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Entry 2022/04/11
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【中村真夕監督インタビュー】映画『親密な他人』黒沢あすか・神尾楓珠で描く日本特有の“母と息子”の光景

  • Writer :
  • 西川ちょり

映画『親密な他人』は2022年3月5日(金)より渋谷ユーロスペースにて公開後、2022年4月15日(金)より京都シネマ、4月16日(土)より大阪・第七藝術劇場、以降も神戸・元町映画館ほか全国にて順次公開!

見知らぬ男女の間に生まれる不可思議な愛の形を描いた映画『親密な他人』。行方不明になった息子を待ち続ける女性に黒沢あすか、息子の消息を知っていると女性に近づく青年に神尾楓珠が扮し、緊張感溢れる物語が展開します。

劇映画『ハリヨの夏』(2006)やドキュメンタリー映画『ナオトひとりっきり』(2015)、『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』(2020)など、ジャンルを超え幅広く活躍する中村真夕監督が、コロナ禍の東京を舞台に初のサスペンス映画に挑戦した注目作です。

このたび映画『親密な他人』の関西地域での劇場公開を記念し、中村真夕監督にインタビューを敢行。作品を制作するに至った経緯、作品に込められた思いなど、たっぷりとお話を伺いました。

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日本特有の「母と息子」を心理サスペンスとして描く

映画『親密な他人』のメイキング写真より


(C)2021 シグロ/Omphalos Pictures

──海外で長く生活された中村監督が、日本に帰って驚かれたのが、母親と息子の濃密な関係性で、そのことが本作を撮るきっかけのひとつとなったとお聞きしました。そのことも含め、制作の経緯を教えていただけますでしょうか。

中村真夕監督(以下、中村):元々は、アメリカに住んでいた時に起こった行方不明の息子を探す母と、その息子になりすますフランス人の青年についての事件にインスピレーションを受けたのが始まりです。息子を求めるあまり、似ても似つかぬ他人を受け入れる母の愛の強さに興味を惹かれました。

そこから何年か経って、日本に帰国して、日本のお母さんの息子に対する愛情の強さに圧倒され、その物語について描きたいと思うようになりました。また日本におけるオレオレ詐欺の多さに驚き、それは母の息子に対する愛情の強さが引き起こす犯罪なのではないかと思ったんですね。欧米では18歳以上は自立した大人だとみなされるので、母親が息子のために大金を出すということはあまり考えられません。この2つの事象を日本特有のものとして、心理サスペンスというジャンルの中で描ければと考え、『親密な他人』を作りました。

コロナの時代の密室劇


(C)2021 シグロ/Omphalos Pictures

──「コロナ禍」という状況が、非常に濃密な形で作品に反映されていると感じられました。

中村:この作品は何年かに渡って開発してきたものだったのですが、助成金がおりて、制作の見通しが立ったのがちょうど2020年の夏頃で、世の中はコロナ禍になっていました。プロデューサーと相談して、この物語をコロナ禍で起こる物語にしようと決めました。外は危険でマスクをして身元を隠し、自分を守らないといけない世界があって、家の中で初めてマスクを取って、人と親密になれるという今の状況が、この密室劇のテーマをより強調させたと思います。

──緊張感が最後まで途切れることのない見事なサスペンス映画に仕上がっていますが、この緊張感を演出されるにあたってこだわられた点をお教えいただけますか。

中村: 撮影は10日間で、ほぼワンロケーションで行われました。低予算で短い期間での撮影だからこそ、物語を凝縮し、限られた場所の中でどのぐらい面白いことができるかが、今回の課題であり挑戦でした。そういう意味で、「必要は発明の母」という諺が英語にありますが、必要に迫られているからこそ生まれた緊張感はあるかと思います。

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W主演を果たした黒沢あすかと神尾楓珠の魅力


(C)2021 シグロ/Omphalos Pictures

──黒沢あすかさん、神尾楓珠さんのお二人を本作にキャスティングされた理由を改めてお聞かせください。

中村: 黒沢あすかさんは、普通のおばさんから、お母さん、妖艶な美女、狂気の女まで演じられる多彩な女優さんです。『六月の蛇』(2002)や『冷たい熱帯魚』(2010)そして最近の作品『楽園』(2019)まで、女のさまざまな顔を演じられてきた黒沢あすかさんなら、この多面性がある恵という難しい役を演じきれるのではないかと考えました。

雄二役を見つけるのはなかなか難しく、劇中の3分の1はマスクをしている役なので、目力がある俳優さんが必要でした。神尾楓珠さんは美しいだけでなく、その魅力は影のある目だと思いました。ドラマや映画ではキラキラな役を演じられることも多いのですが、ダークな役を演じられる時の神尾さんの佇まいが私は魅力的だなと思いました。

──実際の撮影はどのように進められたのでしょうか。また黒沢あすかさん、神尾楓珠さんと本作でご一緒にお仕事をされて、お二方にどのような印象を持たれましたか。

中村:現場では細かい演出をする時間がないので、事前にリハーサルをみっちりやりました。黒沢さんと神尾さん、お二人で1回リハーサルをやり、作品のテーマや、登場人物の背景などをお話しして、重要なシーンをいくつか演じていただきました。特に神尾さんには3回に分けて、合計9時間ぐらい、忙しいスケジュールを縫ってリハーサルに参加していただきました。母に捨てられた青年・雄二という役の心情をつかんでもらうために、アクティングコーチに入っていただき、自分の経験に紐づけるという作業に取り組んでいただきました。

黒沢さんには、恵の感情の振れ幅を「震度」で表して調整してもらいました。黒沢さんは普段は明るく、気さくな方なのですが、役に入ると急にスイッチが入ったように恵になれるのがさすがベテランの女優さんだなと。神尾さんは忙しいスケジュールを縫って、撮影に挑んでいただいたので、大変だったと思います。現場では静かで、飄々としている感じでした。アクティングコーチに入っていただいたせいか、「この現場に戻ってくると、楽に雄二になれた」と言っていたのが印象的でした。

邦画の「定番」に対するアンチテーゼ


(C)2021 シグロ/Omphalos Pictures

──映画が進むに連れ、神尾さん演じる雄二の動きが封じられていくように感じました。そこにはどのような意図があるのでしょうか。

中村:『完全なる飼育』など、邦画ではこれまで若い女性を監禁する男性向けの映画がたくさん作られてきました。それを逆にしたら、邦画の定番に対するアンチテーゼとして面白いのではないかと考えました。

この企画を持ち歩いている時に、「ポン・ジュノ監督の『母なる証明』(2009)と勅使河原宏監督の『砂の女』(1964)を足して2で割ったような企画」と説明していたのですが、『砂の女』のように女性が男性をはめる話だと面白いのではないかと考えました。

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人間の真髄を描く


(C)2021 シグロ/Omphalos Pictures

──中村真夕監督はドキュメンタリー映画も数多く撮られています。映画を撮りたいと中村監督を突き動かすものとは一体なんでしょうか。

中村:よく「ドキュメンタリー映画を長く撮ってきたのに、なんでまた劇映画を撮るのか?」と聞かれることがあるのですが、私にとってドキュメンタリーと劇映画は、「人間の真髄を描く」という意味では方法は違っても、根本は同じなんです。

ドキュメンタリー映画を長く撮ってきたからこそ、「今をどう描くか?」ということに常にアンテナを張ってきたことが生かされてきた気がします。2020年にコロナが世界中に蔓延した時、いち早く、「この状況を描かなければ!」と思いました。これまで9.11アメリカ同時多発テロ、3.11東日本大震災など局地的な事件や災害は起こってきましたが、世界の人々を同時に襲った「災害」はこれが初めてだったからです。

世界の人々が共有できるこの孤立感、そして人とのつながりの大切さを描きたいと、強く感じました。ドキュメンタリーをやってきたからこそ、今起こっている現実をどう切り取って、描くかという訓練をされた気がします。その力を今後も劇映画の制作に活かしていけたらと考えています。

インタビュー/西川ちょり

中村真夕監督プロフィール

ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。2006年、劇映画『ハリヨの夏』で監督デビュー。

2012年、浜松の日系ブラジル人の若者たちを追ったドキュメンタリー映画『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』を監督。

2015年、福島の原発20キロ圏内にたった一人で残り、動物たちと暮らす男性を追ったドキュメンタリー映画『ナオトひとりっきり』を発表。続編『ナオトいまもひとりっきり2020』は2021年山形国際ドキュメンタリー映画祭「ともにある2021」部門で上映される。

2020年、ドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』を発表し、ポレポレ東中野で異例の2週間連日満席記録を更新。2021年には短編映画『4人のあいだで』が第16回大阪アジアン映画祭(2021)でJapan Cuts Awardスペシャルメンションを受賞。

2022年は三本の作品、劇映画『親密な他人』、劇映画『ワタシの中の彼女』、ドキュメンタリー映画『ナオトいまも、ひとりっきり2022』が公開予定。また脚本参加作品として、エミー賞ノミネート作品、NHKスペシャルドラマ『東京裁判』(全4話/平成29年度文化庁芸術祭参加作品)がある。

映画『親密な他人』の作品情報

【日本公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本】
中村真夕

【キャスト】
黒沢あすか、神尾楓珠、上村侑、尚玄、佐野史郎、丘みつ子

【作品概要】
消息を絶った息子の帰りを待ち続ける母親と、ある目的を持って彼女に近付く青年の関係を描いた心理スリラー。

監督を務めたのは、劇映画『ハリヨの夏』、ドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』などで知られる中村真夕。

母親役を黒沢あすか、彼女に近づく青年役を神尾楓珠が演じています。

映画『親密な他人』のあらすじ


(C)2021 シグロ/Omphalos Pictures

行方不明になった最愛の息子・心平の帰りを待つシングルマザーの恵。ある日、彼女に、男性の声で息子のことを知っていると言う電話がかかってきます。

待ち合わせの場所で恵の前に現れたのは、20歳の謎の青年・雄二でした。雄二は寝泊まりしているネットカフェで一度だけ心平とゲームをしたことがあると述べますが、なぜか心平の持ち物を所持していました。

それを見せられた恵みは怪訝に思いながらも、雄二を、自宅に招き入れます。

やがて二人の間に親子のような、恋人のような不思議な関係が生まれ始めます。しかし雄二には隠された目的が、また恵には誰にも言えない秘密がありました。

騙し、騙された果てに見えてくる驚愕の真実とは……。



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