『ウィッチ』(2017)『ライトハウス』(2021)のロバート・エガース監督がゴシックホラーの名作をリメイク!
サイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)に魅せられたロバート・エガース監督が、独自の視点も取り入れてリメイクした『ノスフェラトゥ』。
不動産業者のトーマス・ハッターは、自身の城を売却しようとしているオルロック伯爵の元へ出かけます。トーマスの不在中、妻のエレンは夜な夜な夢の中に現れる正体不明の男の幻覚と恐怖感に悩まされるようになりました。
トーマスとエレンに降りかかる災いとは……。
正体不明の男に怯えるエレンを『サイレント・ナイト』(2022)のリリー=ローズ・デップが務め、その夫・トーマスを『エジソンズ・ゲーム』(2020)のニコラス・ホルトが演じました。
また、「IT イット」シリーズのビル・スカルスガルドが、特殊メイクでオルロック伯爵を演じ、ロバート・エガース監督とは3作目のタッグとなるウィレム・デフォーなどが出演しました。
映画『ノスフェラトゥ』の作品情報
(C)2024 Focus Features LLC. All rights reserved.
【日本公開】
2025年(アメリカ・イギリス・ハンガリー合作映画)
【原題】
Nosferatu
【脚本・監督】
ロバート・エガース
【出演】
ビル・スカルスガルド、ニコラス・ホルト、リリー=ローズ・デップ、アーロン・テイラー=ジョンソン、エマ・コリン、ラルフ・アイネソン、サイモン・マクバーニー、ウィレム・デフォー
【作品情報】
サイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)に魅せられた『ウィッチ』(2017)、『ライトハウス』(2021)のロバート・エガース監督が独自の視点も取り入れてリメイク。
ロバート・エガース監督とは3度目のタッグとなったウィレム・デフォーほか、何者かの幻影に悩まされるエレン役に『サイレント・ナイト』(2022)のリリー=ローズ・デップ、その夫・トーマス役に『エジソンズ・ゲーム』(2020)のニコラス・ホルト、オルロック伯爵役には、『IT イット』シリーズのビル・スカルスガルド。
その他のキャストには、『クレイヴン・ザ・ハンター』(2024)のアーロン・テイラー=ジョンソン、『チャタレイ夫人の恋人』(2022)のエマ・コリンなど。
映画『ノスフェラトゥ』のあらすじとネタバレ
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ある夜、エレンは、誰かに慰めてもらいたいと切なる思いで、精霊に祈りを捧げました。すると、何者かがその呼びかけに応えます。
感じたことのない幸福と恍惚に包まれていたエレンでしたが、彼女に夢の中で覆い被さっていたのは、人間ではない得体のしれない恐ろしい何かでした。
悪夢にうなされ、周りからは頭がおかしいと思われていたエレンでしたが、トーマスと出会って結婚し、自分を取り戻しました。
しかし、結婚して早々にトーマスは不動産会社の仕事で遠くの異国に住むオルロック伯爵の元に契約書を渡しに行かなければなりませんでした。
悪夢を見たエレンは、「行かないで」とトーマスに頼みますが、トーマスはこの契約をうまく成立させれば、出世できるし、2人の家が帰ると言い、エレンの忠告も聞かずに旅立ってしまいます。
旅に出かけてから悪夢にうなされるようになったトーマス。途中の宿にいた地元の人にも「行かない方がいい」と言われましたが、トーマスは忠告を聞くことなく、山の上にあるオルロック伯爵の城に向かいます。
途中で馬車が迎えに来て、城に招き入れられたトーマスは城と伯爵の異様な雰囲気に震え上がります。「書類は明日にでも」というトーマスに対し、伯爵は「すぐにでも目を通したい」と言います。
伯爵に差し出された書類は古の言葉で書かれていると言い、トーマスには何が書かれているのか分かりませんでした。その書類にサインをすると、エレンとの結婚を解消することに同意したことになってしまいます。
そんなことも知らずに、トーマスは伯爵の異様な雰囲気にのまれ、金貨と引き換えに署名をしてしまいます。それだけでなく、伯爵はトーマスを利用できると、心臓近くに噛みつき支配しようとします。
夜な夜な悪夢にうなされ、すぐにでもこの城から帰りたいと思っていたトーマスですが、扉は閉められ、どうやっても逃げられません。
そんな時、棺桶を見つけたトーマスは、棺桶の中にいる伯爵を見つけて動揺しますが、悪夢の中で見た儀式を思い出します。杭を刺そうとした瞬間、伯爵が目覚めて阻止します。
驚いたトーマスは逃げようと窓の外から屋根に登りますが、そのまま足を踏み外して川に落ちてしまいました。
映画『ノスフェラトゥ』の感想と評価
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サイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)は、ブラム・ストーカーの怪奇小説『吸血鬼ドラキュラ』を非公式に映画化したものとされています。
『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)を、ヴェルナー・ヘルツォーク監督が1979年にリメイクしていますが、大まかなストーリーは1922年版に沿ったものでした。
しかし、ロバート・エガース監督は1922年版を元に、新たな要素も取り入れて映画化しました。大きな点として上げられるのは、エレンの神秘的な力と、オルロック伯爵との関係性です。
冒頭、エレンが伯爵の眠りを解いてしまい、伯爵と結ばれるものの、伯爵の恐ろしさに怯える姿が描かれます。エレンと伯爵は運命付けられた関係であり、エレンが伯爵と共に息絶えるのも避けられない運命だったのです。
伯爵がエレンに対し恋心を抱いていた様子は描かれていませんが、エレンに執着し、共になる運命だとわざわざ船に乗ってまでやってくる伯爵の姿はどこか健気に見えてしまうのも不思議なところです。
災厄を街にもたらし、様々な超常的な力も使えるのに、エレンの血を吸うことに夢中になって夜明けを迎えてしまうというあまりの呆気なさにも驚かされますが、そのような可笑しさがユーモラスでギャップがあり面白いところです。
また、トーマスが伯爵の元に行かなかったら……署名をしなかったら……と、様々なifを考えてしまうような切なさがあるのも、本作の面白さです。
古典的な物語でありながら、出世してエレンとの生活を守りたいとう責任感に駆られるトーマスと、共に過ごす目の前の時間を大切にしたいエレンというすれ違いは、普遍的なカップルのすれ違いにも見えます。
また、仕事も順調で3人目の子供がもうすぐ生まれるというフリードリヒの存在も、トーマスにとっては成功者で、エレンにとってはそうではないというのも印象的です。
伯爵とエレンの関係性は非現実的ではありますが、愛情や温もりを求めた無垢な少女に近づく魔の手という意味では、現実世界につながるところもあるかもしれません。
長く読み継がれてきた物語は、非現実的であったり、価値観が現在と違っていたりしますが、その中にも普遍的なテーマというものはあり、だからこそ受け継がれていると言えるのでしょう。
まとめ
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夜な夜な夢の中に現れる正体不明の男の恐怖を描いた映画『ノスフェラトゥ』。
監督を務めたロバート・エガースは、『ウィッチ』(2017)で長編監督デビューします。
『ウィッチ』では、古典的な映画を彷彿させる画作りで、時代考証を踏まえた上で人々の疑心暗鬼がもたらす恐怖を描きだしました。その次の『ライトハウス』(2021)においても、灯台を舞台に灯台守2人の疑心暗鬼や妄想といった人が生み出す恐怖を描きだしています。
『ノースマン 導かれし復讐者』(2023)は復讐をベースにしたアクション映画ですが、『ノスフェラトゥ』では再び人々が生み出す恐怖と、ノスフェラトゥの存在による恐怖を描きだしています。
人の心が生み出す恐怖を映像化するうまさと、世界観の作り込みがロバート・エガースならではの魅力と言えるでしょう。1922年、1979年版も継承しつつ、腐った肉体のような気持ち悪さを感じさせる新たなオルロック伯爵になっています。
また、オーディションでエレン役を勝ち取ったというリリー=ローズ・デップの迫真の演技も見どころです。痙攣や白目に、泡を吹いたりと、今までの役とはまた違った一面を見せてくれます。