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Entry 2020/02/28
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【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために

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  • Cinemarche編集部

映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は2020年2月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほかにて全国順次公開中!

長編初監督作『凱里ブルース』によって映画界で衝撃的なデビュー飾った中国映画・新時代の旗手ビー・ガン監督の長編第2作『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』

自らの過去と記憶の断片を追い求め、迷宮のごとき時の世界へと彷徨うことになる男の旅路を描き、作品後半部に仕掛けられた“映画史上初”ともいえる「上映途中から展開される、3D映像によるワンシークエンスショット」という演出でも注目を集めています。


(C)Cinemarche

本作の日本での劇場公開を記念して、ビー・ガン監督にインタビューを敢行。

映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』におけるビー監督の「建構(けんこう)」や中国映画界の現在、映画そして芸術の本質とそれらが追い求め続ける“永遠なるもの”についてなど、貴重なお話を伺いました。

“失われた何か”を追憶する


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

──本作は主人公ルオ・ホンウが自らの人生という時間と記憶を辿ってゆく様を描いていますが、ひとりの人間の人生とともに、中国という地あるいは社会・国家の歴史、更には映画という芸術が辿ってきた歴史も描かれていますね。

ビー・ガン監督(以下、ビー):僕は映画を作る者であり、映画を作る者は、同時に問題を問う者でもあります。そして問われた問題に対して、映画をご覧になったみなさんがどのような答えを見出すのかは、それぞれの思考や思想、あるいは人生ごとに解釈が存在すると感じています。時には、僕が問題を問う際に想定していたもの以上の答えが生まれることもあるぐらいですから。

また、本作から映画という芸術の発展や歴史的側面を感じられるのは、映画がこれまでに辿ってきた時間の中で、今現在だからこそ提示することができる映画のあるべき姿を僕やスタッフ・キャスト陣が模索していたからでしょう。

更に映画のみならず、中国という地、中国という社会・国家の歴史を本作から感じとられた点についても、「“失われた何か”を追憶することができる」という映画のメディアとしての性質を踏まえれば当然のことなのかもしれません。そして、そういった歴史性、歴史という時間を本作から感じとってくださったということは、僕が“映画”を作ることができたという一番の証明なのだと捉えたいですね。

芸術を構成する自然のエレメント


(C)Cinemarche

──劇中にて記憶のことを「石」と表現されていましたが、本作では「石」そして「水」が象徴的に描かれていました。芸術における石と水の意味、あるいは記憶との関わりについて改めてお聞かせください。

ビー:記憶というものは確かに様々な人間や事物によって構成されていますし、追憶の外部媒体として機能することも多々あります。その中でも石と水という事物あるいは物質が重要な位置を占めているのは、もしかしたら地球の表面上の約70パーセントが水に覆われていること、残りの約30パーセントが石ころやそれに類するものでできているからなのかもしれませんね(笑)。

映像や建築といったビジュアルアート、空間や風景を表現するアートにおいては、自然のエレメントをより効果的に、より複合的に結合させることが不可欠といえます。

本作も歴史的な建築群と同様に、原初の時代から続く人間の芸術的営みの流れを汲む作品であり、空間や風景のみならず気候といった事象をも表現している作品です。だからこそ本作も、石と水、更には風や温度、光と闇といったあらゆる自然のエレメントを用いて構成しているのです。それに、作品制作において自然のエレメントを用いることに対して、基本的に版権がかかることはありませんしね(笑)。

「理解」を超越し得る感動


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

──映画ないし、芸術における“構成”の役割や意義について、より詳細にお聞かせ願えませんか。

ビー:破壊し、再構成する。それらを繰り返し続け、徐々に一つの在り様を見出してゆく。中国語では「建構」と書き表すことができる一方で、その行為ともたらされる形について語ることは非常に難しいです。むしろ言葉では言い表せないものだからこそ、自然のエレメントの力を借り、言語以外の事物・事象によって構成された様々なイメージで表現することで、みなさんに問いかけているのだと捉えています。

実は日本で暮らしている僕の友人から、鑑賞した本作に対して「この映画はとても分かりにくい」「分からないはずなのに、なぜこの映画を観た後には、涙が出るんだろう」という感想をいただけたんです。その感想こそが、芸術の根底に横たわる答えであり、本質なのだと僕は感じています。


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

ビー:また僕は多くのサイエンティストたちを尊敬していますが、ひとりのアーティストの思いとして、人々が頭で理解できることは有限なのだとも感じています。

確かにアインシュタインのような非凡なる天才が、他者よりも本質的な何かを理解できる境地へと達する可能性は否定できません。ですが、平凡たる僕らが「理解」とは異なる方法、自己から想起される感情や記憶といった人間の最も柔軟な部分によって“何か”と交信することで、初めて比類なき感動がもたらされる可能性もまた存在すると思っています。

中国映画・新時代の監督たちの現実


(C)Cinemarche

──中国映画界では現在、芸術性と娯楽性を絶妙なバランスによって併せ持つ作品が若手監督を中心に多数制作されています。日本映画界が最早失いつつあるその動きは、中国出身の映画監督であるビー監督の視点からはどのように見えているのでしょうか。

ビー:中国の急速な発展に伴い、映画界の市場も大きな変遷を遂げています。そして、映画資本ならびに映画制作に対する投資も以前より増え続けている。だからこそ、今という同じ時代で活動する僕のような若手監督たちの創作環境も少しずつ改善の方向へと進みつつある。娯楽性のみならず高い芸術性も併せ持つ作品が生まれるようになったのは、そういった点と関わっているかもしれません。

僕もまた中国における若い世代の映画監督のひとりであり、時には日本で暮らす友人たちから、「君の創作環境が羨ましい」といった声をかけられることもあります。ただ、中国映画界に参与しているメンバーのひとりとして敢えてお伝えしたいのですが、僕が2015年に撮った長編初監督作である『凱里ブルース』の制作予算は、約20万人民元(日本円で約312万円)と非常に低予算でした。また僕の友人界隈で今現在の中国映画界で活躍している方の多くも、その処女作は何十万人民元という低予算の中で制作したとよく耳にします。

2019年、確かに僕は『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』という大作映画を撮ることができましたし、そのことを羨ましいと思われる方も少なくないでしょう。ですが僕たちでさえも、厳しい環境の中で映画を制作せざるを得なかったいう苦難の時代をそれぞれ経てきていることも確かなのです。また、今現在の僕たちが置かれている環境についても、「非常に良い」というわけでは決してありません。あくまで僕たちは「ようやく正常な仕事環境で働けるようになった」というだけに過ぎないのですから。

“永遠なるもの”を追い求めて


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

──ビー監督の「建構」、映画的にいえば「編集」によって、ルオ・ホンウというひとりの人間の時間は“地球最後の夜”へと、何よりも“永遠”の末端へと接続されたと感じられました。そこで最後にお訊きしたいのですが、詩人でもあるビー監督にとって“永遠”とは一体何でしょうか。

ビー:“永遠なるもの”とは、その人間がクリエイター、あるいはアーティストであるならば、それを追い求め続けるべきものであり、同時に追い求め続けても捉え切ることは決してできないものだと感じています。

そして“永遠なるもの”を追い求め続ける過程こそが、クリエイターひいてはアーティストとしての職務であり使命であるとも考えています。


(C)Cinemarche

ビー:またその表現形式によって、追い求められる“永遠なるもの”も異なるとも感じています。詩は抽象性に基づく表現であり、対照的に映像は具象性、具体性に基づく表現です。映像はスクリーンを介して事物・事象をとても直接的に、直感的に鑑賞者へと伝達するのに対して、詩はその抽象性によって伝達する事物・事象そのものが変幻自在に、文字通り「千変万化」する。そういった性質が映画と詩のそれぞれの魅力ではあるものの、“永遠なるもの”を表現する上で最終的に到達できる効果は確実に異なると思っています。

そもそも詩は映像と比べると、人々の記憶や心に残る時間が短い。なぜならば、鑑賞する人間の恣意や思考が働いている時に、詩が表現しようとする“永遠なるもの”、あるいは詩そのものをを感じとることはできないためです。

また詩における“永遠なるもの”は、詩を読み解き、深く理解した上で得られるものであるのに対して、映像ひいては映画は劇場でそれを観終えて、劇場の暗闇から抜け出た瞬間に“永遠なるもの”を自分自身の“永遠なるもの”として持ち帰ることができる。映画が詩よりも人々の記憶や心に残る時間が長いのは、その点にあります。そしてそれが、僕は映画を撮り続けている理由の一つといっても過言ではないでしょう。

インタビュー/河合のび
インタビュー・撮影/出町光識

ビー・ガン監督のプロフィール


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

1989年生まれ、中国・貴州省凱里市出身。映画監督・脚本家・詩人。

2013年の短編作品「金剛經(Diamond Sutra)」が第19回香港IFVA賞ニューフェース部門特別賞を受賞。また2015年には『凱里ブルース(原題:路邊野餐)』で長編監督デビュー。同作は国際的にも高い評価を獲得し、第68回ロカルノ国際映画祭新進監督賞、仏・第37回ナント三大陸映画祭熱気球賞、台湾・第52回金馬獎最優秀新人監督賞を受賞。日本でも4月18日からの劇場公開が決定している。

長編第2作となる本作では、ウォン・カーウァイの『欲望の翼』、タルコフスキーの『ストーカー』、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』、ヒッチコックの『めまい』などの映画作家とその作品との共通点を指摘する批評家が続出し、中国映画・新時代の潮流の中でも、その旗手的な存在として大きな注目を集めている。

映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の作品情報

【日本公開】
2020年(中国・フランス合作映画)

【原題】
Long Day‘s Journey into Night(地球最后的夜晩)

【監督・脚本】
ビー・ガン

【キャスト】
ファン・ジエ、タン・ウェイ、シルヴィア・チャン

【作品概要】
長編初監督作『凱里ブルース』によって映画界で衝撃的なデビュー飾った中国映画・新時代の旗手ビー・ガン監督の長編第2作。2018年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で初上映後、トロント国際映画祭、サンセバスチャン国際映画祭、ニューヨーク映画祭など、世界の名だたる映画祭で絶賛され、「中華圏映画のアカデミー賞」とされる金馬奨でも撮影・音楽・音響の3部門を受賞している。

中国本土での興行では、近年のアート系映画の成功例と言われたジャ・ジャンクー監督の『帰れない二人』の10億円を遥かに凌ぐ41億円の大ヒットを記録。さらにアメリカでも、2019年公開の中国映画としては異例のロングランヒットを達成。

更に作品後半部に仕掛けられた“映画史上初”ともいえる「上映途中から展開される、3D映像によるワンシークエンスショット」という演出は、ビー・ガン監督独自の詩的で美しい映像表現と深く結びつき、これまでの3D映画とは一味異なる、未知の映像体験が待ち受けている。

映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』のあらすじ


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

父の死を機に、ルオ・ホンウは12年ぶりに故郷・凱里(かいり)へと戻った。

何年もの間距離を置いてきた故郷で、若くしてマフィアに殺されてしまった幼馴染の“白猫”、幼かった自分を捨てて養蜂家の男と駆け落ちしてしまった母親など、自らの過去を追憶しながら彷徨い続けるルオ。

やがて彼は、長きにわたって彼の心を惑わし続けてきたある女のイメージへと辿り着いた。

自らの名前を、香港の有名女優と同じ「ワン・チーウェン」と名乗った女。

ルオはその女の面影を追い、現実と記憶と夢が交錯するミステリアスな旅に出る……。

映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は2020年2月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほかにて全国順次公開中!

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