映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は全国順次ロードショー。
映画監督の深田晃司が8月21日(金)、24日(月)の二日にわたり広島・シネマ尾道に登場、映画にまつわる思いなどを語るトークショー『深田晃司監督トークナイト2DAYS in尾道』が行われました。
現在仕事の関係で広島に訪れたことに合わせ行われたこのイベント。21日には特別上映された、深田監督が2008年に手掛けた映画『東京人間喜劇』の上映後にトークを展開。
そして24日には深田監督が昨年対談を行った中国のビー・ガン監督の作品映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』についての印象などについて語られました。本記事ではその24日に繰り広げられたトークの模様をお届けします。
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映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』舞台挨拶リポート
2020年8月24日(月)に広島・シネマ尾道で映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の上映後に深田晃司監督が登壇、映画の印象などを語られました。
“夢”のような映画
本作の雰囲気を「前半でいろんな要素や記憶をちりばめ、それが夢の中に少しずつ再現され、ずらされながらモチーフが出てくる、そういった要素がふわふわ出てくる感じが夢によって再構築、整理されていく感じが出ている」と振り返り、その印象を改めて「本当によくできた“夢”のような映画だと思った」と語る深田晃司監督。
また映画の構成的には、ビー・ガン監督の一作目『凱里ブルース』に非常に近い印象を感じたという深田監督は、その二作を比較して前作が「インディペンデントな感じで非常にビー・ガン監督の等身大の世界観を持っている」という印象があったことを挙げ、本作がそれをそのままスケールアップされた印象があったことを語ります。
そして国際的な評価を受けながらも同様のモチーフ、構成を取ったことに関し、両作からは共通する「記憶をめぐる物語」と「ワンシーン・ワンカットの様式」という特徴への思い入れの強さを感じたことを挙げられていました。
驚異的な「ワンシーン・ワンショット」へのこだわり
またトークでは、最大の特徴ともいえる後半の「ワンシーン・ワンショット」という手法について言及。
特殊な技法と見られがちながら、そもそもまだ今ほど映画の技法が発達していない映画の黎明期には「ワンシーン・ワンショット」が基本であり、近年ではスタンダードな技法でもある、さまざまなカットをつなぎ合わせる「モンタージュ」技法の方が実は新しい技法であるといえます。
その一方で改めてこの「ワンシーン・ワンショット」という技法での表現方法として、アクロバティックな展開を織り込むブライアン・デ・パルマ監督と、敢えてその技法で自然な展開を行い、見る側にさまざまな感性を呼び起こさせるテオ・アンゲロプロス監督それぞれのコンセプトを説明。他方ビー・ガン監督はそのどちらの方向にも属さない方向にあることを指摘します。
本作では後半60分がこの「ワンシーン・ワンショット」で撮影が行われており、自然な展開を見せている一方で大胆な展開をうまく組み込んで構成しているその手法に、深田監督は「ちょっとでも失敗したらやり直しで、かなり大変。だから(この手法では)できるだけ大変な展開は避ける傾向にあるんです。
でもビー・ガン監督のは敢えて『ここまでやるか』みたいな展開をぶち込んでくる。そこには客をいかにびっくりさせるかという監督の茶目っ気が感じられるんです」とビー・ガン監督ならではの、この手法に対するこだわりを分析されていました。
映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の作品情報
【公開】
2020年(中国・フランス合作映画)
【原題】
Long Day‘s Journey into Night(地球最后的夜晩)
【監督】
ビー・ガン
【キャスト】
タン・ウェイ、ホアン・ジェ、シルヴィア・チャン、チェン・ヨンゾン、リー・ホンチー
【作品概要】
2015年に『凱里ブルース』で彗星のごとく現れたビー・ガン監督の第二作。前半80分を過ぎたところで3Dとなり、その後の60分間、ワンシークエンスショット映像が続きます。
中国本土で記録的な大ヒットとなり、アメリカでもロングランヒットを記録。
カンヌ国際映画ある視点部門正式上映、ICS(インターナショナル・シネフィル・ソサイエティ)カンヌ2018《特別賞》を受賞。
台湾・金馬奨では、撮影、音楽、音響賞の三部門で受賞。東京フィルメックス・学生審査員賞を受賞しました。
映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』のあらすじ
父親の死をきっかけに12年ぶりに故郷の凱里(かいり)に帰ってきたルオ・ホンウ。
彼は幼馴染みの白猫のことを回想します。借金だらけだった白猫はある時、彼のところにりんごを送ってきました。それをヅヲという男のところに持っていく約束でしたが、離婚したばかりのルオはそのことを忘れ、思い出した時にはりんごは腐っていました。
りんごを片付けていると、中から拳銃が出てきました。以来、ルオはその拳銃を所持しています。
白猫は殺され、ヅヲという男は姿をくらましていました。
ルオは、自分を捨てて養蜂家の男と駆け落ちした母のことを思います。昔、はちみつを取ってきては食べさせてくれた優しかった母親。その母親が名付けたレストランの時計の中に古い写真が隠されていました。
なによりも彼の心を惑わせる一人の女のイメージ。彼女はワン・チーウェンと名乗りましたが、それは香港の有名女優の名でした。
ルオは女の面影を追って旅に出ますが、現実と夢と記憶が交差するミステリアスな世界が待ち受けていました…。
まとめ
また深田監督は、本作の中国における大ヒットの意義を語られました。中国では3万ほどのスクリーンがあり、興行としては非常に魅力的な市場。この作品も4000のスクリーンで一日に一度、上映するという奇抜なプロモーション展開が功を奏し、アート系映画としては異例の41億円という大ヒットを記録したという経緯があります。
一方で近年、中国では映画の検閲が非常に厳しく、さらにその検閲でNGが出されても理由も明かされないなど映画作りには非常に大きな壁があり、最悪は映画会社の倒産を招くこともあるため、近年ではどんどん保守化していく傾向があるといいます。
そういった状況の中でビー・ガン監督により手掛けられた本作が厳しい状況をうまく通過し、アート系映画として大きな成功を見せたことに関して、深田監督は高い評価をされていました。
本来は「ワンシーン・ワンショット」の魅力が堪能できる3Dでの作品上映でありますが、シネマ尾道では2Dでの上映。それでもトークの大きなポイントでも本作の「ワンシーン・ワンカット」部分のインパクトは十分、この日会場を訪れた方々もその強烈なインパクトを目に焼き付けていました。
映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は全国順次公開中!