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Entry 2020/04/06
Update

【須藤蓮インタビュー】映画『ワンダーウォール』ドラマを経て再び描く“寛容さ”のない社会でこそ守るべきもの

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ワンダーウォール 劇場版』は2020年4月10日(金)より全国順次ロードショー

ある学生が京都で見つけた汚いけれど歴史ある学生寮。そこは、魅力にあふれ、寮生たちが「何としてでも守りたい」と奮闘する場所でした。


(C)Cinemarche

京都の学生寮を舞台に、自分たちの居場所を奪われようとしている若者たちの揺れ動きながらも熱い胸の内を描いたドラマ『ワンダーウォール』。2018年の放送後にSNSなどで大きな反響を巻き起こした同作が、未公開シーンなどを追加した「劇場版」として再び登場します。

主演を務めるのは、1500人に及ぶオーディションの中から選ばれた須藤蓮。偶然出会った学生寮に惹かれて入学した主人公を演じました。このたび2020年3月1日の「シネマ尾道」映画イベント内での本作のプレミア上映を記念し、須藤さんにインタビュー。本作の物語を通じて感じた社会への疑問や自身の思いなどを語っていただきました。

学生寮の「寛容さ」に惹かれた主人公


(C)2018 NHK

──須藤さんは1500人に及ぶオーディションでの選出を経て、本作の主人公キューピーを演じられました。

須藤蓮(以下、須藤):当時の僕はほとんどお芝居経験がなかったものの、演じるにあたっては自分なりにキューピーという役についていろいろと考えました。

キューピーは基本的には気の弱い男の子なんですが、この作品で取りあげられている問題や社会の風潮については、「学生寮に出会う以前から、何か感じるところがあったのでは?」と思いました。そしてだからこそ、彼は学生寮の一見面倒な決まり事がありつつも「人を拒まない」というところに惹かれたんじゃないかと想像したんです。

僕にはそんなキューピーの気持ちが、わかる気がするんです。実は実際に京都にある歴史ある学生寮の写真を初めて見たときも、僕はとてもワクワクしたし「あ、いいな」と感じました。流石に彼のように「大学へ入る」という思いまでには至らなかったんですが、彼が学生寮と出会ったときに働いた直感じみたものが僕自身とリンクしたと思えたんです。

また劇中ではキューピーがマサラに対し怒りをぶつける場面がありますが、その場面を演じる際に一番意識したのは、彼がマサラの「多様性なんて認めたってしょうがない、吊し上げればいい」というセリフに彼が強く反応したという点です。彼はおそらく、そうやって周囲からしりぞけられてきた側の人間だった。そう想像できたからこそ、演じている僕自身も否応なく熱くなってしまいました。

「余裕」を許さなくなっている社会の風潮


(C)2018 NHK

──須藤さんは本作へのご出演にあたって、実在する京都の学生寮にも行かれたとお聞きしました。

須藤:写真をはじめ、見聞きした情報では「危ない人たちがいる」「汚い場所」というイメージが伝えられがちですが、結局行ってみなくてはわからないことがたくさんあると思うんです。実際現地に行ってみるとすごく居心地がよくて、世の中にあふれているネガティブな情報は大半が偏見だということが理解できました。

そういった第三者からの偏見も、まさしく『ワンダーウォール』が描いている「壁」の一つだと感じています。お互いを深く知ろうとしないから、相手への偏見はより強まっていく。だからこそ対立する者同士が歩み寄った上で話し合い、現地に足を運び実情を知ることで「壁」を壊していくことが今後必要なんだと思います。

また、中には「客観的に見て『汚い』と感じるのであれば、ちゃんと綺麗にしろ」「やるべきことをやれ」といった意見もあるかもしれません。ですがむしろ、「時にはそういった場所が必要なんじゃないか」「そういった場所があってもいいじゃないか」と異なるものを寛容に受け止め、その上で相手と対話ができる度量が人々から失われつつあること、そんな余裕を許さなくなっている社会の風潮に、僕は問題意識を感じています。

たとえば、本作の主人公たちの行動が正しいのかどうかは僕一人だけで判断することはできません。ですが、それは多くの方も同じはずですよね。だからこそ多くの対話が必要なのに、一切の対話を無視し「自分にとって『正しい』か否か」でしか物事を判断できない。そんな社会の風潮に、僕は危機感といいますか、違和感をおぼえてしまうんです。

「過激」について考える


(C)2018 NHK

──劇中の寮生たちは大学当局と熱い議論を交わし、時には「過激」といえるほどに自分たちが愛する学生寮を守ろうと闘います。一方、現実に生きる多くの学生にとって、「過激」や「闘い」は自分たちから非常に遠い言葉として捉えられています。

須藤:若い世代の人たちは大人たちの姿を見習い、「過激」と言われるような行動をしないよう忖度しているのではと見えてしまう場面があります。そこからは、踏み越えてはいけないラインを自分たちで勝手に決めてしまっている傾向が今は強まっているんだと感じられますね。

僕自身も高校生の頃までは、イデオロギーや宗教、政治的発言といった周囲から「過激」といわれてしまうものに対し、アレルギーか何かのように強い忌避感を抱いていました。

ですがあるとき、とても仲のよかった友人がとある宗教を信仰し始めた姿を見て、宗教など自分がそれまで避けていた「過激」について改めて考えさせられました。そして、自分が「過激」という言葉に心を囚われていたこと、そのせいで自分はとても狭い世界で物事を考えていたんじゃないかと気づいたんです。世間から言われる「過激」が自分にとっての「過激」となり、自分が決めたラインによって世界が狭くなってしまっていたんだと。

そのことに気づいてからは「過激」に対する認識も変わり、それまで「過激」と避けてきたものとも改めて向き合えるようになりました。そして「過激」かどうかという世間が決めた枠組みを自分自身の考えに基づいて壊そうと試み続けています。

「歴史を踏みにじられたくない」つながる思い


(C)2018 NHK

──「シネマ尾道」映画イベントの合間には、他のゲストの方々と尾道の街中を散策され「尾道空き家再生プロジェクト」が手がけた家などを見学されていましたね。

須藤:全く尾道に来たことがない人々から、空き家について「こんなボロボロの建物はつぶしてデパートを建てた方が効率的だし、街のためになる」と言われた際に、尾道に暮らす人々は何を感じるのか。それは、学生寮の建て替えに反対した劇中の寮生たちと同じ思いなんじゃないかと感じられるんです。

これまでの歴史や文化の遺産が積み重なったからこそ現在の尾道ができあがっているし、その上で「尾道」という街に欠かせない特徴や風景が生まれた。それを理解していない人々によって街が踏みにじられてしまうかもしれない。多分寮生たちは同じことを感じたからこそ、学生寮を守ろうとしたんだと思います。

実際、京都の学生寮もすごく温かい場所で、「立場」というしがらみが取り払われているので、みなが対等に話せる場所でもあるんです。もちろん学生寮ゆえの近い人間同士のゴタゴタも時には起こりますが、そこにも「対話」は必ず存在するし、寮生たちは精神的に自由で生き生きとしている。寮生たちが長年積み上げてきた「対話」という歴史がそこにあると感じられたんです。その思いは、キューピーを演じる際にも大切に意識しました。

また『ワンダーウォール』という作品自体も、僕自身にとってすごく大切なものとなりました。それは俳優としての仕事をする中で、作品自体に込められた考え方や思いがこれほどまでに自分自身へと内面化されるものなのかと。それを「成長」といってしまえば簡単ですが、自分の物事に対する考え方を新たにできる機会を作ってくれたのがこの作品だったと僕自身は感じています。

インタビュー・撮影/桂伸也

須藤蓮(すどうれん)のプロフィール


(C)Cinemarche

1996年生まれ、東京都出身。2017年秋より俳優として活動を開始。

2018年に1,500人の応募者によるオーディションで選出され、京都発地域ドラマ『ワンダーウォール』(2018)に主役として出演。2019年にはドラマ『JOKER×FACE』『なつぞら』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』や映画『よこがお』『生理ちゃん』『いのちスケッチ』など多くの話題作に出演しています。

映画『ワンダーウォール 劇場版』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
前田悠希

【脚本】
渡辺あや

【音楽】
岩崎太整

【キャスト】
須藤蓮、岡山天音、三村和敬、中崎敏、若葉竜也、山村紅葉、二口大学/成海璃子

【作品概要】
大きな力に居場所を奪われようとしている若者たちの純粋で不器用な抵抗の姿を通して、その輝きと葛藤を映した物語。2018年にドラマとして放送された後にSNSなどで多くの反響を呼び、公式写真集やトークショーが行われるなど異例の広がりを見せ、劇場映画として公開を果たすことになりました。

映画『ジョゼと虎と魚たち』(2003)や『その街のこども』(2010)の渡辺あやが手がけたオリジナル脚本をもとに、ドラマに引き続き前田悠希が監督を担当。映画化にあたって未公開カットを追加。さらに『全裸監督』(2019)ほか数々の映画、ドラマを手がける音楽の岩崎太整がドラマ版の続きとなるテーマ曲を書き下ろし、クライマックスにはドラマに共感した人100人による一大セッションが実現。その後の寮のエピソードとともに作品に追加されました。

主人公キューピー役を務めたのは、1500人のオーディションから選ばれた須藤蓮。さらに主要キャストの志村役を岡山天音、マサラ役を三村和敬、三船役を中崎敏、ほか若葉竜也、成海璃子らが出演しています。

映画『ワンダーウォール 劇場版』のあらすじ


(C)2018 NHK

古都・京都の片隅に100年以上の歴史を持つちょっと変わった学生寮がありました。その名は「近衛寮」。

一見無秩序のようでいて、“変人たち”による“変人たち”のための磨きぬかれた秩序が存在し、面倒くさいようでいて、忘れかけている言葉にできない“宝”が詰まっている場所でした。

そんな寮の写真を見つけて憧れ、この大学に入学した主人公・キューピー。

しかしその学生寮に、老朽化による建て替えの議論が巻き起こります。新しく建て替えたい大学側と、補修しながら現在の建物を残したい寮側。

双方の意見は平行線をたどりまとまりません。ある日、両者の間に壁が立ちました。

両者を分かつ壁をめがけて、団体交渉に出向いた寮生の目の前に、ひとりの美しい女性が現れて……。

映画『ワンダーウォール 劇場版』は2020年4月10日(金)より全国順次ロードショー



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