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『霊的ボリシェヴィキ』ネタバレあらすじ結末と感想解説の評価。ホラーで高橋洋監督が描く神道霊学の概念が恐怖を招く

  • Writer :
  • からさわゆみこ

「あの世に触れる」という恐怖の革命がもたらした、狂気の正体とは?

今回ご紹介する映画『霊的ボリシェヴィキ』は、「リング」シリーズや 『女優霊』(2011)など、ジャパニーズホラーの脚本を多く手掛けている、高橋洋の監督作品です。

1980年代の“オカルトブーム”の火付け役となった、神道霊学研究家の武田崇元が提言した、「霊的ボリシェヴィキ」といわれる概念をテーマにした心霊映画です。

とある廃工場で行われた“降霊術セミナー”に、“ゲスト”と呼ばれる男女4人が招待されます。ゲスト達の共通点は「臨終」に立ち会った経験があることでした。

工場内には複数の集音マイクにアナログの録音機があり、セミナー主宰者と助手、霊能者は「あの世」を呼び出すという不可解な実験を開始します。

映画『霊的ボリシェヴィキ』の作品情報

(C)2017 The Film School of Tokyo

【公開】
2018年(日本映画)

【監督・脚本】
高橋洋

【キャスト】
韓英恵、巴山祐樹、長宗我部陽子、高木公佑、近藤笑菜、伊藤洋三郎、南谷朝子、河野知美、本間菜穂

【作品概要】
幼い頃に神隠しにあった経験をした主人公の由紀子役には、『西北西』(2018)、『大和(カリフォルニア)』(2018)でも主演を務めた韓英恵が演じます。

共演の婚約者の安藤役は巴山祐樹、霊媒師の宮路役は長宗我部陽子が勤め、その他に高木公佑、伊藤洋三郎らが出演しています。

映画『霊的ボリシェヴィキ』のあらすじとネタバレ

(C)2017 The Film School of Tokyo

ある廃工場でいくつもの集音マイクが設置され、オープンリール・テープレコーダーが静かに回り始めると、1人の中年男性が“幽霊だったのかも”という経験ならあると語りだします。

拘置所で刑務官をしていた三田は、そんな幽霊話をすればいいのだとそこに参加をしていました。

しかし、参加者全員が“人の死に立ち会っている”と知り、「本当に怖ろしかった体験」は、児童営利誘拐殺人で死刑囚となった男のことだと言います。

参加者は他に長尾という女性、主宰者の浅野、霊媒師の宮路が車座に並んだパイプ椅子に座り、助手の片岡がレコーダーを操作しています。

三田が話し始めたその時、入口から一組の若いカップルが入って来ました。男性は安藤といい他のゲストとも面識があります。

安藤は同行した女性を婚約者の橘由紀子と紹介し、由紀子は“特別に参加”することになったと挨拶します。

彼女もまた母親の臨終に立ち会っていましたが、由紀子には他に特別な体験がありました。

それは8歳の時に行方不明になり、3カ月後に発見された“神隠し”でした。しかし、彼女はその時の記憶は無いと言います。

すると霊媒師の宮路が杖を突きながら、2人の元に近づき宗教的な装身具や携帯を預けるよう命じます。

2人は携帯を渡しますが、宮路は由紀子のペンダントを見て、それも預けるよう言いました。

ペンダントはロケットになっていて、由紀子の母の写真が入っていました。宮路は「強い思いがこもっている」とつぶやきます。

参加者が全員揃い席に着いたところで、三田が続きを話し始めます。

死刑執行の日、彼は死刑囚を執行室に連れて行くため、他に2人の刑務官と受刑者のいる独房へ向かいました。

死刑囚は独房の奥にうずくまり、頑なに動こうとしなかったため、三田は説得しますがものすごい力で彼を鉄格子まで突き飛ばします。

そして、しがみついた便座の蓋を剥ぎ取り、それで同僚の顔面を殴打すると、うずくまって「オレを殺したら化けて出るぞ」と言って暴れました。

男はもはや人の形相ではなくなり、その後も死刑囚は警棒を奪い襲いかかり、同僚たちは大ケガを負います。

三田は同僚を独房からひっぱりだし、施錠するのが精いっぱいで、独房の中からは男の笑い声が聞こえたと言います。

所長に報告すると催涙弾の使用が許可され、ガスマスクを付けた警備隊が独房にやってきます。

死刑囚はガスマスクの隊列を見るなり「やめてくれ」と懇願しますが、催涙弾は撃ちこまれ男は拘束衣を着せられました。

かすれた声で「助けて・・・」と何度もつぶやき、引きずられて行った廊下には失禁した跡が続いていたと締めくくります。

そして、男の異常な抵抗力の源は触れてはならない“何か”で、それに触れてしまったという感覚が恐ろしいと、言葉をつまらせました。

しばらく沈黙が続くと安藤が「それで化けて出たんですか?」と沈黙を破り、さらに「結局一番怖いのは人間じゃないかってことですがね」と言います。

浅野が焦ったように宮路の方に振り向くと、彼女は安藤の前に歩み寄り、杖で彼の額を殴ります。するとその拍子に彼が持っていた数珠が飛び出します。

安藤は出血しながら激怒し、数珠を拾おうとしますが、浅野は「禁句」だと告げ、宮路は数珠を拾うとゴミ箱に投げ入れ燃やしました。

安藤は彼らの態度や振る舞いに批判的な面もあり、そのことは周知のことだと反論し、由紀子に一緒に帰るよう促します。

由紀子は安藤をみつめながら「自分は残る」と言うと、浅野は彼に以後の発言に気をつけるよう警告しました。

霊気が散ってしまったと宮路は嘆き、おもむろに「こういう時は歌いましょう」と言い、浅野も賛同します。

工場の背後にはレーニンとスターリンの巨大な肖像が掲げられていました。片岡がレコードを掛けはじめると、全員で「ボリシェヴィキ党歌」を合唱します。

以下、『霊的ボリシェヴィキ』のネタバレ・結末の記載がございます。『霊的ボリシェヴィキ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2017 The Film School of Tokyo

この実験はゲストがそれぞれ体験した恐怖を語り、霊気を集めるというものでした。そして、次に話すのは長尾の番です。

片岡がマイクを長尾の前に置くと、彼女は大した体験もなく、ここに呼ばれた理由がわからないと前置きし、怖ろしいと感じた夢の話を始めます。

長尾は少し前に起きたひどい水害の影響なのか、水害で被災した地域を物見遊山で見て回った夢を見たと話しだします。

ふと目についた一軒の廃屋にあがりこむと、薄暗い屋内には家具や家財道具が散乱していました。

物音がして振り返ると、薄暗い奥の部屋に女性の姿をみつけ、その女性に声を掛けますが、反応は薄く突然「ここ」と部屋の隅を指差します。

そのあとも女性は家の中を歩き回りながら、家の住人がどこで亡くなったかを事細かに説明し始めました。

気味が悪くなった長尾は出て行こうとしますが、ふとその女性もこの家で亡くなったのでは?と、気になりはじめ振り返ります。

その女性は長尾のことを見ていたので、女性の顔を見ようと目を凝らしますが、顔の部分だけ靄が掛かったようにぼやけて見えませんでした。

長尾が足下に目を移すと、その女性はなぜか裸足だったと言い、「あんな怖い夢は初めてでした」と、話し終えます。

三田が「怖かった?」と尋ねると、長尾は恥ずかしそうに照れ笑いしながら、小さく何度も頷きました。

すると宮路がいきなり大声で笑いだし、続いて浅野が笑い、皆もつられて笑い出すと、それに紛れながらついに下品で浅ましい、男の笑い声が響き渡ります。

皆は一斉に押し黙り辺りを見回しますが、三田だけは表情が固いままでした。浅野は片岡に録音を再生させますが、その笑い声は録音されていません。

浅野は皆の声が倍音となって、声が生みだされることもあると言いますが、同時に聞いたゲストたちは確かに男の声だったと納得しません。

そして浅野はコートの内ポケットからトランプを取り出し、別の実験を始めます。そしてカードを1枚抜きます。

浅野は事前に渡したトランプから、浅野のカードに意識を集中しながら、1枚抜くよう指示します。その時、宮路の視線は由紀子へと向けられます。

4人のうち由紀子のカードだけが、浅野のカードと完全に一致し、繰り返し試しても一致しました。

浅野は霊気が高まると確率にも異常が生じると説明しました。すると次の瞬間、急に日が落ち工場内が暗くなります。

安藤が時間を確認すると時刻は夜になっていました。動揺したゲストに対して浅野は、明日に備えて休むよう促し、片岡も宿泊部屋へと案内します。

宮路と浅野は由紀子に強く関心を示し、安藤も案内された部屋で彼女に、「今日の実験はいつもと違う」と、まるで由紀子のために、皆を集めたようだと話します。

安藤は由紀子を抱きしめようとしますが、彼女はそれをすり抜け「一人になりたい」と部屋を出て行きます。

部屋を出ると由紀子は耳元で誰かの囁き声を聞き、離れ工場の隅に佇んでいました。そこで眠れないと言う長尾から声を掛けられます。

長尾はトランプの実験で、能力をみせた彼女を讃えますが、由紀子は手品のようにタネがあるのだと言います。

そんなことを彼らに言ったらひどい目に合うと忠告し、由紀子が実験の「最有力候補」だと言うと、彼女がこの実験の目的を知らずに来たことを知ります。

“あの世を呼び出す”実験で、宮路より能力の高い憑代(よりしろ)をゲストの中から探して選び、由紀子がその最有力候補だろうと言います。

由紀子は長尾の話を受け流しながら聞いていましたが、視線の先の暗闇に佇む裸足の足に気がつき、はげしく動揺し声を失います。

長尾は彼女が神隠しに会った時のことを問うと、両親とハイキングに行った時、森の中で行方不明になり、捜索は行われたが見つからず、打ち切られてしまいます。

それでも母親だけは諦めきれず、森の中を探し続けたある日、草むらの中で当時のままの姿で発見されたと話します。

由紀子が暗闇の方に怯えながら、服はボロボロで靴は履いていなかったと言い終えると、裸足の足は少しづつ2人に近づき始めました。

そのとき、巡回していた片岡が消灯時間だと声をかけます。そして、実験の事については話し合わないよう注意されました。

翌日、一番手の話しは宮路です。子供の時に山で見た、“何か”のことです。それが何なのかはわからないが、たぶん“見てはいけないモノ”だったと回想します。

弟と一緒に山へ遊びに行った宮路は、弟の手を引いて山の斜面を登っていましたが、ふと2人とも足を止め、目の前に何かがいる気配を感じます。

2人とも顔を上げられずにいますが、サーッと冷たい風が吹き抜けると顔を上げてしまい、隣り山の稜線に這っているモノを見てしまいます。

彼女は怯えきった弟の手を握り、必死に山を駆け下りました。しかし、その晩2人とも高熱を出し、弟は翌朝亡くなり彼女は右足が不自由になります。

由紀子は何を見たのか聞きますが、宮路は説明のできない、見た瞬間に後悔する感覚だったと話します。

浅野は宮路に様々な被写体を見せ、中でも一番近いのが、コナン・ドイルですら騙された、妖精を撮ったフェイク写真だと見せます。

由紀子が写真の1枚をじっと見つめていると、浅野に促されながら自分の話しをはじめます。

(C)2017 The Film School of Tokyo

彼女はある日をきっかけに、耳元で誰かから囁かれているような気がしているが、内容は聞き取れないと話します。

そのきっかけというのが、家に届いた1通の手紙です。由紀子はその手紙を見せてもらえず、それを境に両親は酷く言い争うようになります。

そして、とうとう父親が家を出て行ってしまい、原因となった手紙は、母親が燃やしたのではないかと結論付けました。

母親と二人暮らしになった由紀子は一度だけ、怖ろしい形相をした母親に睨まれた事があったと話します。

2階の母の部屋の窓から母親が、庭で遊ぶ彼女を睨みつけ、目が合っているのに、まるで静止画のように佇んでいたといいます。

怖くなった由紀子は家の中に逃げますが、玄関の開く音がしたので見ると、母親が買い物から帰って来たところでした。

彼女は全て気のせいだったのかもしれないと言いますが、その後、母親が亡くなり母の部屋で遺品整理をしていると、再び囁き声が聞こえます。

その声は押し入れから聞こえ思いきって開けると、そこには古びた人形があります。由紀子は不気味に思いつつも、どことなく母に似てると感じます。

彼女はその人形を寺に納めに行きますが、住職は人形を見るなり「これはお母さんだけのことではない」と、母方の親族が集められ、供養する事になりました。

お焚き上げがはじまり人形が炎に包まれると、黒い煙と共に肉が焦げる時の音や悪臭が漂い、炎の中から人形が立ち上り2、3歩歩いたように見えたと話します。

さらに由紀子はその晩、不思議な夢を見たと続けます。安藤は制止しますが彼女は首を振って話し始めます。

それは宙に浮いた由紀子が、焼かれていく自分の姿を見ている夢でした。人形の時と同じように黒く酷い臭いがする煙が立ち上りました。

そして、怖くて目をつぶろうとしますが、つぶることができず、それは炎で瞼が焼け落ちたせいだと気づきます。

由紀子は「生きながら焼かれる人は皆、瞼が焼け落ちて、目がつぶれないまま死んでいった」と冷静に思いました。

その時、レコーダーから凄まじいノイズが響き渡り、建物中に音が反響し広がり、照明が落ち暗闇になりました。

しかし、それは前日と同様に突然、夜になる現象でした。動揺するゲスト達に浅野は妙な音が録音されていたと、テープを再生させます。

由紀子が夢の話している時に、男の不気味な呻き声が被って入っていました。

浅野は全員の話が終わるまで、実験は続くと告げると、全員の視線は安藤に向けられました。

彼は早々に話しを終わらせるため、恐怖体験を適当に話そうとすると、宮路が「あなた、人を殺してますね」と詰め寄ります。

安藤は平然とそのことを認め、彼には怖いものが無くセミナーに参加した理由も、“怖い”という感覚が知りたかったからだと話し始めます。

彼は“あの世を呼び出す”なら、実際に人を殺し化けて出るか試してみようと思い立ち、当時付き合っていた女性を殺害しました。

その女性には安藤以外に恋人がいて、安藤との関係は秘密裏だったため、彼を知る者はいませんでした。

それをいいことに安藤は、彼女を人気の無い崖まで連れてきて、殺害する理由も説明してから突き落としたと言います。

安藤は殺人を犯した日から、彼女を崖から突き落とした自分と、今の自分が別々の存在だと思うようになったと話します。

安藤には罪悪感がなく遺体が発見され、彼女の恋人が逮捕されても何とも思いません。

そして、不思議なことにその恋人は遺体を見るなり、自分がやったと自供しました。

彼は現在も収監されているが、それは自分ではないかと想像し、彼は自分とよく似た男なのかもしれないと言います。

結局、彼女が化けて出る事は無かったと締めくくると、浅野は化けて出てきたとしても、“あの世から来た”という証明はできない。

この世を彷徨う思念に過ぎないのかもしれないと言い、安藤もそれに納得し「幼稚な思い付きだった」と悪びれることはありませんでした。

しかし事件後、彼のポケットには知らぬ間に数珠が現れるようになり、昨日燃やされた数珠がそれでした。

安藤にとってその数珠は「知ってるぞ」というサインのように思え、初めて「怖くなった」と訴えます。

すると由紀子は無言のまま、安藤のズボンのポケットを指差します。彼が手を入れると昨日、燃えたはずの数珠が入っていました。

由紀子はふらふらと工場の隅に歩いていき、宮路は彼を睨むと安藤は怯えながら首を振って、数珠を渡します。

浅野は拍手をしながら安藤に、「選ばれたのは君です」と唐突に告げ、由紀子の家に届いたという手紙を見せます。

彼女の母親は全てを“解っていた”が、誰も信じなかったと言い、手紙を見た安藤は愕然とし由紀子のそばに行きます。

工場の隅にいた由紀子は、自分が炎に焼かれる幻覚を見て、靴を脱ぎ棄て怯えていました。

由紀子は手紙を持って追いかけてきた安藤にすがりつきますが、彼の背後から裸足の女が近づいてきます。

それは由紀子の亡くなった母親で、彼女の耳元で何度も「お前は由紀子じゃない・・・本物の由紀子はすり替えられた」と囁きます。

由紀子は「じゃあ、私は・・・」と呟くと、そのまま無言になります。安藤はそんな彼女の顔を見て悲鳴を上げ後ずさりします。

安藤の手から落ちた手紙には、たどたどしい字で何度も何度も「すり替えられた」と書かれていました。

するとどこからか明るい光が差し込み、由紀子は両腕をぴんと伸ばして、まるでペンギンのような歩き方で、スタスタと皆のいるところへ戻ります。

呆然と見つめる皆を通り越す、彼女の顔は無表情で由紀子によく似た別人で、彼女は眩しい光が差し込む天窓を見上げます。

安藤は彼女を呼びますが、宮路はもう何も聞こえず、自分の生まれた世界を呼び寄せようとしていると言います。

そして、安藤はふと自分が選ばれたことを思い出すと、三田が彼を抑え込み、浅野が彼の首に首輪を装着しひざまずかせました。

片岡は工場にあった巨大な容器に、長いチューブの片方を入れ、宮路はひざまずく安藤に「死は恐れるに足りません!魂は永遠に不滅!」と言います。

安藤は抵抗をして暴れますが、喉の辺りに空いた首輪の穴にチューブの先端針を刺されます。彼の血液が巨大な容器へと注がれ絶命しました。

宮路はこの実験が“あの世”を呼び出すのではなく、“バケモノ”を呼び出すためだと言います。

由紀子は安藤の血液で満たされた容器をみつめながら、呼吸を整えると光さす天窓へと向き直りました。

宮路は確信を込め「ダー・スメルチ!(そうだ、死だ!)」と叫び、片岡と三田、長尾もと唱和し、浅野はロシア語の呪文を唱え、実験という名の儀式は最高潮に達します。

ところが由紀子の耳には「お前は由紀子じゃない!」と母親の声が聞こえ、彼女はふと我に返り「お母さん、本物の由紀子を返してあげて」と呟きます。

すると由紀子の目の前に、光の中から毛布に包まれた何かが落ちてきました。彼女はそれを開いてみます。そこには死人のような顔色の少女がいました。

浅野は由紀子を払いのけ毛布の中身を見ますが、そこには人の形をした古木があるだけでした。

天窓に出現した眩しい光は遠ざかっていきます。宮路はそれに向かって「行かないで!」と叫び倒れそうになります。

浅野は宮路を抱え「全て、無駄だった」と呟くと、銃を持ってやってきた片岡に合図をして、背を向けて跪きます。

片岡は宮路の後頭部を狙い銃口を向け、彼女が振り向いた瞬間に発砲し、次に静かに目を閉じていた浅野を射殺します。

呆然と座り込む由紀子の胸を撃ち、立ちすくんだ三田と長尾に銃を向け「この建物は穢れました」と言って2人を射殺しました。

そして、絶命している安藤にとどめの1発を撃つと、最後は自らのこめかみを撃ち抜きます。

工場には7人の遺体が横たわり、日がかげりはじめると、微かにボリシェヴィキ党の歌が聞こえた気がしました。

すると毛布の中身が少女になると起き上がり「お母さん・・・」と呟きながら、外へ出る扉へ向かって歩いて行きます。

息絶えた由紀子の目は見開き空をみつめて、彼女の魂は声となって、母を呼ぶ少女の声と重なります。

映画『霊的ボリシェヴィキ』の感想と評価

(C)2017 The Film School of Tokyo

多数派“ボリシェヴィキ”が示すものとは?

“ボリシェヴィキ”とは直訳すると「多数派」という意味で、ロシア社会民主労働党が分裂して形成された、ウラジーミル・レーニンが率いた左派の一派で、ソビエト連邦共産党の前身となる党派のことです。

作中で浅野が「スターリンの恐怖政治こそが、ボリシェヴィキの究極の形態だ」と叫ぶシーンがそれを示していますが、それと“霊的”はどう繋がっていくのか、解釈は難しいところです。

浅野たちが行おうとした実験には、参加者が感じた“恐怖”がポイントになります。人は恐怖に支配されると、思考に変化が起こるということです。

三田は死刑囚が殺人を犯しておきながら、自分の生への執着(もしくは死への恐怖)が生みだした、人間とは思えぬ“抵抗力”に恐怖を感じます。

それは昔からいわれる火事場の馬鹿力と呼ばれる、興奮した時に血液中に大放出される、アドレナリンの力によるものと、説明ができるでしょう。

長尾は水害の悲惨な光景やニュースで聞いた情報など、リアルな恐怖が記憶として残り、夢の中でも見てしまうというシンプルな恐怖でした。

女性の顔がぼやけて見えなかったのは、女性の具体的な情報が記憶になかったからです。

“恐怖”といっても人それぞれに感じるものが違い、すり込みや科学的根拠なども手伝い、あたかも超常現象のように捉えてしまいます。

浅野たちは、そういった個人的な“恐怖”が生む幻聴や幻影、科学で説明のつく現象は完全に否定しています。

逆に説明のつかない“何か”にも恐怖は存在し、彼らが最後に語ったのは自然界の中に存在する、形容しがたい恐怖の存在を呼び出すことでした。

安藤が選ばれたのはまだ説明のついていない、“ドッペルゲンガー”を体験したからではないでしょうか?

高橋洋監督が影響を受けたのは、武田崇元によって提言されたオカルト概念が『霊的ボリシェヴィキ』です。

特に高橋監督は学生時代にロシア文学科に在籍していたので、ロシアの歴史にも深い知識があったことがわかるので、強く惹かれた言葉であったのでしょう。

「多数派」という意味の“ボリシェヴィキ”から、多くの霊的な現象とは、主に人の恐怖が創りだすものと考えることができます

“何か”というバケモノとは?

本作でいう“バケモノ”とはなんのことなのでしょうか? 宮路が幼い頃に山で見たものがそれにあたります。

そして、橘由紀子が体験した“神隠し”にも実は、バケモノに繋がる逸話がありました。

神隠しと言えばスタジオジブリの『千と千尋の神隠し』(2001)を思い出し、そこにもバケモノがたくさん出てきます。

そもそも神隠しとは「古神道」や「民間信仰」の中で、神域と呼ばれる禁足地に誤って、足を踏み入れると神によって姿を消されるという伝承です。

宮路は知らずに禁足地に足を踏み入れ、異世界にいる“何か”を見てしまったといえます。神隠しにならなかった代わりに、弟は亡くなり本人は足が不自由になりました。

では、由紀子の神隠しとはどういうものだったのか? 彼女は妖精のフェイク写真を熱心に見ていました。

ヨーロッパの伝承に「取り替え子」というものがあり、人間の子供が連れ去られ、代わりにフェアリーやエルフ、トロールなどの子が置き去りにされる話です。

子供を取り替えられたと信じた親は、実子を熱したオーブンに入れてしまうこともあり、実際に事件となった例もあります。

由紀子が体験した焼かれる夢、焼かれた人形から肉の焼ける臭いがしたというのは、ここから来ているのでしょう。

また、fetch(フェッチ=そっくりさん)と呼ばれる、人間そっくりに魔法をかけられた木のかけらが残されることもありました。

由紀子の話にもっとも近いのが、スウェーデンでの物語です。トロールの子供と取り替えられた親は実の子を取り返すために、トロールの子を虐待することがありました。

しかし、ある母親は何の罪もない、トロールの子を傷つけることができず、普通の子として育てますが、夫は養育することを拒絶し家を出ていってしまいます。

トロールの母は人間の母がトロールの子を慈しみ、最愛の夫と別れたことに感服し、人間の子供を解放したという話です。

さて、本作でも最後に毛布にくるまれた子供が戻ってきます。はたしてそれは本物の由紀子なのか?子供そっくりの“フェッチ”なのか?

まとめ

(C)2017 The Film School of Tokyo

映画『霊的ボリシェヴィキ』は心霊の大多数は心理的な恐怖が創り出すもので、人間がまだ究明していない、古代からの伝承を追究した物語でした。

高橋洋監督自身が“恐怖”に憑りつかれ追究する監督であり、多くのヒット作を書く脚本家です。この作品はその恐怖の原点回帰を観ることができました。

つまり、作中で安藤が「結局、本当に恐ろしいのは人間」という場面があり、その人間が想像し創造する恐怖の世界の源が、このセリフに集約されていました。

初見で「え?どういうこと?」と感じた人も多いでしょう。期待していたおどろおどろしい“何か”が出てこない……。でも、怖いそんな感想を持つでしょう。





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