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Entry 2020/03/25
Update

【水橋研二インタビュー】映画『カゾクデッサン』キャスト・スタッフ全員で作り上げた熱意が溢れる撮影現場

  • Writer :
  • 大窪晶

映画『カゾクデッサン』は2020年3月21日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開!

映画『カゾクデッサン』は、本作が初長編となる新鋭・今井文寛が監督・脚本・製作を務めます。

意識を亡くした女の夫と元夫、そしてその息子が織りなす人間の物語を描きます。


(C)Cinemarche

今回はアウトローに生きる主人公・水元剛太を演じる水橋研二さんのインタビューをお届けします。

本作での役作りや撮影現場について、そして水橋さんが俳優として生きる由縁に迫ります。

周りから貰い構築した役作り


(C)「カゾクデッサン」製作委員会

──本作での役作りはどのように取り組みましたか?

水橋研二(以下、水橋):僕が演じる水元剛太という人間がもしかしたら本当に存在していて、元々いた人を切り取ったかのようになれたらと考え、なるべく何もしないで作品世界にいられるように意識して取り組みました。ただそれは僕ひとりで作ったものではありません。

今井文寛監督をはじめ、スタッフの皆さんが作品を作り出す最初の空気を作ってくれて、セットの雰囲気や共演者と共に作り上げていったものです。本作でメインの舞台となるバーの空間はとても素敵でしたし、剛太のパートナーである坂口美里役を演じた瀧内公美さんも常にずっと側にいてお喋りをしてくれたりと、みんなでこの作品の空気感をつくっていきました。

「場所や人から貰えるものがある。それは素直にいただきたい。そしてそこにちゃんと乗っかっていられて、作品の空気感からかけ離れたことをしないようにしておこう」という想いでした。役も寡黙まではいかないですが、いっぱい喋る方ではなかったので、なおさら人が持っている空気感を出せるように意識しました。

──具体的にはどのように役を作り出したのでしょう?

水橋:自分の出番以外の撮影はどこかにいて普通に過ごして、また出番で現場に戻ってきて撮影というのではこの役は難しいと感じていました。

ですので、バーでの撮影中は自分のシーンじゃなくてもカウンターの中にいて動いていたりしました。そうすることで、自分のシーンの時に「20年間住んできた」という説得力が出たらと考えたからです。具体的には、バーの中で働いている時も、グラスの置き場所、タオル、お酒、ジュースがどこに入っていて、というようなことを確認しなくても出来るようにしていました。

そうすることで、ちょっと物を取りに行きたいという時に「結構前に使ってたハサミってどこだっけな、こないだここに入れたよな」などといったことが頭に浮かび、行動にも少し滲み出てくると思うんです。現場ではそんな僕のやり方を汲んでくれたので「水橋さん、大丈夫なので控え室にどうぞ」とかは誰も言わないし、僕がそこにいることを誰も気にかけない(笑)。

有り難かったのは、瀧内さんも同じようにいてくれたので、2人での立ち位置がだんだん決まってきて、動きもなんとなく出来上がってくる。それが撮影の結構最初の方に出来て、ずっとそこにいるような雰囲気をはじめから作れました。カットがかかった後でも何かを普通にしていましたし、スタートがかかる前も同じように何かしている感じでした。

──役の感情面に対してのアプローチはいかがでしょうか?

水橋:特別に何かしようとはしなかったし、考えていなかったです。息子役の大友一生くんがバーに来て初めて会うシーンも、学生服を着た中学生がバーに来たという違和感を持ったので、そのままその感情で素直にいました。

「なんだこいつは、なんか喋ってるな、いいやほっとけ」みたいな。瀧内さんの方が役柄として言うだろうから、僕はその場その場でただ返すという感じで、どうセリフっぽくならないか日常をつくっておく。そして彼のぶつけてくる感情には、流さずにちゃんと受け止める。僕が感情を出している相手は、瀧内さんくらいでしょうか。公私のパートナーとしてぶつけてもくれるし、スッといなくなってもくれるし、瀧内さんとは本当にやり易かったです。

大友くんも良い意味で不器用で、一生懸命に全力で向かってきてくれる。その素直さが役柄にも見えていたと思います。そんな相手役それぞれその面白さがあるからからこそ、僕がそんなに何か無駄なことをしなくてもいいかなと感じていました。

今井組の“熱意”が溢れた現場


(C)「カゾクデッサン」製作委員会

──今井監督率いる「今井組」はいかがでしたか?

水橋:素晴らしかったです。自主制作ならではの良さが出たと思います。キャストは全員オーディションで決まったのですが、今井監督とスタッフは面識があって、監督デビュー作の為に集結したメンバーで、今井監督を支えようという気持ちに溢れていて、あたたかい雰囲気が現場にありました。

もちろん映画の作りに対してスタッフそれぞれの意見がありディスカッションもありましたが、根本には「今井監督の為に」という想いが伝わってきたので、それは画にも出ています。本作は今井監督にとってデビュー作なので、熱量は凄いものがあります。今井監督には2本目も3本目もずっとそういうふうに撮っていて欲しいですね。

──俳優ともディスカッションをして進めていったのでしょうか?

水橋:撮影が終わった後も飲みに行ったりしながら話しました。今井組全体の距離感が近くて、それが本当に良かったです。撮影現場によっては部署が違うとあまり会話がなかったりしますが、今回は和気藹々としていて、しっかりとやるべき時には張り詰めた空気になりますし、メリハリがあって素晴らしかったです。

役のアイデアも録音部の方からいただいたり、みんなが役を作ってくれました。そこに監督の熱い気持ちも合わさって、「こりゃ凄いなぁ」って。本当に素敵な現場でした。

渡辺哲さんから教わった“俳優というシゴト”


(C)Cinemarche

──水橋さんご自身についてもお伺いします。俳優でやっていこうと決心したきっかけなどはありますか?

水橋:元々サラリーマンは難しいなと考えていて美容学校に行っていたのですが、知人の自主映画に出ることになって俳優の仕事をはじめました。

その後に渡辺哲さんの付き人をやらせていただいた時期があり、その時、映画化もされた舞台『星屑の町』の最中で、稽古と本番があったんです。大平サブローさんや、ラサール石井さん、小宮孝泰さん、でんでんさん、有薗芳記さんといった大先輩方が共演していらっしゃって、イイ歳したおじさん達が女子高生のようにキャッキャしながら楽しそうにしている(笑)。「なんだろうな、この場所は。こんな大人になってまで楽しそうにしていられたら凄いことだよな」と感じました。

僕が27歳くらいの時に「これでいいのか」と2〜3ヵ月ほど俳優を休んだのですが、その時にまた哲さん達が舞台で楽しんでいた光景を思い出して、ちゃんと続けていこうと決めました。哲さんからも「続けることの方が大変なんだ」と言われていましたし。そしてあっという間に45歳(現在)になってしまいましたね(笑)。

──渡辺哲さんから俳優としてたくさんの学びを頂いたことと想像します。渡辺哲さんからの学びの中で特に心に残ったものは何ですか?

水橋:「芝居はひとりでやらない」ということです。当時、僕はひとりで芝居をやりがちだったのですが、そんな折に哲さんと小劇場で共演する機会があって、その時に「絶対ひとりでやるな、人からもらえ、自分ひとりで完結するな」と言われました。あと「挨拶はデカい声でいつまでたっても言え」ということも教わりました。

「俳優」は楽しい職業でもあるけれど、ひとりでは何も出来ない職業だと思っています。ありがたいです。キャストやスタッフはもちろんのこと、事務所のマネージャー陣や、今まで関わった方たち全てに感謝しております。

──今後、俳優として挑戦したいことはありますか?

水橋:コメディです。僕はコメディを演ったことがないんです。僕が子どもの頃は「ドリフターズ」や「ひょうきん族」、「欽ちゃんのどこまでやるの」とか、そういうコントをやっているテレビがいっぱいありました。

そんな番組が大好きだったんですが、最近はコント番組やコメディ作品が少なくなってきているように感じます。大好きなコメディに挑戦したいです。

インタビュー・撮影/大窪晶

水橋研二(みずはしけんじ)プロフィール


(C)Cinemarche

1975年生まれ。東京都出身。
映画『331/3r.p.m』(1996/木澤雅博監督)でデビュー。『月光の囁き』(1999/塩田明彦監督)で注目を集めた後、『ロックンロールミシン』(2002/行定勲監督)、『青い車』(2004/奥原浩志監督)、『くりいむレモン』(2004/山下淳弘監督)、『美代子阿佐ヶ谷気分』(2009/福田真作監督)、『はらはらなのか』(2017/酒井麻衣監督)ほか多数の映画、ドラマ、舞台に出演。またアニメ『秒速5センチメートル』(2007/新海誠監督)で声優を務めるなど幅広く活躍。2019年は『殺人鬼を飼う女』(中田秀夫監督)、『劇場版 おっさんずラブ~LOVE or DEAD~』(瑠東東一朗監督)が公開。

映画『カゾクデッサン』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
今井文寛

【キャスト】
水橋研二、瀧内公美、大友一生、中村映里子、大西信満、SHIN、萩原護、岩﨑愛、ナガセケイ、山田諭、髙野春樹、河屋秀俊、坪内守、逢坂由委子

【作品概要】
東京という街でさまよい続ける者たちと、東京の郊外で自分の居場所を定めた者たち。初夏の大気の中、東京の下町と郊外で紡がれる物語を潤いある光と影の映像……。

監督・脚本は初長編となる新鋭・今井文寛です。日本映画の際立つ才能が交ざり合い、人生をさまよう全ての人に贈るビタースイート・ストーリーが展開します。

主演は、映画『殺人鬼を飼う女』(2019)ほかTV、CM、声優(『秒速5センチメートル』)など幅広く活躍する実力派・水橋研二。その恋人役に『彼女の人生は間違いじゃない』(2015)『火口のふたり』(2012)など話題作への出演が続く瀧内公美。少年役には『ミスミソウ』(2017)ほか注目必至の新たな才能を持つ、大友一生。ほかにも、大西信満、中村映里子らが確かな演技で脇を固めています。

映画『カゾクデッサン』のあらすじ


(C)「カゾクデッサン」製作委員会

元ヤクザの剛太。今は恋人のバーで働いています。

そんなある日、剛太のところに元妻の息子、光貴が現れました。

「母が交通事故にあって意識が戻らないんです。よかったら声をかけてみてもらえませんか」と10数年ぶりの再会を果たします。

剛太は声をかけてみるが意識は戻りません。

過去への思いにとらわれる剛太は、まだ心の傷は癒やされていなかったと気づきます。

剛太のことをこころよく思っていない光貴の父は、二度と会うなと息子に言い聞かせます。

しかし光貴は剛太に魅力を感じ始めていました。

翌日、光貴と父は些細なことから親子ゲンカになり、そのことが引き金となり光貴は自分の出生の秘密を知ってしまいます。

動揺する光貴はふとしたきっかけから友人を殴り、暴力の魅力に取り憑かれてしまいます…。

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