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Entry 2021/12/05
Update

映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ネタバレあらすじ感想と評価解説。カンバーバッチの新境地は粗暴で冷酷なカウボーイ!|Netflix映画おすすめ73

  • Writer :
  • からさわゆみこ

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第73回

今回ご紹介するNetflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、1967年に出版されたトマス・サヴェージの同名小説が原作の映画です。

本作は『ピアノ・レッスン』(1993)で女性監督として初のカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した、ジェーン・カンピオンによる脚本・監督作品です。

舞台は「男が男たる所以」という風潮が残る、1925年のモンタナ州でフィル・バーバンクとジョージ兄弟が、経営する広大な牧場です。

兄のフィルはカウボーイとしての風格を重んじる、優雅で華麗な男ですが、粗暴で残酷な一面がありました。一方、弟のジョージはある程度の教養があり、温和で堅実な性格です。

時代は急速な近代化の波が押し寄せていましたが、フィルは自分が最も尊敬している、伝説のカウボーイ、ブロンコ・ヘンリーを崇拝し、カウボーイの威厳を誇示していました。

農場経営から25年が経ち、男社会の農場にジョージが見初めた未亡人、ローズが嫁いで来たことで、フィルの周りの人間関係に亀裂が生じはじめます。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

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映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の作品情報

(C)2021 Netflix

【公開】
2021年(ニュージーランド映画・オーストラリア映画 他)

【原題】
The Power of the Dog

【監督・脚本】
ジェーン・カンピオン

【原作】
トーマス・サベージ

【キャスト】
ベネディクト・カンバーバッチ、キルスティン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィー、トーマサイン・マッケンジー、ジェネヴィエーヴ・レモン、キース・キャラダイン、フランセス・コンロイ、ピーター・キャロル、アダム・ビーチ

【作品概要】
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、ジェーン・カンピオン監督の12年振りとなる作品です。本作は2021年ヴェネツィア国際映画祭で、銀獅子賞(監督賞)を受賞しました。

フィル役には『イミテーション・ゲーム』(2015)、『ドクターストレンジ』(2017)のベネディクト・カンバーバッチが務めます。これまでインテリジェンスな役どころが強いカンバーバッチですが、粗暴で冷酷なカウボーイという役として、カンピオン監督に導かれた新境地となります。

ジョージの妻ローズ役には「スパイダーマン」シリーズのメリー・ジェーン役、ソフィア・コッポラ監督の『マリーアントワネット』(2006)で主演を務めた、キルステン・ダンスト、ローズの息子ピーターには、『モールス』(2010)で主人公を演じ、「X-MAN」シリーズのナイトクローラー役などのコディ・スミット=マクフィーが演じます。


映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のあらすじとネタバレ

(C)2021 Netflix

1925年モンタナ州。フィル・バーバンクとジョージの兄弟は、牛を売却するため出荷駅まで、ロングドライブをします。

兄弟は1900年にバーバンク牛牧場を先代から受け継いで、25年の月日が流れていました。

10数人のカウボーイを雇い、牛を何百頭も扱うまでになったことに、フィルは感慨深くジョージにいいますが、ジョージは“大昔”のこととクールに返答します。

フィルは“ブロンコ・ヘンリー”の教えに沿い、アカジカを狩って焼いて食べようと提案しますが、ジョージは怪訝そうな表情を浮かべるだけです。

フィルは牧場経営のノウハウは全て、先代のブロンコ・ヘンリーに教わったと感謝し、牛を売却する時には彼に敬意を払う言葉で、乾杯することを習慣にしていました。

ところがジョージは古い習わしを簡素化したいと思っています。フィルは1900年ジョージが進級に失敗し、牧場に戻り世話になったことを思い出すよう憤ります。

貨物列車が到着する駅町では、食堂と宿を経営するローズ・ゴードンが、フィル一行を迎えるため、朝から慌ただしく働きます。

彼女には一人息子のピーターがいます。繊細で貧弱そうなピーターは、紙を使って器用に造花を作り、ローズを喜ばせます。彼女はそれをもてなし用にも作ってほしいと頼みました。

ローズには医師の夫がいましたが、1921年に亡くなっています。女手でピーターを育て宿屋を切り盛りしていました。

フィルたち一行が食事をしに来ます。ピーターはウェイターの手伝いをしますが、テーブルに飾られた造花を手にしたウィルは、彼が作ったと知り他のカウボーイたちと冷やかします。

更にフィルはタバコに火を点けるため、造花に火をつけ燃やし、それを水差しに突っ込み、ピーターを傷つけます。

食事が済み野蛮なカウボーイたちがいなくなると、ジョージは支払いをするため、ローズに声をかけますが、彼女はキッチンで泣いていて出てきません。

ジョージはそんなローズに惹かれています。心優しいジョージは彼女を慰め、請求書を送るよう伝えました。

その晩、ジョージはフィルにローズが泣いていたことを伝えると、盗み聞きしていたのかと、“男のくせに”女々しいから教えてやっただけと、悪びれることもありません。

牧場に戻ったフィルたちは思い思いの時間を過ごします。フィルは遥かに見える丘を指して、何に見えるかカウボーイたちに聞きますが、誰にも何か見えません。

しばらくするとジョージが屋敷から出てきますが、自動車でどこかへ出かけて行きます。ジョージはローズに会うため、宿を訪ねていました。

食堂には医師のハードンと葬儀屋のウェルツが、酒を飲んで馬鹿騒ぎをしていました。ピーターは引きこもっていて手伝いません。

ローズは客が酒を持ち込み騒ぎ、そのせいでピーターは手伝わないと、苛立ちを募らせアルコールは嫌いだと言います。

そんなローズを見たジョージはピーターの代わりに、ウェイターとして手伝います。ローズは彼の行為に好感を抱きました。

ジョージは帰宅しローズに会いにいったことを話すと、フィルはローズのことをピーターの学費目当てにすり寄っていると罵ります。

しかし、それからもジョージは度々、ローズのところへ出かけるようになり、フィルは故郷の“お袋様”に、ジョージが財産目当ての女に入れ込んでると手紙を書きます。

フィルは得意げにそのことを話しますが、ジョージはお袋はローズを“バーバンク夫人”として可愛がってくれると、結婚したことを告げました。

以下、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ネタバレ・結末の記載がございます。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2021 Netflix

ローズは宿屋を売ったお金で、ピーターを医科大学に入れ寮生活をさせ、ローズだけバーバンクの屋敷に引越します。

ジョージはローズに両親と知事を招き、ディナーパーティーをしたいと話し、ローズにピアノを弾いてほしいと頼みます。2人はささやかな幸せをかみしめていました。

屋敷に到着したローズはフィルに“お義兄さん”と声をかけますが、彼は「兄ではない!雌キツネめ!」と、歓迎していないことを態度に示します。

その晩から1人の部屋になったフィルは、ジョージが部屋に鍵をかけたことに気づき、悔しさと寂しさをない混ぜた心境になります。

ジョージとローズの営みが聞こえてくると、いたたまれなくなったフィルは納屋に行き、ブロンコ・ヘンリーの愛用していた鞍を磨き始めます。

ジョージはローズのためにグランドピアノを買い、ディナーパーティーで披露する準備をします。

映画館でピアノ伴奏をしていた程度の彼女は、立派なグランドピアノで両親や知事の前で演奏することに、強いプレッシャーを感じますが、ジョージのために練習を開始しました。

同じ個所を何度も間違うローズ、2階の部屋で聞いていたフィルはからかうように、ローズの演奏に合わせてバンジョーを弾き、嫌がらせと感じたローズは練習を止めます。

ディナーの日がきました。フィルが牛皮を鞣し細長くカットしていると、ジョージがやってきて食事までに、風呂に入って体を洗うよう頼みました。

ところが両親や知事が到着し、夕食の時間になってもフィルは現れませんでした。食事が終わり、ジョージはローズにピアノ演奏をするよう促します。

しかし、ローズの手はこわばり、演奏を始めることができませんでした。そこに汚れたままのフィルが来て、ダンスやピアノを楽しんだか訊ねます。

ピアノ演奏しなかったことを「散々練習していたのに」と、ローズに屈辱を与え同席しなかったのは、“風呂に入っていないから”とローズを見ながらいいます。

知事が去るとフィルはしたり顔で口笛を吹き、リンゴをかじりながらダイニングを出ます。ローズはその晩から、あれほど嫌っていたアルコールを飲みはじめます。

夏になると夏休みのピーターが牧場に帰ってきます。ローズはクローゼットに酒瓶を隠し、隠れて飲むほどアルコール依存症になっていました。

フィルはカウボーイたちに、“お嬢さんが来た”と言って馬鹿にします。そして、口笛を吹きピーターを呼ぶと、カウボーイたちに馬で彼を囲ませからかいます。

ピーターは罠をしかけて、兎を捕まえたりしていました。最初は体調が悪いと寝ているローズに見せて励ましますが、彼の目的は兎を解剖し、外科手術の練習をするためです。

そんな部屋に引きこもりがちなピーターを、ローズはテニスに誘いますが、常に二日酔いの彼女は気分が悪くなり、ピーターはそれがフィルのせいだと察します。

ローズは屋敷の裏で吐いたり、吐くと隠しておいた酒瓶を取り出し、アルコールを飲みます。その様子をフィルは2階の部屋から見てました。

ある日、川でカウボーイ達が水浴びをするのを横目に、フィルは1人で人目のつかない水辺に行き、ブロンコ・ヘンリーの名前が入ったスカーフを取り出し、自慰行為をします。

そこに小動物を追っていたピーターが、木の根の穴をみつけて中に入ってみます。狭いトンネルを這っていくと、扉のついた穴を発見します。

ピーターはその中で、ブロンコ・ヘンリーの名前が書かれた雑誌をみつけます。“アート・レビュー”と題された男性のヌードが載っている雑誌でした。

しばらくすると外から水がはじける音がして、ピーターは音のする方へ向ってみると、スカーフを首に巻いたフィルが、水浴びをしているのをみつけます。フィルはピーターに気がつくと、すごい剣幕で彼を追い払います。

ところがフィルは突然ピーターに、親しみを込めて接し始めます。

それはカウボーイたちが野営をしサマーキャンプをする日、ローズとピーターも参加した時です。

他のカウボーイはピーターを見て侮蔑しますが、ピーターは気にすることなく、鳥の巣を観察します。そこでフィルはピーターに声をかけ、お互いの出会い方がまずかったと切り出します。

ピーターは気にする様子もなく、“バーバンクさん”と敬語で彼に接しますが、フィルは名前で呼んでいいと言います。

そして、皮の紐から投げ縄を編み、夏休みが終わるまでに仕上げて、ピーターに贈ると申し出ました。ピーターはその言葉を歓迎し受け入れます。

しかし、気安く息子に接近するフィルに対し、ローズの心境は穏やかではありませんでした。

別の日、フィルはピーターを納屋に呼び、ピーターは納屋に向かいます。それを見ていたローズは険しい顔をしてみつめます。

フィルはピーターにブロンコの鞍に跨がせ、感覚をつかむよういい、母親の言いなりにはなるなと忠告します。

そして、牧場の外れにある崖には、イニシャルと1805年と刻まれていると話し、ルイス・クラーク探検隊の誰かだろうと教え、彼らを“男の中の男”と称賛しました。

そして、一緒に遠出して彼らの道を辿ってみないかと誘います。ピーターは牛の狼の被害はないかと訊ねます。フィルは年に数頭か炭疽病で死ぬかと答えます。

乗馬はブロンコから教わったのか聞くと、フィルは目の使い方も習ったと、表に出て丘を指して、ブロンコが何といったか聞きます。

ピーターは「吠えてる犬」と答えると、フィルは驚き今気づいたのか聞くと、牧場に来た時からそう見えたと言いました。

ローズは日に日にフィルと親しくなるピーターが離れていくことに不安を抱きます。ピーターは神経が衰弱している母をなだめ、自分がローズを守ると言うと、病症の図鑑を調べ始めます。

ピーターの乗馬はみるみる上達し、1人で馬に乗り遠出にでかけます。彼は何かを探しているようでした。そして、牛の死骸に出くわすと、メスでその皮を切り剥ぎます。

ある日、フィルは牧草地に柵を作る作業にピーターを連れて行き、そこにいた兎を2人で追い詰めるゲームをします。

丸太の山に隠れた兎をみつけますが、丸太が崩れ兎は足を折ってしまいます。フィルは楽にしてやれといい、ピーターは兎を優しく撫でますが、フィルのいう通り首を絞め殺します。

フィルは驚きますが彼もまた、木片で手をケガしていました。

その後、ピーターはフィルに、自分の父親が「障害はとりのぞく努力をする」と教えてくれたと話します。

フィルはピーターにとっての障害は、酒を飲んだくれている母親だと言うと、ピーターは昔は酒を嫌っていたのにといいます。

ピーターは父がアルコール中毒で首吊り自殺し、発見して遺体を下したのも自分だったと話します。

そして、ピーターのことを「優しさがなく、強すぎる」と心配していたというと、フィルは“強すぎて?”と反復し嘲笑しました。

その時、屋敷では牛の生皮を求めに、先住民が訪れていました。家政婦のルイスは売りものじゃないと追い払っています。

ローズが理由を聞くと、フィルが人の手に渡るくらいなら、燃やしてしまうと決めたからだと教えます。それを聞いたローズは先住民を追いかけ、生皮を全部持って帰るよう譲ってしまいます。

先住民は彼らが作っている、皮の手袋をローズに差し出しました。その後、ローズは急激なアルコール中毒症状で倒れ、寝込んでしまいます。

牧場に戻ったフィルは、生皮が無くなっていることに気づき激怒し、ピーターのロープが完成できないと、取り乱すほど嘆き落胆します。

その時、ピーターが自分の持っている生皮を使ってほしいと申し出ます。彼はフィルに憧れ真似して皮を剥いでみたといいます。

フィルはピーターの言葉に感動し、今夜中にロープを編み上げると告げ、手伝うようピーターに言います。ピーターの生皮を水に浸して柔らかくし、ロープに編み込んでいきます。

こうしてフィルとピーターは、納屋で夜を過ごします。ピーターはフィルにブロンコと出会った時期や親友だったのか聞きます。

フィルはピーターと同じ歳頃にブロンコと出会い、親友以上の“命の恩人”だと言います。アカシカを追って山に入ったが、悪天候にあい凍死しないよう、体の熱で温めてくれたと話します。

ピーターは裸で温めあったのか尋ねますが、フィルは何も答えません。ピーターは巻きたばこを作り火を点け、艶めかしい眼差しで一服し、フィルに差し出し交互に吸います。

翌朝、フィルは朝食に現れず、ジョージが寝室へ行くと、彼は具合悪そうにベッドで横たわっていました。

ジョージはフィルの手の傷が、ひどく炎症しているのを見つけます。フィルは完成したロープをピーターに渡すため彼を探します。

ピーターは2階からその様子を落ち着きなく見ていました。フィルは力なくロープを落とし、ジョージは渡しておくからと彼を病院に連れて行きます。

フィルはそのまま帰らぬ人となってしまいました。葬式のあと医者はフィルの死因について、炭疽病ではないかとジョージに話します。

しかし、フィルは日頃から病死した牛を注意し避けていたので、ジョージは彼が炭疽病で死んだ可能性に困惑します。

葬式に行かなかったピーターは、新約聖書詩編の「埋葬儀式」を開き、詩篇22章20篇を読みます。

「私の魂を剣から、私の最愛の人を犬の力から救い出してください。」

彼は完成した投げ縄を手袋をはめた手で持ち、ベッドの下に隠します。そして、帰宅したジョージがローズが抱きしめるのをみたピーターは、顔に笑みを浮かべました。

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映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の感想と評価

(C)2021 Netflix

映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の原作者トーマス・サベージは、1920年に母親の再婚相手が暮す、モンタナ州のビーバーヘッド郡に引っ越したことで、カウボーイの経験をしてました。

牛牧場を経営していた継父は裕福でしたが、母はなかなか生活になじめず、アルコール依存症になり、サベージ自身は高校進学のため別の街で暮していたといいます。

つまり、この『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、トーマス・サベージの実体験も題材になっていました。

“剣と犬”の力からの解放とは?

新約聖書詩編の詩篇22章20篇「私の魂を剣から、私の最愛の人を犬の力から救い出してください」は、イエス・キリストが磔にされ、処刑目前の様子を表しています。

剣を向ける者とキリストの死後、身ぐるみはがし略奪する輩や死肉を狙う野犬から、お救いくださいとを祈る詩です。

ピーターはフィルの死に際し、なぜこの詩を選んだのでしょうか?

フィルは18、9歳のころ、極寒の山で同性愛者のブロンコ・ヘンリーと、性的な関係になったと思われます。

それ以降、フィルはブロンコのカウボーイとしての雄々しい風格に憧れながら、自身の同性愛にも目覚めたのでしょう。

LGBTに不寛容な時代にそのことは、隠し通さなくてはなりません。フィルにとって“犬の力”とはブロンコの呪縛のことと言えます。

フィルが極端に女性蔑視で、中性的なピーターに酷いことをするのは、女性には興味がなく実はピーターには惹かれる部分があって、それをごまかすためにカウボーイとしての威厳を誇張したのだと思います。

ピーターが丘の形が犬に見えると言った時に、フィルは彼が同性愛者だと確信したのでしょう。しかし、そのピーターは剣となりフィルの命を狙っていました。

ピーターがフィルを同性愛者と見抜いたとき、彼に“剣と犬の力”が宿ったとみえました。

なぜなら母のローズにとってフィルの存在は、彼女をアルコール依存に追い込み、命を脅かす剣だったといえたからです。

そして、ピーターにとってフィルがいなくなれば、彼の遺産で外科医を目指せるからです。

本当の“強さと弱さ”について

「弱い犬ほどよく吠える」というのが、フィルの真の姿だったといえます。自分が同性愛者であることを認めたくない、知られたくないという脅迫概念に怯え、よりカウボーイの男らしさを強調しました。

フィルにとってジョージは大事な弟であり、心のバランスを保つ近しい存在だったはずです。その弟をローズに奪われたことで、嫉妬心と憎悪が湧き追い詰めていったと考えられます。

ピーターが良き理解者になりうると感じたのが、フィルの弱さであり脆さだったというのが、生皮の牛について追及しなかったところにあります。

逆に見た目がナヨナヨして、女々しそうなピーターには、芯の強さがありました。アルコール依存だった父親は、ローズやピーターに暴力を振るったかもしれません。

辛い状況から常に母を守ってきたと想像できます。そして、父の死も淡々と受け入れ、障害が1つ無くなったくらいに思ったことでしょう。

フィルはピーターにローズは“障害”になると言いましたが、フィル自身もローズにとって障害であり、ピーターの将来にとっても障害にあたります。

ピーターは小動物を愛でる一面と、必要とあらば殺生する冷酷さもあります。彼の父はそのことを「冷たく優しさが足りない」と心配したのです。

しかし、フィルのいう通り、ローズもまたピーターにとって“障害”でした。彼は彼女に強いストレスを感じていたはずです。彼には櫛をはじく癖があり、そのことを示していました。

ローズがピーターに依存してくることがストレスであれば、フィルがいなくなりローズとジョージが円満になってくれることが、ピーターにとって障害を排除することになるからです。

一見、母親思いの優しい息子のようではありますが、どちらかといえばサイコパスな一面が強く、彼の父親はそこを見抜いていたのでしょう。

まとめ

(C)2021 Netflix

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、近代化が進む1920年代のアメリカで、モンタナの大自然を舞台に、性的マイノリティーやサイコパス(ソシオパス)的な精神疾患を扱い、巧みにサスペンス要素を醸し出していました。

また、同性愛者のカウボーイが良き伝統を隠れ蓑に生き、その隠れ蓑も時流によって奪われそうになっています。その価値観の隔たりを兄弟を通して描いていました。

ピーターは見た目で判断される世の中で、環境に順応しながら、精神的にも鍛えられ強くなります。そして、見た目と違い、身体能力も高いことも証明しました。

見た目だけで判断する差別や、本質を隠さなければならない生き辛さを『パワー・オブ・ザ・ドック』では描いています。

そして、ピーターの策士的な殺人が、サスペンス要素も加えていました。母親を守る息子の愛?そんな表面的な美談では終わらせない、原作者の巧妙さをジェーン・カンピオンは見事に映像に落とし込み、銀熊賞に導いたといえます。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら





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