映画『ワンダーウォール 劇場版』は2020年4月10日(金)より全国順次ロードショー中
京都の学生寮を舞台に、自分たちの居場所を奪われようとしている若者たちの揺れ動きながらも熱い胸の内を描いたドラマ『ワンダーウォール』。2018年の放送後にSNSなどで大きな反響を巻き起こした同作が、未公開シーンなどを追加した映画『ワンダーウォール 劇場版』として戻ってきました。
2020年4月10日(金)に封切りを迎えたのち、現在も全国にて順次公開中の映画『ワンダーウォール 劇場版』。このたび、脚本を担当した渡辺あやが、2020年7月11日(土)に広島・横川シネマでおこなわれたの舞台挨拶イベントに登壇しました。
本記事ではその舞台挨拶イベントの模様をお届けします。
CONTENTS
映画『ワンダーウォール 劇場版』舞台挨拶リポート
2020年7月11日(土)に広島・横川シネマでおこなわれた、映画『ワンダーウォール 劇場版』の舞台挨拶。本作の脚本を担当した渡辺あやが登壇しました。
製作を通じて若い人に伝わった渡辺の思い
ドラマ版の制作にあたっての取材を重ねていく間に、若い世代に対して「声を上げるということに対する深い諦めのようなもの」を感じていたという渡辺。彼らは問題意識をちゃんと持ちながらも、大勢の無関心によってかき消されるということに対する失望を感じていると分析し、対して本作の脚本執筆にあたりこういった傾向に向けて行動を起こしていくことを考えていたと明かします。
そして実際に、主人公役を務めた須藤蓮をはじめ、本作の製作キャスト、スタッフに対し進行の過程で若い人たちが「声を上げるようになった」と意識が変わっていった様子を感じたといいます。
また、ドラマ版では最後に有志で集まった楽器奏者によるオーケストラ演奏がドキュメンタリータッチで描かれいますが、『劇場版』では新たに有志の楽器奏者を募り、さらに規模を大きくしたことで迫力の増した演奏シーンが追加されています。
こういった構成を導入した経緯について、渡辺は「もちろんこの物語はハッピーエンドで終われない。でも、重たいものだけだとみんな(真意を)忘れてしまうところもあると思ったので、明るい感じにしたくて。そうするためには音楽だと思ったんです」とコメント。
続けて「シナリオでは“音楽の合奏”と書いて……平たく言うと(音楽担当の)岩崎太整さんに丸投げという感じにした」と語って笑いを誘いながらも、あるときに岩崎から「ケンカをしていても音楽はできる」という話を聞いたことを振り返りながら「音楽って壁がないなと思った」と改めて物語のラストを回想しました。
強い印象で選ばれたメインキャスト
また渡辺は、本作の制作ではさまざまな事情によりキャスティングに苦労したことを振り返りながらも、オーディションでも印象深かった5人のメインキャストのエピソードについても回想。
特にヒロインの成海璃子に関しては「(その役には)“経済主張主義”という言葉で始まるセリフがあって、普段の会話でこんな言葉を言える人ってなかなかいないと思うんですが、成海さんはそういうことを言えるダントツのたたずまいを持っていたんです」と、彼女の起用に奇跡的な縁があったことを振り返りました。
また初主演を務めた須藤について、その当時はまだ演技経験のない中でオーディションを受けた彼が、劇中のコタツで寝るというシーンを演じた際に自然に寝っ転がった様子を見て、監督とともにその演技に対する意識の高さを感じ取っていたことを明かしました。
純粋なモノづくりを意識した創作
2011年の東日本大震災の日以来、さまざまな思いが重なったことで、敢えて個人賞の受賞を自主的に辞退しているという渡辺。その要因について、「自分の前にぶら下がるものを避けたいというか。モノを作るということを純粋に楽しみ、余計な誘惑にまどわされたくないという思いがある」と、モノづくりにおける自身の役割に対する意識を高め続けていることを語ります。
また昨今のコロナ渦の影響についても言及し、業界の成果主義的な思想がゆらいでおり、逆に純粋にモノを作るという意識が現在の業界を活性化させられるのではという見解を示し、コロナ渦での大変な状況下でも前向きな方向を見出せる希望を明かしました。
2006年にはショートムービー『懲戒免職』で脚本とともに監督も担当した渡辺ですが、これからの活動については「若い子が監督をする方が、業界が盛り上がる。自分がやるよりは若い役者、監督、素晴らしい人材をさがしていきたい」と新たな才能との出会いとそれに対する期待をあらわにしました。
映画『ワンダーウォール 劇場版』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
前田悠希
【脚本】
渡辺あや
【音楽】
岩崎太整
【キャスト】
須藤蓮、岡山天音、三村和敬、中崎敏、若葉竜也、山村紅葉、二口大学/成海璃子
【作品概要】
大きな力に居場所を奪われようとしている若者たちの純粋で不器用な抵抗の姿を通して、その輝きと葛藤を映した物語。2018年にドラマとして放送された後にSNSなどで多くの反響を呼び、公式写真集やトークショーがおこなわれるなど異例の広がりを見せ、劇場映画として公開を果たすことになりました。
映画『ジョゼと虎と魚たち』(2003)や『その街のこども』(2010)の渡辺あやが手がけたオリジナル脚本を元に、ドラマに引き続き前田悠希が監督を担当。映画化にあたって寮内を撮影した未公開カットを追加。さらに『全裸監督』(2019)ほか数々の映画、ドラマを手がける音楽の岩崎太整がドラマ版の続きとなるテーマ曲を書き下ろし、クライマックスにはドラマに共感した人150人が参加し演奏した一大セッションを実現。その後の寮のエピソードとともに作品に追加されました。
主人公キューピー役を務めたのは、1500人のオーディションから選ばれた須藤蓮。さらに主要キャストの志村役を岡山天音、マサラ役を三村和敬、三船役を中崎敏、ほか若葉竜也、成海璃子らが出演しています。
映画『ワンダーウォール 劇場版』のあらすじ
古都・京都の片隅に100年以上の歴史を持つちょっと変わった学生寮がありました。その建物の名前は「近衛寮」。
一見無秩序のようでいて、“変人たち”による“変人たち”のための磨きぬかれた秩序が存在し、面倒くさいようでいて、忘れかけている言葉にできない“宝”が詰まっている場所でした。
そんな寮の写真を見つけて憧れ、この大学に入学した主人公・キューピー。
しかしその学生寮に、老朽化による建て替えの議論が巻き起こります。新しく建て替えたい大学側と、補修しながら現在の建物を残したい寮側。
双方の意見は平行線をたどりまとまりません。ある日、両者の間に壁が立ちました。
両者を分かつ壁をめがけて、団体交渉に出向いた寮生の目の前に、ひとりの美しい女性が現れて……。
まとめ
渡辺は近日のコロナ渦の中での公開について「問題なくスムーズに公開できればそれはそれもよかったけど、こんな困難の中で上映したことも糧になっていると思う」と自身の思いを語ります。そしてそう思うことができるのは、本作がドラマ、そして映画化へと進む段階ですでに作品さながらの「壁」と悪戦苦闘し続けながら、皆で力を合わせて打ち崩していったその充実感にあるといいます。
また冒頭にも話した「若い人たちがモノを言う」ようになった状況に関して「冷え切っている思いが、壁を倒す熱が伝搬しているみたい」と振り返る渡辺。そんな彼女の言葉に拍手を送る観衆にも、その熱は映画を通じて伝搬しているようにも見えました。
映画『ワンダーウォール 劇場版』は2020年4月10日(金)より全国順次公開中!