字が墨に見えることから、容易く書道を想像するでしょう。(タコの墨絵?)
さらに、ヘプタポッド文字は絵や図に見えることから、「円相」ではないかと思った人も少なくないでしょう。
「円相」とは、悟りや真理、または仏性、さらには宇宙全体を円形で表現したものとされています。その解釈は書を見る人(読む)に任されています。
これは見る者自身の“己の心をうつす窓”とも言われ、円窓とも呼ばれることがあります。
映画の中で時間がパラレルワールドとして存在したルイーズが自身を見ていたこと、知ったこと、悟りを開いたことに通じるので、ヘプタポッド文字は表意文字というよりも、むしろ“円相”だと言い切ってしまっても間違いはないでしょう。
話題のチームラボによる作品「円相」
1つ面白い参考映像なので提示しますが、猪子寿之が率いるチームラボのアート作品「円相」です。
全く映画と同じような作品ですね。このように空中に書いた円相あるいは、ヘプタポッド文字は書で描かれた墨跡のように、かすれや滲みによって、その深さや力の強さ、味わいを空間に描いた言語だったのでしょう。
禅において、円相は古来から悟りや真理、宇宙全体を象徴的に表現した物であるなら、『メッセージ』の難解さの少し鑑賞のヒントになるかもしれません。
また、西洋人を代表したルイーズが、「円相」のような禅画を見て解釈しようしていたのなら、それはそれで面白いのではないでしょうか?
であるなら、宇宙人も飛来する場所を北海道ではなく、京都にでも来れば、映画にあまり描かれていなかった、ヘプタポッド文字を研究する日本人学者も「円相」くらいは気がつきそうなものですが…。それはそれとしましょう。
宇宙人に名付けたアボット&コステロとは?
アボットとコステロ「Who’s On First」
2体の宇宙人に名付けられたニックネームアボットとコステロ(Abbott and Costello)は、バッド・アボットとルウ・コステロの2人組からなる誰もが知るアメリカのお笑いコンビのことです。
1936年にヴォードヴィル芸人として舞台に立ち、1940年にユニバーサル映画『One Night in the Tropics』に脇役出演して注目されてから1950年代までの間、コンビを主人公にしたコメディ映画が製作されました。
日本ではそのうち22本が公開されています。
『メッセージ』の物語の中で、科学者イアンが宇宙人に初めて会い、その後、帰還したベースキャンプに戻った際に、嘔吐してしまうほど気持ち悪い物体を見た?
あるいは、極度の緊張感から嘔吐したかは不明ですが、宇宙人にコメディアンに名付けたのはわかるような気もしますね。
これはイアンの恐怖心の克服のためですね。
『Abbott and Costello Go to Mars「凸凹火星探検」』(1953)
この参考作品はアボット&コステロの作品では晩年のものになりますが、宇宙人つながりとして、『凸凹火星探検』を貼っておきます。
予告編を見ると彼らのユーモアを利用したくなった、科学者イアンの気持ちがわかるかもしれません。
また、この章の冒頭のYouTubeの映像にあるコンビの掛け合いは、まるでM-1を見ているかのようではないですか?それほどまでにアボット&コステロの芸は喜劇史の中で、今なおスタンダードなのですよ。
映画の冒頭あたりで、ルイーズとイアンがヘリに搭乗した際に出会った時に、宇宙人とのコンタクトはサイエンスか?言語化?を言い合う場面がありました。
サイエンスの発展は大きく関わることに“武器”であります。端的に言えば化学は兵器の発展の歴史なのです。
ヘプタポッド文字の解明によって、時空を同時に捉えることを身につけて未来の出来事を知ることのできたルイーズ。
彼女がどのような言葉を掛けるかによって、ルイーズとイアンの夫婦関係の未来は変わると信じたいと願うラスト・シーンでしたね。
また、その夫婦関係メタファーこそ、人類が宇宙人ではなくとも、人間同士が武器や兵器でのコミュニケーションの戦争ではなく、話し合いという言語でのコミュニケーションを測ることが、夫婦の離婚に合わせたのは面白いたとえでしたね
まとめ
本作『メッセージ』はアカデミー賞で音響編集賞受賞した他、ゴールデングローブ賞で音楽を担当したヨハン・ヨハンソンが最優秀作曲賞にノミネートされているように、“音”の面でも非常に注目が集まっていますね。
ヨハン・ヨハンソンは、2014年に公開された映画『博士と彼女のセオリー』で第72回ゴールデングローブ賞で作曲賞を受賞するなど、高評価を得ている作曲家。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ作品では本作の他にも『プリズナーズ』、『ボーダーライン』、『ブレードランナー 2049』でも音楽を担当しており、素晴らしい効果を発揮していますね。
果たして『メッセージ』ではどんな音楽が披露されているのか…非常に楽しみです!
注目の劇場公開は2017年5月19日(金)より全国ロードショー!ぜひ劇場で宇宙からの『メッセージ』の真相を目撃してください!