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Entry 2022/01/05
Update

映画『ある貴婦人の肖像』ネタバレあらすじ考察と感想評価の解説。イザベル役を女優ニコール・キッドマンが見事に演じきったジェーン・カンピオン作品!

  • Writer :
  • からさわゆみこ

19世紀のイギリスとイタリアを舞台に、自由に生きようとした令嬢の運命と真実の愛とは・・・

今回ご紹介する映画『ある貴婦人の肖像』は、ヘンリー・ジェイムズの小説『ある婦人の肖像』が原作です。「真実の愛に出会うと鏡が愛を照らし返す」という、キーワードとなる言葉、自由に生きたいと願う上流階級の令嬢を巡る、3人の求愛から真実の愛を問う物語。

1872年英国のガーデンコートを舞台に、両親を亡くしたアメリカ生まれのイザベルが、親戚で裕福なタチェット家に身を寄せています。

美しく利発なイザベルは周囲から常に目を引き、愛されて暮らしていました。貴族の求婚者、アメリカ時代の恋人が海を超え追いかけてくるほどです。

しかし、古い慣わしで夫に従うだけの結婚を嫌うイザベルは、将来の自由を奪われるくらいなら、一生独身でも構わないとタチェット家を出る決心をします。

映画『ある貴婦人の肖像』の作品情報

(C) 1993 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS & CIBY 2000

【公開】
1997年(イギリス映画)

【原題】
The Portrait of a Lady

【監督】
ジェーン・カンピオン

【原作】
ヘンリー・ジェームズ

【脚本】
ローラ・ジョーンズ

【キャスト】
ニコール・キッドマン、ジョン・マルコヴィッチ、バーバラ・ハーシー、マーティン・ドノヴァン、シェリー・ウィンタース、リチャード・E・グラント、メアリー=ルイーズ・パーカー、シェリー・デュヴァル、クリスチャン・ベイル、ヴィゴ・モーテンセン、ヴァレンティナ・チェルヴィ、ジョン・ギールグッド、ロジャー・アシュトン=グリフィス

【作品概要】
監督は映画『ピアノ・レッスン』で、女性監督としてカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した、ジェーン・カンピオンです。監督は2021年に12年ぶりの長編映画『パワー・オブ・ザ・ドック』が、ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞しました。

イザベル役には『ムーラン・ルージュ』(2001)で、ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞、『めぐりあう時間たち』(2002)でアカデミー賞主演女優賞した、ニコール・キッドマンが務めます。

イザベルの人生に大きくかかわる人物役として、『クリムト』(2006)、『チェンジリング』(2008)のジョン・マルコヴィッチ、『ワールド・アパート』(1988)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したバーバラ・ハーシーが演じます。

映画『ある貴婦人の肖像』のあらすじとネタバレ

(C) 1993 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS & CIBY 2000

現代の若い女性たちが、“恋の始まり”について議論します。胸がときめく瞬間はキスの時で、相手の顔が近づき「キスされる」と感じた時が、一番素晴らしいと感激を語ります。

結末が悲しい時もあるけど、全ては“キス”から始まる・・・だから、自分がいかに神秘的で、底の深い女かアピールすることも大事。

また、人と人は運命で結ばれているけど、真実を映す汚れのない鏡をみつければ、真実の愛に出会った時、鏡が愛を照らし返すからと・・・・・・。その真実を映す鏡とは・・・?

1872年、英国ガーデンコートで暮らすイザベル・アーチャーは、木陰に隠れて涙を流します。そして、後を追ってきたウォーバートン卿から求婚されますが、屋敷に逃げ帰ってしまいます。

彼女はアメリカで両親を亡くし、母方の叔父タチェット氏に引き取られました。イザベルはタチェット氏にウォーバートンから、求婚されたと話しますが断りたいと言います。

その理由は「生きるということをもっと知りたい」というものでした。ウォーバートンだけではなく、容姿だけで求婚されることにうんざりし、結婚によって自分の将来の自由を閉ざされるのを嫌っていました。

自由な生き方を求めてイザベルは、叔母のタチェット夫人にロンドンに行くと告げ、旅支度を始めます。タチェット夫人は親代わりである以上、アドバイスは聞くべきだと、息子ラルフを同伴するよう言います。

イザベルは渋々従弟のラルフを従えてロンドンに行き、アメリカ時代の親友ヘンリエッタと再会します。ヘンリエッタは船から「話したいことがある」と手紙を出していました。

ところがイザベルはそのことを聞こうとしません。ヘンリエッタは業を煮やし、アメリカ時代に付き合っていた、キャスパー・グッドウッドが船で一緒だったと話します。

ヘンリエッタはイザベルを追って渡航していると思い、キャスパーにけしかけたと話します。イザベルはそのことを怪訝に思います。

ラルフはロンドンで使っていない屋敷があると、イザベルを案内します。そこで彼はウォーバートンの求婚を断ったのか聞きます。

イザベルは結婚してしまえば、“運命を逃してしまうから”と言い、リスクがあろうとも生きることを選んだと話します。

ラルフは非の打ちどころがない男を袖にした、イザベルの行く末を見ることができると、嬉しそうに言いました。

イザベルは下宿先で荷物を整頓していると、さっそくキャスパーが訪ねてきます。彼はアメリカにいたころ彼女とつきあい、結婚を迫っていましたが、一方的に別れを告げイギリスへ渡っていました。

キャスパーは自分をその気にさせておいて、離れて行ったことに納得できずにいました。イザベルはほっといてほしいと言えば、キャスパーは「何年?」と聞き、彼女は彼女で「1、2年」と答えます。

しかし、結局未練がましいキャスパーを部屋から追い出そうとし、彼は愛おし気にイザベルのあごを持ち上げ、親指で頬をなでて出ていきます。

イザベルはキャスパーの行為に、動揺すると同時にときめきを覚え、3人の男から求愛されている自分に陶酔するのでした。

翌朝、イザベルはヘンリエッタにおせっかいはやめるように言います。ヘンリエッタは他の友人はイタリアで3人の男性から求婚されたといい、ヨーロッパ人と結婚したら絶交するとまで言います。

イザベルは彼女は結婚していないし、自分もするつもりはないと反論しますが、ヘンリエッタはイザベルに危なっかしさを感じ、「流されないで」と忠告しました。

そこにラルフが深刻な顔をして現れると、タチェット氏が危篤だとイザベルに伝えます。イザベルが旅支度に部屋へ戻ると、ヘンリエッタはラルフに彼女の行動は危ないと言います。

そして、キャスパーのことを話します。イザベルにはキャスパーのように、一途に思ってくれる人と結婚しないと危ないと感じ、彼をけしかけ連れてきたのでした。

ラルフとイザベルは再びガーデンコートの屋敷に帰ります。

以下、『ある貴婦人の肖像』ネタバレ・結末の記載がございます。『ある貴婦人の肖像』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C) 1993 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS & CIBY 2000

イザベルがタチェットを見舞うと、どこからか聞こえるピアノの音色に誘われて探すと、屋敷に来ていた叔母の友人マダム・マールの出会います。

彼女はイザベルと同じアメリカ人でした。イザベルはマダムの弾くピアノに魅せられます。

一方、死の淵にいるタチェットは息子のラルフに、イザベルと結婚してほしいと願いますが、彼は結核持ちを理由に叶えられないと言います。

そレでも彼は彼女を生涯見守りたいと話し、彼女が人生を望みどおりに生きられるよう、財産をイザベルに譲渡してほしいと頼みます。

イザベルはマダム・マールのことをラルフに聞きます。彼は彼女を未亡人で、彼女のような人の夫は短命だと意味深なことを言います。

そんなマダムに憧れるようになったイザベルは、彼女とすぐに親しくなると、マダムもイザベルと同じ歳の頃は野心があって、叶えたかった大きな夢もあったと話します。

ほどなくしてタチェット氏は亡くなり、タチェット夫人はマダム・マールに、イザベルには7万ポンドの遺産が転がり込むと話します。

半年後、マダム・マールはフィレンツェで暮らす、骨董品収集家のギルバート・オズモンドの屋敷を訪ねます。

ちょうど彼の妻が亡くなり、15歳まで修道院で育てられた、娘のパンジーが帰ってきたところでした。

パンジーはマダム・マールによくなついていましたが、オズモンドは快く思っていません。

オズモンドは定職を持たず、骨董収集で身を立てているようでしたが、マールは彼にできることはあると、イザベルを紹介しようと話しをもちだします。

オズモンドは面倒な人間関係にうんざりしていましたが、頭がよくて、美人の金持ち、心が開けていて、稀にみる貞淑な女性となら会ってもいいと言います。

彼の理想像にぴったりな女性として、フィレンツェに滞在しているイザベルのことを教え、自分のものにするようすすめます。

オズモンドは彼女には“マシな人生”があるのに・・・といいますが、マールは利用できるものは利用するまでと、何かを企むように彼に言い放ちました。

イザベルはマダム・マールに紹介されて、オズモンドの屋敷へ美術品を観に出かけます。そこで姉ジェミニ伯爵夫人やパンジーとも面識をもちます。

イザベルは世界一周旅行を計画中だと話すと、オズモンドは彼女に優しい物腰で、倹約し静かに暮らす計画を実行中だと話します。

オズモンドの姉ジェミニはイザベルのことを気に入りますが、彼女にとって彼とマダム・マールは危険な存在だといいます。

イザベルに会ったオズモンドはその後、週に5回も彼女に会いに来たと、タチェット夫人はマダムに話し、オズモンドを“いんぎん無礼な男”と嫌悪感をあらわにします。

そして、彼の口車に惑わされ結婚しかねないと、イザベルのことを心配しました。案の定、オズモンドはイザベルにはいろんな考えがあるが、取るに足らない摘めるものばかりと言います。

ある日、イザベルとラルフ親子がカプロラールを見学していると、彼女の前にオズモンドが現れ、イザベルに「身も心も愛している」と告白しくちづけをしました。

その後、イザベルはフィレンツェに戻り、パンジーを訪ねますが、彼女は父オズモンドに対して、些細なルールにも従う服従心があることに驚きます。

1873年、イザベルは世界一周旅行をしますが、彼女の頭の中はオズモンドの求愛の言葉と、くちづけのことでいっぱいでした。

一年後、フィレンツェの屋敷にキャスパーがイザベルを訪ねます。彼女が婚約したと聞いたからです。キャスパーは彼女の言葉を信じて2年待っていましたが、彼はまたも裏切られ彼女に失望して出ていきます。

一方、ラルフは病状が悪化し食欲も低下して、イザベルがオズモンドと婚約したことにも驚愕していました。

ラルフはイザベルの“大きな夢”を叶えるのを楽しみにしていたと話し、それを実現させてくれるのは、活動的で包容力のある男が理想的だと思っていました。

オズモンドのことを小物で狭量、利己的なもったいぶり屋、趣味の権化だと評しますが、イザベルはオズモンドを侮辱したラルフの頬を叩きます。

ラルフは彼女を愛するが故に言ったと告白し、「僕の愛は先がない」と言い残し立ち去ります。

世間ではオズモンドは金目当てで結婚したと噂します。そして2人の結婚を祝福する者はいませんでした。それでもイザベルは幸福でした。

オズモンドはしきたり通りに育てた娘、パンジーのことだけを考えていこうと、イザベルに告げます。

3年後、イザベル達家族はローマで暮らしていました。イザベルは男の子を授かりますが、2年前に亡くしていました。そして、2人の夫婦関係はとっくに冷え切っています。

パンジーは困窮している名家のエドワード・ロジェから求婚されますが、オズモンドは財産のない彼を認めようとしていません。

エドワードはマダム・マールやイザベルの手を借りて、なんとかパンジーと結婚したいと考えています。

イザベルの財産でオズモンドは社交界とつながり、屋敷では茶会が催されます。

茶会に来ていたエドワードはイザベルにパンジーとのことで、力になってほしいと懇願します。彼女はパンジーは財産に興味はないが、父親は違うと助けたくても助けられないと告げます。

そこに突然訪れたウォーバトンがイザベルの前に現れます。彼はラルフも療養旅行で一緒に来ていると告げますが、病は進んでいて旅の疲れでホテルで休んでいるといいます。

そのウォーバトンはパンジーをみつけると、彼女の清楚な可愛らしさに一目で魅かれていきます。

イザベルはラルフを見舞いますが、一緒にいたウォーバトンにオズモンドのせいで、冷たい女性になってしまったと嘆きます。

そして、2人とも彼女のことを放っておけない気持ちが強くなっていきました。

ラルフはウォーバトンにイザベルのために、パンジーに関心をもったのかと聞きます。彼は否定も肯定もせず、パンジーのことは本気だと告げました。

オズモンドは留守中にウォーバトンはパンジーに会うため、屋敷を訪ねて来たことを知り、パンジーを「ウォーバトン卿夫人にしたい」とイザベルにいいます。

イザベルはウォーバトンも「パンジーから好意をもたれたい」と話していたと伝えると、オズモンドは2人の間を取り持つよう命じました。

大使館の舞踏会でイザベルはウォーバトンに、パンジーとの結婚に関して、オズモンドに手紙を書いたが投函していないと話します。

イザベルは投函するようにいいますが、舞踏会に来ていたエドワードが、パンジーの思い人だと知ったウォーバトンは、パンジーが好意を抱いたのだと思っていたと言います。

イザベルはウォーバトンにパンジーは父親には逆らわず、言いなりになる子だと告げ、それでも妻にしたいか訊ねます。

舞踏会の帰りにイザベルはラルフのもとに行き、ウォーバトンは本気で恋しているのか確認します。ラルフは本気だと答えイザベルは安心しますが、その相手はパンジーではなくイザベルだと告げます。

イザベルはそこまでして助けてくれようとしているのかと、泣き崩れるとラルフは「そこまで不幸だったのか」と真実を知り驚きました。

その夜、イザベルはパンジーに本心を話すよう促すと、パンジーはエドワードとの結婚を望んでいると言います。

パンジーはウォーバトンが求婚するとは思っておらず、結婚じたいが私の気持ちしだいのもので、彼は自分を愛していないと見抜きます。

彼女はエドワードへの愛を貫くために、ウォーバトンからの求婚を長引かせ、オズモンドが他の縁談は勧めないと見込んでいました。

(C) 1993 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS & CIBY 2000

オズモンドが求婚の手紙が来ないことをイザベルに問い詰めていると、ウォーバトンが屋敷を訪れ、急用でロンドンに戻ると告げます。

オズモンドはイザベルの企みで、パンジーを貴族にすることができなかったと罵ります。

イザベルはラルフを英国へ帰そうと動きます。その支度の手伝いをヘンリエッタやキャスパーに頼み、関わってきた人物をローマから遠ざけようとします。

ラルフがイギリスへ帰り、ナポリから帰ったマダム・マールがイザベルを訪ねます。マダムはパンジーとウォーバトンが破談になったことは、オズモンドから聞いたと話します。

マダムはその理由をイザベルに問い詰め、彼女の差し金なら許せないと迫ります。イザベルは執拗に干渉してくるマダムに「あなたは誰なの?私に何がしたいの?」と聞きます。

するとマダムは冷酷な顔で「すべてよ」と答えると、イザベルは失望で号泣します。

マダムはイザベルへの悪行を悔い、オズモンドを責め立てますが、彼はマダムの企てにそそのかされたと開き直り、まだ高望みできるパンジーに慰めてもらうと告げて、彼女の元を去ります。

ある日、ローマで観光をするイザベルとパンジー、ジェミニは収集品を売り支度金を作ったというエドワードと会いますが、イザベルはパンジーを彼から引き離します。

ところがオズモンドはジェミニから昼間のことを聞き、動揺しているパンジーの真意を見抜き、彼女を修道院に送り返してしまいました。

しばらくしてイザベルはラルフが危篤という電報を受け取り、オズモンドにイギリス行きを願い出ます。しかし、彼はそのことを許しませんでした。

イザベルはオズモンドの悪意に抗議しますが、彼は彼女が不快に思おうとも、“我々夫婦”にラルフは関係ないと、こうなったのもイザベル自身が招いたことで、自分で責任を負うべきだと主張します。

イザベルはジェミニにラルフが危篤であること、オズモンドからイギリスへ行くことを反対されたことを話すと、ジェミニは彼女にあることを話します。

それはオズモンドと先妻の間には子供はおらず、パンジーは愛人だったマダム・マールとの子供で、2人は昔からの関係だということです。

その話しを聞いたイザベルは、イギリス行きを決心します。その途中、彼女は修道院へパンジーを訪ねると、そこにはマダム・マールもいました。

イザベルはパンジーに一緒にイギリスへと誘いますが、オズモンドの指示でないのなら、帰るのを信じて待つと言います。

マダムは去ろうとするイザベルに、タチェット氏が遺産を残したのは、ラルフの希望によるもので間違いないと告げました。

イザベルは瀕死のラルフの元へ駆けつけます。そして、彼の恩情に気づかなかったことを後悔し詫びるのでした。

ラルフは「君のような寛大な過ちは、大きな傷を残さない」と、イザベルを許します。彼女はラルフにくちづけし、愛を告げると彼は彼女の腕の中で息を引き取りました。

ラルフの葬儀が済み、イザベルは庭の木の下でラルフを思っていると、キャスパーが声をかけます。

キャスパーはラルフの人柄に触れ、彼のイザベルへの思いを知り感銘したと話します。ラルフは最期にイザベルの力になってほしいと、キャスパーに言い残したと話します。

彼はイザベルにくちづけをし幸せはすぐ近くにある、2人なら好きなことを何でもできるのに、オズモンドの所に帰るのかと説得します。

しかし、イザベルはキャスパーの手をふりほどき、屋敷の中に入ろうとフランス窓に手をかけますが、閉ざされた窓を背に後ろを振り返りました。

映画『ある貴婦人の肖像』の感想と評価

(C) 1993 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS & CIBY 2000

経験値のない“純情”と軽薄な“夢”

『ある貴婦人の肖像』を観て、思い出した日本映画があります。それは『鬼龍院花子の生涯』でした。

この作品に登場する“花子”は愚かゆえに、鬼龍院家と敵対関係のヤクザに恋をし父親を死に追いやります。その後、鬼龍院家は衰退し、花子は男に捨てられ遊女へと身を落とした作品でした。

ある意味、イザベルも花子と同じような純粋さと愚かさがあると感じました。例えばオズモンドの姉ジェミニが、イザベルを「本当になんの疑いもなかったの?」と、呆れたのと同じ気持ちです。

イザベルは1870年初めまで、アメリカの文化で育っていました。ちょうど女性にも参政権が与えられ、高等教育も受けられ始めたころです。ですから、頭の中で女性が飛躍している未来をイメージしていたことがわかります。

しかし、イザベルはその頃に両親を亡くし突然、封建的な文化が残るイギリスに渡ります。彼女の考えや理想は具体的とはいえなかったでしょう。

説得力のない彼女の考え方は、社交界の人間には可愛らしく、無邪気なものにしか見えなかったのだと察します。

謙虚さや感謝を忘れた彼女は、善良で経験豊かな人の意見に耳を傾けなかったことで、虚栄と悪知恵の働く人間にそそのかされていくのです。

彼女が学業優秀で特技があれば、迷う必要もなく自立できます。ラストシーンにみるイザベル姿から、意地とプライドだけでは何もできず、結局は“男性からの援助”がなければ生きていけない、女性の弱さが象徴されていました。

パンジーの真心の愛と運命は・・・

マダム・マールは実の娘の幸福のためにイザベルを利用し、オズモンドを接近させますが、オズモンドは自分の趣味と贅沢のために、マダム・マールと結託します。

マダム・マールの素性は謎に満ちていますが、ピアノの腕前から良家の出身だったのではと想像できます。

しかし、若かりしマダム・マールもまたイザベル同様に、独自の解釈で芸術を語るオズモンドの口車によって、人生を狂わされた女性でした。

オズモンドは自分がコレクターとして認められたいという、承認欲求が満たされるためなら、妻や愛人、娘でさえも犠牲にできる非道さがありました。

例えばイザベルの男の子が生きていれば、パンジーへの財産はどうなるでしょう?それはオズモンドに残る財産もないともいえます。

イザベルの息子がどのようにして亡くなったのかは不明ですが、彼女はそれ以降、オズモンドに怯え、言いなりになることが増えていったのでしょう。

また、修道院で15歳まで育ったパンジーは、父親の何に怯えていたのか?恫喝など言葉による虐待があったとしても、そこまで服従できるものなのか考えると、オズモンドの先妻の死が関係しているのか?そこまで想像させてしまいます。

パンジーにとって父親に従うとことは、自分の身や愛する人への気持ちも守ります。その真の愛に向う姿勢はラルフと同じです。

修道院に戻されても前向きだったことから、彼女はそのことで貞淑が守られ、エドワードへの愛を貫けると思っているからです。

パンジーがマダム・マールを実母だと、知っているのかどうかも定かでありません。パンジーの素振りから、実母よりもイザベルの方が力になってくれると考えていたという見方もできます。

彼女も寂しさの中で、辛く苦しい人生がありました。その中で自分に正直に生きる術や処世術を培ったのでしょう。

まとめ

(C) 1993 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS & CIBY 2000

映画『ある貴婦人の肖像』は、世間知らずで上流階級の令嬢だった、イザベルが多額の財産を手にしたことで、悪だくみをする男女によって不幸な結婚生活へと陥り、運命に翻弄される姿を描いた物語でした。

イザベルには彼女が不幸になることで、悲しむ男性が3人います。そのことで彼女は徐々に真実の愛に気づいていきます。

彼女は愚かさも露呈していましたが、純粋であるということが、人から愛され続けられる術であるとも教えてくれました。

この作品は運命の出会いは変えられないのか・・・?そんなジレンマがつきまとう物語でもあります。

イザベルが「生きるということを知りたい」と願った、運命の賭けは酸いも甘いも知っている大人からは、取るに足らぬ甘い決心でした。

逆にマダム・マールとオズモンドは経験値の高さから、汚れた邪心に満ちイザベルの無垢さに残酷でした。

女性が飛躍し始めたアメリカで育ったイザベルでしたが、男性社会で封建的なヨーロッパでは、意志の強さと志の高さがなければ、無力であると知らしめられます。

ラストシーンのタチェット邸の前で、佇むイザベルの姿は彼女の未来をどう見るか?そんなことを問いかけます。






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