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Entry 2023/05/28
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【ネタバレ】ビデオドローム|あらすじ結末感想と考察評価。クローネンバーグ代表作は80年代のSFホラー映画として“殺人ビデオ”により狂気の世界へと引きずり込む

  • Writer :
  • すずきあゆみ

グロテスクに逃げるな、グロテスクは絶対にお前より強い。映画『ビデオドローム』

映画『ビデオドローム』は、デビッド・クローネンバーグ監督の手がけた代表作。

残虐な内容の個人電波放送「ビデオドローム」にのめり込んでいく主人公が、幻覚と現実の境を彷徨いながら巻き込まれていく事象を、デビッド・クローネンバーグ流のボディ・ホラーを用いて淡々と描いています。

映画『ビデオドローム』は、クローネンバーグ監督の出世作『スキャナーズ』(1981)のあとに作られた映画です。

ただあまりに内容が難解なため劇場公開では全く振るわず、本作は「Videodrome(ビデオドローム)」 とタイトルがラベルされたビデオ版が発売されてから人気に火がつきました。

製作40年を記念して、上映時間89分のディレクターズカット、初の4Kデジタルレストア版で公開される映画『ビデオドローム』をご紹介します

映画『ビデオドローム』の作品情報


(C)1982 Guradian Trust Company.All Rights Reserved.

【公開】
1983年(カナダ映画)

【原題】
Videodrome

【監督】
デビッド・クローネンバーグ

【キャスト】
ジェームズ・ウッズ、デボラ・ハリー、ソーニャ・スミッツ、レイ・カールソン、ピーター・ドゥヴォルスキー

【作品概要】
1983年に公開された、デビッド・クローネンバーグによるサイコスリラー映画。「機械と肉体の結合」など、現実なのか幻想なのか、鑑賞者も判断しにくい難解なシーンの連続で、観るものを選びます。

本作は、VHSの発売によってカルト的な人気を獲得しました。現実が幻覚に侵食されているのか、幻覚が現実に侵食されているのか、単なるビデオテープが与える「刺激」に主人公は翻弄されていきます。

映画『ビデオドローム』のあらすじとネタバレ


(C)1982 Guradian Trust Company.All Rights Reserved.

ケーブルTV局の社長である主人公のマックスは、自分の局で放送する過激な映像をつねに探していました。セックスや暴力、刺激が強ければ強いほど視聴者はそれにのめり込み、視聴率が稼げます。

ある日マックスは、局のエンジニアのハーランから“凄い映像”があると紹介されました。ハーランは電波ジャックが得意で、世界中の放送を盗視聴できるのです。

ハーランが見せたのは、黒づくめの男たちが裸の女性を拷問するというもの。短い映像でしたが、これを見たマックスは無性にこの映像に惹かれます。

後日ハーランは、マックスに「ビデオドローム」とラベルしたビデオを渡します。ハーランはあの後、映像の発信元をアメリカのピッツバーグであると突き止め、長時間の録画に成功したのです。

さっそく「ビデオドローム」を再生するふたり。やはり最初に見た時と同じように、男たちが女性をひたすら鞭打つ映像が流れます。

「いつストーリーが始まるんだ」と聞くマックスに、「変態のための映画だよ」と答えるハーラン。この映像にシナリオはなく、拷問や四肢切断、殺人のシーンがひたすら繰り返されるというのです。

ある日の夜、マックスはガールフレンドのニッキーを自宅に招き、一緒にビデオドロームを鑑賞します。

すると彼女はマックス以上にビデオドロームに興味津々。「わたしも出演したい」とまで言い出します。ニッキーはM性癖の持ち主で、自傷癖もある女性なのです。

結局、後日ニッキーは「2週間の出張」とマックスに嘘をつき、ビデオロームに出演するため、本当にピッツバーグに旅立ってしまいました。

そんなこととは知らないマックスは、ビデオドロームについて詳しく知るため、世界中のビデオ販売に携わっている女性顧客・マーシャに調査を依頼します。

マーシャ曰く、ビデオドロームの拷問・殺人は「本物」であり、さらに政治的、哲学的な要素が含まれているとのこと。かなり危険な映像であり、決して深入りするべきではないとマックスに忠告します。

それでも食い下がるマックスは「オブリビアン教授」という人物がビデオの鍵を握っていることをマーシャから聞き出すのでした。

すっかりビデオドロームに夢中のマックスは、オブリビアン教授のいる「ブラウン管伝道所」を訪れます。教授は「テレビの画面は心の目」という教えを“テレビ画面越しに”布教しているといいます。

しかしマックスは、受付で教授の娘・ビアンカに門前払いされてしまいます。なんでも教授は20年以上人と会っていない、回答は後ほどビデオテープで行うとのこと……。

自宅に帰って、何やら「銃」を取り出すマックス。すると突然、マックスの秘書がオブリビアン教授からだというビデオを渡しに現れます。そこでなぜか、秘書をガールフレンドのニッキーと混同してしまうマックス。

自身の異変を感じながらも、マックスはビデオを受け取り、秘書を追い返します。さっそくビデオを再生しようとすると、ビデオテープはまるで生き物のように脈打ち……。

以下、『ビデオドローム』ネタバレ・結末の記載がございます。『ビデオドローム』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)1982 Guradian Trust Company.All Rights Reserved.

「ブラウン管は網膜、すなわち脳の一部。画面に現れたものは見た者の体験となる。現実以上にテレビは現実だ。」画面の中で語り出すオブリビアン教授。さらに教授の脳には腫瘍があり、これはビデオドロームを見たことでできたものだと言います。

その直後、教授の背後に覆面をした人物が立ち、教授を絞殺。ゆっくりと覆面を取った人物の正体は、姿を消していたガールフレンドのニッキーでした。マックスは呆気に取られ、画面を見つめます。

「あなたを待っていた」画面の中で囁くニッキー。テレビが臓器のように脈打ちはじめ、血管のようなものが浮き出てきます。テレビ画面が皮膚のような弾力を帯び、まるでテレビごとニッキーになったような……。「私の中に来て」というニッキーの言葉に従うように、マックスは自分の頭をブラウン管に突っ込みます。

翌日、マックスは教授の娘・ビアンカのもとに行き、昨夜のビデオテープを叩き返します。ビデオドロームによって脳に腫瘍ができるというのは、マックスにも当てはまっていることでしょう。

「教授に合わせて欲しい」と頼むマックスに、「父はもう死んでいる」「昨夜のビデオテープは過去に撮ったもの」と返答するビアンカ。「僕は一体どうなるんだ」と取り乱すマックスに、「父なら知ってるわ」と新たに4本のビデオテープが差し出されるのでした。

その日の夜、マックスは護身のために銃を握りしめ、新たなビデオを再生します。ビデオの中でオブリビアン教授は、この脳腫瘍は腫瘍ではなく“新たな脳”だと語ります。「ビデオドロームの大量投与は、新たな頭脳の成長をもたらす。幻覚は見た者を自在に操る現実を変えてしまうほどに」。

「現実など、認識の問題でしかないのだ」。その刹那、マックスの腹部が深くぱっくりと裂けてしまいます。さらにその裂け目は、自分の意思とは関係なくモゾモゾと蠢いています。自分の腹の裂け目になぜか手元の銃を突っ込むマックス。腹から手を引き抜くと、銃は消えていました。

突如電話が鳴りました。相手はバリーという男で、ビデオドロームを世界に拡散しようと考えているようです。マックスを助けたいというバリーの申し出に、マックスは自分の幻覚を分析する研究を行うことを了承するのでした。

バリーの経営する眼鏡店で、マックスは頭に大きな分析器をつけられていました。夢か現実か、幻覚なのかわからないまま、マックスは画面に映るニッキーを鞭打っています。

いつの間にかニッキーは女性顧客・マーシャに変わり、マックスはえも言われぬ興奮状態のまま、ひたすら「テレビ」を鞭打つのでした。

自宅のベッドで目を覚ましたマックスは、隣にマーシャの遺体が横たわっているのに気づきます。慌ててハーランを呼び出し、ここが現実であると確認しようとしますが、ハーランがベッドを見るとマーシャの遺体は消えていました。

マックスは、今夜放送されるビデオドロームを見るために、会社の録画室へ向かいます。今夜の放送には自分が映っているに違いないと思ったのです。

マックスが録画室へ行くとそこにはハーラン、さらにハーランの背後からバリーが現れます。実はバリーとハーランは裏で繋がっていて、ハーランは全てを知った上でマックスにビデオドロームを見せていたのでした。

バリーとハーランは、ビデオドロームによる革命を起こそうとしていて、マックスのケーブルTV局を狙っていたのです。

バリーは、マックスの幻覚を分析して出来たという「ビデオ」をマックスの腹に押し込みます。そしてチャンネルを乗っ取るため、放送局の社員を殺すようマックスに命令しました。

マックスが腹の割れ目に手を入れると、いつか無くした銃が出てきました。さらに銃からネジのような金属が湧き出てきて、マックスの手と銃を繋いでしまいます。

マックスはバリーの命令通り会社の重役を殺し、さらにオブリビアン教授の娘・ビアンカを殺しに向かいます。

マックスに銃口を向けられたビアンカは、ニッキーがビデオドロームによって殺される映像を見せて、マックスの正気を取り戻させようとします。彼女はビデオドロームの本質は「死」なのだと語ります。

「ビデオドロームに死を。新人間よ、永遠なれ」ブラウン管から伸びた銃口がマックスを撃ち抜くと、マックスは正気を取り戻したように見えました。

マックスは自分を騙したバリーとハーランを殺しに向かいます。腹の裂け目を猛獣のように使ったり、銃痕から内臓を噴き出させたり、まるでビデオドロームの幻覚のような方法で二人を殺すマックス。

全てやり遂げた、という風にマックスは、一人廃墟に入っていきます。そこにはなぜか「テレビ」。画面に映るのはニッキー。画面越しのニッキーに「自分がどうしていいかわからない」と訴えるマックス。

「あなたはやりきったと思っているけどそうではない」「ビデオドロームは完全には死んでいない」。そう話すニッキーのあと、画面にマックス自身が映ります。

画面の中で、右腕に繋がれた銃を自分のこめかみに突きつけたマックスは「新人間よ、永遠なれ」と言ったあと銃自殺しました。

それを見たマックスは、納得したように自分のこめかみに銃口を当て、今見たままの動作で、「新人間よ、永遠なれ」と引き金を引きました。

映画『ビデオドローム』の感想と評価


(C)1982 Guradian Trust Company.All Rights Reserved.

「現実など、認識の問題でしかないのだ」。この難解な映画の根本は、オブリビアン教授のこの言葉に集約されているように思います。

前作の『スキャナーズ』は、のちに『北斗の拳』などにも影響を与えた斬新な殺戮シーンなど、比較的分かりやすいストーリーと刺激的な内容で世界的に大ヒットしました。

『ビデオドローム』がその直後の作品であること、さらに当時が『死霊のはらわた』(1981)や『遊星からの物体X』(1982)など、新たな手法の刺激的なホラー映画が次々と登場した時代であったことを考えると、自ずとクローネンバーグ監督の思惑、問題提起が見えてくるように思います。

人は「どこ」を生きているのかを忘れるため、現実逃避のために、作り物のグロテスクに没頭することがあります。では、生を実感するためのツールとして「刺激」が氾濫する現代において、刺激的な幻想は、現実よりもまさに生そのものではないのか。

後にボディ・ホラーの巨匠となるクローネンバーグ監督は、このあとも次々と新たな“ビデオドローム”を作り出しては、私たちに提供してくれました。

本作『ビデオドローム』は、刺激のために消費されるグロテスク、ボディ・ホラーを人間の現実(意識)と対等のレベルにまで押し上げ、さらには現実を凌駕することで、クローネンバーグ監督が行う「これからの仕事」に対する決意を表しているように思います

まとめ


(C)1982 Guradian Trust Company.All Rights Reserved.

映画『ビデオドローム』は、1983年にデビッド・クローネンバーグ監督によって制作されたカナダのサイコスリラー映画です。

メディアと現実の間の境界が曖昧になる本作では、メディアと視聴者の関係や情報の過多など、テクノロジーへの哲学的なテーマが含まれていると解釈されることもあります。

またクローネンバーグ監督作の特徴である、身体的な変容や主人公の精神が蝕まれていく過程を克明に追う描写は魅力です。

個人的には「僕これからこういう仕事しますんで」という監督からの挨拶状のように見え、つい熱い気持ちで鑑賞してしまう作品です。




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