映画『きみの瞳が問いかけている』は2020年10月23日(金)より全国ロードショー。
吉高由里子と横浜流星がダブル主演を務め、孤独な男女の交流を繊細に演じた映画『きみの瞳が問いかけている』。
不慮の事故で視力と家族を失った女性と、罪を犯し、キックボクサーとしての未来を絶たれた男性が出会い、惹かれ合うさまを描いたラブストーリーです。
韓国映画『ただ君だけ』のリメイクであり、ストーリーの本筋もほぼ原作通りながら、異なる印象を残す作品に仕上がりました。
本作のタイトル『きみの瞳が問いかけている』は、ウィリアム・シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』でのロミオのセリフが元になっています。
戯曲『ロミオとジュリエット』から、本作について解説していきます。
CONTENTS
映画『きみの瞳が問いかけている』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本映画)
【原作】
韓国映画『ただ君だけ』
【監督】
三木孝浩
【主題歌】
BTS『Your eyes tell』
【キャスト】
吉高由里子、横浜流星、やべきょうすけ、田山涼成、野間口徹、岡田義徳、町田啓太、風吹ジュン
【作品概要】
吉高由里子と横浜流星がダブル主演を務めた純愛映画。
チャールズ・チャップリンの名作『街の灯』にインスパイアされて製作された2011年の韓国映画『ただ君だけ』のリメイクです。
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』『僕等がいた』の三木孝浩が監督を務めました。
映画『きみの瞳が問いかけている』のあらすじ
目は不自由ながら明るく愛くるしい明香里(吉高由里子)と、罪を犯しキックボクサーとしての未来を絶たれた塁(横浜流星)。
小さな勘違いから出会った2人は惹かれあい、ささやかながらも掛け替えのない幸せを手にしました。
ある日、明香里は、誰にも言わずにいた秘密を塁に明かします。
数年前に、彼女は、自らが運転していた車の事故で両親を亡くし、自身も視力を失っていたんです。
以来、ずっと自分を責めてきたという明香里。
ですが、彼女の告白を聞いた塁は、彼だけが知るあまりに残酷な運命の因果に気付いてしまって…。
「きみの瞳が問いかけている」というキーワード
明香里(吉高由里子)のノートパソコンに貼られた、点字で書かれた言葉。原作映画『ただ君だけ』では、同じ言葉がヒロインの持っている本の表紙に貼られています。
そこに書かれているのは「彼女の瞳が問いかけている。僕は答えなければ」という、『ロミオとジュリエット』の戯曲に登場する、ロミオのセリフです。
舞踏会で出会ったジュリエットに恋したロミオは、彼女の家に忍び込みます。そこへ、2階の窓からバルコニーへジュリエットが登場。彼女はロミオには気づいていませんが、物憂げな恋する乙女の眼差しをしています。
彼女のその美しさに見惚れ、声を掛けたものか逡巡するロミオの心情がに語られる名シーンのセリフの一部が、「彼女の瞳が問いかけている。僕は答えなければ」です。
ジュリエットが見つめ、思いを馳せているのは自分のことなのか、そうであって欲しいと願うロミオの恋心が、このセリフには込められています。
本作のヒロイン・明香里は、事故によって視力を失ってしまい、光は感じられるものの、何かを見ることは出来ません。
ですが、彼女は、塁が自分の目を見つめることにこだわります。感覚が優れている明香里は、たとえ目が見えなくても、「見る」という行為から生じる呼吸と鼓動の変化を感じ取れるんです。
それは、自分のことを見ているかはわからないけれど、見ていて欲しいと願うロミオの気持ちに重なります。
『ロミオとジュリエット』について
参考動画:『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』(2020)
劇作家ウィリアム・シェイクスピアによって、1595年前後に書かれたとされる戯曲『ロミオとジュリエット』。宿敵同士の貴族の家柄に生まれたことで起こってしまった、悲劇のラブストーリーです。
この章では『ロミオとジュリエット』のあらすじをご紹介します。
身分を隠して参加したジュリエット家の舞踏会で、ロミオはジュリエットと恋に落ちます。幸せも束の間、両家の争いに巻き込まれたロミオは追放、ジュリエットは別の男性と結婚させられることに。
再び会うため、ジュリエットは修道僧を介して計画を立てます。毒を飲み、仮死状態になったジュリエット。亡くなったと勘違いされ、墓地に運ばれる彼女ですが、そこへ駆けつけたロミオも、ジュリエットが死んだと思い違いをしてしまいます。
悲しみに暮れたロミオは、別の毒薬を飲んで自死。目覚めたジュリエットも、亡くなったロミオの姿にショックを受け、短剣を自らの胸に刺し、後を追います。
遺された者たちは、真相を知って和解をし、二度と悲劇が起こらぬように誓いました。
これが、『ロミオとジュリエット』のざっくりとしたストーリーです。元々は舞台の戯曲ですが、多くの監督が映像化しています。
オリヴィア・ハッセー主演の『ロミオとジュリエット』(1968)は、原作に忠実な麗しい古典劇。
バズ・ラーマン監督の『ロミオ&ジュリエット』(1996)は舞台を現代に置き換えながらも、シェイクスピアのセリフの醍醐味を大胆に生かします。
マシュー・ボーンが演出・振付を手掛けたバレエの舞台を映画用に撮影した『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』(2020)は、セリフが一切無いながらも、ダンサーの肉体が雄弁に語りました。
“きみのめ”と“ロミジュリ”の共通点
ここからは、『きみの瞳が問いかけている』と『ロミオとジュリエット』の共通点を、『きみの瞳が問いかけている』の核心部に触れながら解説していきます。ネタバレも含みますので、ご注意ください。
本作『きみの瞳が問いかけている』での恋の障壁は「過去の過ち」。塁の関わった事件が火種となり、明香里は自動車事故を起こしてしまい、視力と両親を失ったんです。
『ロミオとジュリエット』でも恋人に立ちはだかるのは、支持するものが異なる家柄という、脈々と伝わる「過去の歴史」。
両作とも、その過去を清算するために、主人公たちが行動します。二人を結ぶ重要人物が、修道僧とシスターという聖職者である点も共通していますね。
罪を償うために明香里の前から姿を消した塁と、塁を待ちながらも新たな生活を始める明香里。どちらも互いを思いながら、その思いを向ける先がすれ違っています。
ここもやはり、運命によって別れざるを得なかったロミオとジュリエットに重なりました。
そして、ここからはロミオとジュリエットが逆転し、仮死状態のロミオ=塁と、そこへ現れたジュリエット=明香里という構造が生まれていきます。
現代のジュリエットは何を選択するのか、どうぞお楽しみに。
まとめ
『ロミオとジュリエット』など、時代を超えて愛される作品の条件として、登場人物の言動と性格のリアリティが挙げられます。
本作『きみの瞳が問いかけている』の魅力は、出番の短い人物も魅力的に描かれていること。演じた俳優の演技力ももちろんですが、脚本と演出が無駄なく丁寧に人物を活写します。
人物にリアリティがあれば、どんなドラマティックな物語も成立し、共感を呼ぶことができる。改めてそう感じさせてくれました。
結末はハッピーエンドか悲恋か、ドキドキしながら見入ってくださいね。
映画『きみの瞳が問いかけている』は2020年10月23日(金)より全国ロードショーです。