天才物理学者がタイムトラベルを繰り返していくSFタイムサスペンス
ブルーノ・ビニ監督の初の長編作となる、2020年製作のブラジルのSFタイムサスペンス映画『トランス・フューチャー』。
ビルの屋上で何者かに襲われ、殺された恋人を救うため、過去へ戻って犯人捜しを行っていく天才物理学者の姿とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
天才物理学者が、自身が研究していたタイムトラベルで過去へ戻り、恋人を含む複数人が殺害された未解決事件の真相を追っていくブラジルのSFタイムサスペンス映画、『トランス・フューチャー』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介いたします。
CONTENTS
映画『トランス・フューチャー』の作品情報
【公開】
2020年(ブラジル映画)
【脚本・監督】
ブルーノ・ビニ
【キャスト】
ブルーノ・ガリアッソ、ブランカ・メッシーナ、ビヤ・アランチス、ロベルト・ビリンデッリ、ニコラス・アントゥニス、ゼ・カルロス・マシャド、マリー・パキム、ルシアン・ボルトルッツィ、ロメウ・ベネディクト、Juliano Coacci、ロドリーゴ・フェルナンデス
【作品概要】
ブルーノ・ビニが監督・脚本・製作を務め、初の長編作として公開された、ブラジルのSFタイムサスペンス作品です。
ブルーノ・ビニ監督を同じブラジルの鬼才、フェルナンド・メイレレスが支えたことで、低予算ながら知的なアイデアと、巧みな脚本と演出で観客を魅了する作品となりました。
ブルーノ・ガリアッソが主演を務め、ブランカ・メッシーナやビヤ・アランチスら俳優陣が出演しています。
映画『トランス・フューチャー』のあらすじとネタバレ
タイムトラベルについて研究していた天才物理学者ダニエルは、突如17階建てのビルの屋上で、何者かに襲われてしまいます。倒れたダニエルの傍らには、変わり果てた恋人の姿がありました。
ダニエルは意識が朦朧とする中、恋人の死を知って生への執着心をなくしてしまい、死を覚悟していました。しかし犯人は、ダニエルを殺さずビルの屋上の端に立ちました。
そして犯人は、ダニエルに「今度はもっと急げよ」と伝え、そのままビルの屋上から飛び降りてしまったのです。
ダニエルは後頭部と顔に傷を負ったまま、その足で近くの警察署「第5文民警察署」に駆け込みました。
2013年6月14日、警察はダニエルの通報により、現場に駆けつけましたが、犯人の死体はありませんでした。
それどころか、犯人がいたという痕跡すらなかったのです。そのことに驚くダニエルは、第5文民警察署の署長ロベルトから、被害女性との出会いを聞かれました。
時を遡ること2012年9月12日。タイムトラベルについて研究するダニエルは、ビルの中に入っている自宅の研究室で、自身が開発したタイムマシンから現れる、未来からのタイムトラベラーの訪問を待ち望んでいました。
しかし、指定した21時になっても、タイムトラベラーは誰1人現れませんでした。そんなダニエルを見かねた、病院で働く姉のシモーネは、友人のカベロとダニエルと同じ大学に通う文系の男女複数人を招集。
研究に使う機材しかなかった研究室は、あっという間にパーティー会場へと変貌しました。研究室の隅に1人縮こまっていたダニエルは、ある1人の女性に一目惚れしました。
その女性とは、心理学を専攻する大学生マリア・ルイーザです。ダニエルがマリアと話したがっていることを察したシモーネは、彼女と話していた男性に無理やりキスをして引きはがします。
ダニエルはマリアの隣にそっと近づき、彼女が信じていないタイムトラベルについて、嬉々として説明しました。
ダニエルが、タイムトラベルが実在すると信じているのは、「人間の肉体は原子や分子、エネルギーで出来ているから、常に時空を移動し旅をしている」と考えていたからです。
ダニエルの話を楽しそうに聞くマリアと、そんな彼女に終始笑顔で話すダニエル。2人は引力のように惹かれ合い、キスをして結ばれました。
マリアはバーで会った女性にダニエルがデレデレしていたと言い、ダニエルはマリアがバーテンダーを誘惑していたと言い、互いに嫉妬して大喧嘩した日もありました。
「それでも彼女との仲は順調だった」と語るダニエルは、ロベルト署長から渡された調書にサインをし、第5文民警察署を後にしました。
しかしロベルト署長は、ダニエルを怪しむ同僚の警察官に、彼がいないところでこう言っていました。「後頭部の傷は、自分で偽装できないから彼は犯人ではない。でも何か裏がある」
ロベルト署長は、ダニエルが話した犯人の去り際の言葉に、身に覚えがあったからです。
実はロベルト署長は、ある事件を追っていて、その際自身の鼻を折った犯人にも、同じことを言われていました。
ダニエルはその後、マリアの葬式に参列し、自宅があるビルへ帰りました。マリアと過ごした思い出が沢山ある自宅の浴室で、ダニエルは手首を切って自殺しようとします。
そこへ、ダニエルを心配したシモーネと隣人のグラウベルが駆けつけたことで、ダニエルは無事一命をとりとめました。
ダニエルは搬送先の病院で、シモーネとある約束をします。「(昔大怪我をした自分を助けてくれた)あんたのためなら、私はなんだってする。だから二度とこんなことしないって約束して」
後日。退院したダニエルは、ロベルト署長に呼び出され、再び第5文民警察署を訪れました。その時、ダニエルはロベルト署長から、衝撃的な事実を告げられるのです。
ロベルト署長の話によると、マリアが殺された事件と全く同じ殺害の手口と凶器、同じ言葉を言い遺す未解決の殺人事件が、1978年から28件相次いで起きていました。
殺害の手口はどれも、レターオープナーを使って被害者の後頭部から側頭葉まで一突き。これにより、被害者は痛みを感じることなく、一瞬で死んでしまいます。
ロベルト署長たち警察は、犯人が凶器に使ったレターオープナーから、犯人の呼称を「郵便屋」としていました。
そう話すロベルト署長は、「これは快楽犯による手口じゃない。犯人は何か使命を果たしているように感じる」と推測。
そしてロベルト署長は最後に、「マリアの遺体の司法解剖の結果、彼女のお腹に妊娠9週目の赤ん坊がいたが、母親と一緒に死んでしまった」とダニエルに告げました。
ダニエルは、マリアが妊娠していたことすら知りませんでした。愕然としながらも、ダニエルはロベルト署長の捜査に協力することにしました。
その時、ダニエルはロベルト署長に、捜査資料のコピーを貰えないかと要求。捜査資料の中に、彼の亡き母親に暴力を振るっていた父親が、13番目の被害者として載っていたからです。
翌日、自室のベッドで寝ていたダニエルの元に、首輪がついた1匹の犬が現れます。起きたダニエルは、犬の飼い主を探しましたが、見つかりませんでした。
そこでダニエルは、その犬を飼うことを決め、「ジダン」と名付けました。そしてダニエルは、過去に戻ればマリアを救うだけでなく、彼女を殺した犯人を見つけることが出来るので、その唯一の道であるタイムトラベルの研究を進めていきました。
2014年3月16日。大学への研究発表は無事終わったものの、研究に行き詰ったダニエルは、ビルの屋上で寝落ちし夢を見ました。それは、マリアとダニエルがお揃いの入れ墨を彫った日の夢です。
シモーネの声掛けで目覚めたダニエルは、自分を励まそうとする彼女のうなじの入れ墨を見て、タイムトラベル完成に繋がるヒントを得ます。
電圧の調整用として作ったミニ原子炉を使った、タイムトラベルを完成させたダニエルは、お祝いにジダンを連れて思い出のバーへ行きました。
そこで偶然会ったロベルト署長から、ダニエルは1987年に殺された8番目の妻子持ちの被害者が、彼の兄ロジェリオ・アレンカストロであったこと。
それから、ダニエルが通報した日の夜、犯人と思われる2人の怪しい男を見つけたロベルト署長は、ペドロ・セレスチノ通りの楽器店に逃げ込んだ1人を捕まえて射殺し、もう1人に逃げられてしまったことを知らされました。
ダニエルはロベルト署長と別れ、帰宅しようとジダンを乗せた車を発進させた直後、トラックに横から追突されてしまい、大怪我を負ってしまいます。
長い間昏睡状態に陥ったダニエルは、搬送された病院で意識を取り戻しましたが、自分で自分の顔だと判別できないほど、事故前と比べて容姿が変わってしまったことに驚きました。
追突事故により、ダニエルは側頭部を激しく損傷。そのせいで彼の鼻と顎は折れ、歯も11本折れてしまっていました。残念ながら、ジダンは助かりませんでした。
映画『トランス・フューチャー』の感想と評価
最愛の人を亡くしたダニエルの悲しみ
物語の序盤で、最愛の恋人マリアを亡くした、天才物理学者のダニエル。
劇中では、タイムトラベルの研究を進めていくダニエルが、時々マリアとの思い出を回想する場面がありました。
幸せだった2人の日々を描いた夢から、残酷な現実に戻ってくる際のダニエルの憂いた顔は、観ている人が思わず彼の代わりに泣きたくなってきます。
そんなダニエルが、ある日突然出会った犬ジダンと、献身的に支えてくれる姉シモーネのおかげで、少しずつ笑みを取り戻していくところ。
交通事故に遭って酷い大怪我を負ってもなお、マリアを救うために研究に励んだ彼の姿は、どちらも感動的です。
ダニエルはマリアを救うために、過去へ戻ったのに、いざ切望していた彼女の姿を見て気持ちを抑えれなくなってしまいます。そこがまた、彼の愛情深さに胸ときめきます。
物語の前半では分からなかったマリアと接触した男全員、未来から来たダニエルだったことに驚きを隠せません。
衝撃的な事件の真相とラスト
物語の後半では、過去へタイムトラベルしたダニエルが、本格的に犯人捜しを行っていきます。
その上で重要なのが、ロベルト署長からの情報と、彼が25年間事件を追い続けた努力の結晶である捜査資料です。
犯人は他の28件の未解決事件同様、レターオープナーで被害者のマリアを、後頭部から側頭葉まで一突きで殺しています。
しかもその犯人を、ロベルト署長はダニエルが通報してきた日の夜、ペドロ・セレスチノ通りの楽器店まで追い詰めて1人射殺しているのです。
犯人はマリアを殺した時と同じ、死に際に「今度はもっと急げ」と言い遺しました。何を急ぐというのか、そこだけがダニエルたちは分かりませんでした。
物語の終盤に差し掛かった時、事件の真相は、別の未来から来たダニエルによって明かされます。最初はマリアだけでなく、全ての被害者を救おうとした未来のダニエル。
しかし彼は、救おうとした被害者たちが皆、罪のない人を殺そうとするろくでもない人間だと知ってしまったのです。
正義感が強いダニエルは、そのままリスト通りに次々と殺戮を繰り返し、ついには自分の父親まで手にかけてしまいます。
ただここまでの流れなら、未来のダニエルがマリアを殺したかと推測できますが、彼女を殺した犯人はこの時代のダニエルだったのです。
全て未来と過去の自分がやった事件だと知ったダニエル。その衝撃的な真実に愕然とします。
まとめ
天才物理学者が、殺された恋人を救うために、タイムトラベルを繰り返し真相を追っていく、ブラジルのSFタイムサスペンス作品でした。
正義感が強く愛情深いダニエルが、タイムトラベルを繰り返し辿り着いた結末が、思わず画面から目を背けたくなるほど辛い現実でした。
まさか、今までマリアと接触してきた男全員と、マリアを殺してしまった犯人が、全てダニエル本人だったなんて思いもしなかったことでしょう。
そして、最後まで兄の裏の顔を知らずにいたロベルト署長。肉親を殺されてから、より一層未解決事件を解決しようとした彼の執念は、ダニエルに負けていません。
エンドロール前には、映画タイトルの原題である「LOOP」とテロップで流れています。その言葉通り、ダニエルのマリアを救うタイムトラベルは、幕を閉じた今も繰り返していることでしょう。
天才物理学者がタイムトラベルを繰り返し、衝撃的な結末に辿り着くSFタイムサスペンス映画が観たい人には、とてもオススメな作品です。