Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

【児山隆監督インタビュー】映画『猿楽町で会いましょう』金子大地の“覚悟”と石川瑠華の“実在感”が生んだ人間的な機微

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『猿楽町で会いましょう』は2021年6月4日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、シネ・リーブル池袋ほかにて全国順次ロードショー!

“まだこの世に存在しない映画の予告編”を制作し、グランプリ作は本編映画化のチャンスを得られる「未完成映画予告編大賞MI-CAN」。映画『猿楽町で会いましょう』は同コンペにて見事グランプリを獲得した児山隆監督が、受賞予告編をもとに制作した初の長編監督作です。


(C)Cinemarche

金子大地演じるフォトグラファーの青年、石川瑠華演じる嘘をつき続けてしまうヒロインの関係を通じて、二人を取り巻くさまざまな男女の夢と欲望が交錯するドラマを重層的に紡ぎ出します。

当サイトでは第32回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門での正式出品に際し、本作を手がけた児山隆監督にインタビュー。金子大地と石川瑠華が持つ役者としての魅力、完成を経ての本作に対する想いなど、貴重なお話を伺いました。

スポンサーリンク

2度の挫折を経ての映画への挑戦


(C)2019オフィスクレッシェンド

──本作の物語の着想について、改めてお聞かせください。

児山隆監督(以下、児山):自分は以前プライベート・仕事両方の場面で、情動的に、突発的に嘘をついてしまう人間と男性・女性問わず知り合う機会が結構ありました。その際に「彼ら・彼女らはなぜそうしてしまうのだろう?」とずっと感じていたんですが、そういう人々をキャラクターとして膨らませた上で、いつか映画として描くことができたらと考えていたんです。その中で未完成映画予告編大賞を知り、その思いをここで一度形にしてみようと思い至ったんです。

──児山監督の初の長編監督作となった本作ですが、それまでには多くの挫折を経験されてきたと伺いました。

児山:僕が元々映画作りを志したのが20代の時で、29歳頃に長編を撮れるチャンスが訪れたんですが、諸事情によりクランクイン2週間前に撮影が中止になっちゃったんです。そうした挫折を経て、一度は実家に帰ろうかとも考えたんですが、33歳頃に非常に低予算の作品ながらも、もう一度映画作りに挑戦しました。ところが撮影はできたものの、録音トラブルによって結局その作品を作り続けることができなくなってしまった。

映画作りでの2回の挫折を経験したことで、「自分は向いていない」とまで思うようになったんですが、それでも広告業界などでCMなどの映像制作を続けていました。そうした状況の中で知った未完成映画予告編大賞は、自分にとっては本当に最後かもしれないチャンスだったんです。

石川瑠華の「実在感」という魅力


(C)2019オフィスクレッシェンド

──未完成映画予告編大賞・グランプリを受賞した予告編から続けてのご出演となった石川瑠華さんですが、彼女の役者としての魅力をお教えいただけますでしょうか?

児山:本作の前身となった予告編に出演してくださった時に、演技の上手い下手ではない、「実在感」とでもいうべきものが石川さんには感じられたんです。僕は「もし実際に映画を撮ることになったとしても、石川さんに絶対お願いしたい」と予告編を撮った当時からずっと思っていましたが、その決め手はやはり「実在感」、石川瑠華という人間が持つ「存在」にあります。

石川さんが本作で演じてくださったユカというキャラクターは、とにかく危ういんですよね。だからこそ「彼女はこういうキャラクターなんだ」と最初から決めてしまって、役者さんに類型的なお芝居をさせてしまうキャラクターにはしたくなかった。そして映画のみならずフィクションの作品では、キャラクターや物語の設定に関して「約三行の文章で説明できるようにしろ」とよく言われるんですが、石川さんはユカを「一言では決して説明できない人間」にしてくださったんです。


(C)2019オフィスクレッシェンド

児山:表情がとにかく一瞬で変わるんですよ。楽しい時には本当に楽しそうな顔をするし、嫌な時も「そんなに嫌な顔しなくても」と思えるぐらい嫌そうな、苦しそうな顔をする。そのいずれも「石川瑠華」という人間の姿なんですが、「どれが石川瑠華なのか?」と問われたら、映画を撮り終えた自分にもよく分からないんです。そうした不確実で多面的な姿が、他の人間にはない魅力だと僕には感じられました。

そしてそうした魅力を引き出すには、中途半端なボール投げても良くならない。僕らが本気で投げない限り、本気では返してくれない方でもあるとも感じました。それが、石川瑠華という役者であり人間なんだと思います。

スポンサーリンク

覚悟を持った誰でもない「金子大地」


(C)2019オフィスクレッシェンド

──小山田役を務めた金子大地さんには、どのような魅力を感じられた上で出演オファーをされたのでしょうか?

児山:金子さんは小山田役の候補に挙げられた方々の一人だったんですが、いくつかの出演作品を観ていく中で「この人は、役者としての覚悟を持って仕事をしている人だな」と思ったのが、お会いしようと決めた理由ですね。石川さんは予告編から続けての出演だったので、ユカという役を演じる覚悟を固めていました。だからこそ小山田役は、彼女の本気の覚悟に応えられる方でなくてはならないと感じていたんです。

ただ実際にお会いしてみると、金子さんはそれまでに自分が抱いていた印象と全く違う方でした。過去の出演作品の中でみた姿のどれでもない、誰でもない「金子大地」という人間がそこにちゃんといた。その時点で「ああ、この人は面白い」と感じられたため、いろいろな言葉を交わすまでもなく、その場ですぐに小山田役をオファーさせていただきました。


(C)2019オフィスクレッシェンド

──金子さん演じる小山田、石川さん演じるユカの二人の関係性を、児山監督ご自身はどのように捉えられているのでしょうか?

児山:僕は小山田とユカの関係を、非常に矛盾や皮肉に満ちた関係だと捉えています。小山田は「自身の最高傑作」をずっと撮れないまま、ぼんやりとフォトグラファーを続けていました。ですから物語を本当に客観的に見つめてみると、小山田はたまたまユカが撮れただけなんです。小山田には結局才能なんてなくて、実際ユカの写真で賞を取ってからの彼は、凡庸な写真しか撮っていない。そしてのちに、自分はユカに呪われてしまったと悟るわけです。

自分の才能に伴わない何かに飲み込まれ、それでも仕事自体は続けられてしまうからこそ、小山田は憂いに取り憑かれてゆく。ですから作中で彼が人間として、フォトグラファーとして成長できたのかというと、正直自分にもわからないんです。

ただそこで無理に「こうだ」と決めてしまうと、小山田は紋切型のキャラクターに変わってしまう。紋切型でないことが、そのキャラクターが持つ感情の機微だと思っています。それは本作の物語に登場してくれたキャラクター全員がそうですし、そうしたニュアンスが観客のみなさんにもちゃんと伝わってくれるとうれしいですね。

「嫌いにはなれない」という反応が意味するもの


(C)2019オフィスクレッシェンド

──児山監督にとって初の長編監督作となった映画『猿楽町で会いましょう』がついに完成し多くの方々に観ていただく中で、児山監督の本作に対する想いに変化などはございましたか?

児山:完成した映画をさまざまな方に観てもらって感想もいただく中で、『猿楽町で会いましょう』がどんどん本当の意味で「映画」になっていっている感覚を感じています。それを「業」と表現していいのかはわかりませんが、できあがった作品にある種の重みが乗っかっていくことで、ようやく「作品」として完成にたどり着けるのではと思っています。

また映画をご覧になった方の多くが、映画を観終えてもユカのことを嫌いにならないことが、自分はうれしいですね。僕は小山田とユカのどちらかに肩入れをすることはせずに、あくまでも二人とは同じ距離感で映画を撮っていました。ですから、嘘をつき続けるユカを極端に断罪したり、無理に責め立てる気もありませんでした。それが多くの方に伝わって「嫌いにはなれない」といった反応をいただけたんだと思います。

それは映画の中でユカという人間の存在が認められたということであり、ずっと誰かに認められたいと渇望していたユカがようやく誰かに認められたのは、ある意味では映画的な結果なのかもしれません。僕は時々「この物語において、ユカに“救い”はあったんでしょうか?」と訊かれることがあるんですが、映画を観てくださった方々が彼女を嫌いにならないという時点で、それはユカにとっての救いとなっているんではと感じています。

インタビュー/河合のび・出町光識
撮影/出町光識
構成/河合のび

児山隆監督プロフィール

1979年生まれ、大阪府出身。大学卒業後に映画監督・林海象に師事。助監督・オフラインエディターとして活動後、2014年に独立。広告を中心に映像ディレクターとして数々のCMを手がける。最近の主な仕事にTOYOTA、LINE、Google、マクドナルドなど。

『猿楽町で会いましょう』は自身初の長編監督作となる。

スポンサーリンク

映画『猿楽町で会いましょう』の作品情報

【日本公開】
2021年(日本映画)

【脚本】
児山隆、渋谷悠

【監督】
児山隆

【キャスト】
金子大地、石川瑠華、栁俊太郎、小西桜子、長友郁真、大窪人衛、呉城久美、岩瀬亮、前野健太

【作品概要】
第2回未完成映画予告編大賞MI-CANでグランプリを受賞した児山隆が、同受賞作を長編監督デビュー作として映画化。小山田役を『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』の金子大地、ユカ役を『イソップの思うつぼ』『左様なら』の石川瑠華が演じる。

第32回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に正式出品され、映画ファンからの高い評価を獲得。その後、ウディネ ファーイースト映画祭2020コンペティション部門ノミネート、台北ゴールデンホース映画祭(台北金馬映画祭)に正式招待された。

映画『猿楽町で会いましょう』の作品情報


(C)2019オフィスクレッシェンド

鳴かず飛ばずの写真家・小山田と読者モデルのユカ。

2人は次第に距離を縮めていくが、ユカは小山田に体を許そうとはしなかった。

そんな中、小山田が撮影した彼女の写真が2人の運命を大きく変えることになる……。




関連記事

インタビュー特集

映画『コントラ』インタビュー|キャスト円井わんと間瀬英正が臨んだ監督アンシュル・チョウハンの世界

第14回JAPAN CUTS“大林賞”・第15回大阪アジアン映画祭“最優秀男優賞”受賞作『コントラ』は2021年春に劇場公開予定! 北米で最大の日本映画祭である第14回「JAPAN CUTS〜ジャパン …

インタビュー特集

【桜田ひよりインタビュー】劇場アニメ『薄暮』声優への初挑戦で得た様々な経験

映画『薄暮』は2019年6月21日(金)よりEJアニメシアター新宿、シネリーブル池袋ほかで全国ロードショー! 東北・福島県いわき市の豊かな自然を背景に描かれる、とある淡い恋心を描いたアニメ映画『薄暮』 …

インタビュー特集

【大山晃一郎監督インタビュー】映画『いつくしみふかき』飯田を舞台に描く親子それぞれの“決着”と映画の醍醐味

映画『いつくしみふかき』は2020年6月19日(金)よりテアトル新宿にて、その後もテアトル梅田ほか全国順次ロードショー! 大山晃一郎監督初の長編監督作『いつくしみふかき』。「悪魔」と呼ばれた父と「悪い …

インタビュー特集

【武正晴監督インタビュー】『銃』の原作映画化で感じた郷愁と青春ノワールへの気構えを語る

2018年、第31回東京国際映画祭の「日本映画スプラッシュ」部門で監督賞、そして東京ジェムストーン賞を村上虹郎が受賞した映画『銃』。 さらに本作は、2019年3月2日〜8日までエジプトで開催された、第 …

インタビュー特集

『メモリーズ・オブ・サマー』映画監督アダム・グジンスキへのインタビュー【私のお手本となった巨匠たちと作家主義について】

映画『メモリーズ・オブ・サマー』は、2019年6月1日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー! 映画『メモリーズ・オブ・サマー』は、ポーランドの …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学