映画『東京不穏詩』は2020年1月18日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!
現代の日本で社会や環境に抑圧されながらも、がむしゃらに生き抜こうとする女性の姿を描いた映画『東京不穏詩』。
インド出身の新鋭アンシュル・チョウハン監督が、リアルと幻想が相成る未だ嘗てない青春の詩を紡いだ本作。世界の映画祭での喝采を受け、待望の劇場公開となります。
本作で、夢と愛に支えられ、しかしそれらに心を蝕まれる主人公ジュンを体当たりで演じ、大阪アジアン映画祭2018など3つの映画祭で最優秀女優賞を獲得したのが、女優の飯島珠奈さん。
今回、映画の劇場公開を記念し、飯島珠奈さんにインタビューを行いました。
お会いした飯島さんは、ジュンを演じた方とは思えないほど、透き通るような澄んだ力を持った女性。しかし、その目には確かに、ジュンの片鱗がありました。
自分を捧げて演じたジュンという役柄への想いをはじめ、留学時代に培った力や女優としての展望、そして同年代のアンシュル・チョウハン監督と築いた関係についてなど、さまざまなお話を伺っています。
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炎のような叫び声が聞こえた
──飯島さんは脚本を読んだ際に「叫び声が聞こえるようだった」と語られています。その「叫び声」について、より具体的に教えていただけますか?
飯島珠奈(以下、飯島):おそらくジュンの叫び声だったと思うんですが、痛々しい思い、でもそれに勝るほどの熱…炎のような感情が伝わってきました。
ジュンは、すごく愛情もある人なんです。ただ、その愛情の向け方を知らない。だからこその苦しみや怒り、もどかしさ……そういった感情全てをひっくるめた叫びが聞こえた気がしました。
私自身も役者としてまだまだ駆け出しなので、くすぶっている気持ちや、もどかしい想いの熱があるんです。それを、どうやって放出していいのか分からない苦しさは、今も内に秘めています。脚本を読ませていただいた時には、「このジュンという役を全力でやったら、その思いが少しは消化できるんじゃないかな」とも感じられました。
──映画を観ていると、ひしひしとジュンの痛みが伝わってきました。「彼女を演じることで精神的に消耗されたのでは」と感じられる場面も多かったですが、撮影中の精神状態はいかがでしたか?
飯島:だんだんと辛くなっていた感じですね。特に長野に帰ってからの撮影では、吐き気が止まらなかったり、ウエストもどんどん細くなっていったりしました。ただ個人的にではありますが、それはこの作品にとって、ジュンにとって必要なことだったとも思っています。確かにきつかったですが、演技面でのサポートにはなっていたかなと。
それに、そういった辛さも、好きなんです。大変だから好きというわけではないですが、役に没入できてしまう、自分の全てを捧げられるほどに飛び込めてしまう作品と監督に出会えたのは、ラッキーとしか言いようがないですね。
監督から吸い取ったもので作った役
──ジュンは痛々しい経験によって心に傷を負っている女性ですよね。今回飯島さんと実際にお会いし、二人のあまりにも異なる印象に改めて驚かされたんですが、役作りはどのように行われたのでしょうか?
飯島:まず、等身大な人物にしたいと思っていました。どの国の誰にでも、何より女性でなくとも、自身と重ねられるような人物像を描けたらいいなと。
また本作での役作りは、アンシュル監督とのコミュニケーションの中で作り上げていった部分が大きいです。監督と時間を共有し、監督からさまざまなイメージや思いを吸い取ってゆくことで、役を作り上げていった感じですね。監督とは役柄のことはもちろん、お互いの人生のことや映画とは関係のないことについても話しました。
アンシュル監督は、俳優のことを深く知りたがる人なんです。「一緒に映画を作るには信頼関係が必要だから、信頼関係を築くために、お互いを知り合おう」と考えられている方で、こんなにも私を知ろうとした監督に出会ったのは初めてでした。俳優自身の人柄や人生についても知りたがりますし、それと同じくらい自分自身のことも俳優に知ってもらおうとするんです。
だからこそ、私も役作りに関しては、アンシュル監督がどういう人生を歩んできたのか、どのような眼差しで世界を見つめているのか、何に対して怒りや喜びを感じているのかを知ろうとしました。
本作には彼にとっての世界の見つめ方が映っているはずですし、ジュンも監督の何かから生み出されたキャラクターでしょうから、コミュニケーションの中で知った監督自身のパーソナリティとも少しずつすり合わせてゆくことで、ジュンが出来上がったと思います。私にとっても、こういった役の作り上げ方はとても好きでしたし、特別な経験になりました。
のびのびした現場だから感情をコントロールする
──アンシュル監督の演出や、撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
飯島:アンシュル監督からは、動作などについて要所要所で指導はありましたが、基本的には「自由に動いて」と言われていました。例えば、ジュンが階段で父親と対峙するシークエンスでは、自分の頬を叩くという動作については指示がありました。ですが、それ以外の細かな演技については、「カメラがジュンを追うから、気にせず自由に動いて」と言ってくださいました。
もちろん、監督が実際のお芝居を見ていて「違うな」と思ったらはっきり伝えてくれますが、動きやセリフについては自由度が高かったので、とてもやりやすく、のびのびと演じられる現場でした。
また、私自身の演技については、「抑えて演技をしてほしい」と言われましたね。私にとって、感情の扉を開けて放出すること自体は苦ではないんですが、かえって、抑えるなどのコントロールが上手くできなくなることが時々あるんです。監督の「抑えて」というアドバイス含め、ガイドのような形での演出だったり、環境を整えてくださったり、多くの助けがあったからこそ、あのようにジュンを演じられたのだと思います。
ジュンの“重さ”を蓄積していく
──放出される感情はもちろん、その身体表現もすさまじく、観る者に響く作品でした。飯島さんは、イギリスで演技を学ばれていたんですよね。
飯島:はい。イギリスのロンドンにある大学に留学し、当初は古典のシェイクスピアを学んでいたんですけど、当時は英語力が本当に低かったので、上手くいかないことも沢山ありました。そうして自然と、言葉をしゃべらなくても表現できる身体表現に興味が移っていったんです。それが自身に合っていたとも言えますし、そこで力を培ったとも感じていますね。
──作中の飯島さんは全身に、身体表現における説得力が表れていたように思います。先程、アンシュル監督からは感情を抑えるように指導されたと仰っていましたが、“身体表現”と“感情”のバランスはどのように図ったのでしょう。
飯島:感情が昂ぶるとき、身体の全てが感情で埋まるとき、やっぱり自然と身体に表出されますね。意識はしていないですけれども、感情を凝縮しなくてはいけないと思うんです。
ただ立っているだけの演技でも、そこにジュンとしての身体の重心となる“重さ”がないと駄目じゃないですか。感情を表に出さなくとも、常にジュンの身体の中心に“重さ”を感じながら演じていました。
──そのジュンの“重さ”とは、どうやって自身の中で蓄積されていったのでしょうか?
飯島:毎日の撮影に入る前、朝起きて何気ない生活をする中で、「彼女だったらどうするのか」「こういうとき、彼女は何を考えてるんだろうか」など、ずっとジュンのことだけを考えていましたね。
私は確かに留学していましたが、「役者とはこういうものだ」といったメソッドのようなものは特に持っていなくて。役者としてもまだまだ学び中ですし。ただ私自身の考え方として、誰かを演じている間も、「飯島珠奈」という部分はいつもどこかにある気がします。
最初は自分の中で小さかったジュンが、だんだんと大きくなっていく。飯島珠奈とジュンが、少しずつ“自分”を共有して混じっていく。そうやって、「“自分”は飯島珠奈でもあるけれど、ジュンでもある」といった感覚を少しずつ日常の中で作り上げていきました。
女優としてまだ見えていない世界へ
──今回主演を務められた『東京不穏詩』は、大阪アジアン映画祭などをはじめ、女優・飯島珠奈に対する高い評価も募り続けています。それらに対し、現在の飯島さんは何を感じていらっしゃいますか?
飯島:評価は驚き……ですね。撮影の時点では、正直言って、ここまで評価をいただける役柄になると思っていなかったので。大阪アジアン映画祭に出品され、受賞にまで至るとは全く考えていなかったですし、その当時は純粋に驚きの気持ちが強かったですね。「え、いいのかしら?」という感じです。そういった驚きと、「とは言っても、嬉しい」という気持ちで一杯でした。
あとは、怖かったですね。
──「怖い」…それは今後に対して、ということでしょうか?
飯島:そうですね。正直に言うと「怖い」と感じる部分も大きかったです。ですが、とてもお尻をたたかれているとも感じているんです。「さあ、もっとあなたはやらなきゃだめよ」と。
とはいえ、ワクワクもしています。多分ここから、まだ見えてないどこかの世界へ行くべきだと……行かなければいけないんだと。その世界を見るのは、とても楽しみですね。
今回の『東京不穏詩』という作品の中で、ジュンに出会えて彼女と時間を共有できたことは宝物です。また違う作品の中でも別の人物の人生と出会い、生きてみたいと思っています。どんなキャラクターでも演じてみたいんですが、その作品に対する監督の思いがとても強いものに関わりたいとも感じています。「とりあえずこれを作ろう」ではなく、「この映画を作らなきゃいけないんだ」という強い思いを、身体で感じてみたいんです。
インタビュー・構成/三島穂乃佳
インタビュー・撮影/出町光識
飯島珠奈(いいじましゅな)のプロフィール
イギリス・ロンドンの大学にて舞台演劇と身体表現を専攻。シェイクスピアに始まり、身体表現演劇(フィジカルシアター)、マスク、devisingなどを多岐にわたって学び、在学中は創作パートナーといくつかの舞台作品を制作。
卒業後は東京を拠点に、自主制作短編・長編映画、コマーシャルやミュージックビデオなどへ出演し、また、流暢な英語を生かして海外の映画にも出演するなど、活躍の幅を広げています。
主な出演作品は、小路紘史監督の『ケンとカズ』(2016)や夏都愛未監督の『浜辺のゲーム』(2019)など。
今回主演を務めた『東京不穏詩』では、第13回大阪アジアン映画祭はじめ国内・海外の国際映画祭で女優賞を受賞。体当たりの演技と抑制の効いた感情表現が高く評価されました。
アンシュル・チョウハン監督の『東京不穏詩』は、Vimeoにて配信開始!
映画『東京不穏詩』の作品情報
【公開】
2020年1月18日(日本映画)
【英題】
BAD POETRY TOKYO
【監督】
アンシュル・チョウハン
【脚本】
アンシュル・チョウハン、ランド・コルター
【プロデューサー】
アンシュル・チョウハン、茂木美那
【撮影監督】
マックス・ゴロミドフ
【キャスト】
飯島珠奈、望月オーソン、川口高志、真柴幸平、山田太一、ナナ・ブランク、古越健人
【作品概要】
夢も愛も失った女性の生きざまを描いた長編映画。罪、幸せ、性、倫理といったテーマが織り交ぜられた作品です。
演出を務めたのはインド出身の気鋭アンシュル・チョウハン監督。2016年の初短編映画『石鹸』を機に監督として映画制作を始め、本作で、長編映画デビューを果たしました。独自の視点で日本社会の問題点を読み解き、社会や環境に抑圧されながらも何とか生きていこうとする女性を描いています。
主演は、飯島珠奈。これまでの出演作は、小路紘史監督の『ケンとカズ』(2016)や夏都愛未監督の『浜辺のゲーム』(2019)を含め、国内のみならず海外の映画にも出演しています。本作で、第13回大阪アジアン映画祭をはじめ、国内外の国際映画祭にて最優秀女優賞を受賞しました。愛や夢に心を蝕まれていく女・ジュンを演じる姿は必見です。
映画『東京不穏詩』のあらすじ
東京のクラブでホステスとして働きながら女優を目指す30歳のジュン。ある日彼女が帰宅すると、恋人のタカの策略で家に侵入した不審な男に、貯めてきたお金を奪われ、顔に深い傷をつけられてしまいます。
夢も愛も一瞬で失ったジュンは、5年前に飛び出した長野の実家に帰ることに。しかし、受け入れがたい事実を知った事で、心の中の何かがはじけたジュン。彼女は亡き祖母の財産で暮らす粗暴な父に「強姦されたと言いふらす」と財産の半分を要求します。
心の平衡を失っていく中で、かつて恋心を抱いた同級生のユウキとの邂逅に居所を見出しますが──。ジュン、タカ、父、ユウキ、軋み合う彼らの欲求はやがて“堪えきれない衝動”となり、誰も予想できない衝撃の事態を生むことに──。
アンシュル・チョウハン監督の『東京不穏詩』は、Vimeoにて配信開始!
映画『東京不穏詩』は2020年1月18日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!