自由奔放で野良猫のようなチャチャの風変わりなラブストーリー
“へたくそだけど私らしく生きる”等身大の女性のリアルをつむぐ(not) HEROINE moviesとして、『わたし達はおとな』(2022)、『よだかの片想い』(2022)、『そばかす』(2022)に次いで制作された映画『チャチャ』。
人目を気にせず、好きのように生きる自由奔放なチャチャ。ある日、喫煙所でであった樂に興味を持ったチャチャは、樂に惹かれ、樂の家で共に暮らすようになりますが、自分の恋心は片思いであると気づいています。
そんなある日、チャチャは家で思わぬものを見て、樂の秘密を知ってしまいます。予測不可能なチャチャの恋路の向かう先とは。
『サマーフィルムにのって』(2021)の伊藤万理華が主演を務め、『夏目アラタの結婚』(2024)の中川大志が樂を演じました。
監督を務めたのは、『劇場版 美しい彼~eternal~』(2023)、『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』(2023)、『恋を知らない僕たちは』(2024)の酒井麻衣。
映画『チャチャ』の作品情報
【公開】
2024年(日本映画)
【監督・脚本】
酒井麻衣
【脚本協力】
大江崇允
【キャスト】
伊藤万理華、中川大志、落合モトキ、福山翔大、中島侑香、佐々木史帆、小林亮太、原菜乃華、檀鼓太郎、梶裕貴、川瀬陽太、松井玲奈、池田大、藤間爽子、塩野瑛久、ステファニー・アリアン、藤井隆
【作品概要】
(not) HEROINE moviesの第四弾として、『劇場版 美しい彼~eternal~』(2023)の酒井麻衣監督が手がけました。
脚本協力として携わったのは、『ドライブ・マイ・カー』(2021)で、濱口竜介監督と共同脚本を務めた大江崇允。
周りを気にせず自由に生きるヒロイン・チャチャを演じたのは、『サマーフィルムにのって』(2021)の伊藤万理華。
主題歌の『おはようの唄』は、酒井麻衣監督と伊藤万理華が共同で作詞し、伊藤万理華が歌い、チャチャの不思議な世界観を創り上げています。
映画『チャチャ』のあらすじとネタバレ
イラストレーターのチャチャ。周りを気にせず、好きな服を着て自由に生きるチャチャは、社長に気に入られデザイン事務所に勤めています。
女性の先輩2人は、何かにつけ「可愛いと思ってやっているんでしょう」と陰口を言っています。しかし、チャチャは聞こえていても気にしません。
そんなチャチャは、社長とできているのではないかと囁かれています。密かに社長に想いを寄せている凛は、チャチャと社長をこっそり観察しています。
チャチャは屋上にある喫煙場で喫煙していると、下の階の飲食店の従業員が喫煙所にやってきます。そこに従業員の上司らしき人がやってきて「樂いつまで休憩してるんだ、そんなん吸ってるから味覚がおかしくなるんだ」と怒鳴り、連れていきます。
その姿を見てチャチャは樂に興味を抱きます。そして鍵が落ちていることに気づくと鍵を届けに行きます。その夜、チャチャは仕事が終わった後も、屋上の喫煙場で樂を待ちます。
樂の姿を見つけると「鍵、見つけたの私なんです」とチャチャは声をかけます。「ありがとうございます」と答えた樂に、チャチャは「お礼は?」と聞きます。
樂はチャチャの言動を見てあざといと感じ、「そんなふうにしていると嫌われるよ」と言います。すると、チャチャは「気にするのやめた、自分に素直に生きる方がいい」と答えます。
樂が飲んでいるものは何かと聞くチャチャに樂は、「りんごのサイダー」と答えます。
「お礼、それがいい。明日ちょうだい」と言います。「これから食事でも奢ろうかと思っていたのに」と言う樂に、チャチャは「そういうのはいい」と答えます。
樂はしばらく歩いた後、「俺も自分に素直に生きてみようと思う」とチャチャに言います。
翌日、樂が自分にりんごのサイダーを届けに来てくれた時に、その感想を言おうと楽しみに会社にやってきたチャチャは、机の上に置かれたりんごのサイダーを見てがっかりします。樂は、チャチャが来る前に事務所にやってきて、凛にりんごのサイダーを預けたのです。
チャチャは、また仕事終わりの樂を捕まえて「食事を奢ってよ」と言います。しかし、仕事終わりの遅い時間ではどの店もラストオーダーが終わってしまったなどと言われて、断られてしまいます。
「お腹すいた……」と呟くチャチャを樂は自宅に招待します。「料理している時に動かれるの嫌だからじっとしてて」と言って料理を振る舞います。
料理を食べワインを飲んだ2人。しばらくしてチャチャは、「そろそろ帰る」と言い立ち上がります。そんなチャチャの手を樂は掴み「なんで」と言います。
そのまま朝まで共にしたチャチャと樂。その日からチャチャは樂の家で過ごすようになります。
映画『チャチャ』の感想と評価
“へたくそだけど私らしく生きる”等身大の女性のリアルをつむぐ(not) HEROINE moviesの第四弾として制作された映画『チャチャ』。
チャチャは独特のファッションセンスでふわふわした言動と世間の目など全く気にせず生きています。そんなチャチャの自由さに対して憧れを感じつつも空気を読んだ“普通”の振る舞いをするのが大人だと認識している大多数はチャチャに対し反感も感じています。
そんなチャチャはミステリアスな樂に興味を抱きます。自分と似ていると感じ、興味が恋心へと変わっていきます。一方で、樂は野良猫が自分だけに懐くのも悪くないとチャチャを家に招き入れます。
チャチャの恋は、樂の秘密を知ったことにより思わぬ方向へと進んでいきます。樂の狂気的な一面と、チャチャの危うさが共鳴しているようで、2人は決定的に違う人間です。チャチャは違う人間でも一つになれるかもしれないと希望を抱いていますが、樂は希望を抱いていません。
樂は、ピオネーに想いを寄せながらもそれは一方的なもので、狂気的な行動に出るものの、ピオネーに対して積極的な行動は起こしません。
どこか諦めているのです。それでいて、寂しさも感じている樂は、自分に擦り寄ってきた野良猫のようなチャチャを受け入れます。
予想できぬ展開や、チャチャと樂それぞれの視点で描き出したり、ラストには電柱の視点が登場したりと、かなり変化球で一つのジャンルの枠に収まらない映画になっています。
しかし、主軸として描かれているのは、恋愛を通して成長するチャチャの姿だと言えるでしょう。
チャチャは樂との恋愛を通し、一方的であることの虚しさや、自分の好きな人が違う人を向いている辛さも目の当たりにし、まさに恋の辛さを体感します。
それだけでなく、恋を経験したことで、チャチャは初めて凛という友達ができるということにもつながっています。凛はチャチャが自分の好きな人と付き合っているかもしれないという複雑な気持ちを抱きながらも、チャチャのことを憎んではいません。どこか憧れすら抱いています。
チャチャは意識して凛と友達になろうと考えていたわけではないでしょうが、凛に恋愛の相談をし、凛に対して無意識に信頼している様子が伺えます。それは凛が他の先輩らのように、チャチャの陰口を言っていなかったというのも関係しているのかもしれません。
変幻自在で読めない映画であると共に、チャチャや樂の人物像も掴みやすい人物像ではなく、共感しやすい映画とはまた違うかもしれません。
しかし、その独特な世界観が今までにない恋愛映画としての魅力にもつながっています。
一方で、天真爛漫で優しく包容力のあるピオニーや、仕事は続かないダメな人で、良い人でも悪い人でもないけれど何故か愛される護や、ずれているけれどそれが可愛さでもある社長など、不思議さはあるけれどステレオタイプに近い登場人物も数多く出てきます。
シュールなファンタジー感と相反するような狂気的なバイオレンス。今まで味わったことのない恋愛映画は、どこかクセになる魅力があるといえるでしょう。
まとめ
自由奔放で野良猫のようなチャチャの風変わりなラブストーリーを描いた映画『チャチャ』。
独特の世界観を形作るのは、何といっても伊藤万理華演じるチャチャの魅力です。初主演作『サマーフィルムにのって』(2021)においても自分の好きなことに対してまっすぐなハダシを魅力的に演じていました。
チャチャは自由に生きていますが、他者からの非難に気づいていないというわけではなく、気づいていてそれによって傷ついていない訳でもないでしょう。それでも気にしないと自分に素直に生きています。
それが誰しもができることではないということは、現代を生きる私たちには分かっていることです。自由に生きることが難しいと苦しんでいる人もいれば、うまく順応することが当然だ、その方が楽だという人もいるかもしれません。
しかし、今まで描かれてきたタイプとは違うヒロインを打ち出すことで、息苦しさを感じていた人がこの映画を見ることで少し呼吸をしやすくなる、そんなこともあるでしょう。それこそが新たなヒロインを打ち出していく(not) HEROINE moviesなのです。