映画『Iké Boys イケボーイズ』は2024年6月14日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開!
日本の特撮を見て育ったアメリカ人映画監督エリック・マキーバーが、自身の故郷であるオクラホマ州で撮影し、日本の特撮への愛のオマージュを随所に散りばめたファンタジー映画『Iké Boys イケボーイズ』。
キャスト出演の釈由美子、岩松了、金子修介監督、劇中アニメナレーション担当の樋口真嗣監督など、特撮を愛するエリック監督ならではの豪華な顔ぶれが勢揃いしています。
このたび映画『Iké Boys イケボーイズ』の日本公開を記念して来日した、エリック・マキーバー監督へインタビューを敢行。
監督自身の青春時代を投影したキャラクター造形や世界観の設定、特撮という「共通言語」がもたらしてくれた海を越えた出会い、「自分自身の視点」にしか描けない表現など、貴重なお話を伺いました。
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特撮に対する恩返しを込めた映画
──幼少期のエリック監督もそうであったように、当時からアメリカでは日本の特撮作品が劇場公開・テレビ放映され、多くの人々を楽しませていました。それが日本で制作された作品だと認識したのはいつ頃でしたか。
エリック・マキーバー監督(以下、エリック):もともと恐竜が好きで、1986年生まれの私は小さい時に『ジュラシック・パーク』(1993)の洗礼を受けたのですが、幼児に観せるにはハードルが高いと配慮をした親が「見せても平気な恐竜映画」として勧めたのが昭和ゴジラシリーズでした。
それから何度もシリーズ作品を観返していたんですが、ある日『怪獣大戦争』(1965/本多猪四郎監督)を観ていた時、台詞と口の動きがズレていることに気がつき、はじめてそれが「英語に吹き替えられた海外の映画」だと知りました。
未就学児の頃は「海外」という概念も知らず、何も考えずに楽しく見ていた特撮も、ある時、本物と見紛うほど精巧に作られたミニチュアであることに気がつきました。ですが知れば知るほどに、その舞台裏で培われてきた技術に興味が沸いていきました。
エリック:読み書きができるようになる以前から絵が描けた私は、口頭で話した物語を母親に代筆してもらって絵本にする遊びをしていて、「スーパーキティ」というスーパーパワーを持った子猫が活躍するシリーズを作るほど、物心つく頃から創作が好きでした。その頃に考えたクリーチャーや怪獣も、実は本作に登場させています。
映画の主人公ショーンは1990年代末、オクラホマで青春を過ごした私自身であり、作中に登場する学校も実際に通っていた所です。そこまでパーソナルに作ることで逆に普遍性が生まれ、自分しか描けない作風にすればするほど、相手の心の深いところに響く作品にできると考えたんです。
「日本の特撮好きが好きな、アメリカのオタク高校生」の姿は、私にとって大切な記憶であると同時に、自身の成長を描く最適の表象です。そして、特撮のおかげで青春のつらさを生き抜くことができたからこそ、本作は特撮に対する私なりの恩返しと、感謝を込めた作品でもあるのです。
1999年という危機の時代を、今描く意味
──本作のキャラクターの造形・設定はどのように形作られていったのでしょうか。
エリック:日本の人気キャラクターたちをモチーフとしつつも、ありそうでなかったモチーフの「かけ合わせ」を狙っています。ゴジラしかりガメラしかり、日本のキャラクターはシルエットだけで分かりますよね。コンセプトデザイナーとともに、シルエットで特徴を出すことを意識しました。
ショーンが変身したヒーローはもちろんウルトラマン・仮面ライダーを参考にしていますが、口元には中西ヨーロッパの騎士のような意匠を施しています。ヴィクラムが変身する怪獣は狛犬とバイソンの角をかけ合わせ、ミキが変身する観音様は仏像美術とネイティブアメリカンのモチーフを融合させました。
変身した彼らが戦う竜巻と空からやって来るお化けは、心の病を怪人化させた存在でもあり、心が落ち込んだ時に抱いた、全身を負のエネルギーに覆われるような感覚に基づいています。
また私の故郷のオクラホマは竜巻が多い地域で、12歳の時に実家が竜巻でボロボロにされた体験も着想元になっています。当時は家の中にいたのですが地下室のシェルターもなく、階段下の物置に逃げるしかなかった私は逃げ場のないトラウマを感じ、怪獣に襲われるような恐怖を覚えました。
そして「1999年」といえば、2000年問題とノストラダムスの大予言が、リアルタイムで迫る危機と恐怖として人々を動揺させていました。私も13歳ながらにタイムリミットが近づく感覚を覚え「本当に世界が終わるかもしれない」と怯えていましたね(笑)。
当時の自身が味わった危機感・恐怖感から、本作の「危機は本当に訪れていたが、それから世界を救ったのは冴えないオタクたちだった」という設定を構想しました。そして1999年以上に様々な危機に直面する現代人に、勇気を与えられるようなファンタジー映画にしようとしたのです。
「特撮」──世界の共通言語
──エリック監督にとって、特撮とはどのような存在なのでしょうか。
エリック:特撮とアニメが、心の支えでした。本作にはもちろんフィクションの要素も加えていますが、女の子の親友がいたこと、いわゆる大人の世界へと進んで特撮やアニメから「卒業」してしまったことは実体験に基づいています。
私自身は子どもの頃に愛したものを成長しても大切にしたかったのですが、それゆえに周囲からの「卒業しなさい」という圧力を少しつらく感じる時もありました。ご覧の通り、すっかりおじさんになった今でも特撮とアニメは卒業していませんが(笑)。
現在は時代が変わり、アメリカ全土にオタク文化が浸透し市民権も得られましたが、当時は場合によっては自分が興味を持っていることすら隠すほどに、世間では恥ずかしいものとして扱われていたんです。
それでも両親にお礼を言いたいのは、特撮そのものへ無理に理解を示すのではなく、特撮を愛している私自身を信じ続けてくれたことです。
特撮への愛をより深めていく過程で、様々な発見がありました。やがて特撮は日本語を学ぶきっかけとなり、ついには留学まで決意しました。私にとって特撮は世界の共通言語の一つであり、映画の世界へ進ませ成長させてくれた出発点でもあります。
「自分自身の視点」でしか描けない表現を
──本作は日本の特撮への愛のオマージュを盛り込みながらも「日本の特撮とともに育ってきた、アメリカ人としての自分」というエリック監督の視点が、映画の核に存在しています。
エリック:私は早稲田大学の映画サークルに入っていた頃「『日本人が撮った』と見紛うような映画を撮ろう」と考えていましたが、その試みは毎回失敗していました。
やがて、ニューヨーク大学の映画学科に入った時に「自分しか撮れないものを撮りなさい」と先輩から言われました。そのアドバイスによって、日本人の視点を目指すのではなく、自身の立場でしか描けない視点から映画を制作しようと気持ちを切り替えたのです。
また私は、いわゆる「縁」を信じています。本作に協力してくれた日本人キャスト・スタッフはじめ、本来であれば出会うはずのなかった海の向こうの人々と出会い、ともに映画という創作をすることができたのは、ひとえに特撮のおかげです。
早稲田大学の映画サークルで出会った親友とは、今回の来日の際にも『ゴジラ×コング 新たなる帝国』(2024)を一緒に観て、映画について一晩語り尽くしてしまうほどに親交が続いています。
言語も異なる、地球の裏側に住む私たちをつないでくれたスピリチュアルな何かが、私の人生に特撮という共通言語を与え、かけがえのない仲間たちと巡り合わせてくれた。その感謝を常に抱きながら、自分の視点でしか描けない表現に挑戦し続けたいです。
インタビュー/滝澤令央
撮影/河合のび
エリック・マキーバー監督プロフィール
アメリカ・オクラホマ州出身。
幼少期より日本の特撮映画に傾倒し、大学在学中に早稲田大学へ留学を果たす。
その後、演劇俳優・翻訳家・ゲーム開発者・アニメーションプロデューサーなどさまざまな活動を経て、アメリカと日本、彼にとって2つの故郷を融合させた本作を制作した。
映画『Iké Boys イケボーイズ』の作品情報
【日本公開】
2024年6月14日(アメリカ映画)
【監督・脚本】
エリック・マキーバー
【造形監修】
村瀬継蔵
【特撮演出】
佐藤大介
【造形】
森田誠
【スーツアクター】
佐藤太輔
【特殊効果】
岩田安司
【キャスト】
クイン・ロード、ローナック・ガンディー、比嘉クリスティーナ、釈由美子、ベン・ブラウダー、岩松了、ビリー・ゼイン
【作品概要】
監督が自身の学生時代を投影したと語る、日本カルチャー好きのオタクの主人公ショーンを演じるのはクイン・ロード。8歳で『ブライアン・シンガーのトリック・オア・トリート』で映画初主演を果たし、近年はAmazonPrimeの人気シリーズ『高い城の男』でトーマス・スミス役を演じている。
ショーンの親友ヴィクラム役は、人気ドラマシリーズ『LUCIFER/ルシファー』などに出演したローナック・ガンディー。日本からの留学生ミキ役は、日本とアメリカのダブルで女性ボーカルグループ「ARA」メンバーとして日本でアーティストデビューした経験も持つ比嘉クリスティーナ。
そしてショーンの通う空手道場の先生・ニュート役には、『タイタニック』のキャルドン・ホックリー役などで知られるビリー・ゼインがキャスティングされた。
日本からは釈由美子、岩松了がそれぞれ物語上重要なキーパーソンとして登場。さらに日本の特撮界からも金子修介監督がキャストとして出演するほか、樋口真嗣監督が劇中アニメーションのナレーションを担当している。
映画『Iké Boys イケボーイズ』のあらすじ
オクラホマの片田舎に住む高校生、ショーンとヴィクラムは日本の特撮やアニメが大好き。 オタクでスクールカーストの最底辺にいる彼らの元に、日本からの留学生ミキがやって来る。
ある夜、ショーンが入手したレアな日本のアニメDVDを3人で鑑賞すると、不思議な力を持ったDVDにより彼らは電撃を受けて気絶してしまう。
翌朝目覚めて以降、ショーンは手からビームを発射、ヴィクラムは超怪力といったスーパーパワーを身に着けており、特撮好きの2人は大興奮。
その一方、世界の存亡がかかった陰謀が渦巻いており、ショーンとヴィクラム、そしてミキの3人はそれに巻き込まれていくことに……。