映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』は2021年7月31日(土)より、池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開!
2022年1月14日(金)より京都みなみ会館、1月15日(土)よりシネ・ヌーヴォXにて上映。
『光関係』(2016)で瀬々敬久・真利子哲也らにその才能を高く評価され、国内各地の映画祭にて注目が高まり続ける映画作家・河内彰の短編映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』(以下『FOMO』)。
SNSスラングを題した本作は、親友を亡くしたとある女性の物語を通じて、人の心に現れる「とり残される怖さ」と悲しみ、その先に見えてくる光景を描き出します。
このたびの劇場公開を記念して、『FOMO』作中にて主人公ユジンの亡き友人イ・ソンを演じた小島彩乃さんにインタビュー。
河内監督やその作品が持つ魅力、ご自身にとっての役者という仕事がもたらす喜びなど、貴重なお話を伺いました。
CONTENTS
周りの人々と光景の中に立つ自分
──最初に『FOMO』の企画書を読まれた時、小島さんはどのような想いを抱かれましたか?
小島彩乃(以下、小島):企画書を初めて読ませていただいた時、私は河内監督が映画を通じて描きたいものにとても共感したんです。
当時の私は、誰かが亡くなって取り残されるということについて……『FOMO』のユジンやイ・ソンと同じようなことを個人的に考えていました。身近な人々の死が重なった時期があり、それ以降私は、亡くなった人々についてひとりで思い出すことが多くなったんです。そうした中で河内監督から今回の『FOMO』の企画書をいただいたんです。
また『FOMO』の撮影が終わってから最近になって、周りのさまざまな人々や光景が存在するからこそ、自分はここに存在しているのだと改めて思うようになりました。街があって、そこには生活を続ける人々がいて、その中に自分というひとりの人間がいる。だからこそ自分は存在し得るんだと、『FOMO』への出演を経て感じるようになりました。
自己の記憶とともに、あるがままに
──小島さんは『FOMO』作中にて、Yujin Leeさん演じる主人公ユジンの亡き親友イ・ソン役を務めました。今回の出演に際して、どのような役作りをされたのでしょうか?
小島:とても自然に演じさせていただいたというか、『FOMO』に関してはあまり作り込んでいたわけではないんです。
ただイ・ソンという人を演じるにあたって、彼女にとっての夫がそうであったように、自分自身がこれまでの人生の中で別れてしまった人、亡くしてしまった人……今も大切な存在として記憶に残り続けている人を思い出すようにしていました。そうした記憶を思い出す中で、私はあるがままで演じるようにしていました。
その一方で、生前の夫と会話を交わす夜の公園での場面では、サトウヒロキさんが演じる夫との関係性や距離感、二人を周囲にある光景に漂う空気感を大切にしたいと心がけました。
また同じ場面では、今回初めて韓国の方を演じさせていただいたこともあり、韓国語のセリフにも初めて挑戦しました。特にセリフの中にあった「ローラー滑り台」の発音が一番大変でしたね。イ・ソンの韓国語の声を担当されたスニョンさんからもお手本の音声データもいただき、ナチュラルな発音ができるようとにかく練習したのを覚えています。
映画作家・河内彰の“心がざわつく映像”
──小島さんの目からみた、河内監督とその作品の魅力とは何でしょうか?
小島:以前出演させていただいた『小世界』(2019)がはままつ映画祭2018で上映された時、河内監督が出品されていた『幸福の目』(2017)も同日の上映プログラムに組まれていたんです。そこで初めて河内監督の作品を拝見したんですが、映画の持つ世界観や感性にすぐ驚かされました。
すごくドキドキする瞬間が、河内監督の映画にはたくさん存在するんです、それは今回出演させていただいた『FOMO』にも散りばめられていて、どこか懐かしさといいますか、心がざわつく映像がそこにある……心にぴったりと近づいてくる作品だと感じています。
また河内監督が持つ着眼点も、やはり作品の魅力の一つだと思います。イ・ソンが泣いている場面で、彼女のお腹を映し出したのがまさにそうで、河内監督ご自身は「人って泣く時に、お腹がベコベコとすごく動くんです」と飄々と話されていたんですが、それは私や他の方にとっては中々発見できない表現のはずです。
公園の場面で登場した「映画」という遊びによる演出も、私はその遊びの存在自体を知らなかったということもあり、あの演出には本当に驚いてしまいました。
そもそもタイトルに使用されている「Fear of missing out(とり残される怖さ:FOMO)」という言葉も、本来はスラングで「皆同じパーティに行くのに自分だけ行けないなんて、マジFOMO!」といった風にすごく軽い調子で用いる言葉なんですよね。それをあえてこの映画のタイトルに引用してギャップの演出を試みている時点で、非常に面白い感性を持った方なんだと感じさせられました。
その世界にとってかけがえのないピースへ
──小島さんが「役者」というお仕事を目指されたきっかけとは何でしょうか?
小島:中学校の頃、ドレス衣装を着てみたいという単純な理由で演劇部に入部したのがきっかけです。ただ当時の私は人前で何かを表現すること自体が苦手で、演技という行為に恥ずかしさを感じてしまっていたんです。なのに演劇部へ入ったんですから、今思うとその方が恥ずかしいです(笑)。
そのせいもあって当時の私は演技がとても下手で、「できない」と感じる場面が多々ありました。それが悔しくてしょうがなくて、だからこそずっと役者を続けてきたんです。
──小島さんにとって、役者という仕事がご自身にもたらす喜びとは何でしょうか?
小島:その時々によって少しずつ変化してはいるんですが、役者として色んな作品に出演させていただく中で「作品が描く世界を、私自身も作れているんだ」と実感できる瞬間が一番好きなんです。無理なく自然に、ふと気づいた時にはその世界にとってかけがえのないピースになっていることほど、うれしいことはないと思っています。
また『FOMO』で初めて韓国の方を演じたように、役者は演技を通じていろんな体験をすることができます。それは自分自身の世界を広げるのと同じで、大変であると同時にとても楽しいことだと私自身は感じています。
さらに素敵な映画へなってゆく『フィア・オブ・ミッシング・アウト』
──最後に、完成した映画『FOMO』をご覧になった際に抱かれたご感想を改めてお聞かせください。
小島:映画についての言葉を探しているんですけど、うまく見つけられないんですよね。『FOMO』は作品から感じとれるものがすごく多くて、それらをすべてうまく言語化できないんです。
河内監督はサラサラと流れるように撮影を進められていく印象を持っているんですが、撮られていった映像が編集によって一つ一つ紡がれていった時、そこには複雑で繊細なメッセージが見えてくるんです。それは河内監督の作品の魅力だと思います。
また私は、愛情を詰め込めば詰め込むほど、映画はいいものができると思っています。スタッフさんやキャストさん、そして完成した映画を観てくださるお客さんが愛情をいっぱい注ぐことで、映画は素晴らしいものになる。それが私にとっての、映画の好きなところの一つです。
そして『FOMO』もまた、劇場公開を通じて多くの方に観ていただく中で、さらに素敵な映画となることを願っています。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
小島彩乃プロフィール
1984年生まれ、神奈川県藤沢市出身。大学在学中に小劇場舞台に出演し、ドラマデビュー。以後舞台・映画CM・などに出演。
近年の出演作は『恋愛依存症の女』(2017/木村聡志監督)、『誰もいない部屋』主演(2019/田口啓太監督)、『Red』(2020/三島有紀子監督)、『マニブスの種』(2021/芦原健介監督)などがある。
映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本・編集・撮影】
河内彰
【キャスト】
Yujin Lee、高石昂、小島彩乃、スニョン、サトウヒロキ、レベッカ、藤岡真衣、横尾宏美、安楽涼、鏑木悠利、三田村龍伸
【作品概要】
『光関係』(2016)で瀬々敬久・真利子哲也らにその才能を高く評価され、国内映画祭にて注目が高まり続ける新鋭・河内彰による短編作品。
2020年のうえだ城下町映画祭自主制作映画コンテストでの審査員賞(大林千茱萸賞)をはじめ、第42回ぴあフイルムフェスティバルPFFアワード2020入選、ふくおかインディペンデント映画祭2020入選を果たした。
映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』のあらすじ
親友のイ・ソンを亡くしたユジンは、彼女の残したボイスレコードを発見する。
ここにいない友と通じ触れながら、ユジンは思い出と現在の時空を行き交い始める。
街のネオン、夜のとばり、彼女の車が向かう先は……。
映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』は2021年7月31日(土)より、池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開!