世界的現代美術家のアイ・ウェイウェイ監督が、難民問題の実情に迫ったドキュメンタリー『ヒューマン・フロー 大地漂流』は、2019年1月12日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかで公開されます。
「国際移民デー」である12月18日(火)には東京都内で、一般試写会とトークイベントが開催されました。
登壇したのは、国連難民高等弁務官事務所(通称:UNHCR)の駐日事務所副代表を務める川内敏月(かわうちとしつき)さんと、ジャーナリストの丸山ゴンザレスさんです。
上映後のトークイベントでは移民と難民は何が違うのかなど、様々な質問が会場から寄せられました。
今回はドキュメンタリー映画『ヒューマン・フロー』をご紹介します。
CONTENTS
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』の作品情報
【公開】
2019年(ドイツ映画)
【原題】
HUMAN FLOW
【監督】
アイ・ウェイウェイ
【キャスト】
ギリシャのレスボスほか、23カ国を超える40箇所もの難民キャンプの難民たち
【作品概要】
2008年北京オリンピックのメインスタジアム「鳥の巣」設計も携わった中国の現代美術家アイ・ウェイウェイ。
彼が監督を務めたドキュメンタリー映画は、23か国40か所もの難民キャンプと国境地帯をめぐり、貧困や戦争、気候変動などで増え続ける難民たちの今に迫ったドキュメンタリー映画です。
2017年ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、フェア・プレイ映画賞特別賞など5部門を受賞しました。
平成30年11月の成人向け社会教育作品として、文部科学省選定作品にも選ばれています。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』に見る難民問題
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』は、2019年1月12日にシアター・イメージフォーラムほかで公開されます。
それを前に、12月18日の「国際移民デー」をむかえ、東京都内で一般試写会とトークイベントが行われました。
本イベントでは、UNHCRと呼ばれる国連の難民支援機関の駐日事務所で副代表を務める川内敏月(かわうちとしつき)さんと、ジャーナリストの丸山ゴンザレス(まるやまごんざれす)さんが登壇しました。
左:丸山ゴンザレスさん 右:川内敏月さん
丸山ゴンザレスさんは、TBS系列の異色の旅番組「クレイジージャーニー」で世界の危険地域への突撃取材で注目を集めるジャーナリスト。
一般の人々との質疑応答を交えながら、世界的に大きな課題である難民問題について語りました。
映画から難民問題の今を見つめる
トークでは、川内さんが映画を振り返り、難民問題の最前線で働いていたことを明かしました。
監督を車にのせてレスボス島まで案内をするボリスというブルガリア人は、ブルガリアに赴任していた時の同僚で飲み仲間です。あと、アフガニスタンのカブールにいた時の上司も出演していて、職場をみているような感覚でした
ジャーナリストの丸山さんは、2015年にシリア難民とともにドイツへ行く旅を敢行。
きっかけとなったのは、2014年頃に増え始めた欧州難民を報じるニュースを観て生まれたひとつの疑問からだといいます。
日本に伝わってくるニュースでは、難民が千人とか万人とか数字で括られていて、人間としての顔が見えてこない。なにか現実との乖離があるんじゃないか
ギリシャのアテネを訪れてみると、シリア難民より、アフガンから来た人の方が多かったと事実を明らかにし、次のようにその状況を述べてくれました。
難民たちは、意外と(入国した国に)きちんと管理されていて、ゲートまでは用意されたバスに乗って移動していく
その背景には、自分の国から早く出国してほしいという、国側の意図が隠れているのではないかという丸山さん。
「それに配給されているパスタが道にたくさん捨ててあって、試しに食べてみたけど、すっごいまずかった!」と言い、近くにいた難民に取材すると「そんなまずいもの食べられない」と答えたといいます。
シリアからの難民は裕福な人も多く、急に食の好みや生活を変えられないのではと推測し、ここに人間らしさを感じたことを自らの体験から語ってくれました。
人の多くは、それまでの生活水準を下げることが難しいと言います。それまでの裕福であればあるほど難民として生活していくことが受け入れ難いのかもしれませんね。
日本で伝える難しさ
川内さんは、日本人に難民問題を伝えることの難しさも語りました。
難民は見た目からは判断出来ないため、イメージをしづらいです。みなさんに興味を持ってもらうため、顔が見える伝え方ってどうしたら良いのかと、日々考えています
そして、次のようにも語ってくれました。
この映画や丸山さんのエピソードにあるように、難民は特殊な人たちではなく普通の人たちなのです。文化や食べものだとか、それぞれをリスペクトしながら接し、人間としての尊厳を守らなくてはいけません
現地に行くのは難しいが映画を観たりして「知る事で顔が見えてくる。難民に対する支援や態度が変わっていくんじゃないかな」と丸山さんも同意した。
日本のニュースでは大々的に取り上げられることが少ない難民問題。世界の現状を知ることで、我々日本人にもできることが見えてくるかもしれません。
会場での質疑応答で見えてくる日本の現状
その後、本作の鑑賞者とのQ&Aに入ると、会場からある男性から、「移民と難民の違いは?孫に説明できるように簡単な言葉で伺いたい」といいう質問が上がりました。
この質問に対しては、次のように答えました。
「移民は自分の意思で移動している人で、難民はどうしようもない状況で国から追い出された人」と丸山さんが簡潔に答えます。
すると、川内さんも「難民は難民条約があって国際的な定義があります。移民は自分の意思で動く人たちを指します」と、ご自身の解説を加えてくれました。
なるほど!“難民=国際的な定義がある、どうしようもない状況で国を逃れた人”で、“移民=自分の意思で移動する人”とは、とても簡潔で、子供たちに説明しても理解しやすいかもしれませんね。
さらに、難民、移民を受け入れる国側にも準備が必要だと、丸山さんは投げかけ、難民の問題の根深さを指摘します。
すると、川内さんは受け入れ国の在り方を示してくれました。
国の制度づくりや生活環境の整備も大切ですけれど、日本人の心の準備、共存する準備が必要です。難民たちと交流する場を設けるとか、お互いに理解出来る場が必要ですね
日本人の受け入れる心の準備として、この映画はいいきっかけになるかもしれないですね。
答えのない問題
他にも会場からは次々と質問が寄せられました。
その中でも目立ったのが「難民問題の解決とはどこがゴールなのか?」という質問です。
丸山さんは「難民問題は、ゴールがあって劇的に解決されるようなものではないし、2019年に忘れていいようなものでもない」とし、次のように答えてくれました。
どういう状況が解決なのか、難民問題は問題だけど、テストのような答えは用意されていない。あえて言うなら全ての人たちの意思が尊重される状態が解決なのでは
川内さんも丸山さんの意見に同意しました。
「個々の難民の解決にも、故郷に戻るのか、逃れている国に定住するのか、別の国に行くのか、選択する自由や、人間としての尊厳をリカバーできたら解決だといえるのかもしれません。難民問題自体は一世代でも二世代でも続いていく問題なのです」
この問題の複雑さや多様さに1つの解決策はないことを語りました。
難民問題は、ゴールがあっても劇的な解決ができるような問題ではないという川内さんと丸山さん。
先の見えないいつまで続くかわからない問題ではありますが、人間としての尊厳を失わないで生活できることが解決の糸口なのではないでしょうか。
世界的に大きな課題である難民問題ですが、新聞に載っていないリアルな情報に多くの人々が熱い関心を寄せていました。
まとめ
日本では来年4月に改正入国管理・難民認定法が改正されます。
これにより様々な業種で外国人労働者を受け入れることになり、今よりさらに多くの外国人を日本で目にすることになります。
それを前に、本作『ヒューマン・フロー 大地漂流』は劇場公開され、テレビや新聞では知ることのできない難民問題の実情を知ることができることでしょう。
トークイベントでUNHCRの川内さんが難民は見た目で判断できないと言われていました。
それぞれ個人の文化や信仰で、そこを尊重しながら接することが大切なのかもしれません。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』は2019年1月12日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開!
ぜひ、お見逃しなく!